
知る人ぞ知るが、知らない人は知らない、当たり前シリーズ その3。
日本橋界隈は、江戸東京文化の中心である。商業地として新宿・渋谷・池袋が繁栄し、代官山・白金・表参道が日本のロデオドライブを気取ろうが、やはり日本橋の奥の深さにはかなわない。それは食文化の担い手にも強く表れており、銀座に並ぶ高級店も有れば、サラリーマン相手の定食屋も軒を連ねる多様性を持っている。それらが混在した「気取ってるけど気取らない洋食」この微妙な空気感を持った名店の数々。平成生まれの店では、こうはいかない。そんな「文化」という言葉をいつも思い出させてくれるのが日本橋という街の魅力だと思っている。
「レストラン紅花」。言わずと知れた「ロッキー青木」の「紅花」である。日本より海外で有名と昔は紹介されたが、もちろん現在では日本でも有名。その日本での旗艦店が1937年創業の地、日本橋「レストラン紅花」である。現在「本館」は長らく改装中で、営業は「紅花別館」にて行われている。そして、ここで昼時に供されているのが名物「ココットカレー」、通称「壺カレー」である。日本橋には「文化」があるから、メニューにも愛称が付く。三越前の「蔦カレー」も結局、店の名前どころか商品の名前も判らないまま消えた。でも、みんなの記憶と心に残っている。いつの日か、紅花別館のココットカレーが無くなっても、「紅花の壺カレー」は残る。それもまた「文化」という物なのだろう。
「ココットカレー」は「壺」に入っている。通常、というか当たり前なのだが、飲食店に入ると、席に着く→オーダーする→食品が来る、という常識が、この店では通用しない。行列の絶えない昼時、順番が来ると「ツボの置かれた席に着く」→食す、という常識逆転の流れ。これにより、なぜ「ココットカレー」は壺に入っているか?を来訪者は理解することになる。即ち、壺に入れられたカレーは、「鉄板」に置かれて常時暖められた状態で客を待っているのだ。鉄板の上に整然と置かれた壺、壺、壺。照明が落とされた店内の雰囲気と相まって、それはまるでノストロモ号の乗船員が惑星LV-426で遭遇したエイリアンの卵の様。蓋を開けるとフェイスハッカーが飛び出してくるんじゃないか、と思うくらい怖い。(笑)
むー、鉄板焼の「紅花」ならでは。よく考えたというか、客なめてるというか、まぁ、それが文化、と言うか。なにしろ、「座ったら、お冷にスプーンで、10秒でドン」どころではない。オーダーは、もはや、そこに有る、のだ。これは、客としての精神安定の為にも、良いものを安く多くの庶民(サラリーマンに)という心意気のなせる業と、善意に解釈しよう。
さて、肝心の「壺カレー」の味なのだが、これが、結構に辛い。元気も大概に辛いカレーを食べているが、他にバリエーション無し、選択肢無し、でこの辛さは前述の「蔦カレー」に通じる日本橋文化か?適度に鉄板で保温されたチキンカレーは、煮込みと言う点では文句なし。カレーそのものは「洋食」のイメージを覆す「デリー系」のシャバシャバカレーなのだが、味はむしろ「エチオピア」に近い。辛さレベルで12倍見当と言ったところか。ラッキョウ、福神漬け、レタスサラダと供され、タマネギと小ぶりのじゃがいもを具としたチキンカレーは、これはこれでオリジナルで美味。日本橋の文化を共に味わっての1,575円は出して惜しくないサラリーマンの昼カレーとして合格点をつけられる。