記事検索

フリースペース

【編集指針】ご訪問ありがとうございます。 ■当サイトはEBMを意識しながら薬剤師が関わる地域医療をテーマにその実践記録や医学文献の紹介を目的としています。一定の学術的見解または治療方針を示すものではありません。 ■当サイトが提供する医療情報は医師の診療や薬剤師の日常業務を支援する目的で発信しているものを含みます。 ■当サイトが提供する情報の最新・正確な内容につきましては原著論文等でご確認頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。 ■当サイトの内容は管理者個人の意見であって、所属施設の意見や立場を代弁もしくは表明するものではありません。 ■EBMや医学論文に関する基本的な解説は日経DI オンライン:「症例から学ぶ 薬剤師のためのEBM」(要無料会員登録)に掲載させていただいております。合わせてご活用ください。

【おすすめWEBサイト】 CMEC-TV/TOPページ 地域医療ジャーナル 地域医療日誌 by COMET 地域医療日誌 栃木県の総合内科医のブログ 地域医療のための総合サイト hidex公式ブログ『はぐれ薬剤師のココロ』 ■旧ブログ Blogger版 地域医療の見え方 薬剤師の地域医療日誌 薬剤師のケースレポート日誌 エビデンスの見え方 ■薬剤師のジャーナルクラブ JJCLIP公式フェイスブックページ当ブログの記事検索 ■英語論文執筆者のための英文校正サービス エナゴ

地域医療の見え方  2015.Dec.16;1(48)

スレッド
*************************************
1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-[レビュー] 睡眠薬と死亡-

*************************************

[背景]
睡眠薬と死亡との関連を示唆した報告が複数なされている。今回“hypnotic” “mortality”でPubMed検索。検索論文2274件のうち、2012年から2015年に間に報告された、人を対象に催眠鎮静薬と死亡のリスクの関連を検討した論文を取り上げる。

[一般人口集団における睡眠薬の使用]
18歳以上の224 757人(平均年齢54歳)を対象とした、マッチングコホートによる解析が報告されている。[BMJ Open. 2012. PMID: 22371848]
睡眠薬(ゾルピデム、テマゼパム)の使用がある10 529人と睡眠薬の使用が無い23 676人のコホートが比較されている。なお追跡期間は平均2.5年である。睡眠薬の使用なしを基準として、0.4–18 pills/year(平均8) (3491人)でさえも死亡リスクは3.60 (2.92 to 4.44)と報告されている。132 pills/year以上, (平均469)(3490人)では5倍以上のリスク上昇を示唆した。5.32 (4.50 to 6.30) 年齢、性別、喫煙状況、BMI、婚姻状況、アルコール摂取、併存疾患が考慮されているが、交絡の影響は大きいだろう。ただ量反応関係が見られることから、なにがしかの因果関係の傍証との見方もできるかもしれない。

16歳以上の睡眠薬使用あり34,727人(平均55.5歳)、睡眠薬使用なし69 418(平均55.4歳)を比較し、死亡との関連を検討した後ろ向きコホート研究が報告されている。[BMJ. 2014 PMID: 24647164] 
追跡は平均で7.6年であった。交絡補正後の死亡リスクはハザード比3.32 (3.19 to 3.45)と有意な上昇を示した。ベンゾジアゼピンにおいても3.68 (3.52 to 3.85)と有意なリスク上昇が示唆された。

フランスとイギリスの2つのコホートを用いた解析が報告されている。[Eur Neuropsychopharmacol. 2015.PMID: 26256008] 
検討されたコホートはイギリスのClinical Practice Research Datalink (CPRD) とフランスのGeneral Sample of Beneficiaries (EGB) である。死亡リスクはCRPDでハザード比3.73 (95% CI, 3.43-4.06),EGBでハザード比1.26 (95% CI, 1.08-1.48),と有意な関連を示した。
いずれもプライマリケアコホートであり、一般人口集団ではリスクの上昇が懸念される点ん既存の報告と同様である。

[閉経後女性における睡眠薬の使用]
米国における50 ~79歳の閉経後女性148 938人を中央値で8年追跡調査したコホート研究が報告されている。[BMJ Open. 2012. PMID: 22977185] 
週5回以上の睡眠薬使用はわずかながら死亡リスク増加に寄与する可能性を示唆した。ハザード比1.14 (1.06 to 1.23) ただし交絡因子による補正は十分とは言えないかもしれず、この論文が示す関連はそれほど強いものではない印象である。

[高齢者における睡眠薬の使用]
認知症のない65歳以上の高齢者6,696人(年齢中央値72.8歳)を対象に、睡眠薬の使用と死亡のリスクを検討した前向きコホート研究が報告されている。[BMC Med. 2013 .PMID: 24070457] 
睡眠薬を使用した1454人、睡眠薬を使用していない5242人が比較されている。追跡は12年であった。交絡補正後のハザード比は1.06 [0.92;1.23]と明確な関連は示されなかった。ベンゾジアゼピンでも明確な関連は示されず。ハザード比1.11 [95%信頼区間0.94;1.30] 本研究では入念な交絡補正を行っている印象があり、この結果の妥当性は決して低くないと思われる。睡眠薬が死亡リスクに与える影響は高齢者においては限定的かもしれない。

[睡眠薬と死亡に関するメタ分析]
25研究のメタ分析が報告されている。[Aust N Z J Psychiatry. 2015. PMID: 26590022]
24件のコホート研究と1件の症例対照研究、2,350,093 人(女性59% 年齢18-102 歳)が解析対象となった。その結果、睡眠薬の使用は43%死亡リスクの上昇を示した。(ハザード比1.43 [95%信頼区間1.12, 1.84]).

[結論]
ベンゾジアゼピン系薬剤を含む睡眠薬で死亡のリスクとの関連性が示唆されるが、特に中高年での長期使用はリスクとの関連性が高いと思われる。しかしながら高齢者においてはその因果関係は明確ではない。様々な交絡因子が関与しており、若年で睡眠薬を服用する人は交通事故リスクや自殺リスクなどの影響も想定できる。また高齢では、睡眠薬による死亡と言うよりは、睡眠薬を服用している全身状態が健常者よりも死亡リスクが高い、という事を示しているにすぎず、因果関係とは言えない印象もある。しかしながら、ベンゾジアゼピン系薬剤には認知症リスク[BMJ. 2012 PMID: 23045258] [BMJ. 2014 PMID: 25208536] [PLoS One. 2015 PMID: 26016483]や、骨折リスク[Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2010 PMID: 20931664] [Osteoporos Int. 2014 PMID: 24013517]等の有害事象が報告されており、漫然と使用すべきではない。

*************************************
2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

*************************************

[文献]動物とのふれあいで小児喘息リスクは減るか?
(JAMA Pediatr.コホート研究PMID: 26523822)

Fall T.et.al. Early Exposure to Dogs and Farm Animals and the Risk of Childhood Asthma. JAMA Pediatr. 2015 Nov 2;169(11):e153219. PMID: 26523822
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26523822

[重要]生後早期からの動物への曝露が小児喘息へもたらす影響については不明な部分も多く、過去の研究ではあまり良くない報告もあった。

[研究目的]犬や家畜への曝露と小児喘息リスクの関連を調べる。

[方法、セッティング、参加者]全国コホート研究において、2001年1月1日から2010年12月31日までにおいて、スウェーデンで出生した1011 051人を対象に生後早期からの犬や家畜への曝露と喘息発症リスクの関連を検討。

[主要評価項目]小児喘息の診断および薬剤使用

[結果]研究追跡期間中に出生した1 011 051人のうち、就学前児童[1〜5歳]376 638人(犬への曝露53 460 人[14.2%]、家畜への曝露 1729 [0.5%]人)、就学児童[6歳] 276 298人(犬への曝露22 629人 [8.2%] 、家畜への曝露958人 [0.3%] )就学児童では11 585 人(4.2%)が7歳までに喘息を発症。犬への曝露で喘息リスクと関連低下(オッズ比 0.87; 95% CI, 0.81-0.93)就学前児童において犬への曝露は3歳以上でリスクは低下 (ハザード比, 0.90; 95% CI, 0.83-0.99)したが、3歳未ではわずかに増加。(ハザード比, 1.03; 95% CI, 1.00-1.07)
家畜への曝露については、就学、就学前いずれもリスク低下に関連(就学:オッズ比 0.48; 95% CI, 0.31-0.76, 未就学:ハザード比, 0.69; 95% CI, 0.56-0.84)

[結論]犬や家畜への曝露は6歳での喘息リスク低下に関連する可能性がある。

[文献]市中肺炎に対するステロイド(Chest メタ分析 PMID: 26501852)

Wan YD.et.al. Efficacy and Safety of Corticosteroids for Community-Acquired Pneumonia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Chest. 2015 Oct 22. . [Epub ahead of print] PMID: 26501852
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26501852

[背景]ステロイドは、市中肺炎(CAP)の治療における選択肢である。しかしながら重篤な市中肺炎におけるそのリスクベネフィットは不明確である。

[方法]2015年5月までに報告された情報をPubmed, Embase, Cochrane library databasesより検索した。成人における市中肺炎とステロイド使用に関するランダム化比較試験、コホート研究を解析に組み入れた。各研究妥当性はGRADE methodology.により評価した。ランダムエフェクトモデルによるMantel-Haenszel法にてメタ分析を行い、相対危険を算出した。

[結果]9つのランダム化比較試験((1667人)と6つのコホート研究(4095人)が解析対象となった。ステロイドはメチルプレドニゾロン換算で平均30mg/日、7日間使用であった。メタ分析の結果、市中肺炎患者において、ステロイド使用は総死亡を有意に減らさない。(RR, 0.72; 95% CI: 0.43-1.21; evidence rank: low) 重度市中肺炎患者においても同様。(RCTs; RR, 0.72; 95% CI: 0.43-1.21; evidence rank: low; cohort studies; RR, 1.00; 95% CI, 0.86-1.17 ).一方で、ステロイド療法は呼吸窮迫症候群を有意に減らした。e(RR, 0.21; 95% CI, 0.08-0.59),また病院滞在期間、ICU入室期間、抗菌薬静注療法の期間、臨床的安定までの期間を減らした。有害事象の増加は見られなかった。

[結論] コステロイドによる短期治療は安全であり、かつ、呼吸窮迫症候群のリスクを軽減CAP患者における罹病期間短縮が期待できる。

[コメント]同臨床課題に関する論文報告は22015年には複数報告されている。[JAMA.RCT PMID: 25688779]、[Lancet.RCT PMID: 25608756] 、[Ann Intern Med. メタ分析PMID: 26258555]
これまでの知見は市中肺炎に対する全身ステロイドの投与は臨床的安定までの期間、入院期間を1日程度短縮する可能性があるが、臨床的な意義については議論の余地があり、有害事象として治療が必要な高血糖が多いことが示されていた。本研究でも、死亡リスクに関しては明確な減少効果は示されなかったが、合併症リスクの低下や罹病期間の短縮が示されている。各研究はほぼ同様の結果を示しており、肺炎治療において、一定のベネフィットを得られ、なおかつ安全に使用できるという解釈もできそうだが、現段階の知見で積極的に使用すべきか、なかなか判断が難しいところではある。

*************************************
3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

*************************************
2012年にBMJ Openより睡眠薬と死亡リスクの関連を検討した報告が出たときには衝撃を受けました。その後複数の研究が出ていますが、おおむね、一般人口集団と高齢者に分けて考えた方がよさそうです。比較的若年層では長期の使用が死亡リスクにつながる可能性があります。もちろん交絡の影響は相当程度大きいかも知れませんが、睡眠薬を使用せざるを得ない状況に対してどうアプローチすべきかが重要なのかもしれません。なお睡眠薬の使用は必ずしもQOLを改善しません。[Qual Life Res. 2015. PMID: 25432884]

一方高齢者では、睡眠薬が原因となって死亡するという因果関係よりも寿命が先に来てしまう印象です。ただ死亡以外にも様々なリスクとの関連が示唆されており、不適切な使用は避けたいところです。しかしながら、睡眠薬を中止するにも退薬症状などの件があり、その継続使用が真に妥当かどうかと言う問題は非常に難しいテーマのように思います。
#学校 #教育 #受験 #外国語 #科学

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2015.Dec.9;1(47)

スレッド
*************************************
1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-[レビュー] 筋萎縮性側索硬化症に対するエダラボンの効果-

*************************************

2015年6月、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)における機能障害の進行抑制」に対するエダラホン(ラジカット®)の効能効果及び用法用量が追加承認された。筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制に対する用法用量は以下のとおりである

「通常,成人に1回2管(エダラボンとして60mg)を適当量の生理食塩液等で用時希釈し,60分かけて1日1回点滴静注を行う. 通常,本剤投与期と休薬期を組み合わせた28日間を1クールとし,これを繰り返す.第1クールは14日間連日投与する投与期の後14日間休薬し,第2クール以降は14日間のうち10日間投与する投与期の後14日間休薬する.」。
[ラジカット®注30mg 製剤添付文書2015年6月改訂(第18版) D15]

「通常,成人に1回2袋(エダラボンとして60mg)を,60分かけて1日1回点滴静注を行う. 通常,本剤投与期と休薬期を組み合わせた28日間を1クールとし,これを繰り返す.第1クールは14日間連日投与する投与期の後14日間休薬し,第2クール以降は14日間のうち10日間投与する投与期の後14日間休薬する.」
[ラジカット点滴静注バッグ30mg2015年6月改訂(第9版) D10]

ALSは上位あるいは下位運動ニューロンの選択的変性を引き起こす難治性、進行性の疾患である。
[N Engl J Med. 2001 PMID: 11386269]

ALS発症から死亡までの生存期間中央値は20~48か月と言われている。
[Nature. 1993 PMID: 8350919] 

PubMedにて「edaravone als」で検索すると2015年11月11日現在8件の論文しか検索されない。そのうち人を対象としたランダム化比較試験は1件のみであった。[Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener. 2014PMID: 25286015] 

この研究はALS患者を対象としたエダラボンの有効性と安全性を検討するための2重盲検ランダム化比較試験である。20歳~75歳で罹病期間3年以内のALS(重症度分類は5段階で1~2)患者206人を対象とした。エダラホン投与群102人、プラセボ投与群104人にランダムに割り付け、12週後のALSFRS-Rスコアが検討されている。エダラボンは60mgを60分かけて1日1回点滴静注。第1クールは14日間連日投与する投与期の後14日間休薬。第2クール以降は14日間のうち10日間投与する投与期の後14日間休薬。これを6クール実施している。

ALSFRS-R(ALS Functional Rating Scale-Revised)スコアはALSの機能評価スケールであり、ALS 患者の総合的な重症度、病態進行の評価として使用される。(0~48点で評価)
[J Neurol Sci. 1999 PMID: 10540002] 

スコアの変化量より病態進行速度を予測することが検討されており、1ヶ月間のALSFRS-R のスコアが 0.67 以上低下している例では進行が急速であると言われている。
[Neurology. 2006 PMID: 16434671]

最終的に205人が解析された。ALSFRS-Rスコア変化量(LSMean±S.E.)は、エダラボン群(100名):-5.70±0.85、プラセボ群(99名):-6.35±0.84で、投与群間差のLSMean±S.E.とその95%信頼区間は0.65±0.78(-0.90~2.19)であり、投与群間で統計学的に有意な差を認めなかった。有害事象はエダラボン群で89.2%、プラセボ群で88.5%であり、絶対差は0.8% (−7.8% to 9.4%)と明確な差は無かった。重篤な有害事象はエダラボン群で17.6%、プラセボ群で23.1%となっている。本研究ではエダラボンがALSの進行を遅らすことはできなかったと結論している。

なお田辺三菱製薬(株):ALS重症度分類3度の患者を対象とした探索的試験(承認時評価資料)によれば、ALS重症度分類3度の患者を対象としたプラセボ対照二重盲検比較試験でも同様の結果となっており、進行を遅らす効果すらまともに示せていない状況での承認となっている。

*************************************
2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

*************************************

[文献]血圧は厳格にコントロールすべきか(Lancet メタ分析)PMID:26559744

Xie X.et.al. Effects of intensive blood pressure lowering on cardiovascular and renal outcomes: updated systematic review and meta-analysis. Lancet. 2015 Nov 7. pii: S0140-6736(15)00805-3. PMID: 26559744
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26559744

[背景]厳格な血圧コントロールが心血管イベントや腎臓イベントを大きく減らすかどうかについては議論の余地がある。厳格な血圧コントロール戦略の有効性・安全性を検討したシステマテックレビュー・メタ分析

[方法] 1950年1月1日~2015年11月3日までに公開されているデータをMEDLINE, Embase, and the Cochrane Libraryで検索。少なくとも6か月以上追跡し、厳格な血圧コントロールと通常の血圧コントロールを比較したランダム化比較試験を解析対象とした。なお言語制限なく論文を検索した。心筋梗塞、脳卒中、心不全、心血管死亡の心血管イベント単独もしくは組み合わせ、非血管死亡、総死亡、末期腎不全、有害事象、糖尿病患者におけるアルブミン尿、網膜症の進展をメタ分析し相対危険を算出した。

[結果]19研究に参加した44 989人が解析対象となった。平均3.8年の追跡期間中2496件の主要な心血管イベントが記録された。厳格血圧コントロール群の平均血圧は133/76 mm Hg、通常の血圧コントロール群の平均血圧は140/81 mmであった。相対危険減少は、心血管イベントで14% [95% CI 4–22]、心筋梗塞で13% [0–24]、脳卒中で22% [10–32]、アルブミン尿で10% [3–16]網膜症進展で19% [0–34]であった。しかし、次のアウトカムに関する有効性は不明確であった。心不全15% [95% CI −11 to 34]、心血管死亡9% [–11 to 26]、総死亡9% [–3 to 19]、末期腎不全10% [–6 to 23]有害事象に関しては厳格治療群で11.2%/年、通常治療群で0.9%/年(相対危険1.35 [95% CI 0.93–1.97]であった。重篤な低血圧は厳格治療群で多い(相対危険2.68 [1.21–5.89])が絶対差は微小であった。(追跡期間中0.3%/年 対 0.1% /年)

[解釈]厳格な血圧コントロールは通常コントロールに比べて血管保護作用を示唆する。高リスク患者では収縮期血圧を140 mmHgとすることで、さらなるベネフィットを享受できる可能性がある。個人の絶対利益は決して少なくない。

[コメント]集中的な血圧コントロールと標準的な血圧コントロールのベネフィット比較した臨床上、重要なメタ分析。近年では、軽度高血圧患者においても血圧は厳格にコントロールした方が良いという報告がなされている。[RCTメタ分析Ann Intern Med. 2014 PMID: 25531552] また2型糖尿病患者等、心血管疾患ハイリスク患者では収縮期圧が10mmHg低下ごとに心血管リスクが低下し、特にベースラインの収縮期血圧が140mmHgを超えるグループでは有意な低下が見られたと報告されている。[RCT メタ分析 JAMA. 2015 PMID: 25668264]

