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国際基督教大学: Message from ICU, No.4「コロナ禍におけるICUの入試とは」(アドミッションズ・センター長)

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コロナ禍におけるICUの入試とは
アドミッションズ・センター長 久保 謙哉

2021年度入試

 新型コロナウイルス感染症(COVID19)の広がりは続き、今のところ終息する傾向を見せていません。当初は中国の限られた地域の中での流行で、1ヶ月もあれば終わるのではないかと考えていた人もいました。しかしいまや世界中の人々が、どこかにいるかもしれない目に見えない相手との付き合い方を意識しながら毎日の生活を送っています。


 ICUでの対応策についてはこのメールマガジンでご紹介してきました。今回の話題である入学試験は、大学の行う活動のなかも一番大事なものの一つです。ICUも様々な背景や経験をもった学生がキャンパスに来て刺激を与えあってお互いを伸ばしあえるように、毎年様々な入試を行なっています。今年もすでに一部始まっていますが、例年と同じ種類の入試を実施します。今年から総合選抜に国際バカロレア認定校対象のタイプを設けましたが、ICUが期待する入学者像は変えていません。アドミッションポリシーに変化はありません。けれどもCOVID19の影響でいつもの年とまったく同じ実施方法をとるわけにはいかなくなってきました。本来なら自然豊かなICUのキャンパスに集まってもらって筆記試験や面接を実施するのですが、帰国生入試や総合型選抜などでは、キャンパス外にいる受験生とインターネットを使う面接を実行することにしました。試験の方法に変化はありますが、ICUで友人を作って共に学び成長したい、ICUから得られるものを全部吸収して、神と人に奉仕していきたいという、ICUの理念と適合する人たちを招くことには変わりはありません。

 COVID19の状況がどう変化していくのか確実なことは言えませんが、2月の一般選抜試験はCOVID19拡散防止に十分に配慮を行った上で、例年通りキャンパスで実施する予定です。変更があればwebページなどで速やかにお知らせします。

リベラルアーツと社会
 このウイルスは人から人へ伝わるので、人が家から一歩も出ずにお互いの接触をさければ、広がることはなく収まっていくことは確かですが、それでは人間の社会活動が成り立ちません。世界中の国や地域で、それぞれの特性に合わせた対策がとられていて、その結果が毎日の感染者数や回復者、死者数として現れ、また経済指標の変化として正否が評価されている状況を私たちは目の当たりにしています。

 ウイルスの拡散は人間の行動を単純化できれば、モデル化して自然科学的に予測することができます。一方人間の活動は、経済的社会的要因に影響を受けるので、状況によって刻々変化するので単純にモデル化するのは困難です。COVID19への対処には、自然科学と社会科学の両方の方法論を組み合わせなければ適切なものとは言えません。また多くの国で行われたロックダウン中には、音楽や文学などの芸術や、宗教が人々の心の支えとなっていることを皆さんはご存知でしょう。今の非日常的な状況は人々の営みにおける人文系の学問の大切さを再認識させられる機会でもあります。

 今これまで日常にまったく存在していなかった未知の脅威に出会ったときの対処法を事前に準備しておくことの大切さと、次第に明らかになってくる新種の脅威の性質に応じて適切な対応策を作って実行していくことの重要性を私たちは改めて認識させられています。その対応には自分の専門を持ちながらも、他の分野の専門家の力を借りつついわゆる文理の壁を超えた協力が必要です。専門家だけではなく政治や経済、行政に関わる人々、それぞれの場所で社会を支えている人々、心に隠らぎを与えてくれる人々、さらに一般の人たちも多くの困難な判断をしなければなりません。今こそ知的好奇心をもってリベラルアーツで学び、批判的思考力をもって的確な判断ができ、広くコミュニケーションをとって問題に果敢に挑戦していく人を作り出すICUの教育がその価値を問われていると感じています。

高大接続としての入試
 そのような中で、ICU受験を指導する立場から、ICUの入試は、日本の一般的な大学の入試の方式と異なることから、わかりにくい、特殊な対策が必要といったご意見を日頃からいただきます。ICUの入試では、高校までの学力の達成度そのものを測るのではなく、ICUに入学後、少人数クラスで対話を重視する教育システムで生き生きと学ぶことができるか、リベラルアーツへの適性を測ることを目指しています。そのため、大学で日常的に行われている授業を可能な範囲で体験ができるよう入試の制度設計をしています。授業に参加し、教員の講義を聞く、参考文献を読む、その内容を理解し、自分自身の考えを言語化し、ディスカッションを行い、さらに自分の考えを深める。このような大学での営みを各入試で再現することを試みています。

 総合型選抜のディスカッションやプレゼンテーション、帰国生入試の小論文試験はもちろんですが、一般選抜でも、いかにICUの授業体験をしてもらうかという視点で問題作成に取り組んでいます。その特徴が顕著なのが「総合教養(ATLAS)」と呼ぶ科目です。ミニ講義を聞き、トピックに関連する資料文を読み、これらから新たに得られる情報とこれまで学んで身に付けてきた知識を統合して、解答を導きだす。この試験は、まさに教室で行われている日々の営みを試験の中で体験するものです。

 本学に関心のある生徒には、特別な対策を考えるのではなく、まずは高校での授業にしっかり参加し、共通テストなどの受験勉強を行うことで基礎学力を高めることの重要性をご指導いただくことをお願いしたいと思います。その上で、ICUが求める学生像は、未知なものを恐れず挑戦する、そういう前向きな学生であり、一般選抜を受験すること自体がすでにICUの求める学生の資質を持っていることに繋がると、ご理解いただければと思います。ICUの入試問題は、我々教員が、毎年、自分たちの授業を受けることになる受験生をイメージし、分野を超えて協力しながら作成する渾身の入試問題です。ICUに関心のある生徒に、大学からのメッセージとして、受け止めてもらえればと思います。


 世界はCOVID19の影響で大きく変化せざるを得ません。どんな世界になるのか、ではなくどんな世界にしていくかは、これから社会に出ていく人たちの活躍にかかっています。少数ではありますが、世界を切り拓く力になる人には、ぜひICUに来ていただきたいと思います。

参考:
【総合教養 ATLASミニ講義】 2020年度一般入学試験問題(※音声が流れます)
https://www.icu.ac.jp/admissions/undergraduate/docs/ATLASlistening2020.mp3

入学者選抜制度
https://www.icu.ac.jp/admissions/undergraduate/exam/

久保 謙哉 プロフィール
1989年東京大学で理学博士取得。東京大学理学部助手を経て2002年ICU 着任。2019 年からアドミッションズ・センター長。日本中間子科学会副会長,物質構造科学研究所運営委員,福岡県立城南高校SSH運営指導委員。専門は素粒子ミュオンを利用した考古資料・文化財の分析などの放射化学。

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