もの言う牧師のエッセー 第141話 再投稿
「 エミネムの謝罪 」
何とエミネムが母親に謝罪した! いったい何が起こったのだろうか。今やアルバム総売り上げ1億枚。白人でありながら、史上最も売れた大物ラップ歌手である彼が引き起こしてきた母親とのいざこざについては、アメリカ人では知らぬ者はおるまい。彼は自分が歌うラップミュージックの中で母親を「Bitch(淫婦)」と呼び、「酷い麻薬常習者だ」と侮蔑し、「地獄で火あぶりにされろ」とまで言い放ってきた。
実は彼は典型的な貧困家庭に生まれ、幼少期に父親は蒸発、母は酒浸りとなり育児を放棄、薬物に溺れるようになり、トレーラーハウスで国内を転々とし、転校した先々でいじめに遭い、自殺未遂も経験、中学の時は3回留年するなど悲惨な少年時代を送った。そして90年代にスターになってからは、自分の苦しかった思い出や感情を歌にして叫び続けてきた。たまりかねた彼の母親デビーはエミネムを名誉毀損で訴え、親子関係は絶望的な泥沼に落ち込んだのだった。
しかし、今年の母の日、彼は新曲「ヘッドライツ」のビデオを公開。その中で長年にわたり確執のあった母への謝罪を表し、もう2度と彼女を侮辱する詩を歌わないことを誓ったのだ。さらに「俺はあんたを憎んじゃいない。だって母さんだから。あんたは俺にとっては今もきれいだ。だって 俺の母さんだから」と。それにしても、若者たちから絶大に支持されてきた彼も今年41歳。年を重ねてきたことが謝罪の要因ではないかと見るのは私だけだろうか。
聖書には多くの人物が登場するが、その中でもヨブという人物は、切っての善人で知られる人物 である。その彼が神に向かって
「私に対して苦い定めを書き記し、
若い日の罪をも今なお負わせられる。」
ヨブ記13章26節:共同訳、
と 弱気な心情を吐露している。誰もが善人と認める彼でさえ、若い頃に引き起こした数々の愚かさを思い起こす時、ただ頭を垂れ、神の前にへりくだるのである。そしてそれらの罪が神によって赦されたことを知っているからこそ、誰に対しても謙虚に振る舞い、人の罪を赦し、施し や善行に励む尊敬に足る人物と成長できたのではなかろうか。時間。これは神が人間に与えてくれた素晴らしい恵みの一つである。時間をかけ、年を取ることによって、人は少しずつ本来あるべき強さや優しさを持つことが出来るのだ。神の知恵に脱帽である。 2014-7-10