いとこを(悪く)誤解していた私
いとこのやっちゃんは”恵まれた子”のはずでした。父方の本家の長男で、雪国の歴史あるスキーロッジの跡取り。約束された将来。
子供の頃に一度会ったっきりですが、次男坊の父の子である私たち姉妹は一族の外れ者で、幼心にきれいな服を着たやっちゃんを下から眺めているような、そんな距離感があったのでした。
そんな本家のスキーロッジが人手に渡ったという知らせが届いたのは去年のこと。「やっちゃんは継がなかったんだ?」。母曰く「妹のともちゃんが戻って継ぐことになったんだけど、結局ともちゃんもやめてしまって」――「へえ~」。
そんなやっちゃんと先々月、日本でほぼ半世紀ぶりに再会しました。私の帰国に合わせて、遠路飛行機で訪ねて来てくれたのです。「るーちゃん(私)のお父さんが生前、いとこ同士は交流しなきゃだめだって言ってて、それを叶えに来た」とやっちゃん。父がそんなことを? 一緒に参った父の墓前でやっちゃんは「お父さんが好きだったから」と懐からワンカップの焼酎を取り出し、供えてくれました。
やっちゃんの仕事はコンピューターのプログラマーです。「すごいね、やっちゃん」「そんなことないよ」――「いつプログラマーを目指したの?」――「子供の頃から…」。
その言葉を聞いて、やっちゃんの苦悩に満ちた青年時代が一瞬で想像できました。「約束された将来」はどれだけ彼の足かせだったことでしょう。
「僕が歴史あるロッジを終わらせてしまった――そのせいで、妹とも何度も喧嘩になってしまったしね…」
去年、やっちゃんのお父さん(私の叔父)が亡くなり、ロッジは完全に幕を閉じました。その後、やっちゃんが心の安定を失ってしまったこと、そこまでの話のつじつまが半世紀の時を経て、一直線につながりました。
「ごめんね、やっちゃん。私、やっちゃんのことを誤解してたよ。やっちゃんはいつも恵まれた子供だと、いや、全く気にかけなくてもいいほどの子だと思い込んでいたんだ」。ほぼ半世紀を経てやっといとこの苦悩に気付いた私は、これからやっちゃんの良い友達であろうと誓ったのでした。