3月
27日,
2022年
ツール、最近の傾向考察⑤
顧客満足度のためのポーズ、としての高級ツールの役割。まさに武士は喰わねど高楊枝。
それにしても、プロフェッショナルとしての矜持、プライドのため…という、心理的効果は見逃せない。いや、実はこれこそが「良いとされる物」を揃える真理かもしれない。
最初の記述で「スナップオン」と「ブルーポイント」が並ぶと肩身が狭い件を示したが、まさにその肩身の狭さを払拭したいがため、だから。
実は、身につまされる例がある。
あっしはベータ派。
手工具はともかく、工具箱もベータを愛用している。長くこういう業界に居ると、手持ち工具道具の種類・量が必要以上に増えていき、その勢いは止まらない。一生のうち一度しか使わない…と頭ではわかっていても、利便性を見出だせば買ってしまう。これは、性だ。
で、増殖する工具道具類がいよいよ納まりきらなくなれば、当然工具箱を増設する羽目になる。
それを見越して、勿論、多段チェストの工具箱も他に持っている(ベータではない)けど、デカ過ぎて機動力に欠ける。
そこで、機動性の高い中型ツールキャリーを購入した。ベータ製だ。
同じようなサイズ、機動力、収納力の中型キャリーは、某AP製を始め探せば各メーカーから何種類か販売されている。色味などはベータ製をオマージュ…と言えば聞こえはよいが、パクられている感すらあるのだが。
そこへきてベータ製は、それらの2倍の価格帯で販売されている。
細かく見れば当然異なる商品なので、購入者が何を優先するかなんだけど。
このベータ製キャリーを購入するとき、結構悩んだ。メインの工具箱ならともかく、サブの役割にコストを掛けるべきか…
最終的に購入の決め手になったのは「ベータ製ホンモノ」と「何だか似ているニセモノ」のどちらが、サーキットに居る自分自身の気分を上げられるか?
と、なれば話は単純。
例え2倍の価格帯であってもホンモノが側にある方が嬉しい。
『安く似た機能』は購入時には有難い要素だけれど、後々後悔に繋がる。少なくともあっしには「安いからラッキー」と割りきれそうになかった。
そんなことかありつつの数年後、とあるサーキットで、他チームが激安のベータ風キャリーを使っている現場を目撃した。
因みに、そこの車輌はスーパースポーツカーである。
それを見て「あー、ホンモノ買っておいて良かった」と、心から安堵した。もし自分が当事者だったら、メンテする車輌がスーパースポーツカーなのに、傍らの激安キャリーを見るたびにきっと恥ずかしくなるだろう。
「あたし、たった数万円の事でホンモノ選べなかったんです」
と、卑屈になってしまうだろうから。
プロフェッショナルの矜持とやらはひとまず置いたとしても、やはりホンモノを持てる喜び、モチベーションはプライスレスだ。何よりの原動力になる。
単一メーカーで高級ツール一式を揃え、宝物のようにしまいこんで大切にしている人をたまに見るが、工具道具は『使い倒してナンボ』という価値観なので、それはそれで素人臭く感じるのだけど、しかし、それでも『ホンモノ』を持てること、持つこと。これは凄く重要だと思う。
そのうえで、『ホンモノ』の工具道具に恥じない『ホンモノ』の作業者にならなければならない。たぶん目利きになるというのは、そういう事なのじゃないかな、と思う。
松竹梅を選べる機会があるなら、出来る限り上物を選ぶべき、という教訓の話。
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