本研究では心血管死亡や総死亡に明確な差は見られなかったものの、主要な心血管イベントが厳格な血圧コントロール群で有意に低下した。研究間の異質性もそれほど高くなく、個々の研究結果も一貫している。

ただ高齢者における降圧療法を厳格にすべきか、という臨床課題に答えるものではなく、あくまで“平均的”なデータであろう。より厳格と言う定義もなかなか微妙ではあるが、ハイリスク患者における降圧療法は収縮期血圧で140mmHg未満を目指すのも良いかもしれない。しかし、80を超えるような高齢者では収縮期血圧が130mmHg以下の状態で降圧薬を2種類以上投与することは避けるべきである。[縦断研究JAMA Intern Med. 2015 PMID: 25685919]

[文献]血圧は厳格にコントロールすべきか(NEJM RCT)PMID: 26551272

SPRINT Research Group, Wright JT Jr.et.al.The SPRINT Research Group. A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med. 2015 Nov 26;373(22):2103-16. PMID:26551272
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26551272

[背景]糖尿病ではない患者における収縮期血圧のコントロールと心血管疾患、や死亡への関連は不明である。

[方法]収縮期血圧が130mmHgで糖尿病のない患者9361人を対象に収縮期血圧120 mm Hg未満を目指す厳格血圧コントロール群、140mmHg未満を目指す通常血圧コントロール群にランダムに割り付けた。一次アウトカムは心筋梗塞、他の急性冠症候群、脳卒中、心不全、心血管死亡の複合アウトカム。

[結果]1年後の収縮期血圧は厳格治療群で121.4 mm Hg、通常治療群で136.2 mm Hgであった。複合アウトカムに有意な差がついたために、追跡中央値3.26年で研究を早期中止した。(1.65%/年 対2.19%/年 ハザード比0.75[95%信頼区間0.64 to 0.89] P<0.001) 総死亡もまた有意に低下した。(ハザード比0.73[95%信頼区間0.60 to 0.90] P=0.003)低血圧、失神、電解質異常、急性腎傷害は厳格治療群で多かった。転倒による外傷には統計的な差は出なかった。

[結論]いくつかの有害事象が厳格血圧コントロール群で観察されたが、糖尿病のない高リスク患者では、心血管アウトカムや総死亡に対するベネフィットが認められた。

[コメント]Lancetのメタ分析に続きRCTが報告された。対象となったのは50歳以上で糖尿病を有さず、収縮期血圧が130 ~180 mm Hgの患者9361人である。平均年齢は67.9歳、75歳以上の高齢者が28.2%含まれており、高齢者を含むランダム化比較試験として貴重な研究となっている。なお盲検化は行われておらず、outcome adjudicatorsのみ割り当てを知らされていない、つまりPROBE法と思われる。

糖尿病こそないもののBMIは29.9と日本人のそれと比べれば高い。厳格治療群4678人、通常治療群4683人にランダム化され、全例が解析されている。なお、統計解析はintention-to-treat approach。追跡期間は5年と計画されたが、明らかなベネフィットのために中央値3.26年で早期中止された。プライマリアウトカムはハザード比で25%低下。総死亡も低下した。但し、低血圧や失心などの有害事象が多いという結果であった。

早期中止トライアルでは結果を過大評価するという報告[メタ分析JAMA. 2010 PMID:20332404] もあり、研究結果を鵜呑みにできるかは議論のよりがあるかもしれない。しかし、これまでのメタ分析からも、集中的な血圧コントロールはハイリスク患者においては糖尿病の有無にかかわらずメリットがある可能性がある。しかしながら、日本人の平均的な高血圧患者においてここまでのベネフィットがリスクを上回るだろうかと考えると、結果の適用については議論の酔いがありそうだ。

なお治療薬は第一推奨としてサイアザイド系利尿剤、高度な慢性腎疾患を有する患者ではループ利尿剤、冠動脈疾患患者ではβ遮断薬。特にクロルタリドンが主要なサイアザイド系利尿薬として推奨されている点に注意したい。その他にはアムロジピン、アジルサルタン、アジルサルタンとクロルタリドンの合剤が挙げられている。

PROBE法という研究デザインにも注目したい。1年後の収縮期血圧、厳格治療群で121.4 mm Hg、通常治療群で136.2 mm Hgという群間差が、心筋梗塞、他の急性冠症候群、脳卒中、心不全、心血管死亡の複合アウトカムに差をもたらしたのか、それとも厳格な治療という介入がこの差をもたらしたのかは、この研究からではよく分からない。僕はどちらかと言えば、後者の影響は大きいのではないかと推測する。虚弱高齢者では、血圧のみに注目してより厳格な降圧を目指すと、思わぬ有害事象を招く恐れがあり注意が必要だろう、と言うのが僕の印象だ。

*************************************
3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

*************************************

血圧コントロールに関する重要論文が立て続けに出ていますが、皆様はどのように論文結果を捉えたでしょうか。降圧目標はやはり、年齢にもよるのかなあ、というのが正直なところです。特に高齢者では利尿薬による厳格治療は電解質異常などのリスクもありますし、難しいところです。

さて、なかなかブログを編集する時間を確保することが難しいのですが、できる限り更新は続けていきたいと考えています。基本的にはミニレビューと論文紹介の2本立て、時間が取れるようになったら、症例報告なども取り上げていきたいと考えています。
#学校 #教育 #受験 #外国語 #科学

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2015.Dec.2;1(46)

スレッド
[お知らせ]
いつも地域医療の見え方をご利用いただき、誠にありがとうございます。12月より、当ブログ編集方針を若干変更したいと思います。

当ブログは毎週水曜日に、エビデンスレビュー、論文要約、症例報告という3つのセクションを編集し、ジャーナルスタイルで更新を続けてきました。しかしながら管理者の都合上、編集作業を確保する時間が厳しくなってまいりました。当面は毎週更新が相当困難になるものと予測します。またエビデンスレビュー作成もかなり時間的な負担となっており、今後は簡易レビュー、文献紹介の2つのセクションで編集を行い、月に2回の更新を目標に継続してまいりたいと思います。

引き続きよろしくお願いいたします。

地域医療の見え方:管理人 青島周一

*************************************
1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-[Clinical script]カルシウム拮抗薬による浮腫とカスケード-
*************************************

[イントロダクション]
カルシウム拮抗薬による末梢の浮腫は比較的コモンな有害事象と言える。1980年から2011年までに報告されたランダム化比較試験106研究のメタ分析[解析対象99469 人、平均56 歳]によれば、コントロールもしくはプラセボに比較して、カルシウム拮抗薬で有意に浮腫が多いと報告されている。 3.2%(95% CI 3.1 to 3.3) 対10.7%(95% CI 10.6 to 10.9)またそのリスクは用量依存的である。低用量に比べて、高用量で有意に多い。5.7% (95% CI 5.5 to 5.9) 対16.1% (95% CI 15.9 to 16.3) また非ジヒドロピリジン系に比べて、アムロジピンなどのジヒドロピリジン系で有意に多い。3.1% (95% CI 2.8 to 3.4) 対 12.3%, (95% CI 12.2 to 12.5)つまりカルシウム拮抗薬の浮腫リスクは、高用量、ジヒドロピリジン系で高い。[J Hypertens. 2011 PMID: 21558959]

[浮腫を改善するための介入]
カルシウム拮抗薬の減量+ARB/ACE-I という方法がある。25のランダム化比較試験のメタ分析(解析対象17,206人、平均56歳 男性55% 、平均追跡9.2週) によれば、カルシウム拮抗薬単独に比べて、ARB/ACE-Iの併用で抹消浮腫が有意に少ない。(相対危険0.62; 95%0.53-0.74)  間接比較ではあるが、ACE阻害薬ではARBに比べて有意に浮腫リスクが低い(相対危険0.74; 95% CI, 0.64-0.84) サブグループ解析ではACE阻害薬の併用で相対危険0.46,(95% CI 0.37 to 0.58;)ARBs の併用で相対危険0.79,(95% CI 0.64 to 0.97)であった。したがってカルシウム拮抗薬の減量とともにACE阻害薬を追加することで、降圧作用を弱めることなく、浮腫軽減が期待できる。[Am J Med. 2011 PMID: 21295192]

[単に薬剤を追加すればよいのか。過治療を意識せよ]
降圧薬を2剤併用することのデメリットが報告されている。80歳を超える高齢者施設入居者を対象とした縦断研究では収縮期血圧130mmHg未満の状態で降圧薬2剤以上使用すると死亡リスクが増加すると報告されている。(ハザード比1.78[95% CI, 1.34-2.37])[JAMA Intern Med. 2015 PMID: 25685919] 高齢者における降圧療法のエビデンスは限定的であり、基本的にはHYVET試験のみである。[N Engl J Med. 2008. PMID: 18378519][JAMA. 2015 PMID: 26172896] 高齢者においてはカルシウム拮抗薬やARBの有用性は厳密には検討されていないと言えよう。ARBではむしろ有害リスクの懸念すらある[Am J Hypertens. 2015 PMID: 25391580]

[降圧療法の過治療。糖尿病を有する高齢者での実態]]
米国退役軍人局のデータより糖尿病を有する高齢患者における高血圧の過治療に関する後ろ向きコホート研究が報告されている。研究対象は70歳以上の糖尿病患者211667人
・非常に低い血圧(血圧120/65 mm Hg未満)でコントロールされている患者群81 226人における治療軽減は, 18.8%
・中等度に低い血圧(収縮期血圧120 〜129 mm Hg もしくは 拡張期血圧 65 mm Hg未満)でコントロールされている患者群25 955人における治療軽減は16%。
・血圧が低くない患者群104 486人での治療軽減は15.1%
米国高齢糖尿病患者での治療軽減は2割に満たないという実態である。[JAMA Intern Med. 2015 PMID: 26502220]

なお近年では、降圧療法は厳格にしたほうが、ベネフィットがあるという報告がなされている。[N Engl J Med. 2015 PMID: 26551272][ Lancet. 2015 PMID: 26559744] しかしながら80歳を超えるような高齢者における厳格な血圧コントロールについては議論の余地があるだろう。単に浮腫があるからといって薬剤を追加するのではなく、そもそもカルシウム拮抗薬の減処方も考慮したい。[JAMA Intern Med. 2015PMID: 26301603] カルシウム拮抗薬は高齢者には潜在的に不適切な処方である。 [Int J Clin Pharmacol Ther. 2008.PMID:18218287]

*************************************
2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-
*************************************

[文献]医療費が高い医師は訴訟を受けにくいのか(BMJ メタ分析)PMID:26538498

Jena AB.et.al. Physician spending and subsequent risk of malpractice claims: observational study. BMJ. 2015 Nov 4;351:h5516. PMID: 26538498
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26538498

[研究課題]医療費が高い医療を提供する医師は医療過誤訴訟のリスクが低下するか?

[方法]フロリダ州にて2000年から2009年までの間に、急性期ケアで入院したデータを用いて、医師の医療過誤の記録を調べた。7つの専門分野における医師において、高額な入院費用が、医療過誤訴訟リスクにつながるか検討した。なお、患者特性、併存疾患、および診断で補正した。

[研究結果とその限界]24 637人の医師(年間154 725人の医師)、18 352 391件の入院データ、4342件の医療過誤訴訟を解析した。その結果、医療費の高い医師ほど、医療過誤訴訟リスクが低下した。例えば、内科医師において、医療過誤訴訟を経験する確率は、入院あたり$19 725で1.5% (95% 信頼区間1.2% to 1.7%)、入院あたり$39 379で0.3% (95%信頼区間0.2% to 0.5%)であった。6つの専門領域で、より多くの医療費を使うことが医療訴訟リスクの低下に統計学的に関連した。しかし、医療費に影響しうる疾病の重症度に関する情報が欠けていたという研究限界がある。

[この研究で追加される知見]医療費の高い医療を提供することは医療過誤訴訟の低下に関連する。

[コメント]近年話題に取り上げられることの多いポリファーマシーの問題。その有害性は複数の研究で示唆されており、何らかの介入が必要であろう。しかしながらその介入効果については議論の余地がある。薬剤費用や薬剤剤数こそ減らす可能性はあるものの、臨床アウトカムについては不明なのである。[J Am Geriatr Soc. 2014 PMID: 25243680] [Cochrane Database Syst Rev. 2014PMID: 25288041]

医療現場に目を向ければ、既に多剤併用となっている患者の減処方には多大な労力がかかってしまうという現実がある。医療経済的にはメリットが想定される減処方だが、患者への対応として、時間的、人的コストがかさむ。ただ処方通りに薬をもらっていくこと、実際にはそれで医療が回っているという側面が医療経済面と独立して存在しているだろう。減処方による有害事象リスクすらありうる。ポリファーマシーであっても幸せに過ごしている人もいるわけで、単純な減処方が、どれほどベネフィットがあのか、一律な答えは出ないようにも思える。

本研究はフロリダ州の入院データベースを用いた観察研究で、一般内科、専門内科、家庭医療科、小児科、一般外科、専門外科、産婦人科の7つの診療科医師の過去の記録を検討したものだ。医療にコストをかける程、訴訟のリスクが低いという結果になっている。

[文献]催眠鎮静薬の交通事故リスクは飲酒運転に例えると?[コホート研究PMID: 26066943]

Hansen RN.et.al. Sedative Hypnotic Medication Use and the Risk of Motor Vehicle Crash. Am J Public Health. 2015 Aug;105(8):e64-9. PMID: 26066943
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26066943

[目的]催眠鎮静薬の使用と自動車事故の関連性を検討する。

[方法]ヘルスケアシステムより催眠鎮静薬の新規使用者409 171人のコホートを用いた。21歳以上でワシントン州にて自動車運転免許を取得した人を研究対象とした。

[結果]催眠鎮静薬はコホート全体の5.8%が使用した。交通事故リスクはトラゾドンの新規使用でハザード比 1.91 (95% CI = 1.62, 2.25)、ゾルピデムの新規使用でハザード比= 2.20 (95% CI = 1.64, 2.95).であった。これらのリスク推定値は、血中アルコール濃度0.06~0.11%に相当する。

[結論]催眠鎮静薬の使用は交通事故リスクに関連する。長期間処方せざるを得ない場合には、このようなリスクを十分に考慮すべきである。

[コメント]薬剤の使用と交通事故リスクを検討した論文は多い。以下の主要なものを上げておく。
心房細動▶[Int J Cardiol. 2015 PMID: 26126057]
携帯電話▶[BMJ. 2005. PMID: 16012176]
向精神薬▶[J Am Geriatr Soc. 2011. PMID: 21883110]
ベンゾジアゼピン▶[Drug Saf. 2011. PMID: 21247221][ JAMA. 1997. PMID: 9207334]
血糖コントロール▶[PLoS Med. 2009. PMID: 19997624]
処方薬全般▶[PLoS Med. 2010. PMID: 21125020]
カフェイン▶[BMJ. 2013. PMID: 23511947]
抗てんかん薬▶[J Clin Pharmacol. 2013. PMID: 23426609]
抗うつ薬▶[J Clin Psychiatry. 2012. PMID: 22967773][ Br J Clin Pharmacol. 2013 PMID: 24148104]
喫煙▶[Inj Prev. 2000 PMID: 11144627]

本研究の面白いところはアルコールの血中濃度相当量が抄録に記載されているところである。「These risk estimates are equivalent to blood alcohol concentration levels between 0.06% and 0.11%.」
0.06~0.11%とは概ね「ほろ酔い」相当だと言われている。ビールで約1~2本飲酒した状況だ。つまりビール1~2本でも交通事故リスクは約2倍になるとも言える。飲酒と交通事故リスクについては別の機会に調べてみたい。

*************************************
3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-
*************************************
誠に勝手ながら今月より編集スタイルを変更させていただきました。ブログ記事作成に欠ける時間が確保できないのも理由の一つですが、もう少し丁寧に論文を読みたいという思いもあります。実際に丁寧に読めているかどうかは別かもしれませんが、当面はこのようなスタイルで更新を続けたいと思います。引き続きよろしくお願い申し上げます。
#学校 #教育 #受験 #外国語 #科学

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2015.Nov.25;1(45)

スレッド
*************************************
1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-抗ヒスタミン薬と(熱性)痙攣-

*************************************

[ポイント]
■抗ヒスタミン薬は小児では痙攣のリスクを増加させる可能性がある
■抗ヒスタミン薬は発熱から痙攣までの時間を短縮し、痙攣持続時間を延長させる可能性がある
■痙攣リスクは、特に第1世代抗ヒスタミン薬で高いように思われ、独立した痙攣発症のリスクファクターである可能性がある
■現時点で、抗ヒスタミン薬と(熱性)痙攣のリスクを検討したコホート研究及び症例対照研究は存在せず、その関連の強さや因果関係については不明な部分も多い。

[イントロダクション]

抗ヒスタミン薬というと眠気の副作用が有名で、どちらかと言うと脳内の興奮状態を抑制するようなイメージがあります。その作用を利用してジフェンヒドラミンなどは睡眠改善薬として市販されています。

ところが意外にも小児では、痙攣等の重篤な反応があらわれるおそれがあると言われています。ケトチフェンはてんかん又はその既往歴のある患者に禁忌となっています。

リスクベネフィットの観点から、第2世代抗ヒスタミン薬など優れた薬剤が存在する中で、たとえコストが安いと言えど、クロルフェニラミンやケトチフェンのような第1世代の抗ヒスタミン薬を積極的に用いる意義はあまりないかもしれません。

しかしながら抗ヒスタミン薬と痙攣リスクの関連については、脳内移行性の問題というような理論的な話題ばかりで、疫学的な関連が検討されているのか、やや疑問が残ります。

今回は抗ヒスタミン薬と痙攣リスクについて考察していきます。

[重篤副作用疾患別対応マニュアル(小児の急性脳症)]
まずは基本的なところを要約していきましょう。
薬剤有害事象の基本情報はやはり重篤副作用疾患別対応マニュアルでしょうか。
http://www.pmda.go.jp/files/000144308.pdf
抗ヒスタミン薬がけいれんを発症する機序については、「脳内へ薬剤が移行する、ことでヒスタミン神経系の機能を逆転させてしまう機序による。ヒスタミンも痙攣抑制的に作用する神経伝達物質であるため、抗ヒスタミン薬が脳内へ移行し拮抗することは望ましくない。」と記載があります。

しかしながらテオフィリンやアミノフィリンに関する報告件数などは記載があるものの、抗ヒスタミン薬と痙攣に関する具体的な記述はほとんどないようです。困りました。

[メキタジンは比較的安全?]
熱性痙攣は、6カ月~6歳までに3~5%の小児で発生し(日本人では7%前後ともいわれている)、再発率は20~30%といわれています。発熱エピソードや年齢、熱性痙攣の家族歴が、熱性痙攣発生の重要なリスクファクターと考えられています(※1)~(※6) 発熱エピソードも主要な要因と考えられているわけですが、必ずしも解熱が痙攣予防に有効なわけではありません。(※7)

