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もの言う牧師のエッセー 傑作選      

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もの言う牧師のエッセー  傑作選      
第103話「 天才ミケランジェロ 」
    
  米国人歌手のマドンナが80年代にツアーのため来日した際、「あなたはなぜ十字架のペンダントをしているのですか」と聞かれた時、彼女は「裸の男がついてるからよ」と答えたことがあった。

さて、東京の国立西洋美術館で「ミケランジェロ展、天才の軌跡」が開催中であるが、目玉は何と言っても彼が15歳頃の作品とされる大理石のレリーフ「階段の聖母」と、最晩年88歳頃の木彫りの未完成品「キリストの磔刑」である。彼の天才ぶりは今さら言うまでもない。イタリア盛期ルネサンス期の彫刻家、画家、建築家、詩人であり、西洋美術史に大きな影響を与えた芸術家だ。存命中にその伝記が出版された初めての西洋美術家であるという点でも際立った存在であり、「神から愛された男」の異名さえ持つ。

前述の「聖母」は、よくある優しいマリヤではなく、その横向きの表情は硬く、ムスッとした印象で、彼女が抱く幼子イエスは背中を向いている。そう、クリスチャンならピンと来るが、幼子が未来に受ける受難を案じているかのようである。この作品の2年後に彼はフィレンツェのサント・スピリト修道院 にやはり「キリストの磔刑像」を寄贈しているが、そのキリストは、後の彼の最も有名な作品「ダヴィデ像」を彷彿とさせる洗練された、セクシーでさえある“裸の男”である。いかにも将来ある17歳の少年の作品だ。

だが、前述の未完成品、彼が死ぬ直前の作品「磔刑」は違う。それは30センチ弱の小さなものであるが、見る者を圧倒する。恐怖、地獄、苦難、およそ人が経験するネガティブなもの全てと言ってよい。単なる裸の男ではなく、無実であるにもかかわらず拷問され、虐殺される男なのである。 聖書には

「この子は、イスラエルの多くの人が倒れ、また、立ち上がるために定められ、
 また、反対を受けるしるしとして定められています。
 剣があなたの心さえも刺し貫くでしょう。それは多くの人の心の思いが現われるためです。」
ルカの福音書2章34-35節 

と、まだ若い頃の“聖母”マリヤが、こともあろうか「あなたの息子は殺されるし、あなた自身それを見て傷つきますよ」という最悪の預言を聞かされたことが記されている。だがそれは、神が罪のゆえに滅びゆく全ての人間を救うために、あらかじめ用意していたことなのだ。そして預言どおり彼が復活してくれたおかげで、我らは彼に感謝出来る。単なる裸の男ではなく、偉大な「救い主」として。            2013-10-16 

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