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現代詩の小箱 北野丘ワールド

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野口五郎コンサートへ行く

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 今日11月30日(土)は神奈川県ホールで5時から開演する野口五郎のコンサートに行く。去年の今頃もチケットを買っていながら足の甲を骨折して行けなかった。今年こそは行こうと心に決めていたのである。中学時代、歌唱力抜群の野口五郎のファンになったが、田舎のこととてコンサートに行くなんて考えられなかった。レコードプレーヤーも家が貧しかったので持っておらず、レコードも買えなかった。そうして大人になるにつれ五郎のことは忘れて生きてきた。
 ところが、にわかに野口五郎活動を始めたきっかけは、西城秀樹の死去に伴って五郎の弔辞に胸打たれたからであった。それからYouTubeで五郎を検索しては聴き三昧していたのである。若いころのルックス・衣装がたまらなく良かった。
 今回のコンサートでそれを要求はしない。おそらくギターを弾きながら大人の歌を歌ってくれると期待している。実はコンサートに行くのは2度目である。一度目は20代のころ、米米クラブのコンサートチケットを行けなくなったからと貰っていったのが初めてだった。自分の意志で行くのはこれが実質初めてなのである。野口五郎は青春そのものである。もうどきどきである。では、行ってきまーす!
#北野丘日誌

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秋の広場

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おはよう
壊れた カタツムリの殻の水浴び
おはよう
レールに光る ヤモリの夢の轢死

裸の背をかけのぼり
あおむけに影はたおれて

てのひらの乳房が
寒気に立つ方角へと
魚たちがまつげを叩いていく

何をなして
ここまで来たのか
人でなしの言葉でうろついて
秋がきても冬がきても帰らなかった

木の葉の虫食いたちが
ざわめいている
等しくひかりを受けるがいい

広場の隅にオスカー・ワイルドの
ぼろぼろの「幸福な王子」が
詩の彫像のように立っているのがみえる
つばめがくわえて飛び立った
青いサファイアの瞳が
地上を誰のものでもないまなざしにする

おはよう
うぶ声をあげる たて髪の幽霊
おはよう
くだけ散る 遺失物の散歩道

1013年冬
#現代詩図鑑

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洋食のからす亭 函館梁川町電停前

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信号が
(●)(○)
変わりますとパッポウが鳴く

ここはどこの
ふかい海峡

ゆらり曲がる
函館元町十字街
レールをゆく深海魚
ゆけるまでしかゆけない愛しい市電
とける太陽をゆっくり光らせ

(あとは知りません
旧家の娘が
幻のドックでスカートをひるがえす

金森商店の土蔵で
真鍮の円筒オルゴールが止めば
うしろの静か

(つぎ 止まります
 家族そろって おもてなしに
 函館梁川町電停前
 いつでも どこでも 
 洋食のからす亭
 婚約者たちの ナフキン
 きつね色したエビフライの赤い尾

半音あがり
パッポウも鳴いて
イルカ 原潜 十和田丸
御用のないもの
めずらしそうに集まってくる

2012年春
#現代詩図鑑

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其丈で済む

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ある日、別居中だった夫のアパートを朝帰りの女のように、
そっと出ると、ふいに女の耳には駆け寄らずにはいられなく
なる、ある種の高い音域に捉われて、私は小走りした。

タンポポが咲く駐車場と、子供の姿をみない高層マンションの
広場の角を、急ぎ越すと視界の中にバサバサした綿屑のよう
なものが飛び込んできた。見るなり「手で掬いとり口許に寄せ、
二本指でそっと撫でるのよ」、間髪入れない感情が、鳥肌を立
てていた。

巣から落ちた子雀は、無方向に鳴いては飛びすさり、止まって
は一層鳴いていた。梢のように赤みある、細くけなげな脚は片
方折れていた。チョンチョンと跳ねて、まだ飛び立てもできず、
バサバサと羽ばたき、地面に傾き、ひきずる羽を、うまくも畳
めず、ぶざまに、ただ、鳴くだけだった。
 
 (拾って、後、どうする)という考えがよぎると、子雀が一層
ひどく、這いずり回りだしたような気がした。子雀の方に、自分
の影を、ゆっくり近づけ、黒い塊を、横からおおいかぶせた後、
見もせずに通りすぎた。
 
それから二ヵ月ほどした、かんかん照りの休日、自分のアパー
トを出ると、路地の四つ角で、大きな青虫がのこのこと這うの
に出くわし、ぎょっとした。あまりにも鮮やかなマットの黄緑
色で、節ごとに黒く四角い模様が二つずつ並び、頭の先の五、
六本の髭が触覚なのか、左右に振り振り黙々と進んでいた。

このままでは、干からびるか、車に轢かれる。なんとかしなく
ちゃと心が焦った。いやそんなことよりも、アスファルトに突
然あらわれた、鮮やかさの、なまなましさの、この無防備さに、
慄いているだけなのかもしれなかった。枯れ葉を青虫の前に置
き、進行方向を庭の有る家へ向けようと、思いついた。

一度目は無視された。二度目、枯れ葉にかさりと、足がのると、
方向が変わった。いいぞと三度、四度とするうち、ぎくりとし
て立ち上がった。これは罠に誘うのと同じじゃないか。

私は、枯れ葉を捨て、遊びともつかないことを止めて、歩きだ
した。その時、車がカーブを切って、私の枯葉によって進行方
向を変えた、まさに其処へと進入してきた。

電柱の脇、かんかん照りの側溝の近く白っぽく汚れて糸をひい
たものの先に、わたひの影はとても短かった。

2011年晩秋
#現代詩図鑑

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くつがえされた玩具郷

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扇状地を
いくつもの河川が
夢みる侵入のように蛇行し
とり残された三日月湖は
緑のまま、まばたきもしなかった

わたしたちは声を失って
人形(あのこ)は何も映さない瞳になって
人形(あのこ)は後ろに首をかくんと折れて
花は冷えて

人に愛されなければ
人に畏れられなければ
この世にはなにひとつ存在しないんだよ
明け方の夢を
おさないこころと
クローバーに編んで
人形(あのこ)と人形(あのこ)の頭に載せた

くつがえされた玩具郷が
二人遊んだ湾岸都市に
うっすらと埋もれている
人形(あのこ)はあくびし
人形(あのこ)は眠る
ついたら起こしてね、と瞬(またた)いて

2011年初夏
#現代詩図鑑

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万人の幸福饅頭

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廃庫となった車両倉庫の
引き込みレール跡のどん詰まりに
事務所はあった
背中にモッコはあるのか
はい それだけはなんとか

万人の幸福という
饅頭を仕入れにきた
赤いのぼりには
千個売ったら一モッコ
それは使命とあった

万人の幸福と銘打つ
それでハピー 違うかね
千個売ったら使命は終わり
死んでいい
なに、また千個売ればいいんだがね
背中に一モッコを背負って
床に敷かれたダンボールの
僅かな段差につまづいた 

夜もふけて
使命のアイロン式幸福スタンプを
エネル源につないで待った
隅から這い出した
金型が甘い玩具のようなものは
赤熱して
三本の湯気印を浮かべていた
集中力がいった
ほのかな焦げの香りが
逃げながらわらうこどものように満ちてくる

ジュッ
冷えた
雪明りを踏み
ジュッ
目指している黒ゴム長靴がある
寒風に
ジュッ
さらされた肌は
生臭い匂いにつつまれる
あれは無毛のいきものの
本然の匂い
ジュッ
じゃないか

みごとだ
ぶれのない均一の印じゃないか
腱がしびれて喜びにあふれている
ああ何かないか
ほかに何か
万人のなんでもいいだろう

むせかえる
この朦朧は
わたしには窺いしれない
餡こへの兆しではないだろうか
それも
真坂
ふる三月ならぼた雪の静けさ
洗いもしてないカーテン窓から
むらさき餡こが
ひとつと這い出してくるのが
薄目にみえる

2009年冬
#現代詩図鑑

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あかる小石

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夕陽の橋を
渉らなければ よかった

あんなにも
見つめたりしなければ よかった

橋のまんなかで
爪まで小焼け

かなしくないのに
うまれてはじめて涙ながれた

まんなかでは
つむったまま
小石を渉ればつめたくて

心地 いいでしょう
髪の毛も さぞひろがるでしょう
かなしくなくて
石のひとは
ひとよりふかい腕を寄せるでしょう

あかい小石をくちにして
月はあかるく
あかる小石はなるという

*あかる…赤いこと

2009年春
#現代詩図鑑

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白筏

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冬の電車で、連結器近くの座席に腰掛け、視線を少しばかり泳がせると、合わせ鏡のような隣の車両には誰もいなかった。