一方で薬剤も痙攣リスクと言われているわけですが、熱性けいれんで救急搬送された小児265人の症例解析が行われた報告があります。(※8)
この報告によれば、痙攣の持続時間はテオフィリンや抗ヒスタミン薬の使用がない小児に比べて使用のあった小児で長かったとしています。ただ抗ヒスタミン薬のうちメキタジンは痙攣の持続時間を延長しなかったとしています。この論文では熱性けいれんの既往のある小児、特に乳幼児ではテオフィリンの使用を避け、抗ヒスタミン薬には十分注意をするよう記載がありますが、メキタジンは比較的安全性が高いと言うように結論しています。

熱性けいれんのリスクファクターは多岐にわたりますので、この論文結果をもって抗ヒスタミン薬と痙攣リスクの関連を論じることは難しいと思いますし、ましてやメキタジンが安全に使用できるとは言い切れません。メキタジンの光線過敏症は有名ですね。思わぬ有害事象にも注意が必要かと思います。

[熱性けいれん薬剤使用の関連]
先の報告(文献8)と類似の報告が2010年にも報告されています。(※9)

単純型性熱性痙攣14人、複雑型熱性痙攣35人を対象に、抗ヒスタミン薬の使用ありと使用なしで分類して、解析したところ、抗ヒスタミン薬の使用ありの症例で、発熱から痙攣までの時間が短く、痙攣時間が長いと報告されています。もちろんこれも因果を論じることができるような研究ではありません。しかしこれまでの報告を整理すると、抗ヒスタミン薬を服用していると、痙攣持続時間が長く、また発熱から痙攣までの時間も短くなる傾向にある、と言う可能性が示唆されます。
[第1世代抗ヒスと第2世代抗ヒスとの比較]
同様の報告は2012年にも報告されています。9)この研究は熱性痙攣にて小児科を受診した250例(平均年齢28.3ヵ月、熱性痙攣家族歴約50%)を解析したもので、これまでの研究に比べて規模が大きくなっています。84人の患者(33.6%)が抗ヒスタミン薬を使用していました。熱性痙攣発症までの時間、および痙攣持続時間を以下にまとめます。

表タイトル
アウトカム 薬剤使用なし 1世代抗ヒス 2世代抗ヒス
発症までの時間(h) 4.27 ± 1.36 2. 5 ± 0.79 3.01 ± 037
痙攣持続時間(m) 4.5 ± 4.3 9.3 ± 14.2 6.0 ± 6.1


標準偏差を考慮すると、明確に差が出たのは1世代抗ヒスタミン薬の痙攣発症までの時間と痙攣持続時間、2世代抗ヒスタミン薬の痙攣発症までの時間でした。これまでの報告同様、痙攣持続は長く、そして痙攣発症までの時間は短くなるという結果になっています。ただ痙攣持続時間は第2世代抗ヒスタミン薬では明確な差が無く、この結果からは1世代抗ヒスタミン薬の方がリスクの懸念が大きいことが示唆されています。これは脳内移行性などの薬理学的理論との矛盾もありません。

この研究の患者背景を見てみますと抗ヒスタミン薬使用群、薬剤使用なし群の背景には実はそれほど大きな差異はありません。年齢、家族歴、最高発熱温度、性別比などはほぼ同等と考えて良いでしょう。それにもかかわらず、発熱発症までの時間や発熱持続時間に有意な差が出ているという事は、やはり抗ヒスタミン薬(特に1世代)が独立したリスクファクターである可能性を示唆しています。

[どう考える、けいれんと抗ヒスタミン薬]
痙攣にはリスクファクターがあるという所は重要だとおもいます。てんかん治療中であるとか、熱性けいれんの既往がある、と言ったようなリスクファクターは十分に考慮すべきです。また感染症等にともなう発熱状態で用いる際はより注意が必要かもしれません。現段階において、コホート研究や症例対照研究でリスクとの関連検討されているわけではありませんが、これまでの症例解析から、第1世代抗ヒスタミン薬が熱性痙攣のリスクファクターである可能性を否定する十分な根拠もありません。当該症例では少なくとも第1世代抗ヒスタミン薬の使用を避けるべきであり、またそのような小児患者に1世代抗ヒスタミン薬が含有されたOTC医薬品を販売すべきではありません。

[参考文献]
1)Nelson KB et al.Prognosis in children with febrile seizures.Pediatrics.1978;61(5):720-7.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/662510
2)Berg AT et al.Predictors of recurrent febrile seizures: a meta-analytic review.J Pediatr.1990;116(3):329-37.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2137875
3)Offringa M et al.Prevalence of febrile seizures in Dutch schoolchildren. Paediatr Perinat Epidemiol.1991;5(2)181-8.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2052480
4)Rantala H et al.Factors triggering the first febrile seizure.Acta Paediatr.1995;84(4)407-10.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7795350
5)Shinnar S et al.Risk of seizure recurrence following a first unprovoked seizure in childhood:a prospective study.Pediatrics.1990;85(6):1076-85.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2339031
6)Tarkka R et al.Risk of recurrence and outcome after the first febrile seizure.Pediatr Neurol.1998;18(3)218-20.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9568917
7) trengell T, et al.Antipyretic agents for preventing recurrences of febrile seizures:randomized controlled trial.Arch Pediatr Adolesc Med.2009;163(9):799-804.PMID:19736332
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19736332
8) Haruyama W.et.al. The relationship between drug treatment and the clinical characteristics of febrile seizures. World J Pediatr. 2008 Aug;4(3):202-5. PMID: 18822929
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18822929
9) Takano T.et.al. Seizure susceptibility due to antihistamines in febrile seizures. Pediatr Neurol. 2010 Apr;42(4):277-9. PMID: 20304332
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20304332
10) Zolaly MA. Histamine H1 antagonists and clinical characteristics of febrile seizures. Int J Gen Med. 2012;5:277-81. PMID: 22505826
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22505826


*************************************
2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

*************************************

■受動喫煙と乳幼児の齲歯■
Tanaka S.et.al. Secondhand smoke and incidence of dental caries in deciduous teeth among children in Japan: population based retrospective cohort study. BMJ. 2015 Oct 21;351:h5397. PMID: 26489750
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26489750
背景と研究デザイン:妊娠中の母体の喫煙や生後4か月での受動喫煙で乳児の齲歯リスクが増加するか検討した後ろ向きコホート研究

P:神戸市で生まれた76 920人の乳児
E:生後4か月までの受動喫煙(家族内に喫煙者あり37257人、喫煙への曝露が明確5268人)
C:生後4か月までの受動喫煙なし(家族内に喫煙者なし34395人)
O:齲歯の発生率
追跡期間3年(追跡率91.9%)

虫歯の発生は家族に喫煙者がいない群で14%、家族に喫煙者がいるが受動喫煙が明確でない群で20.0%、受動喫煙が明確な群で27.6%であった。
傾向スコアによる調整ハザード比[95%信頼区間]は以下の通り
・家族内に喫煙者あり:ハザード比1.46[1.40~1.52]
・受動喫煙への曝露が明確:ハザード比2.14[1.99~2.29]
※交絡の影響は大きいと推測する。

■低用量電離放射線曝露とがん死亡■
Richardson DB.et.al. Risk of cancer from occupational exposure to ionising radiation: retrospective cohort study of workers in France, the United Kingdom, and the United States (INWORKS). BMJ. 2015 Oct 20;351:h5359. PMID: 26487649
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26487649
背景と研究デザイン:低用量電離放射線の長期曝露で固形がんリスクは増加するかどうか検討したコホート研究

P:フランス、英国、米国における原子力産業に勤務する308297人(男性87%)
E&C:低用量電離放射線への曝露
O:放射線グレイあたりのがん死亡における相対比
追跡中央値26年
原子力産業雇用期間中央値12年

累積線量1グレイあたりの超過死亡は以下のとおり
全がん死亡51%増加[95%信頼区間23~82]
白血病を除く全がん死亡:48%増加[95%信頼区間20~90]
固形がん死亡:47%増加[95%信頼区間18~79]

高線量被曝の方が低線量被曝よりも危険であると考えられてるが、そのリスクは同程度。

■心筋梗塞後のNSAIDs+PPIの有用性■
Schjerning Olsen AM.et.al. Impact of proton pump inhibitor treatment on gastrointestinal bleeding associated with non-steroidal anti-inflammatory drug use among post-myocardial infarction patients taking antithrombotics: nationwide study. PMID: 26481405
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26481405
背景と研究デザイン:心筋梗塞後における抗血栓療法中のNSAIDsに対するPPIの効果を検討したデンマークのコホート研究。(背景関連論文JAMA. 2015 Feb 24;313(8):805-14. PMID: 25710657)

P:30歳以上で心筋梗塞後少なくとも30日生存している82955人(平均67.4歳、男性64%、少なくとも一つ以上のNSAIDs使用42.5%、PPI使用45.5%)
E:抗血栓療法+NSAIDs+PPI
C:抗血栓療法+NSAIDs
O:消化管出血リスク(消化管性潰瘍出血による入院もしくは死亡、吐血、下血、不特定消化管出血

平均追跡期間:5.1年
交絡補正:年齢、性別、入院年月日、併用薬、併存疾患、経皮冠動脈介入

PPIを使用せずNSAIDSを使用した場合に比べて、NSAIDs+PPIではハザード比0.72[0.54~0.95]

■喫煙と認知症リスク■
Ohara T.et.al. Midlife and Late-Life Smoking and Risk of Dementia in the Community: The Hisayama Study. J Am Geriatr Soc. 2015 Oct 27. [Epub ahead of print] PMID: 26503243
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26503243
背景と研究デザイン:喫煙と認知症の関連を検討した前向きコホート研究(久山町研究)

P:認知症のない65~84歳(平均72歳)の日本人754人から619人を解析対象(平均57歳)
E:喫煙あり
C:喫煙なし
O:認知症

追跡期間:17年

追跡期間中アルツハイマー型認知症143人、血管認知症76人発症
中高年における認知症リスクは障害非喫煙者に比べてリスク増加
全認知症:調整ハザード比2.28[1.49-3.49]
AD:調整ハザード比1.98,[1.09-3.61]
VaD:調整ハザード比2.88[1.34-6.20]

■チアゾリジンとパーキンソン病リスク■
Connolly JG.et.al. Thiazolidinediones and Parkinson Disease: A Cohort Study. Am J Epidemiol. 2015 Oct 22. pii: kwv109. [Epub ahead of print] PMID: 26493264
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26493264
背景と研究デザイン:チアゾリジン系薬剤とパーキンソン病リスクとの関連を検討したコホート研究

P:メディケアデータよりチアゾリジンもしくはSU剤で治療を開始したパーキンソン病のない29397人
E:チアゾリジンの使用
C:SU剤の使用
O:パーキンソン病発症
※傾向スコアマッチング

チアゾリジンにパーキンソン病リスク減少効果を認めず。
ハザード比1.09 (95%信頼区間0.71~1.66)

■インフルエンザに対するオセルタミビル■
Qiu S.et.al. Effectiveness and safety of oseltamivir for treating influenza: an updated meta-analysis of clinical trials. Infect Dis (Lond). 2015;47(11):808-19PMID: 26173991
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26173991
背景と研究デザイン:オセルタミビルのメタ分析はこれまで複数報告されているが中国での研究を含んでいない。文献を追加して解析したメタ分析

P:12研究に参加した107 712人(Only controlled clinical trials were included.)
E:オセルタミビルの使用あり
C:オセルタミビルの使用なし
O:インフルエンザ関連症状

・発熱持続:平均差-20.48[95%信頼区間 -28.43~-12.53]
・インフルエンザ様症状:平均差-19.39[95% 信頼区間-32.94~-5.84]
・入院:相対危険0.79[95%信頼区間0.68~0.90]
・非特異的合併症0.58[95%信頼区間0.35~0.95]

*************************************
3. CASE REPORT
-気になる症例報告をピックアップします-

*************************************

■酸化マグネシウムと高マグネシウム血症■
中尾 彰太 他 酸化マグネシウム長期内服による重症高マグネシウム血症の3例 
日本救急医学会雑誌Vol. 21 (2010) No. 7 P 365-371
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjaam/21/7/21_7_365/_article/-char/ja/
便秘症に対して処方された酸化マグネシウム(MgO)の長期内服により,重症高Mg血症を来した3例。3例とも血清Mg濃度が15mg/dlを超え、血圧低下や意識障害を来す。全例グルコン酸カルシウムを投与、1例は持続的血液透析(continuous hemodialysis; CHD)1例は血液透析(hemodialysis; HD)を施行。最終的に1例は救命できず。

*************************************
4. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

*************************************
「酸化マグネシウム(医療用)の「使用上の注意」の改訂について」がPMDAより発信されています。
https://www.pmda.go.jp/files/000207884.pdf
死亡例も報告されているとのこと。母数が分からないので、リスクとして定量的に扱えず、その頻度がよく分かりませんが、少なくとも腎機能が低下している患者では十分な警戒を要するでしょう。

漫然と酸化マグネシウムを使うな、ということが前提かもしれませんが、実際の医療現場ではなかなか難しいケースもあると思います。特に寝たきり患者の排便コントロールは難しいでしょう。マグネシウム製剤を継続的に使用せざるを得ないこともあるかと思います。便秘の原因は何か、それは是正できそうか、少なくともそのようなアセスメンとは必要かもしれませんが、使用せざるを得ない場合は腎機能に留意し、場合によっては血清MG値のモニターも考慮した方が良いのかもしれません。
#学校 #教育 #受験 #外国語 #科学

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2015.Nov.18;1(44)

スレッド
*************************************
1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-ゾルピデムと睡眠関連摂食障害-

*************************************

[ポイント]
■ゾルピデムと睡眠関連摂食障害の症例報告は多数ある
■ゾルピデムと睡眠関連摂食障害の疫学的関連は不明である
■ゾルピデムによる睡眠時異常行動のリスクファクターはゾルピデム高用量、女性、若年と報告されている。

[イントロダクション]
ゾルピデムの有害事象リスクについては以前にレビューしました。
〔地域医療の見え方2015.Mar.4;1(8)〕
http://jp.bloguru.com/syuichiao/233228/2015mar418

様々な有害事象との関連が仮説生成されていますが、その因果関係についてはいまいち明確なところは分からず、実際の現場でどのように活用すべきかは議論の余地があるところでしょう。

ゾルピデムに限らず、眠剤のリスクと言うのは服用する患者側もある程度理解していることが多いと思います。できれば、薬に頼りたくないわけですし、医療者からしたら、エビデンス云々の前に、やはりそのリスクは十分に知っているはずです。それにもかかわらず、長期投与されていることは少なくないでしょう。これを漫然投与ととらえるのか、漫然投与するよりほかないととらえるかで、この問題の捉え方は大きく変わるでしょう。

漫然投与とは近年ポリファーマシーが問題に取り上げられることが多い中で、何か、悪であるというような、少なくとも医療経済的にメリットはないというような切り口で語られることも多いと思います。しかし、既に多くの薬剤を服用している場合、服用薬剤を減らすという労力は決して少なくありません。それはただのさぼりだろ、と言われるかもしれませんが、限られた人的、時間的リソースの中で、効率的に医療を提供していた結果ともいえるわけです。

医療経済的なコストと引き換えに、人的、時間的コストをかける、つまり、ポリファーマシー是正の問題も大きくこのような2面性を有しているわけです。僕たちはその局面のどちらか一方しか見てこなかった、否、むしろ医療経済的なコストの面しか見てこなかったということはないでしょうか。

さて、前置きが長くなりました。ポリファーマシー含め、いわゆる漫然投与が医学的にあまり良くない影響がある、少なくとも良い、という事はなさそうです。ただそれが患者の幸福とどういう関係があるのか、良く考える必要があります。医薬品のリスクベネフィットという情報をすべての医療者、患者と共有したところに見えてくる、僕自身はその可能性に欠けています。

[睡眠関連摂食障害の症例報告]
ゾルピデムでは夜間睡眠中に無意識に摂食行動を繰り返す、睡眠関連摂食障害(sleep related eating disorder:SRED)という有害事象の症例報告が多数あります。(※1)(※2)本稿では睡眠時行動障害の一種ととらえておきます。
マイスリー®添付文書にも警告欄に「本剤の服用後に、もうろう状態、睡眠随伴症状(夢遊症状等)があらわれることがある。」と記載があります。またゾルピデム中止とともに症状が消失することが報告されており、なにがしかの関連を傍証します。(※3)

摂食障害以外にもゾルピデムと夜間の異常行動に関する報告は存在します。(※4)日本での報告では、ゾルピデム服用後壁を叩いたり,布団を外に出したり,1 日 5 回食事をしたことを本人が覚えていなかったというような症状が発生し、某日、病院から行方不明になってしまいました。翌日,ポンプ場の狭い貯水槽で,水没しているのを発見された、というなかなか衝撃的な報告です。(※5) 本症例患者には希死念慮などは見られず、ゾルピデムによる睡眠時遊行症の可能性が高いと結論しています。

睡眠関連摂食障害に関して、32~72歳の8例(男性6人、投与量は7名で10mg/日、1名で12.5mg/日)の症例を検討した文献(※6)によれば、症状は平均で39.8日後に現れたとしています。一晩に1~8エピソードの夜間摂食行動が記録されています。この報告ではゾルピデムを服用している患者の約1%に起こりうるのではないかと結論しています。

[ゾルピデムによる睡眠時異常行動]
2010年までに報告されたゾルピデムと精神神経系に関する有害事象報告は(※7)の文献にまとめられています。夜間摂食異常や夢遊病、幻視などが多いようです。詳細は以下のURLをご覧ください。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3067983/table/tbl1/

この報告では、これらの症例報告をレビューした結果、以下の4点に留意するよう述べています。

①血中濃度は男性よりも女性で40%有意に高い
②幻覚はゾルピデム5mg/日を超える投与量で起きており、用量依存性が認められる
③ゾルピデムはタンパク結合率が高く(は96.0~96.3%)、低栄養状態でアルブミンが低下している患者ではゾルピデムの血中濃度が上昇する可能性がある。
④CYP3A4における相互作用による血中濃度上昇の懸念

[リスク因子を探る]
睡眠時異常行動【complex sleep-related behaviors (CSBs)】に関する有害事象のリスク因子が検討されていました。(※8)

この研究は台湾において、精神科外来に通院していた125人の症例を対象に解析されたものです。125人(ゾルピデム使用は67人)のうち、19人(15.2%)で睡眠時異常行動が報告され、その全例にゾルピデムが使用されていました。

ゾルピデムを使用していた67人の解析において、睡眠時異常行動を発症した患者群でより年齢が若く、そして女性で多く、さらに高用量で用いられていた(10mg/日を超える)と報告されています。高用量でのオッズ比は13.1[95% 信頼区間2.6~65]と報告されており、かなり強いリスク因子である可能性があります。

