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中国から渡来した鏡

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 栃木県からは、珍らしい鏡が数面出土している。これらの鏡は舶載鏡(中国で鋳造され、当時の倭国、今の日本に渡来した鏡をいう)で、どれをとっても貴重なものばかりである。
 当時は、交通機関は船しかない時代であり、鏡を輸入することは至難の業であった。このことは、この当時よりは文化が発達した時代においても、遣随船や遣唐船が遭難することなどによっても、うかがうことができよう。
 中国から渡来した鏡は、むつかしい言葉だが、夔鳳鏡、画文帯環状乳神獣鏡、三角縁神獣鏡、画文帯神獣鏡などと呼ばれるものである。今回は、このうちの二面夔鳳鏡と画文帯環状乳神獣鏡とについて述べてみよう。
 夔鳳鏡は、空想上の鳥形を主文様とした鏡である。本鏡は、小川町吉田に所在する那須八幡塚古墳から出土した。同古墳は、4世紀後半のものといわれている。
 那須八幡塚古墳は前方後方という特異な墳形を呈する古墳で、現在、那珂川右岸段丘末端に所在している。
 現在、那珂川中流域を見渡すと、同川右岸段丘上には、同墳のほかに、上侍塚古墳や下侍塚古墳などの前方後方墳が集中しているのが注目されるところである。
 夔鳳鏡には、紀年鏡(鏡を鋳造した時の年号を入れた鏡)は2面存する。1面は後漢の元興元年(105)のもので、もう1面は同じく後漢の永嘉元年(145)のものである。これによれば、夔鳳鏡の鋳造時期は、ほぼ後漢の後半頃と推定される。
 わが国では、現在までのところ、夔鳳鏡の出土例は10余面にしか過ぎない。何故少ないかというと、夔鳳鏡の製作された頃は、丁度倭国の動乱時で、更に中国ではその後後漢末の動乱期に入るので、鏡を輸入する機会が少なかったのではないかと筆者は考えている。
このことは、夔鳳鏡と同時期頃鋳造されたと思われる獣首を主文様とした獣首鏡の出土例も同様に少ないということからも、うかがわれるところである。
 『後漢書』によれば、倭国の動乱に関する記事は、「桓・霊の間倭国大いに乱れ、更々相攻伐し、歴年主無し」と述べられている。桓帝は147年─167年の間帝位にあり、霊帝は168年─188年の間在位している。また、『梁書』『北史』によると、「霊帝光和中…」のこととなっており、その動乱期は178─183年の間となる。倭国の大乱は何年続いたかは明瞭ではないが、ともかく、それに接する時期に夔鳳鏡や獣首鏡が鋳造されているのである。
 夔鳳鏡は、古式古墳からの出土例が大部分を占める。その分布状態を見ると、北九州では、福岡県須玖、同県福吉町、同県漆生、同県沖の島、対馬の大将軍山から出土している。中国では、鳥取県国分寺裏山で出土している。近畿では、兵庫県ヘボソ塚、同県三ツ塚、同県奥の山、京都府美濃山王塚、滋賀県安土瓢箪山から出土している。そして、関東では、本県の那須八幡塚から出土しているのである。以上の例で知られるように、夔鳳鏡の出土例は西に多く、東国では那須八幡塚出土の1面しか知られていない。
 このことは、何を物語るものであろうか。当時の那須の首長が直接中国と交渉をもっていたとは考えられないので、夔鳳鏡は間接的な手段でもって入手されたものであろうと思われる。とすれば、那須の里が、当時なんらかの形で中央勢力と結びついていたことがうかがわれる。このように見てくると、那須八幡塚の被葬者の背後には、大和政権の存在が考えられるところである。
 想像を飛躍させてみると、本鏡は、大和政権の中央部から服属のしるしとして下賜されたものであろうか。あるいは、弥生時代に舶載された本鏡が、なんらかの理由でもって、長い間伝世した後に、那須八幡古墳中に眠ることになったものであろうか。
 画文帯環状乳神獣鏡は神像と獣形を主文様とし、その外側に画文帯即ち飛禽走獣文を配した鏡である。残念ながら、本鏡の出土地は明らかではないが、下都賀郡野木町に存する野木神社付近の古墳から発見されたと伝えられている。
 画文帯環状乳神獣鏡は、中国において後漢末から三国頃製作された鏡である。その鏡が、いかなる道程を経て、わが国に渡来し、また、野木神社付近の古墳に埋納されるようになったものであろうか。後漢から三国頃といえば、およそ3世紀前半頃に当り、本県最古式の古墳でも4世紀後半頃であるので、この間にはかなりの時間差があるということになる。
 ともかく、画文帯環状乳神獣鏡は、前述した夔鳳鏡と同様な性格を有していたものと思われる。そして、本鏡を所有していた古墳の被葬者は、当時の中央勢力即ち大和政権となんらかの形で結びついていたものと想像されるところである。

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