もの言う牧師のエッセー 再投稿
第283話「 粋なタクシードライバー 」
「カネ出さんかい!」 その25歳の男は3月半ばのとある深夜、明石市内のJR西明石駅前でタクシーに乗り込み姫路まで行くように指定。明け方ころ目的地に着いてタクシー料金約1万5千円を請求された直後、後部座席から突然、その60代運転手の髪の毛をわしづかみにし、顔面に毛抜きを突きつけて脅し金を奪おうとした。
しかし運転手さんは「悪いことしてるのは分かってるよな」と興奮気味の男を静かに諭したところ、男は次第に落ち着きを取り戻し、自身の生い立ちなどを語り始め、「金がなく、ご飯も食べていない。寝る場所もない」と打ち明けたため、一緒に近くのファミリーレストランへ行ってチキンステーキやドリンクなど計4点をおごってあげた。若者は「ここまで人に親切にしてもらったのは初めてです」と笑みを浮かべ、「本当に悪いことをしてしまった」と反省したという。
仕事が残っているので運転手さんは店を後にしたが、通報をしなかったものの、若者は結局その日の午後に交番に自首した。警察から連絡を受け、「まだ若いし、きちんと反省して、人の道を外れることなく改心してほしい 」と語る運転手さんを見て、
「イエスは手を伸ばして、彼にさわり、
『わたしの心だ。きよくなれ。』と言われた。」
ルカの福音書5章13節、
光景を思い出した。古代へブル人の間で当時嫌われ、触れることがNGであった皮膚病を患う男性をイエスが優しくさわって癒した一件である。人が抱える問題や欠点を非難するのは容易い。しかしイエスはどんな方法論もルールもなし得ないものを下さる。ずばり神の愛である。彼は愛だけが人を変えることが出来ることを常に示す。粋な運転手さんに人を憐れむイエスの姿を、自首した若者にイエスに憐れんでもらった己の姿を垣間見た。
2017-5-11