Appleの新しい『iPad』が発表された。名前は『iPad』と言うらしい。
この部分にはAppleは、かなり拘っているようで、海外通信社経由での会見情報では記者が苛立って「初代との呼称の違いは?新しいiPad?(The new iPad)じゃあ、この次は新々iPadかい?」なんて皮肉っても意に介していない様子。
大きなお世話だが、まず、最初の危惧は、この部分だ。
AppleはiMAC以降、見事なネーミングで、ブランディングに成功してきた。メジャーバージョンアップとマイナーチェンジを「S」などの符号をうまく使ってプロダクトネームを、その分野の一般名詞にして来た。「mpeg3プレーヤー」=「iPod」、「スマートフォン」=「Iphone」、「タブレット端末」=「iPad」。浅学ながら同様の例を「ウォークマン」以外知らない。新しい『iPad』は少なくともネーミングにおいてブランディングの揺らぎを「混乱」という形で受け取られた。これはマーケティングが目論んだ反応では無い。世界最高クラスのマーケティング上手の会社においてだ。
今回のiPadは『iPad3』で有るべきだった。
勿論、私などの考えの及ばぬ諸事情で、今回のプロダクトとなったのだろう。そして、発表されたものは確かに『iPad3』とは呼べないものであった。
プロセッサは「A5X」。グラフィック性能を高めていると謳うが、従来と同じ(代わり映えのしない)クワッドコア。そして、重く、厚くなった。僅かではあっても。
次の危惧はこの部分だ。
Appleのiosプロダクトにとって、絶対に増やしてはいけない仕様項目。それが、容積の拡大と重量の増加だ。この項目の増加はiosデバイスにとっての「後退」を意味する。
拙文故、勘違いされるかも知れないが、私は「新しいiPadは売れない」と言っているのではない。むしろ、KindlleFIRE無き国内では、爆発的に売れる可能性がある。『2』と8000円差という価格設定も販売には追い風だ。
そう、『2』との差は8000円。ここに、Appleの苦悩が見える。決定的ブランニューであれば、間違いなく『2』の販売定価と同じで出してきたはず。米国価格は同じ$499なのだから円高差益だ、とかいう話ではない。
私は今回の『iPad』のリリース目的はFullHD対応だと思っている。
同時に発表された『AppleTV』も1080iのFullHDに対応した。フロントデバイスの『iPad』がFullHD対応で無い事は、iosプロダクトを支えるエコシステム(iTunes,AppStore)での収益源たる「ビデオ配信」=「映像コンテンツのクラウドストリーミング化」に直截的に影響する。この意味からiPadはFullHDにならざるを得なかったのだ。まず、それ有き。
今回のiPad&AppleTVにより、TVデバイス(7.1chサラウンド環境を含む)が「iosの出力のメインになる」。Appleは、明らかに、そこを狙っている。
TVデバイスは、世界で最も普及しているAVデバイスであり、その先にはさらに充実したサラウンド環境なども既に接続されていたりする。この充実した既存のAVデバイスに対する「リソースゲートウェイ」にiosデバイスが来ることは、Appleが世界のAV市場を(コンテンツ流通を含めて)囲い込むことに他ならない。
簡単に言えば、iPhone4S,iPad,AppleTVが有ればTUTAYAもGEOもNHKアーカイブスも「ドックステーション型スピーカーユニット」も「ブルーレィレコーダー」も「スマートTV」も必要なくなる。Appleは是非なくしたいと思っている筈だ。
その意味からも、今回の『iPad』は圧倒的アドバンテージ(軽量化、狭枠化による画面サイズ向上あるいは本体サイズの小型化、価格など)により『iPad3』になる必要があった。その技術的到達度が未達となった事が3番目の危惧だ。
ならば、マーケティング的に『iPad2S』では無いのか?
それは、Apple内部でも反対意見も出たのだろう。あるいは、上記のようなプロダクトストラテジーを実現する上では、むしろ大々的な喧伝よりも「完成美に近いプロダクトに変更なし」という頂点感覚の醸成とコンサバティブな路線によるステルス的浸透を目指したのかもしれない。その答えは今後を待つしかないが、Jobs的マーケティングとコンサバは合わない気がする。ここが4つ目の危惧。
Appleの基本路線は未だにJobsが描いたデザインの踏襲だろう。そうするとCEOのクックが言う「このiPadはPCを代替するもの」という表現に違和感を感じる。前述のとおり『iPad』はTVシステム(AVシステム)のリソースゲートウェイとして「リビングの中核」=家族の中心にあるデバイスであるべきなのだから。PCと呼ばれて30年、未だにパーソナルコンピュータは、その位置には居ない。このCEOの認識と表現が5番目の危惧である。
Jobs亡き後、恐らく最初のプロダクトアウトとなる『iPad』。やってはいけない仕様変更、コンサバティブなマーケティングの方向性など、危惧が杞憂になる事を祈る。
さて、Jobsなら今回の『iPad』、少なくともフレームカラーに黒/白以外にチタン、マーブル、或いは『別回路での液晶表示』などのモデルを出して、たとえ表面的な部分であっても「変革」を演出してきた気がする。もちろん、名前は、ともかくとして。
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