[ゾルピデムと睡眠時行動障害をどうとらえる]
今回の文献検索では疫学的関連を検討した報告は見つけられませんでした。ただ症例報告は多数あり、そのリスク因子の検討はなされていました。現段階ではその因果関係は不明であるものの、リスクファクターを熟慮し注意喚起を行うべきでしょう。比較的若い女性への高用量投与は十分警戒すべきだと思われます。もちろんそれ以外の症例で注意が不要と言うわけではありませんが、ゾルピデムで幸せに暮らしている人もいて、そういう人たちにどのような介入を実際にすべきなのか、現段階ではよく分かりません。リスクの詳細の考察のためにも、今後の疫学的検討に注目したいと思います。

[参考文献]
(※1)Dang A.et.al. Zolpidem induced Nocturnal Sleep-Related Eating Disorder (NSRED) in a male patient. Int J Eat Disord. 2009 May;42(4):385-6. PMID: 19107832
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19107832
(※2) Najjar M.et,al. Zolpidem and amnestic sleep related eating disorder. J Clin Sleep Med. 2007 Oct 15;3(6):637-8. PMID: 17993047
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17993047
(※3) Kim HK.et.al. Zolpidem-induced compulsive evening eating behavior. Clin Neuropharmacol. 2013 Sep-Oct;36(5):173-4.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24045611
(※4) Singh H.et.al. Sleep-walking a rarest side effect of zolpidem. Indian J Psychol Med. 2015 Jan-Mar;37(1):105-6. PMID: 25722525
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25722525
(※5) Usumoto Y.et.al. [An Autopsy Case of Abnormal Behaviour Induced by Zolpidem]. Fukuoka Igaku Zasshi. 2015 Jun;106(6):202-5. PMID: 26306385
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26306385
http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/handle/2324/1518483/p202.pdf
(※6) Valiensi SM.et.al. [Sleep related eating disorders as a side effect of zolpidem]. Medicina (B Aires). 2010;70(3):223-6. PMID: 20529770
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20529770
(※7)Inagaki T.et.al. Adverse reactions to zolpidem: case reports and a review of the literature. Prim Care Companion J Clin Psychiatry. 2010;12(6). pii: PCC.09r00849. PMID: 21494350
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21494350
(※8) Hwang TJ.et.al. Risk predictors for hypnosedative-related complex sleep behaviors: a retrospective, cross-sectional pilot study. J Clin Psychiatry. 2010 Oct;71(10):1331-5. PMID: 20441722
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20441722

*************************************
2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

*************************************

■2型糖尿病患者の予後■
Tancredi M.et.al. Excess Mortality among Persons with Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2015 Oct 29;373(18):1720-32. PMID: 26510021
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26510021
背景と研究デザイン:2 型糖尿病患者における血糖コントロールと腎合併症とによるリスク評価
に関するコホート研究

P:スウェーデンのSwedish National Diabetes Registerより、データを抽出(2型糖尿病患者1例につき、対症5例を、年齢,性別、居住地域でマッチング)
E:2型糖尿病患者(追跡期間平均4.6年)
C:一般住民(追跡期間平均4.8年)
O:死亡、心血管死亡等

追跡期間中、2型糖尿病患者 77,117 人/435,369 人(17.7%)が、一般住民では306,097 人/ 2,117,483人(14.5%)が死亡。
・調整ハザード比 1.15[95%信頼区間1.14~1.16]
心血管死亡は2型糖尿病患者群 7.9%、一般住民 6.1%
・調整ハザード比 1.14[95%信頼区間1.13~1.15]
しかしながら、年齢や血糖コントロール、腎合併症別にみると死亡リスクは低くなり多用という結論。

■インクレチン関連薬とすい臓がん■
Knapen LM.et.al. Use of Incretin Agents and Risk of Pancreatic Cancer: A Population-Based Cohort Study. Diabetes Obes Metab. 2015 Nov 5. [Epub ahead of print] PMID: 26537555
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26537555
背景と研究デザイン:インクレチン関連薬とすい臓がんリスクを検討した後ろ向きコホート研究

P:Clinical Practice Research Datalink (CPRD)より
E;少なくとも1種類の非インスリン糖尿病治療薬を使用していた182,428人
C:E群1名につき1名を年齢でマッチした糖尿病でない患者
O:すい臓がん発症

平均4.1年の追跡で少なくとも1種類以上の糖尿病治療薬を使用していた患者群は糖尿病のない患者群に比べてすい臓がんリスクに関連
ハザード比4.28[95%信頼区間3.49-5.24]
このうちインクレチン関連薬使用では2倍のリスク上昇に関連した。

しかし、インクレチン関連薬と他の糖尿病治療薬との比較では明確な差がでず。
ハザード比1.36[95%信頼区間0.94〜1.96]

■マクロライドと先天性奇形リスク■
Bérard A.et.al. Use of macrolides during pregnancy and the risk of birth defects: a population-based study. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2015 Oct 29. [Epub ahead of print] PMID: 26513406
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26513406
背景と研究デザイン:マクロライドの使用と先天性奇形リスクを検討したコホート研究

P: Quebec Pregnancy Cohortより、135 859人の妊娠エピソード
E:第1トリメスター期にマクロライドへの曝露
(アジスロマイシン使用914、エリスロシン使用734, クラリスロマイシン686)
C:第1トリメスター期にペニシリンへの曝露9106
O:生後1年以内の先天性奇形

交絡調整後のリスク比は以下の通り
azithromycin (RR = 1.19, 95%CI: 0.98, 1.44; 120 exposed cases)
erythromycin (RR = 0.96, 95%CI: 0.74, 1.24; 66 exposed cases)
clarithromycin (RR = 1.12, 95%CI: 0.99, 1.42; 79 exposed cases)

■セルトラリンと先天性奇形リスク■
Bérard A.et.al. Sertraline use during pregnancy and the risk of major malformations. Am J Obstet Gynecol. 2015 Jun;212(6):795.e1-795.e12. PMID: 25637841
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25637841
背景と研究デザイン:セルトラリンの使用と先天性奇形リスクを検討したコホート研究

P;カナダケベック州のコホートより18,493のうつ、不安を有する妊娠女性
E:セルトラリン使用366、セルトラリン以外のSSRI使用1963、SSRI以外の抗うつ薬使用1296
C;薬剤使用なし
O:生後1年以内の先天性奇形

セルトラリンの使用で先天性奇形リスクの明確な上昇を認めず。
しかし、心房/心室欠陥リスク上昇
・リスク比1.34[95%信頼区間1.02-1.76]
頭蓋骨癒合症
・リスク比2.03[95%信頼区間1.09-3.75]

■夏の脳卒中リスク■
Shigematsu K.et.al. Higher ratio of ischemic stroke to hemorrhagic stroke in summer. Acta Neurol Scand. 2015 Dec;132(6):423-9PMID: 25855396
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25855396
背景と研究デザイン:脳卒中と季節の関連を検討したコホート研究

P:Kyoto Stroke Registryより、13,788人
E:春季、冬季、秋季
C:夏季
O:脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血の発症

脳梗塞は夏に比べて秋で少ない
・オッズ比0.93[95%信頼区間0.87-0.98]
脳出血は夏に比べて春、秋、冬で高い
・春:オッズ比1.36[95%信頼区間1.23〜1.49]
・秋:オッズ比 1.16[95%信頼区間1.05〜1.28]
・冬:オッズ比1.37[95%信頼区間1.25-1.51]
脳卒中も同様
・春:オッズ比1.28 [95%信頼区間1.13-1.45]
・秋:オッズ比1.26 [95%信頼区間1.11-1.43,]
・冬:オッズ比1.35 [95%信頼区間1.19-1.53]

■非糖尿病高齢者のHbA1c■
Grossman A.et.al. The association between glycated hemoglobin levels and mortality in non-diabetic elderly subjects. Eur J Intern Med. 2015 Oct 28. pii: S0953-6205(15)00339-8. PMID: 26520045
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26520045
背景と研究デザイン:非糖尿病の高齢者におけるHbA1cと死亡のリスク

P:65歳以上でHbA1cが6.5未満の非糖尿病患者12,937人
E:最高5分位HbA1c>6.11%、最低5分位HbA1c<5.39%
C:HbA1c 5.9-6.1%
O:総死亡

HbA1c 5.9-6.1%と比較して
・HbA1c>6.11%:ハザード比1.21[95%信頼区間1.09-1.35]
・HbA1c<5.39%:ハザード比1.17[95%信頼区間1.04-1.32]

*************************************
3. CASE REPORT
-気になる症例報告をピックアップします-

*************************************

■酸化マグネシウム製剤と高マグネシウム血症■
中司 敦子 他 高マグネシウム血症により意識障害をきたした慢性腎不全の2例 日本透析医学会雑誌 Vol. 37 (2004) No. 2 P 163-168
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt1994/37/2/37_2_163/_article/-char/ja/
緩下剤の連用中に高マグネシウム (Mg) 血症による意識障害をきたした慢性腎不全の2症例
①77歳, 男性、糖尿病性腎症による慢性腎不全で加療中。血清Mg 7.3mg/dL。皮膚の潮紅, 肺炎および呼吸抑制による呼吸不全あり。血液透析にて軽快
②78歳, 女性。慢性関節リウマチ,、腎機能低下で加療中に尿路感染症により腎機能が増悪し、 全身倦怠感及び見当識障害が出現し入院。血清Mg 7.1mg/dL。 血液透析を3日間連続して行い軽快

*************************************
4. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

*************************************

酸化マグネシウムと高マグネシウム血症。やはり症例報告は複数あります。特に腎機能が低下している患者については十分注意が必要であり、文献上もそのような結果になっているようです。

齊藤 昇 高齢入院患者の血清マグネシウム値への腎機能障害と酸化マグネシウム投与の影響 日本老年医学会雑誌 Vol. 48 (2011) No. 3 P 263-270
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/48/3/48_3_263/_article/-char/ja/
入院患者についてMgO服用で血清Mgは増加し、またeGFRの低下は血清Mgを増加させた。特にeGFRが30 ml /min/1.73 m2未満(第1群)では血清Mgは高かったと結論されています。

このテーマにおきまして参考になるブログ記事は以下の通りです。

pharmacist's record
酸化マグネシウム(MgO)と血清マグネシウム値
http://ph-minimal.hatenablog.com/entry/2015/11/10/004519
#学校 #教育 #受験 #外国語 #科学

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2015.Nov.11;1(43)

スレッド
*************************************
1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-セフカペン・ピボキシルを擁護してみる試み-

*************************************

[イントロダクション]
今回はあまり気合を入れずに、感染症に詳しい医療者からたびたび批判されるセフカペン・ピボキシルをちょっと擁護(?)したい、そんな記事を書く試みです。

先日、日経メディカルオンラインの記事に興味深いアンケート調査が掲載されていました。セフェム系抗菌薬のうち最も処方頻度の高いものに関するアンケート調査で、有効回答数は3122人。内訳は病院勤務医2188人、診療所勤務医419人、開業医463人、その他52人となっています。その結果、1位はセフカペンで45.2%、2位はセフジトレン16.9%、3位のセフジニル14.4%と続き、いずれも経口第3世代セフェムが並んでいます。

(出典)セフェム系抗菌薬:セフカペンが一番人気
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/survey/201510/544211.html

抗菌薬物療法を勉強すると、プライマリ・ケアのセッティングにおいて外来患者に抗菌薬を使用する場合、そもそも第3セフェムをチョイスするという判断がなかなか理解しがた行為ではありますが、処方頻度が高いのが実態ではあります。日経メディカル登録医師でもさえもこの現状であり、この結果は悪夢のようにも思えます。まああくまでセフェムを処方するなら、という事なのですが、第1世代セフェムはほとんど使用されていないのが現実であり、いずれ市場から消えてしまうのではないかと心配になるほどです。セフカペンを擁護するなんて言って全くその気配が見えてきませんが、気を取り直していきましょう。

セフカペン・ピボキシル、そんなに悪い抗菌薬なのでしょうか。よく言われるのがバイオアベイラビリティの低さと、そのブロードな抗菌スペクトラムです。中途半端な血中濃度で、組織での抗菌効果なんてほとんど期待できないうえに、やたら広い抗菌スペクトラムは耐性菌を増やし有害でしかない、という主張。また一般的な上気道炎にそもそも、3世代セフェムは必要ない、と言う主張もあり(いや多くの場合で抗菌薬は必要ない…だがしかし、抗菌薬で肺炎による入院を予防できるNNTは12000であるがゆえに、救われている人も確かにいる?しかしそれは少なくとも経口第3セフェムでのエビデンスは無いっ!ああ、きりがないこの議論…。)、僕はどちらかと言えば後者の観点から外来で経口3世代セフェムを使用する意義は低いと考えています。

(参考)外来小児患者の風邪症状にセフカペン、セフジトレン、クラリスロマイシン…
http://syuichiao.blogspot.jp/2014/01/blog-post_26.html

[セフカペン・ピボキシルにエビデンスはあるのか?]
cefcapene でPubmedを検索すると73件しかヒットしません。(平成27年10月16日現在)そのうち、臨床上参考となるエビデンスはかなり限定的です。主なランダム化比較試験は3つしかありません。順に見ていきましょう。

①細菌性副鼻腔炎に対するアモキシシリン-クラブラン酸とセフカペンの比較
Lee JE.et.al. A Randomized, Double-blinded, Open Label Study of the Efficacy and Safety of Cefcapene Pivoxil and Amoxicillin•Clavulanate in Acute Presumed Bacterial Rhinosinusitis. Clin Exp Otorhinolaryngol. 2011 Jun;4(2):83-7.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21716955

細菌性副鼻腔炎に抗菌薬が必要か、という前提の問題もあるかもしれませんが、読んでみます。抗菌スペクトラムに関して言えば、セフカペンとアモキシシリン・クラブラン酸はほぼ同等です。(医学書院 感染症レジデントマニュアル 第2版)

研究デザインはA randomized, open labeled, double-blinded trialとなっていて、盲検化についてよく分かりませんが、患者はどちらの治療に割り付けられていたかはわからないようになっているようです。(open labeled, double-blindedってなんやねん。ちなみに本文がフリーで読めるので、そこに書いてあるかもですが、時間の都合上深追いしません。)セフカペンは150mg/を1日3回、アモキシシリン/クラブラン酸は625mgを1日3回となっています。14日間の治療で患者の臨床症状を検討しているわけですが、両群に明確な差は無かったとしています。臨床的治癒は7日で96%~100%両群に統計的有意な差を認めていません。

スペクトラムが同等だから、まあ結果は同じでしょう、という見方もできますが、バイオアベイラビリティがものすごく低いと、巷でささやかれているセフカペンで100%近く治癒している? もしバイオアベイラビリティが低く、臨床的に有効な抗菌力を示していない理論を用いるのであれば、まあそもそも抗菌薬なんて使わなくても7日以内には臨床的治癒を達成できてしまうという見方もできてしまうのではないか、なんて考えてしまいます。これは抗菌薬不要論に傾く主張ですね。全然擁護していません…。

あえて言えば、消化管障害、おそらく下痢でしょうが、こちらはアモキシシリン・クラブラン酸で多かったようで、セフカペンは副作用が少なく、効果が同等である、なんて主張も可能かもしれません。

②連鎖球菌咽頭炎に対するアジスロマイシンvsセフカペン
Koga T.et.al. Evaluation of short-term clinical efficacy of 3-day therapy with azithromycin in comparison with 5-day cefcapene-pivoxyl for acute streptococcal tonsillopharyngitis in primary care. J Infect Chemother. 2011 Aug;17(4):499-503. PMID: 21249415
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21249415

戦わせている相手同士がいかがなものか、なんて思ってしまうわけですが、連鎖球菌咽頭炎には、普通ペニシリンだと思います。ただアレルギーのある人にはマクロライドを考慮することもあるでしょう。これは第2選択としてどの抗菌薬を使えばよいか、という疑問に対してある程度意義のあるエビデンスかも知れません。

A prospective, randomized, comparative multicenter studyとありますから、ランダム化比較試験のようです。アジスロマイシン3日間(88人、平均16.5歳)とセフカペン5日間(69人、平均16.9歳)の治療を比較しています。4日目における臨床的治癒はアジスロマイシンで80.7%、セフカペンで67.6%、両群で統計的有意差を認めませんでした。8日目では両群ともに95%を超えており、まあほぼ同等と言う感じです。アジスロマイシンは人によっては激しい下痢を起こすこともあるので、セフカペンと言う選択肢も考慮できるのかなあ、なんて思いますが、連鎖球菌咽頭炎治療における最大の目的はリウマチ熱の予防にあるわけで、そのあたりの検討はされておらず、この論文はあくまで代用のアウトカムの検討に過ぎないという見方もできてしまう…。はあ…、全然擁護できていません。

③連鎖球菌咽頭炎に対するアモキシシリンvsセフカペン
Sakata H. Comparative study of 5-day cefcapene-pivoxil and 10-day amoxicillin or cefcapene-pivoxil for treatment of group A streptococcal pharyngitis in children. J Infect Chemother. 2008 Jun;14(3):208-12. PMID: 18574656
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18574656

気を取り直して3つ目の論文。研究デザインはprospective multicenter randomized open-label comparative studyとあるのでオープンラベルのランダム化比較試験でしょう。6か月~12歳の連鎖球菌咽頭炎小児250人が対象となっています。セフカペン5日間(82人)セフカペン10日間(88人)アモキシシリン10日間(80人)の3群が比較されているようです。治療終了時のそれぞれの細菌が木的治癒は93.8%, 96.2%, 91.7%となっており、臨床的治癒はいずれも100%となっています。いずれも明確な差は無く、効果はほぼ同等と言う感じでしょうか。再発率に関しても一番高いのはセフカペン10日間のレジメンで4.0%、一番低いのはセフカペン5日間のレジメンで1.3%。なんだセフカペン5日間でいいのでは?なんて思えてきそうですが、これもリウマチ熱の問題や「バイオアベイラビリティが低い理論」を持ち出すと、そもそも抗菌薬いらなくね?という悲観的(?)な意見も出てきそうです…。

[セフカペン・ピボキシルの意外な有害事象]

個人的には経験したことはないのですが、PMDAより以下の注意喚起がなされています。

ピボキシル基を有する抗菌薬投与による小児等の重篤な低カルニチン血症と低血糖について
http://www.pmda.go.jp/files/000143929.pdf

「ピボキシル基を有する抗菌薬は中耳炎などの感染症の治療に汎用されていますが、小児等に投与した際に、重篤な低カルニチン血症に伴って低血糖症、痙攣、脳症等を起こし、後遺症に至る症例も報告されています。」とのこと。いやあ、恐ろしいですねぇ…。

[セフカペン・ピボキシルを擁護する?]

