牧師、バイカー、鮨職人として。。。シェア from LA
第58話 クリスマス・ストーリー 「 天使 」
数年前の12月初め頃の話。日曜の夜9時頃、めったに行くことのない近所のKFC(ケンタッキー・フライド・チキン)でテイクアウトを注文するためカミさんと出かけた。外は寒く肩をすぼめてガラガラのKFC店内へ入ったところ、背がスラッと高い細身の白人で金髪の兄ちゃんがカウンターで何か頼んでいた。なかなかのイケメンだ。すると不意にツンッとアンモニアの匂いが。とっさに足元を見たら裸足だ。
「あっ、この人!... 」とカミさんも気付いた。薄暗い店内でも、彼がアメリカでよく見かける典型的なホームレス・ティーンエージャーだとすぐに分かった。どうやら生活保護が支給されたので何か買いに来たのだろう。見るとコンボメニューなどではなく単品を一つだけ頼んでいる。「何か他にも頼んだら?おごるぜ。」と声をかけると、「え、いいんですか?」と遠慮がちだ。ティーンエージャーのホームレス問題は本当に難しい。貧困だけでなく、たいてい両親によるDV、薬物、犯罪と家庭破壊が絡んでいる。
名前を聞いたら「ヨブ(Job)です」。聖書ので最も古い書簡ヨブ記に出て来る苦労人の名だ。「ヨブ?ホンマかいな? まあいいや。俺が君に食べ物をあげるのはイエスさまのためなんだ。分かるかな。彼が俺を救ってくれたから俺も何かしないといけない。そういうことだよ。彼の光に照らされれば君は変われる。君がいつかイエスさまの光を見れるよう祈ってるよ」などとオーダーが出来上がるあいだ少し話をした。
すると彼は突然「僕の名前はヨシュア(Joshua)です」と言い出した。「なあんだ、やっぱりヨブじゃないじゃないか。ヨシュア、いい名じゃないか!それって”救い”という意味だぜ。」と私はにやけた。彼が最初にヨブと名乗った理由は“苦労”してるからかも知れない。お互いのオーダーが出来上がったのでそろそろ帰ろうとすると、ヨシュアは「ボクのおばあちゃんが言ってたことは本当だった。」とポツリ。「ん?なに?」と尋ねると、「おばあちゃんは言ってた。世の中捨てたものじゃない。街を歩けば時たま天使に会えると。あなたがたはその天使です。」
そんなこと言われたことないので面食らったが、とっさに「そうじゃないんだ。君がそう言ってくれるのは嬉しいけど、残念ながら私は以前ひどい人間で血も涙もない男だった。でもイエスに出会って今の自分になれたんだよ。天使はイエスさまさ。君も彼を信じれば変われる。」 私はそう言って名刺を渡し、履いていたツッカケも脱いで彼に譲り、裸足でマスタングを運転して帰宅した。彼とはそれきりだが、彼を通して誰でも天使になれることを学んだ。恵まれたのは私のほうだった。むしろ天使は彼のほうだったのかも知れない。
「ある人々は御使いたちを、それとは知らずにもてなしました。」
へブル人への手紙13章2節
11-2-2021