ただ一定の方向に進んでいるに違いはなかったが、ここを基点に果てしなく両側が、どこまでも延びているのではないかという奇妙な感覚に囚われた。

目的地がどこであれ、こうなってみると、どこかへ向かっていると感ずることは、乗り込んだ地点での約束ごとが、どこまでも有効であると信じているだけに過ぎなかった。

いまこうして、巨きな物理が変革されているとしても、わたしは、昨日の早朝、初めて出版する書物の校正刷りに朱をいれた原稿の束を抱えて、揺られているより他はない。

わたしの右手、進行方向には誰もいない車両が延々と続き、わたしの座る連結部から左手には、停車駅ごとにまばらに人々が乗り込んで、そうしていまだ約束が有効ならば、東へと電車は走っている。



三重に住む姉に久しぶりに電話した夜は、記憶力がよく、おしゃべりな姉に押されて、切り上げる箇所を見つけられないまま、いつしか幼い頃の話へと向かっていた。気性の荒い漁師村へ赴任してきた巡査の娘が、いつも綺麗なハンカチでえっえっと泣いていた話だった。

商売をしていた我が家の父は、村ではインテリだったから、娘をよろしくと挨拶があったらしい。「ほら、警察のタカコちゃんの誕生会にあんたが行くことになって、手作りの贈り物がいいという話になって、ストローをつなげたペン立てを一緒に作ったじゃない。あれ、ものすごく喜んでくれたじゃない」覚えているかと姉はいう。姉は先天性股関節脱臼で、しばらく歩けない時期があった。

もう何十年と回想することのない時代だったためにまったく手がかりすらないほど記憶になかった。「ほら雑誌の付録にあって、ストローを糸で針を通して筏みたいにして…」と言われたところで、かすかに白地に赤や青のラインの入ったストローの筏が、沈んだ海から縦に浮上してくる映像がぽっかりと浮かんできた。



車両連結部の嵌め殺しの硝子窓は、互いに重なりながら微妙にずれ合い線路の継ぎ目ごとに揺れていた。
その隙間に、降り始めた小雪が舞い込み、ふわりゆらりと、いつまでも舞うので、わたしは、とてつもなくながい遥かな昔からの、巡礼の途上であったことを思い出し、薄汚れた装束の胸の奥深くで、固く目を瞑った。

2008年秋
#現代詩図鑑

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つゆ草のねんねこ

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草の小籠に
ふじ額いのつゆ草 ねんねこよ

 沖まで きょうは浅瀬だな
 ひかって ひかって
 めにしみるな

たんぽぽの
綿毛のふとんで ねんねこよ
 
風にねて 風にねて
 ほっと ひとつ飛べばな

自在の夢のつぎつぎ
ねんねこよ

 鳥のねぐらの岩棚で
 かえらぬ卵も
 ねんこよ
 お、おおおお

ねんねこよ
山から乳房おりてくる
いっぱい張っておりてくる

 お、おおおお
 ねんねこよ
 
汗かいた 耳のうらに聞こえたな
#字扶桑

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貝と生まれて人に眠る

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烈しい防御の紀元から
薄いセルの瞳
ひとつ ほどけ
くるぶしの夢から
身を這い出しわたしの五月の寝床で
おまえを柩とするという

乱暴な五月の指先で
わたしの舌が混紡にほどけ
つややかな貝の
渦巻きをなぞると
わたしの脚のあいだに
貝は眠り
世界の未明を
るるる
僅か回した

あれは明滅する烏
ゆらふら 推進する硝子質
みるみる尾につけて
渚にのまれる
二畳紀二億四千万年の灰の虹

暁闇に貝は
黴に濡れ
ひと茎の夢を背負って
光裂の渚を這った
海で大量の喪があったのだと
貝は白いカケと黒い脂をすこし吐いた
それは人間のものですかと
わたしは尋ねた
黙って貝は
草むらを吸った

ひとの 意識が
   地軸を 狂わすとき
 傾く 葬列の海 一夜
   存在しながら
     存在しないも 同然
の霊が 大量に うまれる
   名は名 みずから 喪を
      執らねば ならない

海域のやわらかさ
あの人かもしれない
あの人を導く おなじ指で
押し返す 汀をにぎる

薄いセルの瞳
ひとつ 回し

  貝とうまれて
        人に眠る
    人にうまれて 
          貝となる
   地上の ことばが
        貝に うまれ……

あたたかい
潮みづながし
南洋の彫像の歯をみせて
貝は
倒れた
#字扶桑

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阿比(あび)と阿千(あち)

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あの日 夕陽の阿比と
ふたり 真っかな氷(シガ)コにとけて
何処まンで                                   
何処まンでも ながれていった

阿比は 鬼ユリかげろうもえて
阿千は オヒメになりてえな

岸と岸の 真ん真んなかで
ふたり 真っかな氷コになって
何処まンでも
ながれてゆけば
岸と岸の なんもかも
岩たち草たち なんもかも
けがれなき金剛(ダイアモンド)の
きっと阿千はオヒメになって

あの日 真っかな かげろうながれ
うまれて 何処まで ながれてゆくのが
償いなどで あるはずがない
#字扶桑

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草冠川

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夏の蕚(うてな)が 揺れるたび
風は 梢にとまり


カガヤキノイタダキデ
よぞらを裂く


マタタクカラユレナイ草
霧(き)れない野 カタコユリ
小舟の水尾は
むらさきで打たれる


岸は水に
コトリ ほどけて


瑠璃 さえずる
まわるカガヤキ 草群がる川

#字扶桑

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樞(くるる)

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渚に消えた匂いを
林で愛しあう百葉箱の時限

テトテト
テトテト

巻の円陣を抜け出す章が
朝霧と溶岩に見るいちめんの秒

うちあげられた窪みに
海胆は むらさきの宵宮

ワタシハ誰カ マダ誰モ居ナイ
ワタ沁ミ出デ 月ニ光レバ

波がくれば 窪の底
揺らぐ音に 絡操(カラクリ)

鴨居は紅く
男が流れつく昔

*樞…開き戸などを開閉する仕掛け
#字扶桑

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南無狐狐

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夕べ荊原(ばらはら)は淋しいかと
狐にたずねる
もみじの簪まだあるか
恋しければという道は
コンと鳴けば
無明の甘さ
切って落とされる
村はずれは南無妙

南無狐狐
狐狐媽媽
南無媽媽 南無妙
媽媽狐狐 南無妙 南無媽媽
南無南無媽媽 南無妙
媽媽南無 南無妙

荊原を過ぎれば
石ノ上
看板の剥がれたペンキノ下
一本の奥歯が燃える
なかにあかく燠火がもえて
ふりむく狐の
しろい柔毛の尻は
ぽっと放たれる燐は
跳びあがるもののうえに
ひろがる夕焼けの途方で
遊弋をはじめる
#字扶桑

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兕(けもの)たちの市

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法と月光を 踏み分けて
岩と星 兕(けもの)たちの市に
人買いはやってくる
クローバーの群落ごとに
あるいは早くも 兕の背に揺れて
まだ誰も触れていない児は
もぐらの仔どもらの上にいびきかく

木を組んで櫓をたてて
人買いは一晩中、酒をのんだり、手で頭を掻いたりしている
あたたかい海霧(ガス)の匂いをかいだり
貨物列車のコンテナが、通ってゆく音を聴いたりしている
ここへくると、男は心がやすらぐ
あの児らも、大きくなれば人買いになると思うと
人買いは、こうして、
人買いを増やしていこうと思い眠った
やわらかい足だ
あの兕たちが
集まってくる
お母さんだ
お母さんが森から集まってくる

貨物列車が着く町で、サイレンが鳴り
町の犬どもが次々に喉を天に向けると
一人の男が、むくりと起きあがり
森から、七寸五分
開いた舞扇のように走ってくる
#字扶桑

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海霧の館

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イヌイという町で
「やあ海霧がでてきたな」
「おお そろそろ帰るとするか」
夕日が沈めば 船頭と網元が挨拶をした