本稿の目的は擁護でしたが、どうにも批判的な要素が織り交じり、なんだか着地点が見えてきません。外来でセフカペンを処方する医師は、少なくとも患者に良くなってほしい、安心してほしい、そんな気持ちで処方しているわけで、毒を盛るつもりはないのだと思います。抗菌スペクトラムは第3世代セフェムですからかなり広い、下痢の副作用はアモキシシリン・クラブラン酸より少ないかも、場合によってはマクロライドより少ないかも。自分が処方しているセフカペンでまあ耐性菌が急に増殖するわけじゃないし、念のため出しておくか・・というロジックに陥りそうになるような気持ちもなんかわかるような、わからないような。

医療は良い面も悪い面も、そう二重性を帯びた性質を有します。リスクとベネフィット、それは両輪であり、良い面も悪い面も考えていかねばならないのは当たり前ですが、一方で批判するという立場においては悪い面ばかりが強調されることも多々あるでしょう。風邪に抗菌薬は悪、とするなら、悪という使われ方をする薬剤はたくさんあるはずです。それに対してはあまり注目することなく、風邪に抗菌薬には批判が集中する。その構図が僕は悪いとは思いませんが、なんとなく腑に落ちないなあ、なんて思うわけです。ちなみに風邪に抗菌薬を投与すると肺炎による入院がほんとにほんとにごくわずか(もはや誤差範囲かもしれないけれど)に減るんですよね。まあその分、起こりうるリスクの確率の方が高いのでしょうけど。

そう医療は常に確率的要素を孕んでいます。セフカペンが良いのか悪いのか、それは文脈にもよるかもしれません。ただ耐性菌の問題は人類共通のリスクと言えます。個別の文脈を考慮するというわけにもいかないこともあるかもしれません。セフカペン・ピボキシルのように、世間でさんざん批判されている薬剤の擁護を試みるという作業の中で、よりフェアな批判ができる、今回の記事をまとめながらそんなことを考えていました。このロジックを今後様々な薬剤評価に応用したいと思います。

*************************************
2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

*************************************

■マクロライドと死亡リスク■
Li X.et.al. Association of macrolides with overall mortality and cardiac death among patients with various infections: A meta-analysis. Eur J Intern Med. 2015 Sep 24. pii: S0953-6205(15)00294-0. [Epub ahead of print]PMID: 26412674
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26412674
背景と研究デザイン:感染症治療におけるマクロライドと全死亡、心臓死亡の関連を検討したメタ分析

P:あらゆる感染症を有する患者
E:マクロライドレジメン
C:非マクロライドレジメン
O:総死亡、心臓死亡

総死亡:オッズ比0.65[95%信頼区間0.46~0.92]
心臓死亡:オッズ比1.43[95%信頼区間0.86~2.40]

なおサブグループ解析によれば48歳を超える集団では心臓死亡のリスクは上昇した。
オッズ比1.99[95%信頼区間1.53~2.59]

■大腸腺腫再発予防に対するビタミンD、カルシウムサプリメントの効果■
Baron JA.et.al. A Trial of Calcium and Vitamin D for the Prevention of Colorectal Adenomas. N Engl J Med. 2015 Oct 15;373(16):1519-30. PMID: 26465985
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26465985
背景と研究デザイン:ビタミン Dやカルシウムの摂取量が高いと、大腸腫瘍のリスクが低下することがこれまでの疫学研究で示唆されている。ビタミン D,カルシウム,またはその両方の摂取が大腸腺腫を予防するか検討した2重盲検ランダム化比較試験

P:大腸腺腫の既往があるが、全大腸内視鏡検査により残ポリープのない患者
E:ビタミン D3 1000 IU/日、カルシウム1200 mg/日それぞれ単独、もしくは併用
C:プラセボ
O:大腸内視鏡検査までの期間に診断される腺腫(腺腫の再発)

腺腫再発リスクに明確な差は見られず

ビタミンD投与なし群に比べてビタミン投与群で
リスク比0.99[95%信頼区間0.89~1.09]

カルシウム投与なし群に比べてカルシウム投与群で
リスク比0.95[95%信頼区間0.85~1.06]

プラセボ群に比べてビタミンD、カルシウム併用群で
リスク比0.93[95%信頼区間0.80~1.08]

■Choosing Wisely Campaignその後■
Rosenberg A.et.al. Early Trends Among Seven Recommendations From the Choosing Wisely Campaign. JAMA Intern Med. 2015 Oct 12:1-9. [Epub ahead of print] PMID: 26457643
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26457643
背景と研究デザイン:Choosing Wisely Campaignにより、実際に行われている医療にどのような変化があったのか検討した後ろ向き解析

P:医療をうける人全般
E:Choosing Wisely Campaign実施後
C:Choosing Wisely Campaign実施前
O:提供される医療の頻度変化

①単純な頭痛のための画像検査
・14.9%⇒13.4%  trend estimate, 0.99 [95% CI, 0.98-0.99]; P < .001
②心疾患の既往のない患者への心臓の画像検査
・10.8%⇒9.7% (trend estimate, 0.99 [95% CI, 0.99-0.99]; P < .001).
③腰痛診療のレッドフラッグに該当しない腰痛に対する画像検査
・53.7% utilization throughout study; P = .71
④既往と身体検査の結果、特筆すべき事項がない患者への術前胸部X線照射
・trend estimate, 1.00 [95% CI, 1.00-1.00]; P = .70
⑤30歳未満の女性に対するHPV検査
・4.8% ⇒ 6.0% (trend estimate, 1.01 [95% CI, 1.00-1.01]; P < .001
⑥急性副鼻腔炎に対する抗菌薬
・84.5% ⇒ 83.7%; trend estimate, 1.00 [95% CI, 1.00-1.00]; P = .16
⑦高血圧、心不全、慢性腎臓病を有する患者へのNSAIDs投与
・14.4% ⇒ 16.2% (trend estimate, 1.02 [95% CI, 1.01-1.02]; P < .001

■テレビの視聴時間とCOPD関連死亡■
Ukawa S.et.al. Association Between Average Daily Television Viewing Time and Chronic Obstructive Pulmonary Disease-Related Mortality: Findings From the Japan Collaborative Cohort Study. J Epidemiol. 2015;25(6):431-6.PMID: 25947581
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25947581
背景と研究デザイン:テレビの視聴時間とCOPD関連死亡を検討した日本のコホート研究(JACCstudy)

P:癌、脳卒中、心筋梗塞、結核の既往のない76688人(男性43274人、平均56.9歳、喫煙20本/日以上は男性で約50%、女性では3%~7%程度)
E:テレビの視聴時間2~4時間、4時間以上
C:テレビの視聴時間2時間未満
O:COPD関連死亡

追跡期間:19.4年
交絡因子:年齢、地域、喫煙状況、BMI、教育水準、妊娠状況、アルコール摂取、運動時間

男性では4時間以上の視聴でCOPD関連死亡が増加。女性では差が見られず。(そもそも女性ではCOPDの最大要因と考えられる喫煙者が少ない)

・男性2~4時間視聴:ハザード比1.40[95%信頼区間0.92~2.14]
・男性4時間以上視聴:ハザード比1.63[95%信頼区間1.04~2.55]
・女性2~4時間視聴:ハザード比1.03[95%信頼区間0.42~2.55]
・女性4時間以上視聴:ハザード比0.84[95%信頼区間0.29~3.28]

喫煙状況や運動時間で補正していることからテレビの視聴時間が独立したリスクファクターなのか、興味深い

■インフルエンザワクチンと肺炎予防効果■
Grijalva CG.et.al. Association Between Hospitalization With Community-Acquired Laboratory-Confirmed Influenza Pneumonia and Prior Receipt of Influenza Vaccination. JAMA. 2015 Oct 13;314(14):1488-97PMID: 26436611
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26436611
背景と研究デザイン:インフルエンザ感染症の重篤な合併症である肺炎とインフルエンザワクチン接種の関連を検討した症例対照研究

P:市中肺炎で入院した2767人
(症例)インフルエンザ陽性者162人
(対照)インフルエンザ陰性者2605人
E:インフルエンザワクチン接種あり
C:インフルエンザワクチン接種なし
O:肺炎発症

交絡調整:人口統計、併存疾患、季節、試験施設、および疾患発症のタイミング

インフルエンザ陽性患者162人中28人、陰性の対照患者2605人中766人がワクチンを接種。
調整オッズ比0.43[95%信頼区間0.28~0.68]
ワクチンの推定有効率56.7%[95%信頼区間31.9%~72.5%]

■高齢者におけるインフルエンザワクチンの有用性■
Chan TC.et.al. Effectiveness of influenza vaccination in institutionalized older adults: a systematic review. J Am Med Dir Assoc. 2014 Mar;15(3):226.e1-6. PMID: 24321878
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24321878
背景と研究デザイン:高齢者におけるインフルエンザワクチンとインフルエンザ関連入院の関連を検討したシステマテックレビュー・メタ分析

P:11研究に参加した11,262人の高齢者
E:インフルエンザワクチンの接種あり
C:インフルエンザワクチンの接種なし
O:インフルエンザ様症状、インフルエンザ、インフルエンザもしくは肺炎による死亡(総死亡は検討せず)のd vaccine effectiveness(VE)

・肺炎:37%[95%信頼区間18%~53%]
・肺炎もしくはインフルエンザによる死亡34%[95%信頼区間10%-53%]
異質性や出版バイアスを認めず。

*************************************
3. CASE REPORT
-気になる症例報告をピックアップします-

*************************************
■ルセオグリフロジンによる薬疹■
北本 友佳 他 ルセオグリフロジンによる薬疹が経過より疑われた2型糖尿病の1例 糖尿病 Vol. 58 (2015) No. 5 p. 317-322
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/58/5/58_317/_article/-char/ja/
63歳女性で、食物アレルギーのある2型糖尿病患者。シタグリプチン50 mg/日、グリメピリド0.5 mg/日でHbA1c 8 %。とルセオグリフロジン2.5 mg/日追加した後、8日後、頚部に紅斑が出現し,四肢・体幹に拡大。ルセオグリフロジンの内服を中止後も改善せず、ステロイド内服にも反応しなかった。皮膚科診察にてルセオグリフロジンによる薬疹疑いと診断、プレドニゾロン40 mg/日点滴にて,皮疹改善。

*************************************
4. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

*************************************
経口第3世代セフェム、なぜか外来で使用される機会が非常に多い薬剤ですが、その90%くらいは妥当な使用法ではないような印象です。ただ一方で、感染症を専門とする医療者からは非常に叩かれている同薬剤。この2極化の構造がちょっと興味深いです。

このような構造は医療のあちらこちらに散見されるような気もしています。スクリーニング事業などもその良い例ではないでしょうか。

このことから示唆される重要なポイントは、物事の一つの側面が「明確」になると、そのもう一つの側面が「不明確」になるという事ではないでしょうか。物事の多くが2面性を備えています。医療ももちろん、リスク、ベネフィットという2面性を備えていますが、リスクが強調されると、ベネフィットは途端に見えずらくなり、ベネフィットが強調されると、リスクが見えにくくなる。

おおよそ世の中の出来事は2極化しないとわかりづらいのだと思います。世界をコトバで分けて理解するように、良いもの、悪いもの、という区別は物事をより理解しやすくします。しかし、このプロセスは単純化、という作業に他なりません。大事なのは、複雑なまま物事を見るという事じゃないでしょうか。僕もあいまいなままモヤモヤみていこうと思います。

(参考)モヤモヤしたものをモヤモヤ見るということ
http://syuichiao.hatenadiary.com/entry/2015/10/13/223053
#学校 #教育 #受験 #外国語 #科学

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2015.Nov.4;1(42)

スレッド
*************************************
1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-DPP4阻害薬とRS3PE症候群・重篤な関節痛-

*************************************

[ポイント]
■DPP4阻害薬によると疑われるPS3PE症候群が報告されている。
■DPP4阻害薬によると疑われる多発性関節痛が報告されている。
■現時点で疫学的な関連は不明である。

[イントロダクション]
米国食品医薬品局(FDA)は2015年8月、DPP4阻害薬対して、重症化し得る関節痛を生じる可能性があるとして、米国内で承認されているすべてのDPP4阻害薬の添付文書に関節痛のリスクを追記するよう求める安全性情報を出しました。

DPP-4 Inhibitors for Type 2 Diabetes: Drug Safety Communication - May Cause Severe Joint Pain
http://www.fda.gov/Safety/MedWatch/SafetyInformation/SafetyAlertsforHumanMedicalProducts/ucm460238.htm

2006年10月16日~2013年12月31日までにDPP4阻害薬による重篤な関節痛症例は33例報告されており、シタグリプチンが最多の28例となっています。33例のうち10例が入院、22例はDPP4阻害薬投与開始から1か月以内に発症していたと報告されています。

また2015年6月付で、シタグリプチンの添付文書が改訂となっており、その他の副作用にPS3PE症候群の副作用が追加になっています。まずはこのPS3PE症候群について簡単にまとめていきます。

[PS3PE症候群]
PS3PE症候群(Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edema:圧痕性浮腫を伴う寛解性血清反応陰性対称性滑膜炎) は1985年にMcCartyらによりJAMAに報告されたのが最初の症例と言われています。(※1)
高齢男性8名、高齢女性2名(65歳と66歳)における
・予後の良い (Remitting)
・リウマチ因子陰性 (Seronegative)
・対称性 (Symmetrical)
・手背足背の圧痕浮腫を伴う滑膜炎 (Synovitis With Pitting Edema)
で、その頭文字(R=remitting, S3=seronegative, symmetrical, synovitis, PE=pitting edema)をとって、RS3PEとしたと言われています。比較的急な発症の、左右対称性の手指・手の関節・滑膜炎炎、手の圧痕性浮腫が典型と言われています。治療は、比較的少量のステロイドによく反応し、多くの場合で寛解することが多いようです。なお再発・再燃は比較的稀です。

原因として悪性腫瘍、リウマチ性多発筋痛症、シェーグレン症候群、パーキンソン病、パルボウイルスなどの感染症と関連が指摘されています。

[DPP4阻害薬とRS3PE症候群]
山内らは2012年にDPP4阻害薬によると思われるRS3PE症候群2例を報告しています。(※2)

[症例1]
2型糖尿病歴30年の74歳女性、グリクラジド20mgからシタグリプチン50mgへ切り替えたところ、5週間に手の浮腫、微熱、倦怠感、手の甲に重度の圧痕性浮腫、足の甲や指に軽度の浮腫発現。

[症例2]
2型糖尿病歴1年の71歳男性、ビルダグリプチン100mg投与開始後8週後に手の甲の圧痕性浮腫に気づいた。

いずれのケースも薬剤投与中止後軽快しています。因果関係については、明確なことは分からないがDPP4阻害薬とRS3PE症候群の関連を示唆した最初の報告としています。2015年にはDPP4阻害薬やインスリンを使用していない2型糖尿病患者でのRS3PE症候群も4例が報告されており(※3)因果関係については不明な部分も多い印象です。今後の研究に注目です。なおシタグリプチンのメーカー発行「使用上の注意改訂のお知らせ」にも2例の症例報告が記載されています。
http://www.kwn-di.com/ono_pharmaceutical/html/product_files/47/rev/pdf/1202/GLA_shirase.pdf

[DPP4阻害薬の使用実態]
当ブログでもDPP4阻害薬の有効性、安全性について繰り返し取り上げてきましたが、現状の使用実態について東京都の報告がありましたのでご紹介します。(※4)
この報告は2013年1月~6月にかけて,東京都内で勤務する医師(1086名:回収率85.5%)に対する横断調査です。主な結果は以下の通りです。

BMI<25m2/kg未満の症例で血糖コントロールが比較的良好例に対する第1選択
▶専門医ではBG薬,一般医ではDPP-4阻害薬
HbA1c 8%以上のコントロール不良糖尿病例
▶専門医,一般医ともDPP-4阻害薬が第1選択薬
DPP-4阻害薬の処方選択順位は様々な症例に対して高まっており,その傾向は専門医より一般医に強く認められたとしています。2013年6月時点では、SAVOR-TIMI53、EXAMINEの結果はまだ発表されていませんから、その後の処方実態はどうなのか、と言う問題もありますが、現状、糖尿病治療薬として主流を担っていると言っても良いかもしれません。そのような中でFDAは重症化し得る関節痛が起こり得るとして警告を出しました。

[DPP4阻害薬と関節痛]
現時点で疫学的な研究は見つけられませんでしたが症例報告は複数あります。日本からも出ていました。(※5)2型糖尿病を有する48歳の女性です。シタグリプチン投与3か月後にリウマトイド因子が増加し、多発関節炎に続く関節リウマチを発症したと報告されています。

Crickx Eらは2014年にDPP4阻害薬によると思われる多発関節炎の症例3例を報告しています。(※6)シタグリプチン2例、ビルダグリプチン1例となっており、いずれもDPP4中止後1~3週間で軽快したとしています。3例のうち2例は口腔乾燥が見られました。治療は主にステロイドが投与されています。

[まとめ]
DPP4阻害薬の有用性については不明な部分も多く、第一選択で積極的に用いるべき根拠は限定的ですが、それにも関わらず、実臨床では多く用いられているという実態があります。現時点で多発性関節炎やRS3PE症候群との疫学的な関連は不明な部分も多いですが、決して軽視できるテーマではないでしょう。今後の研究に注目です。

[参考文献]
(※1) McCarty DJ.et.al. Remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema. RS3PE syndrome. JAMA. 1985 Nov 15;254(19):2763-7. PMID: 4057484
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/4057484
(※2) Yamauchi K.et.al. RS3PE in association with dipeptidyl peptidase-4 inhibitor: report of two cases. Diabetes Care. 2012 Feb;35(2):e7. PMID: 22275459
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22275459
(※3)Oyama K.et.al. Remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema syndrome in individuals with type 2 diabetes mellitus or impaired glucose tolerance. Diabetes Res Clin Pract. 2015 Oct;110(1):e5-8. PMID: 26293448
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26293448
(※4) 小橋 京子 他 東京都における糖尿病治療薬の処方動向―アンケート調査をふまえて―昭和学士会雑誌Vol. 74 (2014) No. 6 p. 661-668
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/74/6/74_661/_article/-char/ja/
(※5) Yokota K.et.al. Sitagliptin (DPP-4 inhibitor)-induced rheumatoid arthritis in type 2 diabetes mellitus: a case report. Intern Med. 2012;51(15):2041-4. PMID: 22864134
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22864134
(※6) Crickx E.et.al. DPP4 inhibitor-induced polyarthritis: a report of three cases. Rheumatol Int. 2014 Feb;34(2):291-2. PMID: 23462883
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23462883

*************************************
2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

*************************************
■DPP4阻害薬と感染症リスク■
Yang W.et.al. DPP-4 inhibitors and risk of infections: a meta-analysis of randomized controlled trials. Diabetes Metab Res Rev. 2015 Sep 29. [Epub ahead of print] PMID: 26417956
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26417956
背景と研究デザイン:DPP4阻害薬と感染症リスクを検討したランダム化比較試験のメタ分析

