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カルシウム拮抗薬と薬剤性パーキンソニズム[地域医療の見え方.2017.Jan.27;3(78) ]

スレッド
薬剤性パーキンソニズムというと、強力なドパミン受容体遮断作用を有する抗精神病薬が有名ですが、その臨床症状は、特発性パーキンソン病と非常に類似しており、しばしば誤診されていると言われています。
(Mov Disord. 2008 Feb 15;23(3):401-4. PMID: 18067180)

そのため、薬剤性パーキンソンニズムの正確な有病割合やその発症率はあまり明確ではないようです。しかしながら、いくつかの疫学的研究では、パーキンソニズムの原因として薬剤性が第2位に挙げられています。
(Mov Disord. 2003 Mar;18(3):267-74. PMID: 12621629)
(Mov Disord. 2006 Jun;21(6):800-8. PMID: 16482566)

なお、50〜89歳の男性および女性における運動障害の、実に5分の1が薬剤性であるとの指摘もあります。
(Lancet Neurol. 2005 Dec;4(12):815-20. PMID: 16297839)

薬剤性パーキンソニズムのリスクファクターとして最も明らかなのは年齢であり、また性別では男性に比べて女性でリスクが高いことが示唆されています。これはエストロゲンがドーパミン受容体の発現を抑制に関連しているとことが原因だと考えられています。
(Am J Med. 1995 Jul;99(1):48-54. PMID: 7598142)
(Arch Intern Med. 1989 Nov;149(11):2486-92. PMID: 2684075)
(J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1988 Jun;51(6):850-4. PMID: 2900293)

また、ドーパミン受容体遮断薬を服用している患者のすべてがパーキンソニズムを発症するわけではないために、遺伝的要因も発症に関与していると考えられています。
(Mov Disord. 1989;4(2):121-8. PMID: 2567491)

抗精神病薬は、薬剤性パーキンソニズムの最も一般的な原因ですが、一部の消化管胃腸運動促進薬や抗てんかん薬、そしてカルシウム拮抗薬でも薬剤性パーキンソニズムを起こし得ると言われています。

カルシウム拮抗薬とは個人的には少々意外でしたが、これは特に片頭痛予防に用いる薬剤のようです。
(J Clin Neurol. 2012 Mar;8(1):15-21.PMID: 22523509)

確かにロメリジンの添付文書には「パーキンソニズムの患者」が慎重投与となっており、副作用に錐体外路症状が挙げられています。しかしながら、実はアムロジピンの添付文書にも、副作用の項目に錐体外路症状の記載がしっかりあるんです。
薬剤性パーキンソニズムは、原因薬剤を中止することで、多くの場合、可逆的ではありますが、症状が完全に解消するには数カ月かかることもあり、一部の患者ではそれが長期間持続することさえあると言われています。
(Postgrad Med J. 2009 Jun;85(1004):322-6. PMID: 19528308)

アムロジピンなど、カルシウム拮抗薬でも降圧薬として用いる薬剤は、プライマリ・ケアの領域でも使用頻度が非常に高く、長期間の投与が必要となるため、もし仮に薬剤性パーキンソニズムが誘発されるのだとしたら、これはなかなか軽視できない問題だと思います。この記事ではカルシウム拮抗薬と薬剤性パーキンソニズムについてエビデンスレビューを行いました。

続きはこちらで
カルシウム拮抗薬と薬剤性パーキンソニズムに関するレビュー
https://note.mu/syuichiao/n/n4665372115cc

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高齢者の便秘[地域医療の見え方.2016.Dec.16;2(77) ]

スレッド
[疫学]
便秘の罹患率は年齢と共に増加し、その有病割合はセッティングによって異なるが、80歳以上の成人では50%近くになると推定されており、地域社会に住む高齢者の40%、施設の60%が罹患しているとも言われている。

・Am J Gastroenterol. 2004 Apr; 99(4):750-9.
・J Epidemiol Community Health. 1993 Feb; 47(1):23-6.