兕(けもの)森で迷っても
「やあ海霧よ
 帰るとするよ」
乾いた落ち葉が ぬれるところで耳にする

「きつねのぶどうはあったかい」
「さるのこしかけで寝てたのかい」
風に零して 男たちは笑って去った


「もう森へかえしましょう」
「戻ってはこないものだし」
女たちは 崖の湧き水で胸の汗をふく


ポロホウが鳴いて
目覚めた誰かがポロクゥと鳴いた
あとはりーりりり
艸たちが奏でて


「朝 谷の凹みをでてきたら
わしは お前とあった」
石の 浜ヒルガヲに
カビた振る舞い餅をうやうやと 婆は捧げる


夕日 千の一夕に
ウミウシは青紫の血を流して
いつまでも二本の角で踊っていた


「こころに響く
ことばが顕われるのは わたしそのものだ」
舟虫たちは ここから次の影までと
あるいは 長いカイメツを経て
帰還した主を ふたたび供えるためにか
いっせいに海霧の館へと 走っていく
#字扶桑

ワオ!と言っているユーザー

歴盗

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お前様につくってもらいたい
お前様の好きなようにつくってもらいたい

いつでもいいものがあれば そのいつを
いつと決めるのがここではむつかしいのじゃ

いつでもいい
だれのものでもない
どこにうまれおちようとも
天に爪先だてても滸呂裳(ころも)
(モモンガが 飛ぶん とき
モモンガで 在るん のです
神かけて、そだ、ので、んです)
樹と樹のあいだを
飛べばうまれる滸呂裳(ころも)
樹と樹のあいだは消えた
兄よ 
貴様(あんた)がのこった

ええ ててなし児は何をめざす
だれのものでもないもの
いつでもいいもの そのいつを
ええ いつをいつと そのいつを
#字扶桑

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反魂

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親指と人指し指のくらがりで
ごろすけほうと ふくろうが鳴けば
浜のはずれの家から
精悍な男の影が岬へと歩いていく
三年目の秋 滸呂裳(コロモ)は死んだ

おれは 何をするのだか考えちゃいなかった
流れ着いて 奇跡というのか

たいした奇跡だった
あいつは目が悪かった
それで 何でもおれの思いが動けば
ぼんやりとしたものでも察して
思いどおりに動いた

小さな間取り 物の場所は寸分の狂いなく決まって
おれは その位置をずらさないことだけを 守らされた
それで あいつを どう乱そうと
あいつは喜んだのだ

おれは この秋 何をするんだか
考えちゃいなかった

朝 村の老婆たちが
こんなにいたのかと思うほど湧いてきて
白絹のコモに女を収め 蟻のように運んでいった
何がどうとも 互いにいわなかった
ただ 和紙一丁と筆を おれに残していった
これに扶桑の歴史を書き
女をよみがえらせろといった
おれは女を愛しかけていた気がする
だが 生まれてこのかた
死人の肌みたような真っ白い和紙に
これほど憎しみが湧いたことはなかった
#字扶桑

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遠吠えへと至る比(ころ)

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滸呂裳(コロモ)よ、何もかも
忘れてもいいと 人が思うのは
こんなにも澄んだ 秋の夕暮れに
ふいに、とめどなく零る 落ち葉のただなかにいて
つと止み、歩みだす時だろうか

秋が澄明で
人は郷愁の絵図へと配られて
水彩に暮れてゆく両岸の瞳のなかで
滸呂裳よ、忘却が列を細め
牛の目をして、俺の腕を昇ってくるのが見えるだろう      
影が光をあやし
赤子を背負うように
黙々と光の叫びに打たれているのが              
俺は、深い錐の先に泊り
やがて両岸にどこまでも灯が浮かぶ

そうかもしれない

俺は、小さな暗い穴で
はかなげな温みに包まれた小さな穴蔵で
俺は、始まっていた
菱形の蕎麦殼の道を踏んで
赤い小人たちが通りつづける
ざっざっという旅ゆく足音を いつまでも聞いていた
昔、目と目のあいだに
小人よりなお小さく ずっとそのままだった

小さな白い土蔵が ながいあいだ風に吹かれていた
伝道師の姿でいつも巡り来たのは
言葉がはじまったと触れまわる
三拍と四拍の白い杖が叩く響きだったが
土蔵の壁はめまぐるしい速度で
一瞬を全貌にひらいては
杖はこなごなに砕け つなげようもなかった

ああ、やませだな

滸呂裳、風の筋が梢で
燃えはぜる音をさせて憩い
精気を吸っては尾をなびかせ
頬をなでていく比(ころ)
人は、こうして一緒に 風が哭くのを聞いてもよかったか

いや、俺は

ここに落ちているクヌギが
鳥の巣のような外皮が
俺を包んでいた土蔵の火炎となって
葉理にながれては埋まり
字扶桑(あざふそう)で
俺の、土蔵に倒れていた
白鷺のほそい首が
浜ヒルガヲの芽吹く
うす翠いろの艶によみがえり
字扶桑(ここ)で、俺は
目と目のあいだに像のよみがえりを思念して
何もかもが、深い断崖を落下しながら飛翔する
俺は存在の唖だ

网孤(もうこ)が鳴いたのか
ああ聞いた、いま、一緒に聞いた

滸呂裳よ、
モモンガの砦で いま兒が産まれたな
岩山から風が吹きおろす比(ころ)
海になだれる岩のうすい罅で
とおい遠い風のうなりが鳴りだす比
俺は岩より先に指が冷えてゆく

ワオ!と言っているユーザー

滸呂裳(ころも)

スレッド
天に爪先だてても滸呂裳(コロモ)
なんでも頭に
アクセントがくる土地で
ハゴロモとおまえを呼べば
草の地蔵もフイと浮いてしまうから

声を蛍にして
闇に放った滸呂裳
あんなにも夜の波が青く光って
埋もれた歯の燠火が、また燃える

 (网孤(もうこ)たち、よろこんでいるん、のです)
 (モウコ?)

よろこぶ亡者のために
よろこびをして
モモンガの砦には
幼い孤児たちの睫毛が夜のあいだじゅう濡れて

 (字扶桑(この村)は子を拾って、養うん、のです
  盗ったり、買ったりじゃねえん、のです
  神かけて、そだ、ので、んで、)
 (そだ、ので、んで?)

滸呂裳は笑った
岬の一輪のユリが割れ
滸呂裳の腰のような水差しから
滸呂裳の喉の音をたてて
俺は、硯というものに、盛り上がる水を
乱暴な気分で掻き回す

 (朝露にぬれて、へその緒ついたまま、泣いでます
  岬の林の祠のなかに、ちょこんと、います
  浜の小舟で、すやすや、揺れでます)
 (あんたは、どれだ?)
 (わっちは、どれでも、ないんのせ
  生まれるまえから、モモンガの砦にいだのです)              

煙草のけむりを吐くと
俺は、娘の物語を聞き流していた
村の外へ出たことがないと
喉を、一度も、と詰まらせた滸呂裳

 (どうしてお前には姓がないんだ)
 (樹から樹へと飛ぶん、のです
  モモンガが、飛ぶんとき、モモンガで在るん、のです
  その樹から樹へと飛ぶんのが、わっちだのです)
  
墨というものが俺にもできた
墨はいい匂いがするものなんだな
果てた女の髪
樹と樹のあいだの闇で
モモンガの飛ぶ匂いがするようだ
#字扶桑

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字扶桑(あざふそう)

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逆光の岬に
千の夏
百の浜ヒルガオ咲くごとに
岩崩れおちる
字扶桑(*1)

日没を浸して
岩礁折り重ねる底のテラス
字扶桑は
波がきたら
〈玉シヒ〉
波にのまれる

なにかが遠くにあると
幻のように幻を
鑿と槌で妣たちは信じ
〈シライワ様ニ コウコウト〉
千の夏を彫りつけ
百年ひと夏
〈浜ヒルガオノ世〉
岩にのまれる

男たちは
漁にでたまま帰らない
いつもここでは帰らない
目を開いたまま眠って
魚みたいに
女の気が違っても
しんとした零の凪だから
月あかりは
岬に照ら照らと
ひとりの男をうちあげる
それが

ただ灯りへと歩いて
誰それの
女の土間でたおれたなら
その男の家になり
いつも
同じ名を与え

 やわらかい、夢の底、         
 ふるいふるい、岩霊ノシラル(*2)、     

見えない
女の片手が
あたたかい濡れた顔をつたって
耳に吹き込む
字扶桑



*1 「字扶桑」は 不老不死の仙人が住むというユートピア伝説にでてくる国。中国では日本と考えられたことがある。ここでは字がつくような寒村で隠れ里という架空の村を設定している。
*2 「シラル」はアイヌ語で平らな岩のこと
#字扶桑

