ル・マン24時間レース 回顧録⑧

新型感染症が世界的に深刻な被害をもたらした2020年。
この年、それでもル・マン24時間レースへの挑戦を見届ける必要があった。
その回顧録を自分視点で、記憶が曖昧になる前に残しておこうと思う。
※プライバシー配慮のため、人名等はイニシャル表記にする
※そんなもん、いまどき検索すれば出てくるだろうが・・・
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
現在2023年、2020年ル・マン24から4年目を迎えようとしている。文章を一気に書いていると燃え尽き症候群のようになってしまい、前回から随分時間を経てしまったが、記憶をしっかり記録として残せるうちに少しづつでも進展させようと思う。

【始動-1】
2018年シーズンからは、この物語の主人公Y氏は日本国内でのレースと並行してプロトタイプマシンを使ってアジア各国を転戦する、アジアンル・マンシリーズと呼ばれる海外レースにも参戦するようになった。このレースで使用されるプロトタイプマシンはLMP2クラスおよびLMP3クラスであり、シリーズチャンピオンチームにはル・マン24時間レースへ出場するシード権も得られることから直近の登竜門となる。目指す2020年ル・マン24時間レースLMP2クラス出場をターゲットにするためには地道にプロトタイムマシンの運転技術を向上させなければならないから、まずは手始めにLMP3マシンでの年間を通じた参戦計画をもって足掛かりにする段取りである。

LMP3マシンの見た目はLMP2マシンと似通っていて、相当なレースマニアでなければパッと見で違いを理解することはできないだろうと思う。実際、ボディーシルエットだけでなくサイズ感も同じような(実際には差異が出るのだが)感じだから、例えばかつてのF3マシンとF3000マシンのような「明らかに誰でも見てわかる」レベルの違いは見つけられない。両車の大きく違う点は「エンジン出力」「空力性能」だとしばしば指摘されている。
なんでも記載されているウィキから、参考になる数字を拾ってみた。

・LMP2クラス
Chassis規則
全長:4,750 mm以下
全幅:1,800 mm以上 1,900 mm以下
全高:1,050 mm以下
重量 (燃料含まず):930 kg以上

Engine:ギブソンGK428
90度V型8気筒
排気量:4.2 L
公称最高出力:610 PS前後

・LMP3クラス
Chassis規則
全長:4,650 mm以下
全幅:1,800 mm以上 1,900 mm以下
全高 (空気摂取口を除く):985 mm以下
重量 (燃料含まず):950 kg以上

Engine:ニッサンVK56(2018年当時はVK50)
90度V型8気筒
排気量:5.6 L
公称最高出力 (エアリストリクター無し):460 PS以上

このように、LMP2クラスはLMP3クラスに比べハイパワーかつ軽量であることが見て取れる。スピードを競う世界においてこの差はとても大きい。
さらに言えば、LMP2マシンの4輪カーボンディスクブレーキに対しLMP3マシンは鋳鉄ローターディスクブレーキである。これだけでも限界域からのストッピングパワーが違う。実際にはローター重量の差はバネ下荷重にも影響するため、ブレーキングパフォーマンス以外にもコーナリング中のハンドリング等への影響は計り知れないだろうと思う。

しかしながら、その「ほぼ同じ」というパッケージングは、修行の場にはうってつけである。だいたい、いくらLMP3マシンが格下だからといっても、その強力なエンジンフィールや空力を活かしたドライビングは、国内のレースでは(ましてエントリーカテゴリーのレースでは)体験しようにも出来ないのである。

これがすでにプロドライバーであったとすれば、たとえばGT500マシンあたりで似たような経験は出来るかも知れないが・・

Y氏自身のレースキャリアで言えば、鈴鹿をベースにした200馬力程度のプロトタイプ形状の競技車輛と、富士での空力性能をカットした350馬力程度の競技車輛しか経験が無い(ハズ)ので、いきなりハイパワーマシンという苦行!パワーはそのうち慣れもするだろうが、さらに追い打ちをかける空力マシンという・・若手であっても苦戦する車両特性の二重苦である。

如何に目指す山頂が高いかを想像させずにはいられない、しかし、その道に足を踏み入れたが最後・・やるしかない、という不退転の決意がきっとあったに違いない。

(つづく)
#ルマン24時間レース

ワオ!と言っているユーザー

×
  • ブログルメンバーの方は下記のページからログインをお願いいたします。
    ログイン
  • まだブログルのメンバーでない方は下記のページから登録をお願いいたします。
    新規ユーザー登録へ