練習です
練習です
お須賀さん(その一)
わたしはいつも手を引かれて歩いていた
かごには野菜、アパートに売りに行く
アパートのドアーはきれい
アパートの部屋はまぶしい
カーテンが引かれた窓から陽ざしが注ぐ
玄関を開けようとするとすぐ茶の間
玄関に入ると逃げるところがない
子供ごころにうらやましかった
子供ごころに恥ずかしかった
早く売れたらうれしかった
早く帰れてうれしかった
お須賀さんは床に伏す
四畳半でから相撲を見る
手鏡かざしてテレビ見る
わたしがすすめたお須賀さん用の手鏡
お須賀さんはラジオをかける
朝六時半
時計代わりにわたしは起こされる
眠い目をこすり、英語を聞く
勉強だけはしておけよ、とお須賀さんは言う
自分は勉強したかったんだ
尋常小学校いけなかった
女だから百姓やれよと校門の坂道でとめられた
学問したかったんだ
おまえは学問が必要だ
お須賀さん、可愛い孫に、微笑みながらもきびしく言う
いつのまにか自然に起きる
いつのまにか本を開く
そういう日課が身についた
母は土間で夕食をつくる
わたしはちゃぶ台でぼーとテレビを見ている
お須賀さん、ある夕、母を呼び出す
母は叫ぶ 繰り返し叫ぶ
「おばあちゃん、どうしたの」
いつもと違った母の言葉に何かを感じた
お須賀さん。母に礼を言う
お須賀さん。何が見えましたか
「吾、この地に来て我が御心すがすがし」
お須賀さん、こういう気持ちでしたか
体中、痛くありませんでしたか
呼吸は苦しくありませんでしたか
いまもわたしは祈っています
多くを祈ってしまいます
お願いします
私を
いや私たちを