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再就職手当はもらえるか

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 派遣で事務仕事を始めたのは2年前ぐらいである。それまでは中国帰国者定着センターのアルバイトとして、いわゆる残留孤児で帰国した人を対象にした、日本語学習の通信教育の添削を自宅で10年ほどやっていた。しかし帰国者の高齢化で学習する人が激減。収入がお小遣い程度にしかならなくなったので辞めることにした。その後職を転々としたが今はウイルオブワークという派遣会社に登録して仕事をもらっている。
 せんだってもこの4月から9月末まで中小企業退職金共済機構というところで仕事していた。入札で請け負った仕事なので、期間継続はなかった。機構でそのまま続けるには落札した派遣会社に移籍することになる。8月ごろのウイルの面談でわたしは移籍しないといった。しかしその場合仕事が紹介できないリスクがあるといわれた。そのとき私のこころに芽生えたのは仕事を少しの間休みたいという悪魔のささやきだった。
 それというのも2年前から腎臓がんの摘出手術、リハビリ、就職、骨折、胆嚢炎手術、就職とつづいて、いささか疲れが出ていたのである。のんびりしたい。これが心の声だった。そして派遣会社からの書類のなかに辞めた理由に「期間満了 会社都合」という記述を目にした。まてよ派遣の契約期間満了でも会社都合とあるなら、1週間待機で失業保険がもらえるのではないかと思った。
 さっそくハローワークに確認したらそのとおりだった。やった~。これで安心して休めると思った。しかし、派遣会社から離職票が届いたのは1か月後のこと。ヤキモキしていたがやっと届き速攻でハローワークで手続きをした。
 そうして2か月ほどぶらぶらしていて、果たして次にちゃんと仕事につけるだろうかという不安にかられた。1回目の失業保険の振り込みを確認して11月20日に派遣会社に電話をした。すると、あっという間に紹介が来て時給、交通費支の条件が上がっていた。仕事はデータ入力。ちょっときついができるかどうかなのだが。時給につられて私はやりますと答えた。そうして12月からまた労働の日々となったのである。仕事につけない不安は解消したが、これなら来年1月からでもよかったかなと、ちらと思った。
 失業手当の支給日を残して早期に就職すると再就職手当がでると知っていた。しかし、受給者のしおりには雇用期間が1年を超えて雇用の継続の見込みがあることが条件となっている。わたしは派遣会社の担当に確認の電話をいれた。すると勤務状況が悪かったり、規模の縮小、派遣会社の変更などがない限り、原則3か月ごとの長期契約継続ですとの回答を得た。このとき私は世の制度というものを上手く利用できてると感じて嬉しかったものである。
 そうして昨日、派遣会社に就業の手続きにいったのである。誓約書や個人情報なんたらといった書類に署名捺印をポンポンと押した。その時、契約書に目を通したら雇用期間が1年で更新無しになっていたのだ。電話と話が違う。しかし何も言えず社会とはこういう現実なのだと思って帰ってきた。家に帰って受給者のしおりを見る、1年以下の契約はもらえないとある。みすみす貰えるものをまた焦りから失ってしまうのか。私は考えが甘いと落ち込んでいた。
 しかし今日になってもう一度確認しようと派遣会社の担当に電話した。そうしたならば、1年契約ではなく1か月の私の見間違いだったことが判明。よく見ろよだ。1か月はトライアル期間で、更新無しになっているのは、社会保険の加入は1月からなのだが、システム上有りにすると12月からになってしまうとのことだった。雇用期間は期間の定めなく長期継続で間違いなしだった。ピッと携帯を切った後、貰えると思うと生き返るここちがした。まとまった再就職手当に該当することになったのは嬉しい。
 しかし本当に貰えるのだろうか。私のことだ。どこかに落とし穴が待っている気がしてならない。
#北野丘日誌

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虹をつかむ方向に  長谷川龍生

スレッド
 北野丘さんが、私のところに出入りしはじめたのは、よくその時期がわからない。誰のさそいで訪れてきたのか、記憶はぼんやりとしている。私の年令とは、親子ほどちがっていて、私の末の娘と、同じくらいの年令であろう。日本一、自殺者数の多い秋田県生まれであるから、その一点だけは注視して、人柄、人格、性質を探っていた。だいたい私のところに出入りするぐらいだから、平凡な家庭の出自ではない。極めて異常であるだろう。のっけから、小才の利いた詩作品を持ちこんできて、私の目に止まりはじめた。実驗的であるから、野心がみなぎっている。暗い一筋の怨気があって、幼い時期から苦労しているわりには、世間知らずであった。世間知らずであるから、生き抜いてこられた要素を持っておる。そこが、文学を勉強していく出発点であるだろう。現在はどのように成長し、成熟したか、私の方が老い呆けてきたから、よくわからない。よくわからないが、ときどきノートを前にして、その書き込みから、難しいことを言うので、精勵の実績を踏みこんでいるにちがいない。そのように思っている。そう言えば、北野丘さんは、ひととき教育関係の図書館に勤めていたことがある。その場所で、体当りをしていたのだ。

 一九七〇年ごろ、R・カイヨワの「遊びと人間」(清水幾太郎・霧生和夫共訳)の一部に、私は注目したことがある。「遊びを支配する基本的態度─競争、運、模擬、眩暈─は、単独で姿を現すとは限らない」と述べている。よって六通りの組合わせが考えられる。

競争=運(アゴーン=アレア)
競争=模擬(アゴーン=ミミクリー)
競争=眩暈(アゴーン=イリンクス)
運=模擬(アレア=ミミクリー)
運=眩暈(アレア=イリンクス)
模擬=眩暈(ミミクリー=イリンクス)

 北野丘さんに、競争(アゴーン)は在るか。競争心は少うしばかり在るかもしれないが、競争をしたならば敗れる可能性の方が多く、競争は困難になり負擔になるだろう。
 運(アレア)は在るか。開放されている意識を持ちつつあるから、小運はあるだろう。大運はめぐってはこない。
 模擬(ミミクリー)はどうだろうか。充分にそなえている。生活自体が模擬そのものであるから、詩作で遊ぶことができる。言葉遊び。言葉遊ばれ。
 眩暈(イリンクス)はどうであろうか。これは体質的にプラスの方向に向いている。眩暈(イリンクス)とは、目がくらんで、頭がふらふらする感じ、目まいを指す。酒は飲む、すぐに酔う。喋りまくる。
 よって、北野丘さんは、模擬(ミミクリー)=眩暈(イリンクス)の組合せが最高のものとなっている。

 北野丘さんは、私のところに月一回、出入りしていて、黙々として、珈琲をたててくれている。私は、その珈琲のたて方の手もとを凝っと眺めていて、いつも眩暈(イリンクス)に、彼女がおそわれるのではないかと、あやぶむ。しかし、着実に、彼女はこなしていく。何のさしさわりもない。さし出された一杯の珈琲は、おいしい。

 北野丘さんが詩作品をまとめて、一冊の詩集を出したいと、ある日ある時、申し出てきた。いいでしょうと、私は即座にこたえた。
 北野丘さんの詩の方向は遊びがあって、おもしろい形象化に向いている方がいいのではないかと思ったりする。真面目(まじめ)はだめだ。真面目(まじめ)は挫折する可能性が強い。真面目競争には敗れる。詩の内容が深くなれば深くなるほどに、形象は、軽く、さわやかに、おもしろくする技法に長(た)けなければならない。北野丘さんのこれからの人生もそうでなければならない。ねばりと、したたかさを身につけて、それがおもしろいという自己実現を生み出さなければならない。そのような生き方をして欲しいとねがう。

 模擬(ミミクリー)と眩暈(イリンクス)の運命をになっているのであるから、仮面と仮想を徹底化して、その内部から、手に汗をにぎるようなリアリティをつかみ出して、一篇の詩を打ち出して欲しいように思うが、どうであろうか。詩と同時に、エッセイをも書いてもらいたい。真面目なものはどうしても駄目、それらのものは、学究者に任せておきなさい。金銭と時間をもてあましている人間にゆだねた方がよろしい。

