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無明残日抄

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コミュニケーション(その4)「ヒヤリ・ハット」

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2010年8月北米報知誌掲載

「数の話」…数字の魔術と落とし穴
「ヒヤリ・ハット」と「フェイル・セーフ」

 前回に続き「安全性」について考えてみましょう。皆さんは表題の「ヒヤリ・ハット」という言葉を聞いたことがありますか? 「フェイル・セーフ」は勿論、英語ですが「ヒヤリ・ハット」は外国語ではありませんし、新種のドリンクでもありません。思わず「ひやり」とした。「はっと」気付いた。あの「ヒヤリ・ハット」なのです。これはジョークではありません。「安全性」を考える上で重要な概念なのです。ハインリッヒの法則とよばれるものがあります。大きな事故や災害の裏には29件の軽い事故があり、300件のヒヤリ・ハットがあるという報告がもとになっています。つまり見過ごしてしまいがちな「ひやり」としたや、「はっと」した体験に注目することで、大きな事故や災害を予期、未然に防ごうという事です。医療関係では何が「ヒヤリ・ハット」にあたるのか、厚生省がちゃんと定義しています。
 海底油田でも、トヨタ車でも、報告された事故の以前に多くの「ヒヤリ・ハット」があったのではないでしょうか?。歪んだ報道バッシングも下火になりましたが、これを教訓に「喉元過ぎれば熱さ忘れる」ということにはなってほしくないですね。
 さて、物事の起こりえる可能性を数字として表すのが[確率]です。何事によらず完全という事は有り得ません。人間の身体にしろ、機械にしろ動いているという現象の裏には、止まるという現象が背中合わせで存在します。動いているものは、いつかは止まるという事です。マーフィーの法則としてトリヴィア化されていますが、それが大自然の法則です。起こり得るものは必ず起こるのです。例え「十万分の一」、「百万分の一」といっても、人命にかかわるような事故は絶対に防げないのでしょうか? 可能性はあります。それが「フェイル・セーフ」の概念です。不慮の間違いに対する安全措置です。可能性はありますという意味は、完全はありえないとしても、どこまでも安全を第一に考える。これが「安全工学」、あらゆるエンジニアリングの基本です。コンピューターの概念ができても、いままでは、最終的な対処は人間が行なう考えが主流でしたが、ヒューマンエラー(人為的過失)を無くす為には、発展したコンピューターに任せた方が安全という考えが強くなってきているようです。しかしコンピューターも完璧でないことは御承知の通りです。次回はコンピューターに「フェイル・セーフ」は任せられるのかを、考えてみましょう。
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コミュニケーションしてますか? (その3)…数字の魔術…

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コミュニケーションしてますか?...
このエッセイは2010年7月に北米報知誌に掲載されたものです。

 以前に「コミュニケーションしてますか?」の表題下に、「数の話」をいたしましたが、読者の方から続きはどうなっているの?との御催促を戴きました。今回は気になる事件が続きましたので、少し見方を変えた「数の話」をしてみたいと思います。
 ただいま渦中のメキシコ湾油田事故、毎日、テレビでも騒がれてはいますが、この事故を、あまり報道されていない面から見直してみましょう。
 「写真1」が今回の爆発事故後に水没した海底油田「ディープウォーター・ホライゾン」です。総工費5億6千万ドル、韓国の現代(ハンデイ)重工製。海底油田の種類には詳しく触れませんが、海上の採掘採油総合施設はプラットフォームとよばれます。一つのプラットフォームは平均30ヶ所程の採孔(海底の原油、ガスの出口)を管理しています。「写真2」はNOAA(2006年現在)によるメキシコ湾の油田分布図です(矢印が事故箇所)。驚かれる方も多いと思いますが、メキシコ湾には現在4,000余りのプラットフォームが稼動しているのです。前述のようにプラットフォーム毎に30ヶ所の採孔があるとすると、実に10万ヶ所以上が海底に穿孔されている事になります。今回の事故でBPの責任者は油田、ガス田を合わせ約5万の採孔がBPの管理下にあると表明しています。同責任者は技術及び管理面でのインティグリティー(保障精度)について問われ「100,000:1」つまり間違いの起こりうる確率(プロバビリティー)を10万分の1といっています。普通に考えれば、これは非常に高い安全率(99.999%)です。あらゆる技術面において、このレベルを達成するのは至難の技です。しかし今回の事故のような採孔が10万ヶ所あるとなると、業界全てに同様のインティグリティーがあるとしても、今にでも又、メキシコ湾のどこかで次の事故の起きる可能性があるということです。
 今ひとつは、信頼性世界一を誇ったトヨタ車のリコール問題です。問題の故障は世界で約80件報告されていますが、対象となった車は800万台。つまり、この故障はトヨタ車10万台に一台の割で起きた事になります。偶然にも油田業界と同じインティグリティーに直面した事になります。トヨタは「カイゼン」で知られた様に製産精度を極限まで上げる努力をしてきましたが、精度が高くなるにつれ、あと僅かの向上に膨大な費用がかかります。若しも企業が「10万が一」の不備を正すことより、事故の事後処置(人命も含めて)の方が安いという判断を下したとしたら経営陣の倫理感が問われる事になります。今日の経営首脳陣の多くが現場での物作りを体験しておらず、株主の為に利潤のみを追求させられている事は考えさせられます。今、私はこの原稿をコンピューターで書いていますが、コンピューター業界のインティグリティーはどの辺でしょうか? どうも、あまり高いようには思われません。それは「万が一」、「10万が一」で起き得る故障に対する保障経費と投資の比較によるからです。パソコンがクラッシュしても人命に関わる事は少ないでしょうから、有る程度のバグは市場に出す際、無視されています。ユーザーはもっと高いインティグリティーをソフト会社に要求すべきかもしれません。しかし、「十万に一つ」、「百万に一つ」の事故は防げないのでしょうか? 可能性はあります。それが「フェイル・セーフ」の概念です。次回はこの「フェイル・セーフ」に触れてみます。
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コミュニケーション(その2−2) 「大きな数、小さな数」

