大好きな想い出 (s40年代)
8月
25日
斜め前の家に引っ越してきた家族
僕と同い年の子がいて
まだ女の子だからという意識などなく
毎日のように遊んでいた
今では名前も顔も想い出さないけど
あの時の雰囲気と
僕の和やかな気持ちは忘れない
何年経っても想い出すのだから
どれほど僕にとって幸せだったのだろうか
彼女の家には大きな庭があって
柵に絡みついた赤い薔薇が咲き
お部屋にはピアノとテーブル
特に何もない僕の家とはまったく違って
洋風な感じがとても新鮮だった
僕は彼女の笑顔がとても好きだった
どんな表情なのかも忘れているが
その雰囲気の輪郭だけを覚えている
手を口にあててクスッと笑う感じ
笑わせたくて
薔薇のトゲを顔につけたり
地面に絵を描いたり
動物のモノマネをした
やがて来る辛いお別れ
どこかのドラマで見たような展開
覚えているのはトラックが
走ってどんどん小さくなって行く場面
初めてシュンとなった僕だった
なぜか彼女にさよならを言ったはずなのに
そこだけは想い出さない
幼い僕にとって
きっと忘れたい出来事だったのだろう
大好きだった彼女の面影を忘れても
あの時に流れた幸せな時間の輪郭
まだ僕の中にある幸せな想い出