 とにかく、おめでとう。一冊の詩集を出したならば、すぐに、そんなものは忘れて、第二詩集、次の段階のシナリオにとりかかる必要がある。人生は連続性です。表社会で不可能ならば、裏社会で、根を張って、見聞を広め、世情の行き先をみつめること。これが私の心の花束である。
#長谷川龍生栞

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『黒筒の熊五郎』について

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 2008年に出版した処女詩集である。詩集の自費出版はまともに有名出版社から出すと100万円以上もする。若いころから仕事が定着せず、職を転々としてきた私には蓄えというものがほんの少ししかなかった。現在は終刊してしまったが『現代詩図鑑』というアンソロジーをだしていたダニエル社からソフトカバーで有名出版社の半額の予算で出版した。この詩集の詩篇は30代半ばごろに、精神的に病んでいて、外との関係をまったくもてなかった孤独な時代に書いたものが前半にあり、のちに長谷川龍生詩塾に通っていた頃が後半をしめる。それから、大学時代の同人誌『渋谷文学』に載せた「ゆずへ」「冷たいスリッパ」「フーコーの振り子が青ざめてとまった」の3篇を気に入っていたので載せた。
 それでたいていは20篇ぐらいでテーマにそって編まれるのだが、次に詩集が出版できるか怪しいので、28篇詰め込みテーマもなく詩集としてはまとまりを欠いている。しかし、他の詩集にはない独自性があるとの批評をいただいている。
 大学を出てから詩は書いていなかった。それが30代半ばごろにイメージや奇妙な夢に襲われて、それがいったい何なのかわからず苦しんでいた。そんなある日書店で婦人公論に井坂洋子の名前を見つけた。大学時代に井坂洋子の詩集買ったよなと思い懐かしさに手に取ってみると現代詩投稿の選者をしていた。久しぶりに詩を読んだが、どれも詩になってないように思えた。これなら自分も書けるんじゃないかと思った。今のこの苦しいイメージの氾濫を収める方法をたった一つ知っているじゃないか。そして、15年ぶりに詩を書いてみた。それが「森の子」だった。婦人公論に投稿しようと思っていたが、次号をみると現代詩の投稿欄は終了していた。
 宙に浮いた作品を持ってどうしようと思っていた私は「ユリイカ」の前に立った。それを手にするのも大学時代以来だった。選者は入沢康夫さんだった。「詩は表現ではない」という言葉に啓蒙された尊敬する詩人だった。わたしは震えた。入沢康夫さんに読んでもらえるかもしれない。それだけでいいと思った。私の書いたものは詩に値するのか、それが知りたかった。そうして「ユリイカ」に投稿した「森の子」は佳作でタイトルと名前がのった。詩に値したことが嬉しかった。
 それから次に「黒筒の熊五郎」を投稿した。これが入選して掲載されたである。文字のポイントがゴシックで20ポイントぐらいに感じられた。それからユリイカへの投稿時代が一年続く。あと入選したのは「熊笹の女」だけだったが、毎号買うたびにどきどきして「ユリイカ」への投稿は仕事も家事もできず読書しかすることができなかった時代の唯一の夢だった。 
 やがて入沢康夫さんの選も終わってしまい、私の詩作も一段落してぽかんとしてしまった。そして現代詩手帖の告知欄にユリイカ新人賞をとった松原牧子さんが朗読会を開くというのを見つけ神楽坂へ出かけて行った。たった一人で詩を書いていた自分が100%詩人の中へと出かけて行った。そして松原さんの紹介で長谷川龍生の詩塾へと通うことになったのである。詩を介して久しぶりに味わう外の世界だった。
#黒筒の熊五郎

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風の双曲線

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花むぐりが
黄色の粉に埋まってゆく
木枠の硝子が強く鳴っている

納屋でさがし物
がらくた
たからもの

蜘蛛がのそり                                  
とびのいて
こんにちわ

窓の下にリンゴ箱
となりは石炭箱
ああ風がはやい
光さしてはすぐ翳る
ほら光
                                        
上昇気流にトンビが乗ってゆく
ピーヒョロロロロウ

決意した逃亡みたい
古いしょるいが
飛ぶ
いけない
つぎつぎに
しかられる

みんな空に吸われていく
帰っていったの
もじが鳥や雲にまたもどって

スカート 襟 髪の毛
そこぬけバケツ
みんなひっくりかえる
#黒筒の熊五郎

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フーコーの振り子が青ざめてとまった

スレッド
ひと夏の背なかを
夜の指さきがなぞり
わたしの心臓を
座標の軸に
えがいた軌跡を存在というのなら

血液を一垂らしして
瞳がひらく

時を費やし
熟れた実をたべあるいた
内部の充実を
わたしのものとして
それでは何に
捧げたらよいだろう

氷のかけらが
膝のうえに落ちて
フーコーの振子が青ざめてとまった
#黒筒の熊五郎

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冷たいスリッパ

スレッド
どこを眠っていたのだろう
きのうの混沌が
透明な袋におさまっている

失礼
小用

赤いビニールのスリッパ
素足の熱
どうしてもすごせないと思った夜を
とおりぬけてしまった
(なにしよう)
紐をひっぱるとじぶんが戻ってくる
欠伸をする 目尻がぬれる
しろっぽけた光のなかで
瞳がとまる 胸が鳴る

自律している優等生の生真面目に拍手
よどみない心 用意されて
一日分 きめられた熱量
それも レバーのような堆積に交替したら
またわたしは発光しだすのだろう
なくなりかける不安に
せめて実のあるかたちにしてしまいたいと
夜を光りだす

できれば もうすこし
うつくしい排泄をしてみたいものです
#黒筒の熊五郎

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ゆずへ

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   内緒よ
   ゆず

よるに
うごくものいる
ゆず 眠ってる 知らないうちに
こっそり新月と密約かわすものがいる

かあさんいたい
乳首いたい
にゅうがんかもにゅうがんかもしれないよ
かあさん

ゆず
遊んでおいで
手まり ごむ段 石けり   
まっくろになって
しろつめ草の影に淋しくなるまで
外はおまえのすべてだし
探検に夢中になって
雪をふみふみ福寿草みつけ
植物図鑑めくりながらおいで
ゆず もっと健康に
男の子とけんかして泣きながらおいで

そのうち
しんがつめたくなるプレゼント
あげる
#黒筒の熊五郎

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氷河のなみだ

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こどもよ
なんにでもいそがしいままが
じぶんのままが
いつかしんじつのやさしいままとなって
どあをあけてあらわれるのを
まって
ついにこなかった こどもよ

いっしょう
むかえにはこない
りっぱになれば
きっとと
なんぜんかいかのくうそうに
つつまれとけゆく
しろいくりいむ

いっしょうを
こどもよ
どこで
ひとりがきらい
でもひとりがすき
あそびたりないこどもよ
みんながどうしてかえれるのか
ふしぎにおもうこどもよ
ひとのみちなかでひがくれる
あかりがともるどこまでもつづくいっぽんの
みちが ぼうっとうかび
てくてくあるく

そらなんて ああ とびたくもない
こうもりのはねでとんでおもう
なんで もぐりなさいといわれるのか
うみのそこで しにたくてもしねないと
ろうばにいわれる

いともたやすくくちふたがれるこども
みずにつけられるこども
いきてるにんげんがおにさんなのだと
しっててあいするこども
だんぼうるにすてられる
こどもよ
いきてるのがきせきのようだ
だがかんたんなからくり
しなないものだけいきている

まま
ままか
ままにあいたいか

 (きこえた? ナギ)
 (きいたぜナミ)
 (すてきね)
 (でばんだぜナミ
  ゆるす
  ゆるすだ それだ)

くちびるむすんで
ぽつんとたちつくす
まま

ままにあいたいか
けれど
こども
あのよに                                    
ままをさがすな
ねからしみでるそのみずはのむな
うつくしければ
うつくしいほど
しびれてたおれるなるきっそすの
あおいはなだ

もえあがるひょうがのこころ
はげしいさけめを
かたまりとなり
うごきだせ
きょくほくの氷河のなかの
ひとつぶよ
#黒筒の熊五郎

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ひと夜ひと夜に  第三夜

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雪。雪のぼんぼり。
雪。ゆっくり。とおくは速く。
雪。ねえ、みて。
  みあげると、ほら、どこまでもいくよ。
  粒子のなかを、どこまでもいくよ。
  ふふ。
  ふふふ。
雪。輪郭ふたつ。
雪。つもる朝までは。
#黒筒の熊五郎

