もの言う牧師のエッセー 「ティル」
もの言う牧師のエッセー
第381話 「 ティル 」
第381話 「 ティル 」
1955年8月28日、ミシシッピ州で14歳の黒人少年エメットが白人らに虐殺された「エメット・ティル殺害事件」を描いた映画「ティル」がついに日本でも昨年末公開された。同事件初の映画化と聞いて少し驚いた。
シカゴ育ちのエメットは、黒人差別がはびこる南部ミシシッピ州の親戚宅で休暇中に白人男性が営む食料雑貨店を訪れた際、店主の妻である21歳の白人女性に向かって口笛を吹く。このことを知らされた店主とその兄弟は激怒し、エメットを拉致して壮絶なリンチを加えた。眼球をえぐり出し、頭を割って銃で撃ち抜き、その死体を有刺鉄線で首に縛りつけて川に捨てた。
殺人罪で起訴された店主ら2人に対し、全員が白人男性だった陪審団が下した評決は無罪。米連邦最高裁は54年に公立学校での人種隔離を違憲と判断し、翌55年春には隔離の撤廃を進めるよう言い渡していたが、南部の白人らは猛反発し 怒りが渦巻く中で起きた事件だった。
ここでエメットの母・メイミーは驚くべき行動に出た。ミシシッピ州ですぐに埋葬されようとしていた息子ティルの遺体を そのままの状態でシカゴに戻すよう行政機関に訴えてシカゴの教会で葬儀を執行した。さらには棺桶の蓋を開けたままにして参列者らに無残に潰されたティルの顔が見えるようにした。1万人以上の参列者がそれを見たという。「恐怖を感じるほどに変わり果てた息子の姿を言葉で説明などできない。何が起きたのかを多くの人が理解する必要がある」という決意のもと、黒人メディアには遺体の撮影も許可、全米の黒人社会に怒りが広がり、メイミーの行動にアメリカ中が震撼した。
「公民権運動の母」と呼ばれるローザ・パークスがバスの座席を白人に譲らず逮捕されたのはこの事件から約100日後である。彼女は言う。「ティルのことを考えた」と。 そしてキング牧師が「I have a dream/私には夢がある」と演説したワシントン大行進が行われたのは事件から8年後のティルの命日だった。ティルの悲劇が社会を変える原動力となったのだ。
だが前述のように映画化までに70年近くもかかっている。それほどまでにアメリカにとってこの事件は正視しがたい歴史の汚点なのであろう。そう言えば、昨年日本では関東大震災100周年を迎え、震災直後に起こった凄惨な「朝鮮人虐殺事件」が話題となり、「福田村事件」など映画化もされたが やはりここまで100年もかかった。これらの事実は人間が己の罪に向き合うのがいかに困難かを示す。そしてその間にも不条理や悲劇は止むことはなく多くの者が犠牲になっていく。だが聖書は言う。
「彼はさげすまれ、人々からのけ者にされ、
悲しみの人で病を知っていた。
人が顔をそむけるほどさげすまれ、
私たちも彼を尊ばなかった。」 イザヤ書53章3節
悲しみの人で病を知っていた。
人が顔をそむけるほどさげすまれ、
私たちも彼を尊ばなかった。」 イザヤ書53章3節
これはキリストが十字架にかかる700年以上前の「メシア預言」であり、人として生まれた神の子イエスがいかに壮絶に殺されるかを予め示したものだ。あろうことか人間の手によって神の御子が虐殺された。しかも母マリヤの面前で。我ら救い難き陰険な人類を救い、闇の世界を変えるために。くしくもティル母子の物語によってそれを想起した。
今月15日は「マーティン・ルーサー・キングJr.・デー」。
いま一度、ティルたちと黒人たち、そして虐げられている人たちの受難を偲ぼう。そして不条理を一掃し、全てに正義が成就するキリスト・イエスの帰還を待望しよう。
2024-1-2
いま一度、ティルたちと黒人たち、そして虐げられている人たちの受難を偲ぼう。そして不条理を一掃し、全てに正義が成就するキリスト・イエスの帰還を待望しよう。
2024-1-2