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 日本語の一万集まるごとの単位ですが、億、兆、京(けい)、に続き 垓(がい)、穣(じょう)、溝(こう),澗(かん)、正(せい)、載(さい)、極(ごく)、恒河沙(こうがしゃ)、阿僧祇(あそうぎ)、那由他(なゆた)、不可思議(ふかしぎ)、無量大数(むりょうたいすう)となります。
 一万倍ごとの十七段階の単位で「一無量大数」とは10の68乗、1のあとに0が68個続いた数となります。今度は一より小さな数を見てみましょう。通貨の単位は今は一円が最小ですが、以前は百分の一円は一銭(せん)を使っていました。一世の方達は一ドルを一円、一セントを一銭(仙)とよんでいましたが都合がよかったのでしょう。通貨でない数量の場合はちょっと複雑になりますが、比率や割合にかぎっては十分の一が割(わり)、百分の一は(ぶ)、千分の一は厘(りん)となります。イチローの打率は3割3 分3厘とか歳末セール5割引きなどと使われています。その他の数量の単位では十分の一が分(ぶ)になり、百分の一が厘(りん)になります。通貨の場合も含めて、これより下は千分の一が毛(もう)、一万分の一が糸(し)となり、壱円拾参銭五毛弐糸(いちえん・じゅうさんせん・ごもう・にし)などと使われていたわけです。死語になりましたが,「一分一厘も無駄にするな」「勝負は五分と五分」というような言葉もよくきかれました。さらに小さくなって十万分の一は忽(こつ)、一千万分の一は微(ぴ)、一億分の一は繊(せん)、これ以下も前の単位の十分の一ごとに沙(しゃ)、塵(じん)、挨(あい)、渺(びょう)、漠(ばく)、模糊(もこ)、逡巡(しゅんじゅん)、須臾(しゅゆ)、瞬息(しゅんそく)、弾指(だんし)、刹那(せつな)、六徳(りっとく)、虚空(こくう)、清浄(せいじょう)と続きます。「清浄」は百垓分の一、10のマイナス21乗、小数点のあとに0が20ならんで1です。これらの単位は量や時間を表現する言葉の中で使われていることに気付くと興味深いと思います。ホコリは小さいから塵埃なのか? 小さすぎてはっきりしない事から漠とし、模糊としているのでしょうか。刹那とは指を弾く間の十倍も早い?「清浄」とは細菌ほどの小さなものも存在しない等々です。
 次回は英米語の数の単位についてみてみます。
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コミュニケーション(その2−1)

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2007年2月北米報知誌掲載。

1月17日付5頁の読み物「コミュニケーションしてますか?」の掲載文中、下記を訂正いたします。
掲載文:
日本語ですと600百億ドル、日本円に換算すると約6兆円、約6トリリオン円ということになります。
原文による訂正:
日本語ですと六百億ドル、日本円に換算すると約六兆円、約シックス・トリリオン円ということになります。
 いきなり記載文章の訂正告示から始まるという異例の続編になりました。優しい編集者が読みにくかろうと素人の原稿を直して下さったのだと思いますが、話の核心たるプロも陥るコミュニケーションの盲点なので、あえて異例の文頭となりました。慧眼なる読者の御指摘の通り、600百億ドルは6百億ドルの間違いです。ここで気付いていただきたいのは筆者が「日本語ですと」とことわっている事です。ここは「600億ドル」とも書けたのですが、1、2、3…0というアラビア数字は日本語ではありません。世界共通の数字シンボルですが言語により読み方(発音)は勿論違います。「6トリリオン円」とは英米語圏向けの表記(と思われている)ですが「ろく・トリリオン円」と読まれたらこまります。ですから「シックス・トリリオン円」でないと筋道が立ちません。「600億ドル」というような表示は日本でも漢字を使うよりも一般的になってきましたが、特に縦組の場合は雑誌などでも間違いがよくあるようです。書いた側も読む側も気がつかないとしたら、コミュニケーションの第一歩から成り立っていないことになります。零の数といった安易な間違いを防止する為に手書きのチュックでは数を読みあげた通りにスペルアウトしますが法令上はアラビア数字の記載よりも裁判で優先されるのは御存知のとおりです。前回は触れませんでしたが表にあるように日本語の数の単位は一万集まるごとに次の単位にかわります。ですから便宜の為に打つコンマは四桁ごと(算盤)になり、米語の場合は千集まるごとに単位が変わりますから三桁ごとにコンマを打つことになります。
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コミュニケーションしてますか?(その1)