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夢の近傍

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わたしの単眼で
あなたは夢みる
あなたはわたしの夢みる
凪の小舟で荒岩を
くるりめぐる
夢の御覧
キラキラとほほ照る
銀紙
うろこ波
虚空に映えて
その向こうでレンズが調節されて
小舟からみえるあたりだけ
閉じられた密な無音ばかり

わたしの像力は
突如やさしく慎重に
あなたを襲う

あなたが新しい休息の時に至り
わたしの像力が夢みた庭
武蔵野の面影を残す疎林につづく庭のある一間で
何もなく なにもかもないことを笑って
湯を沸かし木碗に注ぎ
盆にのせ
ひなたに置いた
たちのぼり碗の縁で渦巻き水面撫でまた消えのぼる
けしておなじあらわれのない渦の
湯気と影の形式を飽かず眺めた

そのことが
どれほどわたしを惑乱させたか
御覧

水平線に一頭の騎馬兵があらわれ
渦巻く一陣の流体となって
いまあなたを貫通し
逆髪
荒岩を襲い
吸われて消える

すいとひと押し
押され
のんだ息をほっとつげば
頸動脈から音が始まる

気づくとき
あなたは髪のひと振れほど遅れる
瞬間のさきが膨大なつづきだから
その誤差が
わたしの位相
はるかな砂の沈黙の音が耳を埋めてゆく                 
なつかしく見しらぬ断面に
あなたは開示する
風も帆もなく
鼓動ばかりで
#黒筒の熊五郎

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夕暮れまで そうして

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夕暮れまで そうして
二階の硝子窓は ひらかれたまま

青空の瞳は
HBのトンボの羽に 濃く染みて
数式の真上を ついてくる
幻術みたいに さざ波の光と影で 辿る解

浜の右辺の流木に
象嵌の羽はとまり
よみがえりの信仰を胸に
鉛筆は目を閉じ 木の柩に横たわる

いいかげんに髪を
結びも 切りもしないで

夕暮れまで そうして
石を積んだり ハスの実を置いたり
傍らに黒い牛を牽き
群青のなか あなたとみつめあう

ことり
彼は青い瞳のままナイフを置いた
瞬きも しないで

だから
石の上で わたしは
金青の光りを握って血を流した
#黒筒の熊五郎

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揺れる赤いN

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ばら色に割れた
アンデスの少女の額が
氷の塔をつきやぶり
銀のスプーンの先端で仰むく
千年のぬれた喉
りんごん

ムラサキの口火の肌に
ほっと憩う
薄羽のつけ根の振動
おりてくるものに逢うための
階段だけの開放塔
硝子質のストローは切断面から炎えあがる

焼失した学名の菌床で
毛深い女神の樹液色の爪がのびて
百年の寝返りをうつ
号泣する節穴を
ふたたび女神の乳房がのしかかる

羨道のぬかるみで逸失した
管理人に座る盗掘者
鳩笛がぽぽうと嘴からこなごなに鳴けば
揺れる赤いN
空中静止する熊ン蜂の
憤怒の喜びの踊りがうなりだす

あらゆる運動が待機する
気象の前兆
曇天からふりそそぐ虹彩のこおろ
放射しつづける熱量の意匠



水平線から
腰にさしこまれ
やむまで腕に折れている
#黒筒の熊五郎

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ぽんぽんダリヤ

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中野ブロードウェーという
脳天気なアーケード街を歩いてゆくと
ころんとした小振りの玉ネギが後をついてきた
振り返ると
むこうもはっとして立ちどまった
いや、玉ネギは歩いても立っているのでもなかったが
じっとみつめると前球面に影をつくった
また歩きだすと玉ネギは
ぱっと光ってついてくるようだった

なんだか
いもうとに似ている
遊ぶのに足手まといで
いじめられるのが
心配で
わたしより
可愛がられているくせに
わたしがいないと淋しくて眠れない
オネショにまみれ
泣いて
なんでもわたしを真似て
石油タンクに昇った梯子で
未知のきょうふにまっしろになって
落ちた
わたしの名を たぶん 手の虚空に呼んで

 ……ちゃあああん……

   走れば泣く
    とおい
      うしろ
    ぽんぽんダリヤ

すっと
路地に身を隠す玉ネギ
ああ、もうそこはいいんだ
悩みの季節に通った
喫茶店スヴェニールは
ふらんすの想い出というらしいから
行こう
いや、まて玉ネギ
おまえは、生まれる前の
あいつがいない前の
じぶんなのか

忽然と
なんだろう
はく息がまっしろな
あいつの生誕した きらきらした雪の朝だ
耳にほぐれる土の匂いで笑って
わたしを追い越していく
あまく鮮烈な球体
身もあらわに
うすみどりの縞のつやつやで
#黒筒の熊五郎

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閑静な住宅街の禁足地 切り株

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消防署が近いので、すみません家の犬がうる
さくてと向かいの奥さんに声かけられた。い
えいえそんな、アパートに住む奥さんは答え
た。火事ですか救急ですか。近づいてくると
高くなる狼の音域。人は逃げ、犬は目覚めよ。
おおおんと真似ると夫が笑うので、さらにオ
クターブをあげ玄関をでて犬と合唱する。

違法駐輪自転車の一時保管場所になっている
隣の空地は高いフェンスに囲まれている。草
刈りに来た人によれば、役所が借り上げて管
理しているんですわ、地主さんが使うとなれ
ばあれですけど、らしい。春先の雨でスギナ、
ドクダミの繁茂、アパートの影が短くなれば
ヒメジョオン。昼顔。へびいちごの赤い実。
やがて蔓がびっしり。

草が刈られてカラッポになった。そうしろと
いう形にしか思えない眼前の網。だしてくれ
え、こうだな。俺は何もやってないんだあ。
これ奥さんと夫の声、声がする。俺をだせ。
振動が手を離さない、止まらない。背後から
夫の熱い掌が奥さんの両腕を掴んだ。今夜は
無風。

  遠い彼方で
  湯のように黴の匂いがゆらいだ
  ごっそりと みずからを引き千切り
  ほろほろと赤土を零し
  岩盤に喰らいつき
  蛸となり
  青く燃えながら光る断面が直進していた

ちょっと眉をしかめ、寝息をたて始めた奥さ
んを覗き込み、こいつは寝顔が一番いいなと
思う夫が読書灯を消した。

  アパートのドアをがさり
  箒がさするような音がする
  奥さん…
  いま、はーい。いま何時なの
  うつつに思うと
  奥さんの口が「夜中の三時」といった
  武蔵野の面影と
  名告る切り株が
  隣の奥さん…
  「あなたは何の面影」と聞いてきた

玄関がばんと開き、薄い強力な水膜が進入し、
くるぶしが包囲された。昏い男が台所に現れ
る。皆さがって、彼女は叫んだがのろい再生
音のようにしか口が動かない。実際、逃げる
者はいない。何か飛び、壁に突き刺さった。
銀に光る刃が美しいと彼女は思った。

的確な放擲と感心する彼女の右腕の際に、斧
が光っていた。遅れて到着した戦慄に反転し
斧をぬきとり、渾身こめて台所の窓に放り投
げた。泉の水面のように斧はすりぬけ無音
のまま落ちてゆく。閑静な住宅地、赤い屋根、
その玄関先に光が突き刺さった。

昏い男はまだ眼の前にいた。逃れられない。
切迫が口を衝き、わたしと一緒に、と男の腕
を掴んだ。腕からかなしみが全身にながれ
、わたしの身体に男が入り込み、放電の衝撃の
うちに消えた。

奥さんは右腕をあげていた。ベットから起き
上がると腰から下が切り株だった。寝室から
外までの扉という扉が開いていた。

 「MYおっとはどこですか」
  トイレの好きな夫は
 「といれっと」と答えた
 「隣のフェンス消えてるよ」
 「ほう、鳥さん日記もこれまでですか」

奥さんはゆく。玄関をごそっと這い出し、杭
に張られた低いロープをよいしょ、とまたぐ
とき、切り株の下半身が乱暴に笑った。

小鳥たちの楽園を楽しんでいた武蔵野の老木
はいい香りを放っていた。やがて根こぎにさ
れる生きてる断面を奥さんはなでた。色とり
どりの重機類が集結し言い残すことばをじっ
と待っていた。

切り株に、奥さんは素足で立ち、両腕を水平
にしてくるくる回った。そうして、右上から
左下、左上から、白昼をひらいた。 
#黒筒の熊五郎

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閑静な住宅街の禁足地  鳥さん

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 鳥さんがみたい
 隣の空き地に
 鳥さんが来るから買って


