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栃木県の歴史散歩

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厳しい武家社会の役職起請文 署名血判して他言を堅く禁じる

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 身分と格式によって統制された封建時代には、現代人に想像もつかない、いろいろな社会規制があった。そのひとつに、武士が役職を拝命したときに書く起請文(きしょうもん)がある。その一例を紹介しよう。
 これは、宇都官藩主戸田越前守の御近習、十両三人扶持(ふち)河合富次郎が、その上司の戸田七兵衛あてに差出したもの。提出の際は、宇都官城内二の丸御殿奥書院の、床の間に八幡大菩薩などの神殿がまつらた清浄な部屋で、上司と介添人列席の上、次のような条文を読み上げて誓約した。
○感情的対立も殿中ては我慢
 紀請文前書の事
 一、今度私儀、殿様御近習役をおおせつけられ候上は、上を軽んじ御奉公を疎かにすまじく候。随分念を入れ、一心に相勤め申し候。
 以下、候文で続くのだが、現代語に訳してみると―
 一、公儀の御制法、御家の御法度は堅く守り、「殿様のおため」を第一に考え、いいつけられたことは、昼夜の別なく実行いたします。
 一、秘密はもちろん、殿様の身の回りのことがらはすべて、他人は申すまでもなく、親子、兄弟、どんなに懇意の者にも決して他言はいたしません。また、殿様の身近にある御文箱、封書物などを勝手に見るようなことは致しません。
 一、殿様がおっしゃったこと、また殿様の身の回りの出来ごとについては、他人はもちろん、御家中の御家老様方をはじめ、藩内の友達、親子兄弟親類の者にも、ひとことも話すようなことは致しません。
 一、藩内の友達同士で、どんな感情的な対立があっても、御殿の中では我慢し、相手の非も許します。
 一、御側ご用人、諸役人、坊主、物書に至るまで、御家の御制法に背いて不行跡を働く者がありましたら、すみやかに申上げます。また、勤務ぶりが非常に立派で、他の模範になるような人を見た場合は、必ず報告いたします。勤務ぶりについて、少しも依悟(えこ)ひいきは致しません。
 一、贈賂(わいろ)と思われる贈物は絶対に受取りません。また、御近習の役にあるうちは、特別の理由がない限り、友達の遊びに参加いたしません。
 一、同僚の御近習はもちろん、その他の友達との交際で、相手にどんな考えがありましても、殿様の御為にならないことは我慢いたします。もっとも、御法度に背いたり、悪事を相談しているような場合は、じっと聞き耳を立てております。
 右の事項に違反いたしました場合は、上は梵天帝釈、下は四人天王、その他日本国中の大小の神祇、なかでも特に東照大権現、宇都宮大明神の神罰を受けることに相成ります。よってここに、起請文を差上げます。
 安政五年三月廿一日
      御近習勤 河合富次郎(血判)
 戸田七兵衛殿         (以上は意訳)
○熊野牛王符の裏に条項記す
 右の起請文は、熊野牛王符(ごおうふ) の裏面に記され、氏名の下に血判が押されている。神々に誓って誓約の条項に違反しないという神聖な決意を、形式の上にもハッキリと示したものである。
 これは近習の場合だが、日付、徒日付は、大目付あて同心、組小頭は町奉行あて、御代官、手附手代などは郡奉行あてに、それぞれ勤務中の制約事項を列記し、違反しないむねの起請文を提出した。
 このような誓詞は、藩士が上司に提出するばかりでなく、新しく城主となる藩主の場合も、家督相続にあたっては家老達の連名による遵守事項に違反しないようにと、誓約を求められた。
 たとえば、宇都官藩主戸田忠友の場合は、①家風が乱れないように守護すること②政務に精励すること③えこひいきをしないこと④御徳義を欠かさないよう心掛けることなど、9項目の条文が起請文のなかに明記されている。
○大名さえわがままは出来ぬ
 その最後に「私どもが退役した場合は、後々の者へこの旨を申し送ってください」と記し、これに違反した場合は、日本国中の大小の神々の神罰を受けるものである、と結んでいる。これによって、大名だからといって、わがまま勝手には出来ないことのあったことがわかる。 

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