P:74のランダム化比較試験に参加した2型糖尿病患者
E:DPP4阻害薬の投与
C:プラセボ、メトホルミン、チアゾリジン、αグルコシダーゼ阻害薬、SU剤の投与
O:感染症発症

DPP4阻害薬と感染症に明確な関連を認めず。
対プラセボ:オッズ比0.97[95%信頼区間0.91~1.04]
対メトホルミン:オッズ比1.22[95%信頼区間0.95~1.56]
対SU剤:オッズ比1.09[95%信頼区間0.93~1.29]
対チアゾリジン:オッズ比0.86[95%信頼区間0.65~1.14]
対αGI:オッズ比1.03[95%信頼区間0.33~3.22]

なおDPP4阻害薬各クラスにおいてもプラセボとの比較でリスクは同等。

■降圧薬の服用タイミングと糖尿病発症リスク■
Hermida RC.et.al. Bedtime ingestion of hypertension medications reduces the risk of new-onset type 2 diabetes: a randomised controlled trial. Diabetologia. 2015 Sep 23. [Epub ahead of print] PMID: 26399404
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26399404
背景と研究デザイン:降圧薬服用タイミングで新規糖尿病発症リスクに与える影響を検討したオープンラベルランダム化比較試験(PROBE)

P:糖尿病のない高血圧患者2012人(男性976人、平均52.7歳)
E:降圧薬を就寝前に服用
C:降圧薬を起床時に服用
O:新規糖尿病発症

追跡期間:5.9年(中央値)
新規糖尿病発症は起床時服用に比べて就寝時服用で有意に低い
アウトカム 就寝時 起床時 調整ハザード比[95%CI]
糖尿病発症 4.8% 12.1% 0.43 [0.31~0.61]


特にARBやACE阻害薬、β遮断薬でその傾向が認められる。

■ICUにおける発熱患者へのアセトアミノフェンの効果■
Young P.et.al. Acetaminophen for Fever in Critically Ill Patients with Suspected Infection. N Engl J Med. 2015 Oct 5. [Epub ahead of print] PMID: 26436473
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26436473
背景と研究デザイン:アセトアミノフェンは集中治療室(ICU)において、感染症の疑いのある患者に良く使用されているが、その効果については不明である。感染症、もしくは感染症が疑われる38℃以上の発熱を有するICU患者(700人)を対象に、6時間ごとにアセトアミノフェン1g静注とプラセボ投与を比較し割り付けから28日以内のICUに入室していない期間(ICU-free days)を検討したランダム化比較試験

P:16歳以上で、割り付け12時間以内に38℃以上の発熱を有する感染症、もしくはその疑いのあるICU入室患者700人(平均57.9~59.1歳、男性64.6%~65.4%)
E:ICU退室、解熱、抗菌薬治療中止、死亡に至るまでアセトアミノフェン1gを6時間おきに静注
C:プラセボを静注
O:割り付けから28日以内のICUに入室していない期間(ICU-free days)

追跡状況:700人をランダム化し、ロストは10例、690人が最終解析
統計解析:ITT解析
盲検化:2重盲検
サンプルサイズ:700例

アセトアミノフェンの投与は、ICU在室日数に影響を与えない
ICUに入室していない期間
アウトカム アセトアミノフェン プラセボ 差[95%信頼区間]
日数(中央値[IQR]) 23[13~25] 22[12~25] 0日[0~1]


■ニコチン含有量の少ないタバコと1日の喫煙本数■
Donny EC.et.al. Randomized Trial of Reduced-Nicotine Standards for Cigarettes. N Engl J Med. 2015 Oct;373(14):1340-9. PMID: 26422724
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26422724
背景と研究デザイン:FDAは煙草に含有しているニコチン量の基準を設定できる。ニコチン含有量と喫煙への影響を検討した2重盲検ランダム化比較試験

P:18歳以上で禁煙に興味のない1日に5本以上喫煙をする参加者840人(平均41.7歳、男性57.3%、平均喫煙15.6本)
E:評価対象煙草6種類のうち1種類を喫煙(ニコチン含有量:15.8mg/g(119人) 5.2mg/g(122人) 2.4mg/g(119人) 1.3mg/g(119人) 0.4mg/g(119人) 0.4mg/g高タール含有 (123人)
C:常用している銘柄のたばこを喫煙(118人)
O:6 週目における 1 日あたりの喫煙本数

6 週目における 1 日あたりの平均喫煙本数
ニコチン含有量の少ないタバコ(2.4 mg/g,16.5本、1.3 mg/g,16.3本、0.4 mg/g 14.9本)で
常用している銘柄のたばこ(22.3本)もしくはニコチン含有量 15.8 mg/gの煙草(21.3本)に比べて有意に本数が少ない(P<0.001)
ニコチン含有量を減らしたたばこは、標準的なニコチン含有量のたばこと比べて、喫煙本数を低下させた。

■カルシウム摂取と骨折予防■
Bolland MJ.et.al. Calcium intake and risk of fracture: systematic review. BMJ. 2015 Sep 29;351:h4580. PMID: 26420387
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26420387
背景と研究デザイン:カルシウム摂取と骨折予防を検討した、ランダム化比較試験、コホート研究のシステマテックレビュー

P:50歳以上の患者
E:カルシウムサプリメント、食事性カルシウム摂取が多い
C:カルシウムサプリメント、食事性カルシウム摂取が少ない
O:骨折

食事性カルシウム摂取に関するRCTは過去に2つしか報告されていない。観察研究はコホート研究44研究から50のレポートが報告されている。食事性カルシウム摂取37件、牛乳14件。多くの研究でカルシウム摂取と骨折予防の関連を認めず。
(14/22 for total, 17/21 for hip, 7/8 for vertebral, and 5/7 for forearm fracture)

カルシウムサプリメントでは
全骨折(20研究58 573人; 相対危険0.89[95%信頼区間0.81 ~0.96]
脊椎骨折(12研究48 967人:相対危険 0.86[95%信頼区間0.74~1.00]
大腿骨頸部骨折 (13研究56 648人;相対危険 0.95[95%信頼区間0.76~1.18]
前腕骨折 (8研究51 775人;相対危険 0.96[0.85~1.09]

食事のカルシウム摂取を増やしても骨折を予防できるか明確なことは分からない。カルシウムサプリメントでも大腿骨頸部骨折、前腕骨折が明確に減るという根拠は無く、その効果については議論の余地がある。

■福島県における甲状腺がん発症率■
Tsuda T.et.al. Thyroid Cancer Detection by Ultrasound Among Residents Ages 18 Years and Younger in Fukushima, Japan: 2011 to 2014. Epidemiology. 2015 Oct 5. [Epub ahead of print] PMID: 26441345
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26441345
背景と研究デザイン:東日本大震災の後、津波による影響で、福島第一原発から放射性物質の放出を伴う事故が発生した。放射線曝露による住民の甲状腺がんの発症が懸念されている。
P:18歳以下の福島県住民
E:甲状腺がんスクリーニングのデータに基づく甲状腺がん発症率
C:甲状腺がんの日本における平均年間発症率
O:福島県住民の甲状腺がん発症率比

発症率比は福島県住民で、日本の平均よりも20~50倍高い。
middle district of the prefecture:発生率比50[95%信頼区間25~90]
Koriyama City district:発生率比39[95%信頼区間25~57]

当報告はクリーニングのデータに基づく甲状腺がん発症率と平均年間発症率を比較しており、過剰診断の影響を排除できていない。甲状腺がんのスクリーニングによる過剰診断は韓国の事例で顕著であり、当論文結果は慎重に解釈せねばならないだろう。

*************************************
3. CASE REPORT
-気になる症例報告をピックアップします-

*************************************

■evofloxacin(LVFX)よる溶血性貧血■
土手内 靖 他 Levofloxacinによると推測される薬剤性免疫性溶血性貧血の1例 医学検査
Vol. 64 (2015) No. 1 p. 60-65
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jamt/64/1/64_14-50/_article/-char/ja/
69歳男性。腹痛、発熱が1週間続くため近医を受診。腸間膜リンパ節炎と診断されLVFXが処方され、2日間内服したが症状の改善なく緊急入院。入院3病日,嘔気,血圧低下,褐色尿および眼球黄染が出現,血液検査で著明な貧血(Hb 6.7 g/dL)と溶血所見あり。自己免疫性溶血性貧血。薬剤リンパ球刺激試験を施行したところ,LVFXに対し陽性であり,臨床経過と併せ,本例はLVFXによる薬剤性免疫性溶血性貧血(Drug-induced immune hemolytic anemia:DIIHA)と推測された。

*************************************
4. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

*************************************

DPP4阻害薬の有害事象報告がだいぶ集積されてきた印象です。因果関係ははっきりとしていない物も多いですが、おおむね以下のような事例が話題となりました。
・急性膵炎
・心不全
・筋骨格筋系有害事象
現時点で感染症を増やすという明確な根拠はありません。低血糖が少ないことから副作用の少ない薬剤として注目されてきましたが、その効果は微妙で、新たな有害事象が報告されてきている状況です。今後もDPP4阻害薬のリスクベネフィットには注目していきます。
#学校 #教育 #受験 #外国語 #科学

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2015.Oct.28;1(41)

スレッド
*************************************
1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-特集:スタチン系薬剤の減処方を模索する‐

*************************************

[イントロダクション]
高齢者におけるスタチン系薬剤の効果については限定的です。ランダム化比較試験8研究のメタ分析によれば、高齢者(平均73歳)に対するスタチンの一次予防に関する効果は心筋梗塞や脳卒中を減らす可能性があるものの、総死亡や心血管死亡に関しては明確なことは示されていません。

Savarese G.et.al. Benefits of statins in elderly subjects without established cardiovascular disease: a meta-analysis. J Am Coll Cardiol. 2013 Dec 3;62(22):2090-9. PMID: 23954343
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23954343

主な結果を以下にまとめます。
高齢者におけるスタチンの効果
アウトカム 相対危険[95%信頼区間]
心筋梗塞 0.606 [0.434~0.847]
脳卒中 0.762 [0.626~0.926]
総死亡 0.941 [0.856〜1.035]
心血管死亡 0.907 [0.686~1.199]



観察研究では、なんと冠動脈疾患すらも減らしていないという結果になっています。

Alpérovitch A.et.al. Primary prevention with lipid lowering drugs and long term risk of vascular events in older people: population based cohort study. BMJ. 2015 May 19;350:h2335. PMID: 25989805
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25989805

この研究はフランスの3つの都市に在住している66歳以上の心血管疾患の既往のない高齢者7484人(平均79.3歳、女性63%)を対象にしたコホート研究です。高齢者におけるスタチンやフィブラートなどの脂質低下療法と血管イベントとの関連(一次予防効果)を検討しています。主な結果を以下にまとめます。

調整ハザード比[95%CI]
アウトカム スタチンorフィブラート スタチン フィブラート
冠動脈疾患+脳卒中 0.91[0.76~1.09] 0.88[0.69~1.13] 0.95[0.75~1.20]
脳卒中 0.66[0.49~0.90] 0.68[0.45~1.01] 0.66[0.44~0.98]
冠動脈疾患 1.12[0.90~1.40] 1.13[0.84~1.52] 1.12[0.84~1.49]


高齢者の平均余命を考慮すれば、スタチン系薬剤における心血管イベント抑制効果にどの程度のベネフィットがあるかは熟慮せねばならないでしょう。真のアウトカムに対する高齢者日本人のスタチンの有用性を検討したエビデンスはありません。

[スタチンの延命効果は思いのほか小さい??]
やや衝撃的な研究が出ています。その解析手法については議論の余地があるかもしれませんので、この論文の結果については不明な部分も多いのですが、あまりにもインパクトが高いのでご紹介しましよう。

Kristensen ML.et.al. The effect of statins on average survival in randomised trials, an analysis of end point postponement. BMJ Open. 2015 Sep 24;5(9):e007118. PMID: 26408281
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26408281

この論文によれは、スタチンの一次予防、二次予防に関する延命効果は中央値でそれぞれ、3.2日、4.1日となっています。ちょっと信じがたい…。

スタチンの延命効果
臨床試験名 スタチン 延命日数
ALLHAT-LL Pravastatin −4.96
ASCOT-LLA Atorvastatin 1.99
CARDS Atorvastatin 18.66
JUPITER Rosuvastatin 7.26
MEGA Pravastatin 4.42
WOSCOPS Pravastatin 9.33
4S Simvastatin 27.18
GISSI-HF Rosuvastatin −9.51
GISSI-P Pravastatin 1.76
LIPID Pravastatin 22.05
CORONA Rosuvastatin 4.09


いずれの研究でも1か月の延命すら示唆していないというかなり衝撃の結果になっていますが、その解析手法はフォトショップを用いた生存曲線の分析のようで、結果の妥当性はいまいちよくわかりません。

[スタチンはどのタイミングなら安全に中止できるのか]
余命が1か月~1年と予測される患者に対する、スタチンの投与中止に関するランダム化比較試験が報告されています。

Kutner JS.et.al. Safety and benefit of discontinuing statin therapy in the setting of advanced, life-limiting illness: a randomized clinical trial. JAMA Intern Med. 2015 May;175(5):691-700. PMID: 25798575
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25798575

この研究は、スタチンを一次予防もしくは二次予防に3か月以上使用している患者を対象にたもので、継続投与、薬剤中止を比較して60日以内の死亡やQOLを検討しています。対象となったのは平均74.1歳の381人で48.8%ががん患者でした。

60日以内の死亡はスタチン中止群で23.8%、スタチン継続群で20.3%となっており、その差の90%信頼区間は-3.5%~10.5%でした。この研究では非劣性マージンが5%と設定されており、継続投与群に比べて、薬剤中止群の非劣性が示されたわけではありません。しかしながら統計的な有意差は認めず、QOLに関してはスタチン中止群で有意に高いことが示されています。高齢者において余命が1年に満たないと推測される症例ではスタチンの中止を考慮しても良いかもしれません。

[スタチンの減処方を模索する]
スタチン系薬剤の高齢者におけるベネフィットはあまり明確ではありません。特に日本人では大きなベネフィットが得られる可能性は少ないでしょう。START (screening tool to alert doctors to the right treatment)に該当しない限りは、高齢者のスタチンは中止を考慮する価値はあるかと思います。ちなみにSTART (screening tool to alert doctors to the right treatment)では「絶食時の血清コレステロール値>193mg/dl または冠動脈疾患リスクのある糖尿病患者へのスタチン」の使用が推奨されています。
Barry PJ.et.al. START (screening tool to alert doctors to the right treatment)--an evidence-based screening tool to detect prescribing omissions in elderly patients. Age Ageing. 2007 Nov;36(6):632-8. PMID: 17881418
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17881418

このクライテリアに該当していたとしても余命が1年未満と推定される高齢者では、スタチン継続の臨床的意義はあまり大きくない印象です。

*************************************
2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

*************************************

■ガイドライン推奨薬剤の実効性■
Tinetti ME.et.al. Association between guideline recommended drugs and death in older adults with multiple chronic conditions: population based cohort study. BMJ. 2015 Oct 2;351:h4984. PMID: 26432468
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26432468
背景と研究デザイン:複数の慢性疾患を有する高齢者において、ガイドラインで推奨されている薬物治療がその生命予後に与える影響を検討した人口ベースコホート研究

P:メディケアデータより、心房細動、冠動脈疾患、慢性腎臓病、うつ病、糖尿病、心不全、高脂血症、高血圧症、血栓塞栓症のうち2つ以上の疾患を有する65歳以上のアメリカ人8578人(平均77.4歳)
E:β遮断薬、Ca拮抗薬、クロピドグレル、メトホルミン、ARB、SSRI、SNRI、スタチン;チアジド、ワルファリンを含む薬剤をガイドラインの推奨に基づき使用
C:薬剤使用なし
O:当該疾患による死亡

追跡期間中央値:24か月
交絡調整:年齢、性別、人種、民族、収入、入院日数、生活環境、BMI、喫煙状況、聴力・視力障害、治験薬以外の薬剤、 補助器具の使用、尿失禁、加入保険、認知障害、身体機能レベル、慢性疾患症状

主な結果は以下の通り(調整ハザード比[95%信頼区間]
・β遮断薬
心房細動:0.59[0.48~0.72]
冠動脈疾患:0.70[0.59~0.83]
心不全0.65[0.57~0.81]
・スタチン
心房細動:0.75[0.62~0.90]
冠動脈疾患:0.75[0.62~0.92]
心不全0.68[0.58~0.80]

▶詳細は以下を参照
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4591503/figure/fig1/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4591503/figure/fig2/

■貧乏ゆすりは体にわるいのか■
Hagger-Johnson G.et.al. Sitting Time, Fidgeting, and All-Cause Mortality in the UK Women's Cohort Study. Am J Prev Med. 2015 Sep 4. pii: S0749-3797(15)00345-1. PMID: 26416340
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26416340
背景と研究デザイン:座位行動を含む身体を動かさない状況は死亡リスクとの関連が示唆されている。貧乏ゆすりをすることでその関連性が否定できるか検討したコホート研究

P:United Kingdom (UK) Women's Cohort Studyより37~78歳の12,778 人の女性(平均55.6歳)
E:日中の座位行動(5〜6時間、7~17時間
C:日中の座位行動(0~4時間)
O:死亡

調整した交絡因子:年齢、慢性疾患、身体活動レベル、座位時間、学歴、職業社会階級、退職の状態、喫煙、アルコール、果物/野菜の消費量、睡眠時間

表タイトル
貧乏ゆすりすくない 貧乏ゆすり中等度 貧乏ゆすり多い
5~6時間座位 1.17(0.95~1.45) 1.10(0.72,〜1.68) 0.63(0.43~0.91)
7時間以上座位 1.30(1.02~1.66) 0.75(0.44~1.29) 0.76(0.50~1.15)


■キノロンと解離性大動脈瘤リスク■
Lee CC.et.al. Risk of Aortic Dissection and Aortic Aneurysm in Patients Taking Oral Fluoroquinolone. JAMA Intern Med. 2015 Oct 5:1-9. PMID: 26436523
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26436523
背景と研究デザイン:キノロンの解離性大動脈瘤発症リスクを検討した症例対照研究

P:Taiwan's National Health Insurance Research Databaseより
(症例)解離性大動脈瘤を発症した1477人
(対照)147 700人
E:キノロンの使用あり(現在使用:60日以内 過去使用:61~365日前、1年以上前使用)
C:キノロンの使用なし
O:解離性大動脈瘤発症
交絡調整:傾向スコア

キノロンの現在使用で解離性大動脈瘤リスク増加
・率比2.43[95% CI, 1.83-3.22]
過去使用でもわずかにリスク増加
・率比1.48[95% CI, 1.18-1.86]

