メキシコ奇譚その1:スイスの女の話
2月
20日
すると、この女はロンドンでケタミンの売人をやっていたそうで、ケタミンは「うつ病に効果的ではない!」と断言した。ケタミンはあくまでもサイケデリックドラッグで、臨死体験類似エクスペリエンスや意識の拡大には効果的だが、「うつには効果がないだろう」と言った。
だったら「何が効果的なのか?」と聞くと、MDMAだと回答した。
確かにMDMAは医療目的で70年代頃まで、米国の精神医療で使用され、かなりの結果を出していたことは一般に知られている。
こういう経緯もあり、私は米国有名大学等でケタミン、MDMAの医療実験を受けることを決意したわけだが、この女は極めてハイパーアクティブだった。
色々話しているうちにウマがあったので(私も元々ハイパーアクティブ)、海に泳ぎにいこうという話になり、湿度も高い炎天下の中、何10㎞も先にある浜辺へ、レンタルした自転車で二人で向かって遊びに行った。
目的地の浜辺についたので、泳ぎに海水に入っていったところ、何の脈絡もなくいきなりバク転をしだした。
海外で西洋や日本の女にも沢山あってきたが、こういう女は正直今まで見たことがなかった。(さすがに治安の悪いメキシコにたった一人で野宿生活をしながら来ただけのことはある)
それで、海からあがった後、飲食店でジュースを飲んでいるとき、思わず、「お前チンチンついてるだろ?」と喉まで出かけたが、止めておいた。
というのも、こういう豪放磊落に見える女は意外と繊細なところがあり、傷つくだろうと思ったからだった。
時は進んで帰路につき、自転車で宿まで一緒に帰ろうと自転車を走らせたら、私の自転車がパンクした。
で、長い行路を炎天下の中、自転車を転がして歩くことになるので、「先に帰ってていいよ」というと、自分の国ではツーリングにはこういう諺(ことわざ)がある。
「一人がトラブったら、バディにも責任があるから、だから、お互い助け合わなければいけない。」
その精神に則って、その女は炎天下の中、一緒に自転車を転がして付き添って帰ってくれた。
宿でスカイダイビングの話をしていると、いきなりスカイダイビング業者に電話をかけるようなとにかくハイパーアクティブなクレイジーな女だったが、今思うと人間的で自然を愛するいい奴だったと思う。
(スイスに帰国した後の写真を送ってきたが、スイスかどこかの高山に帰国後、早速登山していた。)
ある時、メキシコの医師からもらった私のソラナックスの処方箋をいきなり奪って、「やーいやーいこれが欲しいか!」といって、小学生のように茶化すような女だった。
子供がそのまま大人になったような感じであった。
そんなこの女に、なぜ、スイスからメキシコに来たのかと問うと、スイス人のメンタリティーが気にくわないからと言った。
その時の私は、日本人のメンタリティーが気にくわなかったので、そういうアウトサイダー精神的なものでお互いに多少共鳴したのだと今思う。
こいつとは、数日後、ガテマラ行きのバス停前で別れた。
そもそもメキシコに「一人で」来るような欧米人やアジア人もみな変わった人が非常に多く、他にも沢山、奇譚があるので次の記事で順次思い出せる範囲で書いていこうと思う。
沖仁宏