メンバーズ・スケッチ 2011年7月

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ブラックバス・フィッシング

米国三菱商事
シアトル食料部
平野雄一


釣りとは糸を通して自然と対話するスポーツです。特にブラックバスを釣るためには、四季を感じ、魚の行動パターンを読み、戦略を立ててその時ベストと思えるルアーをベストスポットに送り込んで初めて魚が口を使ってくれます。一匹も釣れない事がほとんどなので、魚に出会えた時の感動が大きい。そんなスポーツフィッシングと私の関わりをご紹介したいと思います。

私の父は魚釣りが大好きで、私がまだ小さい頃からよく釣りに連れて行ってもらっていました。特に夏に夜釣りで狙うチヌ釣り(九州ではクロダイの事をチヌと呼びます)やコイの投げ込み釣りは、お菓子やジュースを買い込み、防寒具やランタンを準備してちょっとした冒険気分を味わえ、大変ワクワクしたものです。その私が熟読していた釣りキチ三平の影響でルアーフィッシングに興味を抱いたため、何でも凝り性の父はこの新しい釣りを研究し、道具を買い揃えてくれました。記憶が定かではありませんが、初めてブラックバスを釣り上げたのは、たしか私が小学校4年生くらい、ハレー彗星がやってきた年の頃だったと思います。ダイワのコネリーというルアーでした。

私の結婚式の直前に小学生だった自分からの手紙が届き、弟が披露宴でサプライズとして読んでくれた事がありました。当時の郵便局の粋なサービスでした。そこに書かれていた小学生の私はブラックバス釣りが大好きで、漁師になるのが夢だったそうです。そんな釣り小僧は結局普通のサラリーマンになったのですが、高校でひどく落ちこぼれた私が熊本の田舎から大都会東京に出てきただけでも大異変だったのに、縁あってシアトルの地に赴任したとは、同級生たち想像すらしていない事でしょう。

大学入学と同時に上京して以来、お金のなかった私は年に数回しかブラックバス釣りに行くことができなくなり、社会人になると釣りに行くことよりもルアーを買い集めることに熱中し始めます。妻の理解(?)を得ることに腐心し、お蔭で今ではちょっとした資産と呼べるほどのバスギアをコレクションしています(笑) 毎年どんどん新製品が発売されるタックル集めも、この釣りを楽しむ一つの大きな要素と言えます。

ここで、ブラックバスという魚について簡単にご紹介します。北米原産のスズキの仲間で、日本ではラージマウスバスとスモールマウスバスが有名ですが、近年残念ながら害魚として世間を騒がせる存在になってしまいました。アメリカではこの2種の他に、スポッテッドバスや、宇和島屋でも売っているストライプバスも同じスズキ目の魚です。明治維新後に行われた国外種の移植の一環として、ニジマス・ブルックトラウト・ブラウントラウトに続き日本にブラックバスを移入したのは赤星鉄馬という人物で、鉄馬は自分の別荘があった山中湖の漁民が困窮しているのを見て政府に国外種の移入を申し入れるのですが、東京帝国大学の学術研究魚として米国政府の許可を受けたこともあり、帝大の意向で大正14年6月、芦ノ湖へ移入されることとなりました。


    スモールマウスバス48cm, Eastern Washingtonにて


その後、日本ではブラックバスは食用というよりもその食性からゲームフィッシィングの対象魚として広まりますが、一部の心ないアングラーのために不法放流が行われたり、釣り場がゴミなどで荒れてしまったりと問題点が指摘されて、2005年には特定外来種に認定されてしまいます。私は、専門家によって環境ホルモンや化学物質による汚染が充分に検証されないまま、絶滅危惧種の魚がブラックバスのおかげで絶滅に追い込まれてしまったと断定するのは尚早であったと思っていますが、ともかく釣り人としてマナーを守り、釣り場をキレイに保ち、他の釣り人や近隣住民と共存していくしか道は残されていません。

      
さて、日本では悪名高いブラックバスですが、アメリカではバスプロによるトーナメントが行われ、優勝賞金は1億円近くになる試合もあります。年間チャンピオンともなれば各メディアへの露出も増え、スポンサー企業が複数付くバスプロも多数です。フロリダやテキサス、カリフォルニアなど南部の州が中心のため、ここワシントン州ではあまり人気が高くありませんが、私が通っているレイクワシントンでも、バスボートが何艘か浮かんでいるのを見たことがあります。ここではトラウトが有名ですが、バスの仲間では寒冷地を好むスモールマウスバスが多く生息し、他にはイエローパーチやクラッピーなどがルアーにアタックしてきます。これから良い季節になるので、試行錯誤しながら良いポイントを探してみたいと思います。

長男が生まれる直前、産院の父親学級で見せられたビデオの中で、アメリカでは父親が子供に野球と釣りを教えるのが責務だと紹介されていました。その時はなんていい国なのだろうと素直に驚きましたが、引っ越してきてこの大自然に触れると、子供の頃に近所の池や川を探検した頃の感動を思い出し、是非二人の息子とも同じ感動を分かち合いたいと思うようになりました。私に釣りを教えてくれた父には本当に感謝しています。還暦を過ぎてなお現役のバサーであり、いつまでも追いつくことができない師匠でありライバルです。
今年の夏には長男が初めて魚を釣り上げることになるでしょう。来年か再来年には次男も同じ場所で自分の力で魚を釣り上げ、週末になるたびに二人して釣行をせがむようになってくれたら、そして彼らの子供たちにまた釣りや自然との触れ合いを伝えていってくれたら、父親冥利に尽きるというものです。