ツバメを描き続けた叔父
8月
26日
遺品になってしまったモノたちが
おかえりも言えず静かに佇んで
主を失った家は時間の止まった箱
咳ばらいがひとつ聞こえそうで
聞こえない空しさが回っている
積み重ねられたノートに
今年もツバメが来ましたと書かれ
ツバメの親子が並んでいる絵
歌いだしそうに描かれていた
若き日
絵を描くことに憧れ
山形から東京へ旅立った
現実はやはり厳しくて
絵の世界では生きてゆくことは出来ず
寮のあるパン工場に勤め四十年
結婚することもなく
派手に遊ぶこともなく
だけど絵を描くことはやめなかった
やめれなかったのだろう
大学ノートにはツバメの親子ばかり
誰に見せるわけでもないのに
そこには叔父の控えめさはなく
賑やかな世界が広がって
そしてノートの最後には
じゅんㅤありがとう
がんばれよ
そう書かれていた
私がこのノートを見ることを
知っていたかのように
私も一生ㅤ詩を書いてゆこう
叔父のように貫く人生の意志を継いで
なるべく純粋に無垢に進んでゆこう
ありがとうㅤ叔父さん
そう呟いて私はノートを閉じた