ル・マン24時間レース 回顧録⑦

新型感染症が世界的に深刻な被害をもたらした2020年。
この年、それでもル・マン24時間レースへの挑戦を見届ける必要があった。
その回顧録を自分視点で、記憶が曖昧になる前に残しておこうと思う。
※プライバシー配慮のため、人名等はイニシャル表記にする
※そんなもん、いまどき検索すれば出てくるだろうが・・・
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現在2023年、2020年ル・マン24から4年目を迎えようとしている。文章を一気に書いていると燃え尽き症候群のようになってしまい、前回から随分時間を経てしまったが、記憶をしっかり記録として残せるうちに少しづつでも進展させようと思う。

【序章-7】
大いなる目標と進むべき道を見つけてからのY氏の行動力は凄まじい。
周囲の仲間にいくらレース業界の重鎮が揃っているとはいえ、計画段階から実行までの算段をおそらくされた筈なのだが、時間と金、技量、体力(偉い方にとってはこの際、すべての要素が同価値である)の規模を考えれば眩暈がするほどハードルが高い。
アマチュアレーサーが現在購入・乗車を許される最高峰の競技車輛クラスLMP-2クラスでの参戦を目指すのだから。こう言っては何だが、GTPクラスでフェラーリやポルシェなどのGTマシンで走るのとは、難易度レベルに雲泥の差がある。

まずは何と言っても、ル・マン24時間レースの特殊性。
ご存じの方も多いとは思うが、ル・マン市にはブガッティ・サーキットというクローズドコースが存在する。これはいわゆる鈴鹿サーキットや、富士スピードウェイのような競技用施設である。二輪のル・マン24時間レースでは、このブガッティサーキットを用いて開催されているのだが、4輪のル・マン24時間レースではサーキット周辺の公道をレース期間中閉鎖して、クローズドサーキットに公道を延長したコースレイアウトとされ開催される。4輪のル・マン24時間レースでのみ出現する「サルトサーキット」がそれである。因みにかつて日本では「サルテサーキット」と呼称されていた時期があるが、今の表記はおおかたサルトサーキットとして統一されている。

特殊なコース自体の説明も必要かと思う。
昔は6キロあり、最高速アタックで400km/h超を誇った名物ユノディエールは、ブガッティサーキットから抜け出した直後の直線レイアウトで、もちろん公道である。また、ル・マン24時間開催中に必ずスピンやコースアウト、接触などが見られる各高速コーナーのほとんどは公道である。

先述のユノディエールなど、現在は性能向上による危険回避のために2か所のシケインを設け、2キロ×3の直線レイアウトとなっているのだが、それでもたった2キロしかない直線でLMP1クラスやLMP2クラスの超高性能マシンは320㎞/h以上、時には340㎞/hという恐ろしいスピードで駆け抜けるのだ。公道という路面条件で。しかも、朝も昼も、当然ながら夜も!

「カマボコ道路」という表現を聞いた諸兄もいると思う。降雨時の排水を容易にするため、道路中央を頂点としたカマボコ断面のような道路を指す。このユノディエールがまた、「ソレ」なのである。

想像してみて欲しい。あなたはヘッドライトはあるものの街灯はアテにならないなか、深夜の国道を時速300km/hを超すスピードで飛ばしている。走っているのは一人じゃない。前には前走車輛、バックミラーにはプレッシャーをかけてくる後続車輛が映る。下手をすれば横にも同じような車輛が居る。一瞬の脇見すら許されない緊迫した状況のはずだ。にもかかわらず、カマボコ道路の高低差のおかげでハンドルがどんどん切れ込んでしまい、ドライバーはまっすぐ走りたいだけでも相当な集中力を要される。一瞬の油断で抜かれ順位が下がるうえに、接触やクラッシュはまさに「そこにある危機」である。

一見まっすぐな道路だけでもやたら難易度が上がってしまうのに、これがカーブとなれば想像の域を簡単に超えてしまうだろう。実際、きっと走った者でなければ公道レースの本当の難しさや怖さは理解し難いかも知れない。くどいようだが、公道とはいえ高速道路ではなく、日本の国道程度の道でレースをするのだ。こんな特殊性は滅多にお目に掛かれない。古くからある公道レースとして有名なモナコGP、マカオGP、マン島TTに加え、電動車両のFEも現在は公道レースとして認可されているが、そこで「24時間レース」をする狂気の沙汰は、ル・マン24時間レースをおいて他には有り得無いだろう。

重ねて書くが、そんな頭のネジが飛んでるような連中(実際にはネジが飛んでるどころか、超精密な連中しか走れない)が集まるのがル・マン24時間レース、しかもメーカーの威信をかけたLMP1マシンとほぼ同格の性能を誇るのがLMP2マシンであり、これが現代では唯一アマチュアが購入できる地上最速のレーシングカー。Y氏はこともあろうに「同じ出場するならLMP2マシン」という目標を立ててしまったのだから、ちょっとレースを知っている者なら、その挑戦が如何に無謀であるか相当驚く筈だ。

(つづく)



#ルマン24時間レース

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