朝日新聞の介護保険・ケアマネ問題をとりあげた記事
本日の朝日新聞の介護保険制度の構造的問題を指摘する記事は、今後の制度のあり方を考えるうえで重要な論点であり、大きな社会問題です。
朝日新聞は本日の1面と2面で大きく介護保険の構造的問題をとりあげました。
私は、デイサービス施設の運営に関わっているので、とても共感できる内容でした。
建前では「公正・中立、利用者様やその家族の意向にそうサービス・ケアプランをつくる仕事」のはずのケアマネージャーが、実際には「デイサービス(通所介護)、訪問介護、サービス付き高齢者住宅などを経営するグループ企業の一部門」として働いているケースはとても多く、自社への利益誘導をせざるをえない構造になっていると私も感じています。
朝日新聞は、利用者のためになるケアプランをつくったところ、自社の施設の利益にならないので解雇されたケアマネージャーの話を紹介。
このケアマネが「私たちを利用客を増やす営業係だと思っているのか」とコメントしていることを報道しています。
一方、ケアマネージャーの仕事だけでは国からの報酬が低く、どの企業からも独立したケアマネージャー事務所として仕事をするのは厳しいという構造的問題も朝日新聞は指摘している。
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高齢者施設、お手盛り介護 「歌ばかり歌わされて…」
2014年2月18日付朝日新聞1面
高齢者が入る施設で、必要のない介護サービスまで提供する「お手盛り介護」が相次いでいる。介護サービスの利用計画(ケアプラン)をつくるケアマネジャーが、施設などの意向に沿って介護報酬を増やす例があるからだ。高齢者に合った介護が提供されず、介護保険の無駄づかいにつながるおそれもある。
「歌ばかり歌わされて。嫌で嫌で」。東京都中野区の有料老人ホームにいた男性(92)は昨夏まで、夕方になると疲れ果てていた。童謡を歌ったり風船を突きあうゲームをしたりするデイサービスが、昼食や入浴を挟んで朝9時から午後4時半まで続いたからだ。
昨年7月の利用明細には、ホームが運営するデイサービスが1日7~9時間、週6日びっしり。月に約3万3千円が本人に請求された。介護保険は本人が1割、保険が9割を負担する。「要介護4」の男性が使える限度額約33万円いっぱいがつき、ホーム側に介護報酬が支払われた。
まもなく別のホームに移ると、デイサービスはなく、週2回の入浴と1回の外出介助ぐらい。請求額は10分の1以下の月約2600円に減ったうえ体調も良くなり、介護度は最も軽い要介護1に改善した。「なぜ施設によってこんなに違うのか」と驚いた。
これは、前のホームのケアマネが作ったケアプランがお手盛りだったからだ。東京都も今年1月に前のホームなどに調査に入り、「ホーム側のデイサービスばかりがついている」と改善を促した。
プランを作ったケアマネは家族にも会わず、男性の要望も聞いていなかった。朝日新聞の取材に対し、「前任者のプランをそのまま使った。ホームからもなるべくつけてと言われ、協力したかった」と話す。
さらに悪質な例も相次ぐ。朝日新聞が47都道府県を調べたところ、この6年で介護報酬を不正に請求したとして50人のケアマネが資格を取り消されていた。架空のサービスを偽装したり、ケアプランを水増ししたりする例が多い。50人のうち「自ら主導した」が31人、「(施設などに)強要された」が11人いた。(松田史朗)
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〈ケアマネジャー(介護支援専門員)〉 「要支援1~2」「要介護1~5」の認定を受けた高齢者が介護保険を使ったサービスを受ける際、高齢者と契約し、本人や家族の要望を聞きながら毎月の介護サービス利用計画(ケアプラン)をつくる。2000年に介護保険制度ができた時につくられたが、国家資格ではなく都道府県が認定する。全国で約14万人が働く。国はケアマネが所属する居宅介護支援事業所の運営基準を「利用者の立場で、特定の事業者に不当に偏らず公平中立」と定めている。
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(報われぬ国)ケアマネ、施設の縛り 意に沿わねばクビ
「うちの訪問介護を限度額いっぱいつけてほしい」
愛知県内のケアマネジャーは一昨年3月、愛知県豊明市にある高齢者施設の社長から求められた。担当していた女性(当時73)がこの施設に入った時だ。
国の基準がある有料老人ホームではなく、一戸建てに高齢者を住まわせる「無届け施設」で、訪問介護事業も営んでいた。社長は週2回の入浴や部屋の掃除などサービス内容と回数を細かく指示し、言った。「家賃が安いので、訪問介護で稼がなければいけない」
だが、女性は「外出や散歩ができるプラン」を望んでいて、限度額いっぱいの訪問介護は必要なかった。社長の要求を断り、女性にあったプランを出すと、まもなく施設から「交代していただく」という連絡が来て担当を外された。