コドモ化するとパパ化してくれる夫がペンタ
ックス8×21の双眼鏡を私の首にぶらさげ
てくれたその朝。

首にペンタックスをかけたまま朝食をとり茶
碗を洗い米を研ぎダイニングキッチンで仁王
立ちすると、夫はすたすたと奥から現れフラ
ッシュを焚いてくれた。

後は任せた。夫が無言で手を挙げ前方注視の
横顔のまま自転車が泳げば首からペンタック
スの妻は回れ右をしサンダル歩行でもどる。

と、高いフェンス沿いの通路でばったり三毛
猫とでくわした。おまえは前の世のミーちゃ
んか、妾になんのと因縁の睨みあいの続きを
する現世。

ふふふ妾にはいまひとつ強力な眼があるのだ、
まて、こらまて…。鴉が四度鳴き、遠くに同
数の呼応を聞いた。

 放置されたままの
 鳥たちの小楽園
 高いフェンスに 施錠された扉
 夕暮れには 迷い猫

アパートの窓から網戸とフェンス、二重の網
を透過するレンズを向けると、なにかおかし
い。眼鏡に双眼鏡はおかしい。乙女のように
眼鏡をはずすと、白昼何をしとるかと夫の声
が追ってきた。

任された全営為にペンタックスが加えられた
からにはイエッサー。穴ふたつとは名言なり
座右の銘なり。裸眼にくっきり丸ひとつの輪
郭イエッサー。

いざとなったら玉。玉をだせと繰り返す妄想
生活を玉梓が怨霊よ、脱却せよとの夫の願い
をペンタックスよ。見ヨ。強力ニ見ヨ! 見
たというまでペンタックス、鳥さんを呼べ!

ドアポストにゴソリと音がして、突如、不審
な監視者のように狼狽したが、ドミノピザと
は一切関係ないのでほっとした。ばかやろう
鳥さんが驚いて来ないじゃないか。出し抜け
に今カラデモ遅クナイと拡声器がひびく。

 …ヲ捨テ本隊ニ帰リナサイ
 帰ってます
 お家はここだとパパがいった
 敵がいるの? ミーちゃんかな
 フェンスの中に 敵がいるの?
 …ニ告グ、…ニ告グ…。

おかえりと言うと、夫が帰ってきてくれたの
で、今からでも遅くないの帰れソレントがわ
たしを包囲してわたしは逃げられなくなった
のと妻はいった。それで鳥さんはきたのかい
と夫が聞くので、ああ、鳥さん! そう鳥さ
んが、このフェンスの中にぱらいそ!

ぱらいそ…? 降り立っては飛び立つ鳥さん
がいるんだね。

眠ると妻が言うと、布団をかけてくれる夫が、
待っていたのにどこかで敵が現れて、その敵
をなんとかしないと鳥さんに戻れないんだね
というと、妻は嬉しそうにこっくりした。
#黒筒の熊五郎

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ゴンドラ巡礼

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首がもどるところでしたか
逆様ですよ
願掛け地蔵さま
一緒に
どうです
夜のお散歩は
逆様で首ふる地蔵を背にする
白鷺二丁目
ふいに地蔵のもと石がいう
(ものいわぬこどものゆかわたな)

  止めてください
  男が残した鞄が危険です
  バスの運転手はハンドルを切る
  また山中だ いちめん茶色の地肌 窓の下は崖
  道路が見えない 巨大なすり鉢 見あげる
  そのむこうも山また山

降りる
白鷺二丁目でわたしは降りる
酔っても朦朧としてもなにがなんでも
終点だけ電光させて
窓に手をついたまま呆然とゆくだけのこんなバス
鞄など怖くはない 前触れにすぎない
「そんなことが ここで できるわけがない」
あの運転手
そういった
白鳥をどこまでも追うひとよ
天湯河桁(あめのゆかわたな)
胸先にまで髭がのびても
ものいわぬこどもが
あぎといったその白鳥
(わたしは追って)きたとでも

速度を緩めずに車が
大通りを一本入った三叉路を侵入していく
「どっちでも好きにさらせ」
すすけた祠に埃が舞った
「ワンカップ飲んでくだまかないでください
 つげの木地蔵さん」
とろんとすり減った目の輪郭がみるみる戻り
横のつげの木がいう
「おまえ変な駕籠に乗っとる」
「えっ」

  むきだしの断層 青銅いろの急流
  岩盤の台地 わずか ゆれる草                        
  切れるまで 延びている道                          
  眼下
  それら一瞬

「しかもまっ白…ウウム
 ゴンドラ巡礼!」

目の前を扉がしまる
誰か誰か
ゴンドラからわたしは電話する
野太い女の声の交換手が番号を復唱する
なんでこんな旧式なことが
観光地にメルヘンにあるようなゴンドラ
見せかけだけにきまっている
はやく誰か
ゴンドラは気がすむまでというように動かない

  嵌め込み窓ふたつ
  変容のお舟
  やがて光さしこみ
  白鷺たちの渓谷を
  ゆられてゆく

この追分
どちらをゆこうと

*天湯河桁(あめのゆかわたな)…日本書紀にのっている古代豪族。垂仁天皇の皇子誉津別皇子(ほむつわけのみこ)が髭が生えても物いわず、白鳥を見て「これは何だ」と片言を発したので、命を受けて出雲まで白鳥を捕まえに行った人物。

#黒筒の熊五郎

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簀巻き奥さん

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あなた
巻いてください
奥さんは
まっ裸でむしろの上に横たわり
ごろりごろり
鉄火巻きの要領で巻かれる

どうぞ
足をかけられ
粗縄できつく縛りあげられ
荒巻鮭の質感がする奥さんは
抱き起こされる

L字型の金具を
奥さんは脇腹に刺してもらい
買い物バックをすくってひっかけた
あなた買い物に行ってきます
ぺこり

自転車には乗れないので徒歩でゆく
沈められる前にあなたの好きな
のりたま補充しておきます
わたしが原因で原因の元はあなたで
あなたの元の素はわたし

電話ボックスに全力でダッシュし
よちよち駆け込み
L字の先でプッシュする
あなた わたしたちは編み上げ靴のひもなの!
あ 牛乳
きれてませんでしたか

あ こんにちわ
あの 犬 苦手なんです すいません
ぺこり

軸をふりふり奥さんの
歩く跡には
わらがほとりと落ちている
#黒筒の熊五郎

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熊笹の女

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よいしょこらしょ
ほっほっほっときて
ピィィィィィィィィィィ
人には熊もあいたくないの
ときた七曲り
つとひらいた扇には
群来なつかしのォ 銀の海
ときたもんだ

ピィィィィィィィィィィィィィィィィ

なんで吹くのか忘れるほどに心地よさが浸るころ
がさがさっと
しげみが揺れる
喉ひっとしてかたまると
ゆるい女の歌声がするという

駆け降りる者の後ろに立っている
熊の縄張りで
しび しび 歌っているという

たつたつと魚の血が落ちているらしいとも
頭にはつむじがみっつ うねる漆黒
髪の毛ながくてながくてながくて
はあ
笹にからまって でてこれないのさ
そこはニヤッと笑って言うことになっている
       *                           

女が熊の縄張り にですか
採れたもの 交換してたって話だな
あのあたりは昔
畑があったらしいんだな
畑を守ってるんじゃあないですか
はあ 笹だらけの波だらけ
ざわざわっとくれば
凍(しば)れる景色というもんだ
   
やっと
   きたの

しびしび
と歌うしびはマグロのことですか
ここまで回遊してたって話は
定かでないのさ
とれた話は聞かないし
土地ではね鮭だともいうな

   手籠に熊笹を敷き
   やわらかい腹の 頭のない魚(うお)をいれ

したけども
このうんと先に鮪の岬ってあるのさ
岩が柱になってでさ もりもり盛り上がってでね
こんもり桜の林でさ 夏はおめぇ、エゾユリ咲いてね
海にほそ長くてさ 海みどり色に深くてさ
なんの魚だかなんでも 魚の形してるってんで
しび なんだよ
しび なんですか

