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Forest Aesthetics 森林美学 若い枝葉

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               ...                                           © Daisuke Kawai




面白いことに
大木の若葉が
なにも枝先だけに繁るということはないのであって
こんなところで葉を開いても
ろくすっぽ光もあたらないだろうというような
やたら太っちょな幹の下方に
ふいと若葉が萌えることがある
ふつうならばこれがそのまま育つということもないのだろうが
実はこの大木が病に罹っていて
もうすぐ途中から幹折れしたらどうなるのだろう
あるいは明日の夜に雷が落ちて
上半分が消失したとしたらどうなるのだろう
不測の事態というものを
大木は常に憂いているのか
あるいは
大木の意思に反するはねっかえりの若枝が
あやふやな可能性だけを信じてはじけただけのことなのか








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Forest Aesthetics 森林美学 河鹿の仔

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               ...                                           © Daisuke Kawai



生まれてまだ日の浅い幼い蛙が
苔の森をかきわけながら
何処へ向かおうとしているのか
せっせせっせとあゆんでいる

これは河鹿のこどもである
すぐそこの渓流で生まれて
いまは湿った森の底
苔の森に守られて暮らしている













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Forest Aesthetics 森林美学 蒼光

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               ...                                           © Daisuke Kawai




蕭々とした雨の降る午後
森の底にはほんのわずかな
ぼんやりとした光しかとどかない
苔むした巨大な倒木から
ひょろりと背を伸ばした
背高のっぽなきのこが
ふるふるふるえる微細なしずくを身にまとい
蒼い光を妖しくはらんでいた
きのこ自身が発光しているかのようだった
それは分解者としての矜持であるようにも思えた








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Forest Aesthetics 森林美学 森の主

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               ...                                           © Daisuke Kawai




がさり,ごそり
森の底を静かに踏みしめる音がする

はっとして顔を上げると
森のヌシがゆっくりと去っていく後姿があった

供物の前に呆然とたたずむ
こちらを見ていたのだろうか
気配にまるで気づかなかった

(あ)

声にならない声が聞こえたのか
鷹揚に振り向いたヌシは長老の風格だった











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Forest Aesthetics 森林美学 頭骨

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               ...                                           © Daisuke Kawai




森の底で羚羊の骸を見つけた
白蝋のような骨だけになっていた

四肢は既に見当たらず
森のけものたちが
思い思いに持ち去ったものと思われる

頭骨だけが,まるでお供えのように
ぽつんと残されていた

遺されたわずかな毛が
うすぎたない老婆の髪のようにも見える
窪んだ眼窩が
なにやら恨みがましいものに思えてくる
居並んだ歯が
生への執着を引き摺っているようで忌々しい
体液のなごりをしきりと舐め取っている
蠅の姿が鬱陶しい

骸は不快だ
おぞましい
もはや腐臭こそ薄らいではいるが
見ているとどうしてか,次第に腹が立ってくる
しかし不快なる聖というものもあるのだ

なにゆえに古人は
頭骨を神前に供えたのか

土に還る
森に還る

そんな上澄みの言葉だけでは決して御しきれない
この猛烈な腹立たしさはなんだ

体液のなごりをしきりと舐め取っている
蠅の姿が鬱陶しい
しかし不快なる聖というものも
やはり明らかにあるのだ









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Forest Aesthetics 森林美学 葬送花

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               ...                                           © Daisuke Kawai



とっても愛らしい可憐な花だったのだが
どこか憂鬱な供花のように見えてしまう

葬送に花を供する
人間的な,あまりニンゲン的な発想かと思っていたが
屍の上に咲いた紅い花は
案外とそうでもないことを物語っているようだった






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Forest Aesthetics 森林美学 胡蝶花

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               ...                                           © Daisuke Kawai



胡蝶花は
そのままただながめているだけでも
じゅうぶんに美しいのだけれど
目を近づければ近づけるほど
その不思議な構造美に魅入らされる
これを蟲になった気分というのか
それでも当の蟲たちが
花蜜を堪能するという食欲以外の愉しさを
はたして享受しているのかどうかうたがわしい







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Forest Aesthetics 森林美学 蛍袋

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               ...                                           © Daisuke Kawai



愛らしい袋だった
蛍を入れれば
小さな燈火になると
それをふだんとは異なる角度から覗き込んでみる
すると妖怪がこちらを見ていた
ぎょっとした
されど見入ってしまった

この妖しげな紅い斑点に魅かれ導かれて
いろいろな蟲たちがこの袋を訪れるのだろう

出口のない袋小路なのに
どこかへ通じているようにも思われてくる




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Forest Aesthetics 森林美学 脱殻

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               ...                                           © Daisuke Kawai



すでに生命の本体が脱け出たあとの
文字通りの「脱け殻」であるというのに
この触れればすぐに毀れてしまいそうな
あまりもはかなげな透明感ときたらどうだ

あたりで喧しく鳴き騒いでいる蝉たちにも
こういう頃があったのだ

過去の記憶をとどめた脱殻にこそ美を感じるのは
思い出を尊ぶ心理につながるものなのであろうか




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Forest Aesthetics 森林美学 菌の花

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               ...                                           © Daisuke Kawai





うずたかく積もった落葉の布団を
やわらかな土壌に還す菌の花には
実にいろいろなかたちがある
地味ではあるが愛らしい
頭巾を被ったきのこに逢った






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