「施設に都合のいいプランを求め、聞かないと露骨にやめさせる」。このケアマネは施設の横暴に憤る。
東京都内で医療法人グループが運営する居宅介護支援事業所にいたケアマネは昨年春、担当していた70代の女性が自宅で転んで骨折し、歩けなくなった。
一人暮らしは無理だと考えて施設を探し始めた矢先、グループが運営するデイサービス事業所の責任者が声をかけてきた。「施設へ入れず、デイサービスに毎日通わせたらどうか」。同じグループの訪問介護事業所の責任者も「まだ施設に行かせなくても、今まで通り訪問介護を使えばいい」と言ってきた。
それでも女性の状態を考えて小規模介護施設に入れると、訪問介護事業所の責任者は「あなたは全然わかってない」と責めた。このケアマネは「私たちを利用客を増やす営業係だと思っているのか」と感じる。
実際に営業に回る人もいる。関東に住むケアマネは昨年まで、毎月数十件の利用者獲得が目標だった。全国に有料老人ホームなどを展開する大手グループに勤めていた時のことだ。
ケアプランにはグループの訪問介護サービスを入れるようになっていた。本社からサービスの実績を上げるよう指示が出ると、上司から発破がかかった。
それぞれの利用者獲得数がパソコンで見られるようになっていて、少ない同僚は姿を消した。自身も、高齢者らを支援する地域包括支援センターなどを回り、紹介を頼む日々。「何のために介護の仕事に入ったんだろう」。悩んだ末、このグループをやめた。
■低収入「孤立では暮らせない」
全国のケアマネ約14万人のうち、約8万人は独立して居宅介護支援事業所を開いたり、介護サービス会社などが運営する事業所に勤めたりする。ほかに特別養護老人ホームや有料老人ホームで約4万人、地域包括支援センターなどで約1万人が働く。
「利用者の立場で、特定の事業者に不当に偏らず公正中立」。国は多くのケアマネが所属する居宅介護支援事業所の運営基準をこう定める。だが、実情は、事業者に寄り添う「ひもつきケアマネ」になりかねない環境に置かれている。
東京都内で一人で居宅介護支援事業所を開く60代のケアマネは、毎晩遅くまで高齢者約30人の毎月のケアプランづくりに追われる。月に一度は全員に会って体調を聞き、介護サービスがプラン通りかなどをチェックする「給付管理」もしなければならない。
事業所は小さなソファや机があるだけ。それでも家賃や電話代、交通費などを払うと、月の手取り収入は20万円に届かない。
介護保険から出る報酬は高齢者1人あたり1万~1万3千円。国の基準で1人のケアマネが減額されずに受け持てる高齢者は「介護」が35人、「予防」が8人までで、大きく収入を伸ばすことはできない。
担当の高齢者が亡くなれば収入は減る。このケアマネは新たに紹介を受けるため、地域包括支援センターとの顔つなぎを欠かさず、介護関係者の新年会などにも出て老人ホームの経営者らとの人脈をつくる。
「妻が働いているからいいが、この仕事だけでは暮らせない。仕事を増やそうとすると、ひもつきケアマネにならざるを得ない」
東京都内で訪問介護サービス会社が運営する居宅介護事業所にいる50代のケアマネは、給料が額面で21万円、手取りは十数万円だ。「グループで利益をあげているのは訪問介護。私たちの事業所は赤字で、『カネを稼がないケアマネ様』などと陰口をたたかれる」
独立して事業所を開こうにも、食べていけない現実がある。「結局は施設や訪問介護会社のグループに入るしかない」と嘆く。
介護労働安定センターの2012年度の調べでは、ケアマネの平均賃金は月24万8千円だった。訪問介護員の18万4千円や介護職員の19万3千円より多いが、看護職員の26万2千円より安い。(松田史朗、西井泰之)
■しわ寄せは保険料に
厚生労働省の取り組みは遅れている。
06年には、ケアマネが施設などの言いなりになって介護報酬をふくらませるのを防ぐねらいで、特定の事業所のサービスを9割以上つけると介護報酬を減らすよう基準を改めた。しかし、介護の現場では「9割までは特定の事業所につけてもいい」と受けとめられ、逆に「ひもつき容認」という批判もある。
日本では介護保険制度をつくる際、中立的な立場を維持するため、ケアマネを公務員にするという議論もあった。だが、人件費の増加を嫌がる自治体などの反対で実現しなかった。
老人ホームや訪問介護などの介護サービスには、介護保険から9割が支払われる。その給付費は11年度に10年前の2倍以上の約7・6兆円に達し、25年度には高齢化によって20兆円ほどにふくらむ見通しだ。国民はこの半分を税金、半分を40歳以上が納める介護保険料で負担している。
4月には社会保障などのために消費税率が8%に上がる。介護保険料も、40歳以上のサラリーマンが最も多く入る協会けんぽの平均で約600円上がって5803円になる。もはやお手盛り介護は許されなくなっている。
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