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今宮祭祀録にみる武士道と神道 民支配のカギは祭祀権

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 塩谷郡氏家町に鎮座する今宮神社は、通称今宮明神の名で町民に親しまれている。この社の起源は、宇都宮朝綱の五男である兵衛尉公頼(きみより)が宇都宮明神を勧請したことによるという。
 公頼は氏家勝山に城を築き、はじめて氏家氏を称し、氏家郡二十四郷およそ2000町を領有した。城山守護のため鬼門の方角に祀(まつ)ったのが、この今宮明神だった。幕末、下野の生んだ国学者河野守弘はその著書「下野国誌」の中で、こう述べている。
 ところで、氏家町の西導寺(浄土宗の旧刹)は、氏家公頼の建立した寺で、代々、氏家氏の菩提(ぼだい)所だった。この寺に、鎌倉時代の正安2年(1299)から文禄2年(1592)までの今宮神社の年々の祭礼の次第を書きつづった「今官祭祀(し)録」という記録が伝えられている。
 この記録には、中世の下野の有力な武士だった宇都官氏の命令で、氏家郡二十四郷に蟠踞(ぼんきょ)した宇都宮氏の被官たち(家臣のこと)が毎年、順番に頭役(とうやく)を勤めたことが詳しくみえるのである。
 頭役とは普通、中世武家社会で神社の神事に奉仕する役をいう。具体的には社殿の造り替え、修理、祭礼や流鏑馬(やぶさめ)などの準備や負担をすること。多くの場合、在地の武士(地方に勢力をはっていた武士)が勤めている。
 鎌倉時代、諸国の一宮(いちのみや、国中第一の神社を意味し尊崇を得ていた神社の祭杞は、御家人(鎌倉殿=将軍の家臣)の頭役で行われた各地の祭祀権も、同じように在地武士の手にあったことが、現在の歴史学会では明らかにされつつある。
 新興勢力である武士にとって、どうして支配権を拡大し、強化していくかは一大課題だった。神社の祭権を握ることが、その有力な手段だった。
 民衆の崇拝をあつめている神社の祭祀権を握れば、精神面から民衆を支配する手段を得ることになるのである。
 武士の氏神については、一般に4つのパターンが挙げられる。
一、姓氏系統上の祖先神
二、室町時代以降には、実在の歴史的人物
三、血縁関係のない宗教的神祇(ぎ)
四、武士が同時に神官である場合のその神社の祭神
 通説によれば、二を除き、いずれも武士団結合の精神的中核となるものと考えられている。 一族共同の祭祀は、苗字とともに、一族の精神的きずなの役割を果たした。
 中世には、惣(そう)領(武士の一族の長)は、一族を代表して根本所領に祀られている祖先神や鎮守の神をまつり、これを族的結合の中心としていた。
 宇都官氏は、下野の一宮である二荒山神社の社務職(検校職ともいった)を世襲していく家柄=社家で、同時に武家でもあった。
 弘安6年(1283) に制定された「宇都宮家弘安式条」には、社寺に関する規定が数多く見られる。例えば第一条に「当社修理事」、第二条に「神宮寺井尾羽寺往生院善峰堂塔庵室等、修理を加うべき事」などとある。
 これは、宇都宮氏が二荒山神社(宇都宮明神)や今宮神社(今宮明神)などを管理していく必要上、また、その神社を中心とする族長として一族被官層を掌握していく必要上から定めたものと考えられる。
 以上のように「今官祭祀録」は、中世史料の乏しい栃木県では、武士団と神道の関係を研究する格好の材料である。宇都宮氏の歴代の当主は「御屋形様」と呼ばれて尊敬され、当主自身が参拝することも多かったようである。
 「今官祭祀録」は中世の氏家。宇都官地方を中心にした下野の社会情勢を知る上でも、好適な史料である。
 というのは、頭役の勤仕と関連させて、その年に起きた主要な事件、例えば戦国期における宇都宮氏をめくる合戦や、下野の気象に関する記事が含まれているからである。
 とくに気象関係の史料は、栃木県では他にないため、貴重なものである。例えば、天文元年(1532)は不作であったこと、天文9年8月14日の亥刻(午前10時―12時)から丑刻(午前2時―4時)まで大風が吹き、宇都宮の「東勝寺(廃寺で現存せず)之五重塔」を吹き倒し、「世間之堂塔等皆悉く吹伏」せる程で「人民数多吹とばされ」るという強風であったことなど、興味をそそる記述がある。
<注>氏家郡二十四郷について、氏家郡とは主に中世私的に唱えられ、使用された郡の呼称である。他にこの郡名が見える史料としては、塩谷郡佐貫にある氏家公頼寄進の「銅版曼茶羅(まんだら)」など数例がある。
 ところで、二十四郷とは、具体的にどの地域をさすのであろうか。宝暦5年(1755)に荒牧三郎左衛門信瑞が書写した「氏家記録伝」によれば、次のようになっている。
 関俣、文挟、土室、柏崎、八ツ木、栗ケ嶋、平田、石末、阿久津、肘内、大久保、上平、風見、山田、大宮、金枝、玉生、船生、上麻(わあさ)、驚沢、大田、寺渡戸、泉、氏家。 

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