■喘息治療におけるマクロライド■
Kew KM.et.al. Macrolides for chronic asthma. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Sep 15;9:CD002997. PMID: 26371536
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26371536/
背景と研究デザイン:慢性喘息管理におけるマクロライドの有用性を検討したコクランレビュー

P:23のランダム化比較試験に参加した喘息患者1513人
E:マクロライドの使用
C:プラセボの使用
O:入院を要する喘息増悪、QOL、ステロイド使用など

入院を要する喘息増悪はオッズ比0.98[0.13~7.23](2研究143人 I(2) = 0%)で、主要な臨床アウトカムについては不明。

■砂糖入り飲料と高血圧■
Jayalath VH.et.al. Sugar-sweetened beverage consumption and incident hypertension: a systematic review and meta-analysis of prospective cohorts. Am J Clin Nutr. 2015 Oct;102(4):914-21. PMID: 26269365
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26269365
背景と研究デザイン:砂糖入り飲料と高血圧リスクを検討した前向きコホート研究のメタ分析

P:6つの前向きコホート研究に参加した240,508人
E:砂糖入り飲料摂取多い(最高四分位)
C:砂糖入り飲料摂取少ない(最低四分位)
O:高血圧

率比1.12[95%信頼区間:1.06~1.17]

■屋外遊びと近視■
He M.et.al. Effect of Time Spent Outdoors at School on the Development of Myopia Among Children in China: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2015 Sep 15;314(11):1142-8PMID: 26372583
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26372583
背景と研究デザイン:屋外での遊びと近視の関連を検討したクラスターランダム化比較試験

P:中国における12の小学校
E:40分の屋外活動を追加する介入群6校
C:非介入群6校
O:近視の3年累積発生率

近視発症は、介入群30.4%、非介入群39.5%
差-9.1%[95%信頼区間-14.1% 〜 -4.1%]

*************************************
3. CASE REPORT
-気になる症例報告をピックアップします-

*************************************

■シプロフロキサシンによる血小板減少症■
Erdemli Ö.et.al. Ciprofloxacin-induced severe thrombocytopenia. Kaohsiung J Med Sci. 2015 Feb;31(2):110-1. PMID: 25645991
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25645991

5年にわたる慢性的な下痢のために緊急入院した61歳の女性。解熱治療に応答せずシプロフロキサシン500㎎1日2回投与。患者はパーキンソン病にてレボドパおよびバクロフェンを定期的に服用していた。その後下痢、吐き気、嘔吐、低血圧、頻脈、頻呼吸、および発熱が悪化。シプロフロキサシンによる血小板減少症が疑われた。

*************************************
4. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

*************************************

スタチン系薬剤も漫然と投与される機会が多い薬剤ではないかと考えています。ベネフィットが確立された薬剤のようにも思いますが、日本人でのエビデンスはMEGAstudy位なものでしょう。高齢者に対する明確な有効性は不明な部分も多いのです。どのタイミングで減処方すべきかについては、まだ今後の研究をフォローしていかねばなりませんが、高齢者におけるスタチンの有用性は思いのほか小さいかもしれませんね。
#学校 #教育 #受験 #外国語 #科学

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2015.Oct.21;1(40)

スレッド
*************************************
1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-特集:降圧薬減処方提案の実際-

*************************************

[イントロダクション]
高齢者における降圧薬が漫然と投与されているケースは決して少なくありませんよね。あるいは外来にて降圧薬が継続的に処方されていてもアドヒアランスが悪く、あまり効果が出ていないという状況で入院してくると、降圧薬を毎日しっかり服用することになるため、血圧が下がりすぎてしまうなんて言う経験はないでしょうか。

自己管理では服薬アドヒアランスが悪い状況が入院により是正され薬剤有害事象が出てしまうというケースは決して稀では無いでしょう。入院時、持参薬を管理し、その情報を主治医に伝え、状況を見ながら減処方を行う、僕の主要な仕事の一つではあります。減処方についてはやはり薬剤中止に伴うリスクということも熟慮せねばなりません。ポリファーマシー状態(適切か不適切かに関わらず)を単に悪とすると、その是正により患者にリスクが伴わないイメージが先行しますが、そんなことはありません。自験例はありませんが、抗パーキンソン病薬中止に伴う悪性症候群などの懸念もありますし、身近にはPPI中止による体調悪化は複数経験があります。

良かれと思った減処方もリスクを孕んでいるのです。またポリファーマシーも良かれと思った医療の一つの形にすぎません。大事なのは、単にポリファーマシーを是正するという問題だけではないような気がしています。薬剤のリスクベネフィットと同時に減処方によるリスクベネフィットも熟慮せねばならないのです。ポリファーマシーから患者を救うなんて言うのはとんだ勘違いです。言い過ぎかもしれませんが僕はそう思います。ポリファーマシーだけど幸せに生きている人も確かにいるのです。

前置きが長くなりました。そうはいっても明らかに血圧が低く(年齢と降圧薬の予防的効果を考慮して、と言う意味で“低く“) その継続服用の臨床的意義が見いだせない状況を放置するわけにはいかないでしょう。薬剤には大きく以下の2種類があります。

・今現在の症状に対する対症療法のための薬剤
・重篤な転帰を予防するための薬剤

このうち対症療法に用いる薬剤は減処方と同時に体調に変化をきたすケースは多いと思います。なかなか是正を行うのが難しいカテゴリの薬剤でしょう。一方、重篤な転帰を予防するための薬剤はどうでしょうか。これはいわゆる慢性疾患にいける真のアウトカムを改善するために用いられる薬剤という事です。患者個別に残された平均余命を考慮し、現時点においてベネフィットよりもリスクが上回る状況であれば、積極的な介入が望まれます。しかしながらやはり退薬症状には注意すべきです。

[減処方におけるキーステップの実際]
減処方にも様々な手法があるかと思いますが、薬剤師ができるのはあくまで減処方提案です。情報の伝え方次第では、有用な情報も受け入れられずに終わってしまいます。少なくともSTOPPなどのクライテリアの横流しや、減処方の根拠がクライテリアのみ、これではだめだと思います。もちろんそれで提案が受け入れられる、という事であれば問題ないかと思いますが、それでもリスクベネフィットのアセスメントとしては物足りない印象です。その理由は以下の論文を読むと良いでしょう。

Frankenthal D, et al. Intervention with the screening tool of older persons potentially inappropriate prescriptions/screening tool to alert doctors to right treatment criteria in elderly residents of a chronic geriatric facility: a randomized clinical trial. J Am Geriatr Soc. 2014 Sep;62(9):1658-65. PMID: 25243680

以前にも触れたテーマなので、本稿では取り上げません。僕が活用している減処方のキーステップを以下に示します。このステップは以下の論文をもとにしています。

Scott IA.et.al. Reducing inappropriate polypharmacy: the process of deprescribing. JAMA Intern Med. 2015 May;175(5):827-34. PMID: 25798731
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25798731

減処方のためのキーステップ

①患者が現在使用しているすべての薬剤について、その処方理由を再確認する
②個々の患者における薬剤有害事象の全体的なリスクを把握する(積極的な介入をすべきかの評価)
③各薬剤における、潜在的なリスクとベネフィットを評価する
④低リスク、高ベネフィット、退薬症状、患者の希望等を考慮して中止薬剤の優先順位を決める。
⑤中止レジメンを実行し、アウトカムの改善や副作用発現のために注意深く患者を観察する

減処方のためのアルゴリズム

①ベネフィットはあるか?
…明らかな毒性や明らかな禁忌ではない? 
YES⇒⑥へ NO⇒②へ

②リスクがベネフィットを上回っていないか?
…想定される有害事象が症状への効果や将来的な利益を上回ってしまっている? 
YES⇒⑥へ NO⇒③へ

③症状や疾患の状況
…症状が無いか安定している?   
YES⇒⑥へ NO⇒④へ

④予防薬に関するベネフィットの考慮
…残された余命を考慮すれば、薬剤のベネフィットは明確ではない? 
YES⇒⑥ NO⇒⑤へ

年齢別平均余命
年齢 男性 女性
75歳 11.7 15.4
80歳 8.6 11.5
85歳 6.1 8.2
90歳 4.3 5.5


⑤薬剤継続(①~④全てNOであれば薬剤を継続し再評価する)

⑥中止で離脱症状もしくは症状再発の懸念がある? 
YES⇒⑦へ  NO⇒⑨へ

⑦減量しながら退薬症状をモニター。その後、症状が安定もしくはない?  
YES⇒⑨へ NO⇒⑧へ

⑧薬剤投与再開
⑨薬剤投与中止を提案

[降圧薬のポリファーマシー]
降圧薬のポリファーマシーについては複数の疫学的研究が出ているかと思いますが、僕が良く引用するのは以下の論文です

Benetos A.et.al. Treatment With Multiple Blood Pressure Medications, Achieved Blood Pressure, and Mortality in Older Nursing Home Residents: The PARTAGE Study. JAMA Intern Med. 2015 Jun;175(6):989-95. PMID: 25685919
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25685919

施設入居高齢者(80歳以上の1127人)を対象とした縦断研究ですが、収縮期血圧が130mmHg以下の状態で降圧薬を2種類以上服用していると、2年間で死亡リスクが1.78倍増加するという衝撃的な報告です。(adjusted HR, 1.78; 95% CI, 1.34-2.37)

[アムロジピンの減処方]
個人的に経験することが多いアムロジピンとACE阻害薬の併用に関する減処方提案を例に進めましょう。収縮期血圧が120mmHg程度で2剤の降圧薬を服用しているケースでは減処方アルゴリズムに従い減処方提案を行うべき事例と考えられるでしょう。

まずは最低限、「慢性便秘患者に対するCa受容体拮抗薬」がSTOPP (Screening Tool of Older Person's Prescriptions)クライテリアに該当するという事は知っておく必要があります。アムロジピンと便秘に関する疫学的研究は限られていますが、小規模の症例集積検討であれば報告がありました。

Saha L.et.al. The effect of amlodipine alone and in combination with atenolol on bowel habit in patients with hypertension: an observation. ISRN Gastroenterol. 2011;2011:757141. PMID: 21991529
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21991529

この研究だけで因果を論じるのもなかなか難しそうですが、アムロジピンと便秘は経験的には少なくない印象です。Ca拮抗薬は薬剤投与中止に伴う、血圧のリバウンドも懸念されるので、ACE阻害薬かアムロジピンか、という2択ならなんとなくACE阻害薬から減処方提案すると無難そうですが、慢性便秘があるケースではできる限り、アムリジピンを減処方したいところです。もちろんACE阻害薬であっても高カリウムのリスクなどあるわけですから、患者個別のリスクファクターを考慮し、どちらを優先的に減処方するかを熟慮せねばなりません。今現在、有害事象が出ているかどうか、という点も大きなポイントです。例えば、ACE阻害薬の空咳、アムロジピンの有害事象として、除脈を経験することもまれではありません。因果関係を特定しているわけではありませんが、降圧療法を行っている高齢者で除脈傾向の患者さんはしばしば遭遇します。

[降圧薬中止の伴うリバウンドは?]
個人的には血圧の急激な上昇リスクと言うのがやはり懸念材料でした。ただ、これまでの経験で言えば、高齢者であれば、血圧120mmHg以下程度でコントロールされている場合、Ca拮抗薬でさえも投与中止で、急激な血圧上昇は経験していません。徐々に上昇するか、ほとんど変わらないケースもあります。

まあこのテーマは減処方において非常に重要なポイントなので一個人の経験に基づくのは少しまずいでしょう。幸いにも降圧薬中止介入のランダム化比較試験が報告されています。

Moonen JE.et.al. Effect of Discontinuation of Antihypertensive Treatment in Elderly People on Cognitive Functioning-the DANTE Study Leiden: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2015 Aug 24. doi: 10.1001/jamainternmed.2015.4103. [Epub ahead of print] PMID: 26301603
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26301603

この研究は、軽度認知障害を有し、降圧療法をうけている高齢者(393人、平均81歳、利尿剤が9割、Ca拮抗薬は4割、2種類以上の降圧薬使用が6割)を対象に、降圧薬の使用を中止した場合と継続した場合の認知機能の変化を検討したンダム化比較試験です。16週間追跡して血圧値や認知機能などの変化を検討しています。

この研究では認知機能の改善は見られませんでしたが、研究開始時の収縮期血圧147.0~148.8mmHgが、降圧薬の中止16週で7.36mmHg [95%信頼区間3.02~11.69] 上昇したという結果になっています。最大で12mmHgの上昇であれば、降圧薬中止に伴う重篤な血圧上昇の懸念は少ないかもしれません。

*************************************
2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

*************************************
■PPIの長期投与と消化管の病理学的影響■
Lundell L.et.al. Systematic review: the effects of long-term proton pump inhibitor use on serum gastrin levels and gastric histology. Aliment Pharmacol Ther. 2015 Sep;42(6):649-63. PMID: 26177572
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26177572
背景と研究デザイン:PPIの長期使用と病理学的な影響について検討したレビュー

P:16研究(観察研究やRCTを含む)1920人(多くがGERD患者)
E:PPIの長期投与(ランソプラゾール、エソメプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾール等を4年から15年投与)
C:PPI投与なし
O:血清ガストリン値、消化器系への病理学的影響

高ガストリン血症を認めるが、腫瘍変化は認めない。ECL細胞過形成を認めた。
・平均血清ガストリン値は正常域上限(100 pg/mL)の 1~3倍まで上昇し
・ECL細胞の過形成は+7.8~52.0%

代用のアウトカムであり、その解釈についてはやや不明。現時点でPPIの長期投与が胃がんを増やすという明確な根拠は無い。

■運動能力、筋力と血管疾患■
Andersen K.et.al. Exercise capacity and muscle strength and risk of vascular disease and arrhythmia in 1.1 million young Swedish men: cohort study. BMJ. 2015 Sep 16;351:h4543. PMID: 26378015
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26378015
背景と研究デザイン:運動能力や筋力の強さと血管疾患及び不整脈との関連を検討した、スウェーデンのコホート研究

P:1 124 238人の男性(年齢中央値18.2歳)
E:運動能力(自転車こぎテストにて評価)筋力(握力テストにて評価)が高い
C:運動能力(自転車こぎテストにて評価)筋力(握力テストにて評価)が低い
O:血管疾患、不整脈
追跡状況:中央値で26.3年(参加者平均44.6歳まで追跡)
交絡因子:年齢、組み入れ年月日、地域、教育水準、身長、収縮期血圧、体重、虚血性心疾患既往


ハザード比[95%信頼区間]
アウトカム 運動能力低・筋力高 運動能力高・筋力低 運動能力高・筋力高
血管疾患 0.84[0.81~0.87] 0.75[0.73~0.79] 0.67[0.65~0.70]
不整脈 0.91[0.87~0.95] 0.95[0.90~1.00] 0.92[0.88~0.97]

※運動能力、筋力ともに低い群を対照

■概月リズムと睡眠の影響■
Cajochen C.et.al. Evidence that the lunar cycle influences human sleep. Curr Biol. 2013 Aug 5;23(15):1485-8PMID: 23891110
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23891110
背景と研究デザイン:洋生物においては、内因性の概月リズム、すなわち月の満ち欠けのリズムに応じた29.5日サイクルの周期に従って行動することがあるという。しかし、人間では明確な概月リズムに従った行動は見られない。睡眠の主観的、および客観的尺度は概月リズムを反映しているかも知れないという仮説を実験報告

P: 睡眠障害や精神科の通院がない、17人の若年健常ボランティア(平均25歳、女性9人)および、16人の中高年ボランティア(平均65歳、女性8人)
E:満月近辺の日に8時間睡眠をとるよう指導を受けた人
C:新月近辺の日に8時間睡眠をとるよう指導を受けた人
O:睡眠潜時、睡眠時間、メラトニン分泌
※RCTではない。被験者のデータを月の満ち欠けのクラスごとに分類し比較。なお各月の満ち欠けクラスにおける患者データにおいて年齢等は同等であった。

睡眠までにかかる時間が5分間延長し、睡眠時間が20分短縮、さらに深い睡眠が30%減少した。また満月が近づくにつれ、睡眠とかかわりの深いホルモンである、メラトニンの分泌量が減る可能性が示唆

■インフルエンザ合併症に対するステロイド投与■
Rodrigo C.et,al. Effect of corticosteroid therapy on influenza-related mortality: a systematic review and meta-analysis. J Infect Dis. 2015 Jul 15;212(2):183-94. PMID: 25406333
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25406333
背景と研究デザイン:多くの研究でインフルエンザ合併症におけるステロイド投与が有害アウトカムとの関連性を示唆している。インフルエンザ合併症における全身性ステロイド(経口、静注)の有害アウトカムを検討した観察研究のメタ分析

P:16の観察研究に参加した3039人(平均8歳~51歳)
E:全身ステロイド投与あり
C:全身ステロイド投与なし
O:30日以内の死亡
・明確な出版バイアスなし
・2名の著者が独立してデータ抽出

観察研究からのみの示唆のため、限定的解釈となりうるが、インフルエンザ関連合併症におけるステロイド投与で死亡のリスク増加。
▶30日以内の死亡:オッズ比2.12[95%信頼区間1.36~3.29] I2統計量40%

■スタチンの延命効果■
Kristensen ML.et.al. The effect of statins on average survival in randomised trials, an analysis of end point postponement. BMJ Open. 2015 Sep 24;5(9):e007118. PMID: 26408281
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26408281
背景と研究デザイン:スタチンに関する研究において平均的な延命効果を検討したレビュー。

P:1次予防(6研究)もしくは2次予防(5研究)のためにスタチンの臨床試験に参加した人(追跡2.0~6.1年)
E:スタチンの投与
C:プラセボの投与
O:生存曲線面積に基づく死亡の延伸期間

死亡の延伸期間中央値は
1次予防で3.2日
2次予防で4.1日
驚くほど小さいという結果。

■睡眠時間と前立腺癌■
Markt SC.et.al. Insufficient Sleep and Risk of Prostate Cancer in a Large Swedish Cohort. Sleep. 2015 Sep 1;38(9):1405-10. PMID: 26118562
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26118562
背景と研究デザイン:睡眠不足と前立腺癌リスクを検討したスウェーデンの前向きコホート研究

P: Swedish National March Cohort.より14041人の男性
E&C:睡眠時間
O:前立腺癌
追跡期間:13年

睡眠時間と前立腺癌リスクとの関連は見られなかった。

*************************************
3. CASE REPORT
-気になる症例報告をピックアップします-

*************************************

■セフトリアキソンによる薬剤性貧血■
Mulkens CE.et.al. [Ceftriaxone-induced immune haemolytic anaemia and multi-organ failure]. Ned Tijdschr Geneeskd. 2015;159:A8054. PMID: 25714764
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25714764
57歳女性、神経ボレリア(ライム病:ボレリアはマダニにより媒介される)に対してセフトリアキソンを使用。その後、重度の薬剤誘発性免疫性溶血性貧血(DIIHA)を発症。広範な血管内溶血をきたし、ショック、急性腎不全、透析を要した。セフトリアキソン中止、ステロイド投与で徐々に軽快

