BCA土曜学校のコラムVol.83 〜「小景異情」〜
6年生の国語で室生犀星の「小景異情」の学習をしました。
「小景異情」は、六編からなる短い詩の連作で、その二の「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの よしや うらぶれて異土の乞食(かたゐ)となるとても 帰るところにあるまじや ひとり都のゆふぐれに ふるさとおもひ涙ぐむ そのこころもて 遠きみやこにかへらばや 遠きみやこにかへらばや」が有名ですが、教科書にはその六が取り上げられています。
この詩を書いたころの作者は、複雑な家庭事情もあり、ふるさとの金沢と東京を往復していたそうです。先の五つの詩は、作者の悲哀や後悔や自問の念が表現されていると言われていますが、最後の「あんずよ」は、希望や優しい心が伝わってきます。
「あんずよ」は、春の景色を描いた詩で、情景を想像して音読を工夫する教材として、新しく教科書に入りました。
「小景異情」 室生犀星
あんずよ
花着け
地ぞ早やに輝け
あんずよ花着け
あんずよ燃えよ
「小景異情」の「小景」は、ささやかな景色、ちょっとした光景。「異情」は、風変りな心、いつもと違った気持ち。
つまり、ちょっとした光景が、いつもと違った気持ちをわきおこすという意味です。
作者はその六で、「あんず」の花を見て、「花着け」花を咲かせなさい。「輝け」輝きなさい。そして「燃えよ」燃えるように咲きなさいと呼びかけています。「地ぞ」の「ぞ」は強調、「早やに」は早く。
あんずの花を一生懸命応援している作者の気持ちが伝わってきます。あんずへの呼びかけが自分自身への激励の気持ちを呼び起こしているのです。
ちょっとした光景が、いつもと違った気持ちにさせる。
そんな「小景異情」は、私たちの身近なところにもありそうですね。
先週から、BCA土曜学校では幼稚部と小学部でオンライン授業が始まりました。
中高部は、授業はありませんがオンラインで話をする場が設けられました。
3月からずっと会っていない皆さんがどんな生活をしているのか、体はもちろん心の状態はどうなのだろうかと心配していたのですが、元気な声を聞くことができてほっとしました。
どんな生活をしているのという問いかけに、
料理、庭でサッカー、父とキャッチボール、バドミントン、卓球、ガーデニング、犬や猫と遊んでいる、オンラインでバレエの練習、ボランティアで通訳、家族とゲームなどなどの明るい声が返ってきました。
家族とゆったりと過ごす時間を楽しんでいるようです。
皆さんそれぞれの「小景異情」。
今だから見えるちょっとした光景、今だからできるちょっとしたことに目を向け、楽しみや幸せを感じる時を重ねて欲しいと思います。