また、別の研究によれば、地域在住の65歳以上高齢者での有病割合は女性で26%、男性で16%であり、この割合は、84歳以上の女性では34%、男性では26%に増加する。また、長期介護居住者の場合、その有病割合は80%とも言われている。

・Am J Gastroenterol. 2012 Jan;107(1):18-25
・Aging (Milano). 1991 Jun;3(2):161-70
・BJU Int. 2011 Jan;107(2):254-61.

排便時のいきみは、しばしば高齢者にみられる症状であり。65歳以上の地域在住高齢者の65%で発生し、これらのうち約40%で硬便が報告されている。

・CMAJ. 2013 May 14; 185(8): 663–670.
・Am J Gastroenterol. 2012 Jan; 107(1):18-25; quiz 26

[定義]
便秘の診断にはいくつかの定義とツールがある。端的に言うと、排便頻度が稀なため、満足感が無いもしくは、排便が困難または不完全な状態のことである。

・Can J Gastroenterol. 2011 Oct;25 Suppl B:7B-10B.
・Gastroenterology. 2013 Jan;144(1):211-7

便秘は症状ベースの主観に基づくので、「正常」なるものは個人で異なる。研究者や医療従事者は、しばしば便通を定義するために便通の頻度や一貫性に頼っているが、患者は、張り、硬い便、鼓腸などの症状を呈する傾向がある。ローマIIIの基準は成人における便秘の診断のために良く引用されるが、臨床プラクティスというよりは研究において多く使用される。

・Can J Gastroenterol. 2007 Apr;21 Suppl B:3B-22B.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3206562/table/t2-cjg25007b/

[影響]
便秘がもたらす影響は深刻である。虚弱高齢者では、過度の緊張が、失神発作、または冠状動脈または脳虚血を引き起こす可能性がある。

・J Am Geriatr Soc. 1973 Aug;21(8):383.
・Atherosclerosis. 2016 Mar;246:251-6.

またそれほど深刻ではないかもしれないが、便のつまりをもたらす便秘は、食欲不振、吐き気および機能低下に伴う疼痛を誘発する。

・N Engl J Med. 1989 Sep 7; 321(10):658-62

実際、便秘がもたらした腸内に長く滞留している糞便により、穿孔性潰瘍、穿孔および死亡が報告されている。

・J Am Geriatr Soc. 2007 Jun; 55(6):965-7.

[便秘を誘発する薬剤群]
(Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2009; 23(6):875-87、CMAJ. 2013 May 14; 185(8): 663–670より引用)

■OTC医薬品
・カルシウムまたはアルミニウムを含む制酸薬 ・カルシウムサプリメント ・非ステロイド性抗炎症薬 ・経口鉄サプリメント ・抗ヒスタミン剤
■処方薬
・オピオイド ・カルシウムチャネルブロッカー ・抗パーキンソン病薬 ・抗コリン作用薬 ・利尿薬 ・抗精神病薬 ・三環系抗うつ薬

[便秘に関連する疾患]
(Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2009; 23(6):875-87、CMAJ. 2013 May 14; 185(8): 663–670より引用)

■代謝性疾患
・糖尿病 ・甲状腺機能低下症 ・高カルシウム血症 ・低カリウム血症
■消化器系疾患
・結腸直腸癌 ・憩室症 ・消化管狭窄 ・痔核 ・直腸脱出
■神経疾患
・脳卒中 ・パーキンソン病 ・認知症 ・多発性硬化症 ・自律神経障害
■精神疾患
・うつ病 ・不安 ・身体化障害
■結合組織
・全身性硬化症 ・アミロイドーシス

[薬物治療]

おもなランダム化比較試験の要約は以下参照
http://www.cmaj.ca/content/suppl/2013/01/28/cmaj.120819.DC1/con-gandell-1-at.pdf
高齢者における薬物治療のリスクベネフィットは以下参照
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3652936/table/t1-1850663/
高齢者における便秘管理の段階的アプローチは以下参照
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3652936/table/t2-1850663/
慢性便治療のエビデンスと推奨は以下参照
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3206558/table/t3-cjg25022b/
linaclotideの有効性は以下参照
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3388525/table/table3-1756283X12443093/
prucaloprideの有効性は以下参照
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3388525/table/table2-1756283X12443093/