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コミュニケーションしてますか?...
このエッセイは2007年1月に北米報知誌に掲載されたものです。

 世はあげてアイティー革命時代。アイ・ティーはインフォメーション・テクノロジーの略で日本語に訳せば情報技術革命となりますが、情報を伝えるのがコミュニケーション。言い換えればコミュケーション技術革命です。二人の人間がいれば、そこにコミュニケーションが必要になります。もちろん他の動物や植物ともコミュケーションはあると言われる方もおられるでしょうが、ここはひとまず人間同士のコミュニケーションに絞ります。二人が三人となり、十人となりコミュニティー社会、国、世界へと広がっていきます。コミュケーションが正しく行われていれば戦争もない平和な世界がある筈です(後で詳しくふれますが正しくとは正確なという意味だけではありません)。
 コミュニケーションのプロである報道機関は正確さを至上とします。特に日本の報道機関や政府の報道はそれだけに頼る傾向が強いようです。誤報や、やらせなどはもってのほかですが、残念ながら正確さのみでコミュケーションが達成するとの思い違いの何と多いことか。情報を判読出来た事は理解出来た事ではありません。本当のコミュニケーションとは、その判読が理解に進み、その理解がなんらかの判断の要素となり、さらになんらかの行動を起こさせる動機となる事。それがコミュニケーションを達成したという事です。ほとんどのコミュニケーションが判読させるところ迄で終わってしまっています。これだけ情報量が多いと受け手に理解の努力を期待するのは無理で、容易に理解できる情報を作るのが義務とまでいわなくとも提供する側の仕事であり、さもないと全てが無駄になってしまいます。
 ニュースなどの基本的な情報要素として日米の通貨を例にとってみましょう。日本円とドルを比較する場合、四通りの表現があります。表を見て下さい。よくニュースで見かける数字を例にとってみますが、マイクロソフトのビル・ゲーツ氏の推定資産はシックスティービリオン・ダラーといわれています。日本語ですと六百億ドル、日本円に換算すると約六兆円、約シックス・トリリオン円ということになります。いずれも正確なのですが、大きな数になって比較できる目安がないと実感は湧いてきません。約六兆円という数字を競馬や宝くじの売り上げや日本の国家予算と比較して初めてその大きさに納得がいきます。アメリカの人に宝くじの売り上げがトリリオン円だといっても不思議な顔をされるだけですが、日本人にもわからないでしょう。この表現は政府関係の英語広報などによくみられます。大きな数字の単位も兆が限度で、その上の京(けい)になると馴染みが薄くなります。米語でもビリオンが限度でその上のトリリオンなると実感が無くなると思います。ここで英語と言わずにあえて米語といったのはアメリカとヨーロッパではミリオンから上では読み方に違いがあるからですが、極めて大きな数や小さな数の読み方については次の機会にふれてみたいと思います。
 ここでは表に最近のニュースで話題となった数字を当てはめてみました。日本の国家予算は名目で、これに特別会計と呼ばれる別枠の予算を足すと米国の国家予算に近いものになります。減少傾向の郵便貯金を見て下さい。今もこれだけのお金を企業ではない一般の日本の人達が0.12パーセントの年利(10万円預けて120円=千ドルで1ドル20セント…年利ですよ)で預けているのです。これだけのお金がうまく流通していたらと考えると小泉前首相が民営化を押し進めた理由も判る気がしてきませんか。パチンコの年間売り上げはゲイツ氏の資産の五倍もあります。パチンコ業界の七割近くはコリア系の企業ですからかなりの現金が北朝鮮に流れているといわれていますが大変な額だと感じられるでしょう。
 こうして見ると、毎日のニュースで聞き流してきた数字が実感として感ぜられニュースそのものも全く新しい意味を持ってくる事と思います。これがコミュニケーションなのです。次回に実感の湧かない数字を見たり聞いた時には通貨に限らずこの表に当てはめてみて下さい。より深い理解のお手伝いになる筈です。
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