   岬に
   女は現れた

なんでも その岬の主は大蛸で
怒って暴れて 海は大時化
船かっぱがえって 漁師が死ぬ
鰊はとれない 蛸の祟りだって困り果ててね

   遠いところ
   いってた
   ここから一番遠いところ いかなくちゃと

したけどある時
岬の主が江差の鴎島に嫁にいって
それから海は凪いだっていうことだ
鴎に蛸ですか
はあ 鴎の啼く音に
ふと目をさまし
あれが 蝦夷地の山かいな
ときたもんだ

       *                           

遠いところ いってた
いかなくちゃと 思って
女がいうと
斜面に眠る シベリヤ帰りの男は
顔に 季節はずれの花を配したまま

   北の北の北の
   夏は短い

うっとりと謡いながら 半身を起こし
舟形に瞑った ふた筋をひらくと
細紐が首からするりとほどけ 鎌首をもちあげる
女はひんやりとする 胴の鱗をつかみ
ちろちろと赤い舌を飾りに
おかっぱの黒髪を結った

   ドスビダーニャ ドスビダーニャ
   安心の家郷

半身の男を女は抱き
潮見の丘へ階をのぼる
なにかの用に打たれた
円形のコンクリートに額づき
半身の男を横たえ
頭のない魚を添えた
海鳥のふん白く
コンクリートはあったまっていた

       *

夏の凪の日の日没には
岬の展望台から狼煙(のろし)のような煙が立ち
沖にでた漁師には見えるけれど
陸からは見えないのだという

熊笹の女
しび しび と歌い
ときおり コリコリと齧る音をたてる
鮭の骨だろう
いや人の骨だという話である



*しびの岬の伝説…北海道乙部町に伝わる実際の伝説。しびはマグロの古名。しびの岬の主は大蛸で海が時化ると蛸の祟りと恐れられていた。しかし、あるとき江差の鴎島に嫁に行って海は凪いだという。
*鴎の鳴く音に ふと目をさまし あれが蝦夷地の山かいな…民謡江差追分の一節。
#黒筒の熊五郎

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キン ほたり。キン。。

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ながいながい吹雪がやんで
屋根裏部屋で
ほっと女は目が覚めた

なんてまぶし

まっしろい雪
なあ
あったけぇような気がするな
ばさばさっと音がしたかと思うと
鷹がいた
じっと目があったと思ったら
ぶいと飛んでった
また舞い戻ってきて
何をくわえているかと見てみれば
凍ったヤンマを
ことって置いた
(食べれってか)
虫は食べられないと顔をしかめると
たっとまた飛んでった
小半時もした頃だったか
窓の近くで四角い箱を背にしょって
ふらふら飛んでる鷹が見えた
(おや ずんぶ強ぇみてだな)
案の定 鷹はがtっと降り立って
箱をおろした
窓の桟に嘴をすりつけている
(おれに開けれって道理か)
蓋を静かに女は退けた

は これはおめの
エサだのがい

なかには真っ黒い毛の赤んぼがはいっていた
(鷹のことだ赤んぼエサにしても不思議でない)
女は頭がぐらぐらしてきた

おれに
食べれ
    って

鷹はふっと消えていなくなった

浜野廃屋から
ばさっこばさこと音が聞こえた
雪の村には
まだ、なんの足跡もついていない
軒先にはつららら

キン ぽたり。
         キン。。
#黒筒の熊五郎

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森の子

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ポケットに
生きてる古綿の重みの
雛がいた

夢のお告げは波打ち際で
(海の女神に
 傷ついた 雛を帰しない)
との声だった
ほう
それを知ったら惜しくなった

白い乳母車に雛をのせ
夜の岬に散歩にでかける
どれも淡い色の奥

似てる かな昔話の女に似てるかな
けれど部屋に
籠もりすぎても凶

海に女神いるって話
おまえ覚えてますか
日除けをたたんで
雛は
くるりくるり
顔を全方位にまわしている
なんでまた わたしに
うまいかい うちのハムスター
わたしは おまえを盗んだのですか
どうだろう
おまえの脚のかぎ爪は
御覧

みんながおまえに道をあける
わたしたちの月光浴

 波の砕ける音がするね
 さあ
 まるのめ ほうほう
 くるり目 ほう
 ままはは まるのめ
 かぎ爪 ほう
 夜界の枝で贄まてよ
 はばたけ ほうほう
 森の子 ほう

さあ
おまえ
海に女神がまだいたら
きっと岬に ほうほうと告げておくれ
傷などなかった羽になら
はじめから
おまえはポッケにいた
#黒筒の熊五郎

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ハニワ魔神外伝

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皆がおっぱい飲んでいた頃
水道がコチンと凍り
手にも足にも霜焼けができ いたくてかゆい島があった
無縁 歴史とは関わらぬ時が 桜を五月に咲かしていた

怒ォーン ォオーン
ほったらかしに
されたままのある村の岬のどて腹を貫く隧道を
魔神は歩いていた
どこだ どこにいる 娘 娘の泣く声がする
オレは墓を守る衛士
汝ゆけと君詔られたかどうだかもうわからないが
オレは目覚めた
オレは怒る 怒りのハニワなのだ

怒ォーン ォオーン
魔人は村の河原にきて 岩とみればひっくり返した
どうダア だんごむしども
ダアア

しょせんはだんご
関係ないと逃げるのは習性であろう
ならば 薄
おまえはどうか
秋 ですから
        だと
季に詠まれ自足顔した抒情どもめ
髑髏の目でも突き刺しておれ
なぜだ
洪水でもない日照りでもない不漁でもない
臭い息吐くほおずき目のオロチも朽ち果て幾千年
それでも なにか
人柱にしなきゃおさまらんものがあるのか
そこのそこのそこにへばりついている
コケ
きさま なにかもの言え
・ ・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・
来たんだ 来たんだ 来たんだオレは
娘 娘の泣く声が満ちている
怒ォーン ォオーン
ン? 何か光るものあり
魔人の頭上を 一際 照らしたかと思うと
背後にほとりと 降り立つものがあった
魔神がふりむくと 娘の泣く声がはたと止んだ
足下に亀を従え
柔和に羽を腰にたたみ うつむく白鶴
頂には鋭い一角を成し 青き光を発していた
(なつかしい
 ひびわれ ひびけ魔神)
金属の羽をひろげ
瞑目する一角鶴(と亀)は去った

オレは
知らん

魔神のまなこから
塩の珠ほろほろこぼれ こぼれつづけている
#黒筒の熊五郎

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離れ小岩とマッカナジョウリコ

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ぱかんと欠けた磯の窪みで
ゴダンペ トゲオッコ 干からびました
鳴く生き物はみあたりません
太陽はきょうも
昼の憩い

正午デス
 コチラハ海洋 海洋気象台
 マッカナジョウリコ
 マッカナジョウリコ
 タダイマ
 蚊柱 鍋釣 ユラリコシツツ
 礼文トイウノハ沖ノコト
  
  中点ふかく
  太陽は真昼

奇岩のひだ
海の底まで岩ばかり
凸凹岬の突端では
ツメタイ潮ハ カイノナミダ
アッタカイ潮ハ ゼルダノナミダ
まんまる頭の離れ小岩
お昼寝きらいで遊んでいます
北か南
南か北の
さあどっち

 日没位置ハ 本日
 奇岩岬ノヒトネムリニ移動
 危険海域ハ
 マッカナジョウリコ ユクトオリ
 海難救助信号ハ…
 てぃとぅととと てぃととと
 コチラハ海洋気象台デシタ

キラリと一瞥して太陽は
おごそかに今日を終えました
やがて岬のなにもかも
青い透明陽炎に
離れ小岩は糸三日月の道を現象します

おいでここまで
ひとりでジョウリコ
馬ニカテ曳カレテゲェゲト
泣くもの
誰の おまえはめんこの子
毬、箸置イテ 忘レチャッタ

おまえは誰の めんこの子


               *ジョウリコ… 伝承されてきた遊び唄でぞうりのこと

  
#黒筒の熊五郎

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黒筒の熊五郎

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一家
せんべいを食べ尽くし
なんに使うの
熊五郎せんべい
土産の空の黒い筒

ひんやり手にした黒い筒
底はつるりと銀の月
中はぽっかりしんと鎮まって

ちゃうだい

枕に黒筒
きょうの収穫に
きのうの収穫入れようか
すっぽり
じぶんが入ろうか
びっくりするっよ
とうさん
かあさん
ふたに秘密のおまじない

おーい
おーい

熊五郎にくるまり春まで眠る
鈎針編みの空色ミトンに雪印が消え残る

#黒筒の熊五郎

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