*************************************
4. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

*************************************
セフトリアキソンによる薬剤性貧血はかなり致命的な有害事象そして報告されていました。対象患者がライブ病というやや特殊な症例でしたが、外来で使用する機会の多い抗菌薬だけに、注意が必要かもしれません。

今回はポリファーマシー関連の特集記事で、降圧薬の減処方について取り上げました。今後はスタチン系薬剤なども取り上げたいと思います。BMJ Open.の論文はかなり衝撃的でした。延命効果と考えると、もうほとんどないのではないか、とさえ思ってしまいますが、本当のところはどうなのでしょうか。少し考察してみたいと思います。
#学校 #教育 #受験 #外国語 #科学

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2015.Oct.14;1(39)

スレッド
*************************************
1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-低用量アスピリン使用時のPPI-

*************************************

[ポイント]
■様々なPPIの有害事象は複数の報告で示唆されている。
■低用量アスピリン使用時におけるPPI使用は一定のベネフィットが示されている。
■低用量アスピリン使用時のPPIの有用性はH2RAを圧倒的に上回る。

[イントロダクション]
プロトンポンプ阻害薬(Proton pump inhibitor:PPI)には、心血管リスク(※1)、市中肺炎リスク(※2)(※3)、Clostridium difficile感染症再発リスク(※4) 急性腎傷害リスク(※5) 骨折リスク(※6)低Mg血症リスク(※7)など様々な有害事象が報告されています。しかしながら低用量アスピリン服用患者においてはPPIの使用は一定のベネフィットが示されており(※8)、また低用量アスピリン服用中で消化性潰瘍の既往のある患者ではむしろPPIの併用がなされないことのほうが不適切な処方と言われることもあります。(※9)

しかしながら漫然としたPPI投与はできる限り避けたいところではあります。同じく胃酸分泌を抑制するH2受容体拮抗薬(H2RA)で代替えは可能なのでしょうか。もちろん低用量アスピリンの必要性そのものの議論も必要かもしれませんが、今回は低用量アスピリンを服用している患者を前提にPPIの中止提案を模索します。

[低用量アスピリン服用患者におけるPPIのべネフィット]
最新のメタ分析から低用量アスピリン服用患者におけるPPIの有用性を見ていきましょう。消化管イベントに関する2つのランダム化比較試験、10の観察研究そして、消化管出血に関するコホート研究1研究のシステマテックレビュー、メタ分析が報告されています。(※10)主な結果は以下の通りです。

消化性潰瘍:リスク比0.27[95%信頼区間0.17~0.42]
消化管出血:リスク比0.50[95%信頼区間0.32~0.80]

消化性イベントについては出版バイアスの懸念もあり、PPIの潜在的なリスクをベネフィットが上回るかどうか議論の余地もあると結論されていますが、個人的な経験からも、この研究が示唆したように一定のベネフィットはあるように思います。

[H2RAへの代替えを模索する]
PPIで良く経験する副作用はやはり下痢ではないでしょうか。個人的にはこのような有害事象が出たときにPPI中止提案を考慮します。その際に代替え候補として挙げられるのがまずはH2RAではないでしょうか。

10件のランダム化比較試験8780人を対象としたメタ分析(※11)ではやはり低用量アスピリン使用時のPPIのベネフィットが示唆され、さらにその効果はH2RAを上回る可能性が示唆されています。

アウトカム PPI コントロール オッズ比[95%信頼区間]
消化性潰瘍 46/4684 179/3784 0.16[0.12~0.23]
消化管出血 19/4835 71/3932 0.27[0.16~0.43]


消化性潰瘍
コントロール群 PPI コントロール オッズ比[95%信頼区間]
対プラセボ 30/4054 95/3248 0.20[0.13~0.30]
対ゲファルナート 15/402 73/320 0.12[0.07~0.22]
対H2RA 1/228 11/213 0.12[0.02~0.65]

消化管出血
コントロール群 PPI コントロール オッズ比[95%信頼区間]
対プラセボ 11/4140 43/3334 0.26[0.14~0.49]
対ゲファルナート 2/402 10/320 0.21[0.05~0.86]
対H2RA 6/293 18/278 0.32[0.13~0.79]


H2RAとの比較では、イベント数が少ないので、なんとなくわかりづらいですが、それでもオッズ比はPPIのベネフィットを鮮やかに示しているといえましょう。ただこのメタ分析でもファンネルプロットによる検討で出版バイアスの存在が示唆されています。

[やはりPPIなのか]
H2RA併用よりもはるかに大きなベネフィットを示唆しているPPIですが、もう一つメタ分析を見てみましょう。9つのランダム化比較試験のメタ分析(解析対象1047人)で低用量アスピリン使用時のPPIとH2RAを比較した研究が報告されています。(※12)主な結果を以下に示します。

アウトカム PPI H2RA オッズ比[95%信頼区間]
消化性潰瘍 19/426 51/391 0.28[0.16~0.50]
消化管出血 8/406 29/390 0.28[0.14~0.59]


この研究でも圧倒的なPPIのベネフィットが示唆されていますが、出版バイアスの存在は示唆されています。

[ランダム化比較試験を見てみよう]
(※12)のメタ分析に組み入れられていた研究の中でも最大規模のランダムか比較試験を見ておきましょう(※13)

この研究は、アスピリン、クロピドグレル、にエノキサパリンもしくは血栓溶解剤を使用している311人を対象に、エソメプラゾール20㎎、ファモチジン40㎎を比較して、消化管出血や消化性潰瘍の複合アウトカムを検討した2重盲検ランダム化比較試験です。平均追跡期間はエソメプラゾール群163人で19.2週、ファモチジン群148人で17.6週となっています。その結果、ハザード比は0.095[95%信頼区間0.005~0.504]と圧倒的になエソメプラゾールの有用性が示唆されています。

[PPIかH2RAか]
現段階で低用量アスピリン使用時の胃酸分泌抑制薬は圧倒的にPPIで優れているようです。出版バイアスの懸念はありますが、それを込みで考えてもPPIの潜在的リスクを上回る可能性はあります。低用量アスピリンの必要性の有無を検討しないとPPIの投与中止はなかなか難しそうです。

[参考文献]
(※1) Shah NH,.et.al. Proton Pump Inhibitor Usage and the Risk of Myocardial Infarction in the General Population. PLoS One. 2015 Jun 10;10(6):e0124653. PMID: 26061035
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26061035
(※2) Lambert AA,.et.al. Risk of community-acquired pneumonia with outpatient proton-pump inhibitor therapy: a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2015 Jun 4;10(6):e0128004. PMID: 26042842
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26042842
(※3) Herzig SJ.et.al. Acid-suppressive medication use in acute stroke and hospital-acquired pneumonia. Ann Neurol. 2014 Nov;76(5):712-8. PMID: 25164323
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25164323
(※4) McDonald EG.et.al. Continuous Proton Pump Inhibitor Therapy and the Associated Risk of Recurrent Clostridium difficile Infection. JAMA Intern Med. 2015 May;175(5):784-91. PMID: 25730198
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25730198
(※5) Antoniou T.et.al. Proton pump inhibitors and the risk of acute kidney injury in older patients: a population-based cohort study. CMAJ Open. 2015 Apr 2;3(2):E166-71
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26389094
(※6)青島周一. プロトンポンプ阻害薬と骨折リスク.地域医療の見え方2015.Mar.25;1(11)
http://jp.bloguru.com/syuichiao/234826/2015mar25111
(※7)青島周一. PPIと低マグネシウム血症.地域医療の見え方2015.Jul.22;1(27)
http://jp.bloguru.com/syuichiao/243399/2015jul22127
(※8) Sugano K.et.al. Lansoprazole for secondary prevention of gastric or duodenal ulcers associated with long-term low-dose aspirin therapy: results of a prospective, multicenter, double-blind, randomized, double-dummy, active-controlled trial. J Gastroenterol. 2011 Jun;46(6):724-35. PMID: 21499703
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21499703
(※9) Gallagher P, et.al. STOPP (Screening Tool of Older Person's Prescriptions) and START (Screening Tool to Alert doctors to Right Treatment). Consensus validation. Int J Clin Pharmacol Ther. 2008 Feb;46(2):72-83.PMID:18218287
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18218287
(※10)Tran-Duy A.et.al. Should patients prescribed long-term low-dose aspirin receive proton pump inhibitors? A systematic review and meta-analysis. Int J Clin Pract. 2015 Apr 6. doi: 10.1111/ijcp.12634. [Epub ahead of print]
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25846476
(※11) Mo C.et.al. Proton pump inhibitors in prevention of low-dose aspirin-associated upper gastrointestinal injuries. World J Gastroenterol. 2015 May 7;21(17):5382-92. PMID: 25954113
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25954113
(※12) Mo C.et.al. PPI versus Histamine H2 Receptor Antagonists for Prevention of Upper Gastrointestinal Injury Associated with Low-Dose Aspirin: Systematic Review and Meta-analysis. PLoS One. 2015 Jul 6;10(7):e0131558. PMID: 26147767
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26147767
(※13) Ng FH.et.al. Esomeprazole compared with famotidine in the prevention of upper gastrointestinal bleeding in patients with acute coronary syndrome or myocardial infarction. Am J Gastroenterol. 2012 Mar;107(3):389-96. PMID: 22108447
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22108447

*************************************
2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

*************************************

■親の原爆被爆と子供のがん死亡■
Grant EJ.et.al. Risk of death among children of atomic bomb survivors after 62 years of follow-up: a cohort study. Lancet Oncol. 2015 Sep 14. pii: S1470-2045(15)00209-0. [Epub ahead of print] PMID: 26384241
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26384241
背景と研究デザイン:ヒトにおける放射線被曝の明確な疫学的遺伝効果の報告はなされていない。原爆被爆者の子供の死亡率を62年にわたり追跡した前向きコホート研究

P:1946年から1984年に生まれた単生児75 327人
E:親が広島、長崎にて原爆に被曝
C:親の原爆被爆なし
O:がん死亡、非がん死亡
追跡期間:中央値54.3年

フォローアップ終了時68 689人が生存。60歳以上が23%。親の被ばく量は264 mGy。母体の生殖腺の放射線被曝1 Gyあたり、がん死亡のハザード比0.891 [95%信頼区間 0.693-1.145]、非がん死亡はハザード比0.973 [95%信頼区間0.849-1.115]

広島・長崎の原爆にさらされた人たちの子供において62年後に有害な健康への影響の兆候みられることはなかった。

■エンパグリフロジンの有効性■
Zinman B.et.al. Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2015 Sep 17. [Epub ahead of print] PMID: 26378978
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26378978
背景と研究デザイン:SGLT-2阻害薬の有用性については不明である。エンパグリフロジンの心血管アウトカムに関する多施設2重盲検ランダム化比較試験。重要論文

P: 心血管疾患を有しBMIが45未満で18歳以上の2型糖尿病患者(eGFRが少なくとも30 ml/min/1.73 m2、平均63歳、男性72%、BMI30.6、ランダム化より12週以前に血糖降下薬の服用なく、HbA1cが7.0%~9.0%、もしくはランダム化より12週間以前より安定した血糖降下治療を受けており、HbA1cが7.0~10%)
E:エンパグリフロジン10mgもしくは25mg(4687人)
C:プラセボの投与(2333人)
O:心血管疾患死亡、非致死的心筋梗塞(silent myocardial infarctionを除く)、非致死的脳卒中の複合アウトカム

統計解析:主要仮説はプラセボに対する非劣性の検討でマージンは1.3。modified intention-to-treat。パワー90%で一次アウトカムの必要イベント数は691
追跡期間は3.1年(中央値)[治療期間中央値2.6年]

表タイトル
アウトカム E群 C群 ハザード比(95%CI)
一次アウトカム 490 (10.5) 282 (12.1) 0.86(0.74–0.99)
総死亡 269 (5.7) 194 (8.3) 0.68(0.57–0.82)
心筋梗塞 223 (4.8) 126 (5.4) 0.87(0.70–1.09)


本研究の批判的吟味は以下を参照
エンパグリフロジン(ジャディアンス®)の有効性~EMPA-REG OUTCOME~
http://syuichiao.blogspot.jp/2015/09/empa-reg-outcome.html

■妊娠前後のSSRI使用と先天性異常■
Reefhuis J.et.al. Specific SSRIs and birth defects: Bayesian analysis to interpret new data in the context of previous reports. BMJ. 2015 Jul 8;351:h3190. PMID: 26156519
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26156519
背景と研究デザイン:妊娠前後のSSRI使用と出生児の先天異常についてベイジアン解析を用いて検討した報告

P: 先天異常のある乳児の母親17952人と先天異常のない乳児の母親9857人
E:SSRI(シタロプラム、エスシタロプラム、fluoxetine、パロキセチン、セルトラリン)の妊娠1か月以内から妊娠3か月間での使用
C:SSRI使用なし
O:出生時の先天異常

特にパロキセチンがリスクと関連。事後オッズは以下の通り
無脳症:3.2 (1.6 ~6.2)
心房中隔欠損:1.8 (1.1 ~ 3.0)
右心室流出路閉塞心臓欠陥:2.4 (1.4 ~ 3.9)
胃壁破裂:3.5 (1.3 ~ 8.0)
臍帯ヘルニア:3.5 (1.3 ~ 8.0)

セルトラリンはリスクとの関連は示唆されず。

■睡眠時間と風邪■
Prather AA.et.al.Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold. Sleep. 2015 Sep 1;38(9):1353-9. PMID: 26118561
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26118561
背景と研究デザイン:睡眠時間と風邪発症を検討した非ランダム化比較試験。なおこの研究は睡眠時間に関するリコールバイアスを避けるため、最初の1週間に活動量計を用いた睡眠状況を調査し、続く5日間でライノウイルスへの曝露を行っている。

P:18歳~55歳の164人(平均42.7歳、女性42.7%) 点鼻にてライノウイルスを5日間曝露
E:睡眠時間5時間未満、5~6時間、6時間~7時間
C:睡眠時間7時間超
O:風邪の発症

7時間超の睡眠に比べて5時間未満、5~6時間で風邪発症との関連を示唆
・5時間未満:オッズ比4.50[95%信頼区間1.08~18.69]
・5~6時間:オッズ比4.24[95%信頼区間1.08~16.71]
6時間超では明確な関連なし。

非盲検、非ランダム化である。患者背景の差異、あるいはプラセボ効果の影響は大きく、結果の妥当性はそれほど高くない。しかしながら経験的には睡眠時間が短ければ風邪をひきやすい印象もある。

※関連論文※
Cohen S.et.al. Sleep habits and susceptibility to the common cold. Arch Intern Med. 2009 Jan 12;169(1):62-7. PMID: 19139325
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19139325

■地中海食と乳がん(PREDIMED)■
Toledo E.et.al. Mediterranean Diet and Invasive Breast Cancer Risk Among Women at High Cardiovascular Risk in the PREDIMED Trial: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2015 Sep 14:1-9. PMID: 26365989
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26365989
背景と研究デザイン:地中海食と乳がんリスクを検討した単盲検ランダム化比較試験PREDIMED研究の事後解析

P:60~80歳の女性4282人(平均67.4~68,1歳、BMI30.2~30.7、2型DM41.5~47.5%)
E:オリーブオイルの摂取を強化した地中海食を指導
E:ナッツの摂取を強化した地中海食を指導
C:低脂肪食を指導
O:乳癌発症

追跡中央値4.8年
統計解析:ITT解析
交絡調整:BMI,ホルモン療法、身体活動、アルコール摂取、閉経年齢、地中海食アドヒアランス

表タイトル
低脂肪食 オリーブオイル ナッツ
症例 17/5829 8/7031 18/12523
発症率 2.9/1000人年 1.1/1000人年 1.8/1000人年
調整率比 reference 0.32[0.13~0.79] 0.59[0.26~1.35]


地中海食全体では1.4/1000人年の発症で調整率比は0.43[0.21~0.88]

■ポリファーマシーとパーキンソン病リスク■
Lai SW.et.al. Polypharmacy increases the risk of Parkinson's disease in older people in Taiwan: a population-based study. Psychogeriatrics. 2011 Sep;11(3):150-6.PMID: 21951955
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21951955
背景と研究デザイン:ポリファーマシーとパーキンソン病の関連を検討した台湾の症例対照研究

P:65歳以上で新規にパーキンソン病を発症した患者2827人とパーキンソン病を発症していなおらず年齢でマッチさせた11308人。

E:ポリファーマシーの存在あり(5剤以上の薬剤使用)
C:ポリファーマシーの存在なし(薬剤使用なしもしくは1剤)
O:パーキンソン病発症

ポリファーマシーはパーキンソン病リスクと関連
薬剤使用なしもしくは1剤と比較して
2~4剤:オッズ比1.53
5~7剤:オッズ比2.08
8~9剤:オッズ比2.64
10剤以上:2.95

認知症(オッズ比3.43)脳卒中(オッズ比2.30)うつ(オッズ比2.15)等のリスクも上昇

*************************************
3. CASE REPORT
-気になる症例報告をピックアップします-

*************************************

■フェブキソスタット関連DRESS■
Chou HY.et.al. Febuxostat-associated drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms (DRESS). J Clin Pharm Ther. 2015 Sep 14. doi: 10.1111/jcpt.12322. [Epub ahead of print]
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26365588
フェブキソスタット服用後、高熱と、発疹を発症した81歳男性。急性肝障害を併発。フェブキソスタットによるdrug reaction with eosinophilia and systemic symptoms(DRESS)が疑われた

*************************************
4. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

*************************************

ポリファーマシーの是正を考える際にいつも悩むのがPPIの長期投与です。経験的にPPIを中止するとどうも体調が悪くなるというケースは少なくありません。嘔気や便秘など消化管への影響が出やすいのかなあなどと思っていますが、PPIは潜在的なリスクもその有効性も過小評価されてるのかなぁと感じています。まず難しい薬剤です。高齢者では低用量アスピリンを投与されているケースにおいてPPIの維持量はむしろ継続した方が良い印象です。低用量アスピリンの必要性にフォーカスした方が良いのかなあ、と本当に悩みます。

減処方に関するエビデンスベースのレビューは今後も当ブログのメインテーマとして考察していきます。
#学校 #教育 #受験 #外国語 #科学

ワオ!と言っているユーザー

  • ブログルメンバーの方は下記のページからログインをお願いいたします。
    ログイン
  • まだブログルのメンバーでない方は下記のページから登録をお願いいたします。
    新規ユーザー登録へ
    現在 4/9 ページ
  1. <<
  2. <
  3. 1
  4. 2
  5. 3
  6. 4
  7. 5
  8. 6
  9. 7
  10. 8
  11. 9
  12. >
  13. >>