2016年に報告されたネットワークメタ分析ではピコスルファートNaの有用性が示唆されているが、便秘治療薬間の有効性差異はあまり明確ではない。

・Gut. 2016 Jun 10. pii: gutjnl-2016-311835(PMID27287486)

本邦で汎用されるマグネシウム製剤では電解質異常や薬物相互作用に注意したい。

[参考文献]
・Can Fam Physician. 2015 Feb; 61(2): 152–158.
・CMAJ. 2013 May 14; 185(8): 663–670
・Can J Gastroenterol. 2011 Oct; 25(Suppl B): 22B–28B.
・Clin Colon Rectal Surg. 2012 Mar; 25(1): 12–19.
・Can J Gastroenterol. 2007 Apr; 21(Suppl B): 3B–22B.
・Therap Adv Gastroenterol. 2012 Jul; 5(4): 233–247.
・Therap Adv Gastroenterol. 2011 Jan; 4(1): 37–48.

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PPIとせん妄リスクに関する考察[地域医療の見え方.2016.Dec.16;2(76) ]

スレッド
せん妄は、多因子病因による認知機能の急激な低下であり、死亡リスクの増加、入院の長期化、認知症発症、長期ケアセンターへの入所と関連するといわれている。

Han JH.et.al. Delirium in older emergency department patients is an independent predictor of hospital length of stay. Acad Emerg Med. 2011 May;18(5):451-7. PMID: 21521405

Fick DM.et.al. Delirium superimposed on dementia is associated with prolonged length of stay and poor outcomes in hospitalized older adults. J Hosp Med. 2013 Sep;8(9):500-5. PMID: 23955965

Inouye SK.et.al. Delirium in elderly people. Lancet. 2014 Mar 8;383(9920):911-22. PMID: 23992774

Noriega FJ.et.al. Incidence and impact of delirium on clinical and functional outcomes in older patients hospitalized for acute cardiac diseases. Am Heart J. 2015 Nov;170(5):938-44. PMID: 26542502

[H2受容体拮抗薬(H2RA)とせん妄リスク]
H2RAはコストもそれほど高くなく、実臨床では汎用されているように思われる。ファモチジンはOTC医薬品としても販売されており、本邦では馴染みの深い薬剤ではなかろうか。ところがH2RAはせん妄を引き起こしうる薬剤の一つでもあり、米国Beers Criteriaではせん妄の症状を誘発、悪化させる可能性があるため、せん妄のリスクが高い高齢者は、抗コリン薬、ベンゾジアゼピン、コルチコステロイド、H2RA、鎮静催眠薬などの薬物を避けることを推奨している。

By the American Geriatrics Society 2015 Beers Criteria Update Expert Panel. American Geriatrics Society 2015 Updated Beers Criteria for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults. J Am Geriatr Soc. 2015 Nov;63(11):2227-46. PMID: 26446832

これはわが国における「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」でも同様の位置づけである。実際、ファモチジンでは複数の症例報告が存在する。

Catalano G.et.al. Famotidine-associated delirium. A series of six cases. Psychosomatics. 1996 Jul-Aug;37(4):349-55. PMID: 8701013

またシメチジンからファモチジンへの切り替え時にせん妄を発症したケースも報告されている。

Yuan RY.et.al. Delirium following a switch from cimetidine to famotidine. Ann Pharmacother. 2001 Sep;35(9):1045-8. PMID: 11573854

薬剤個別にせん妄リスクが異なるのだろうか。H2RAの中枢移行性はせん妄リスクの程度に影響を及ぼすかもしれない。

[PPIとせん妄リスク]
同じ消化器系用剤でも、薬理作用が全く異なるPPIではせん妄リスクの懸念はないのだろうか。H2RA群30例(65.2歳)、PPI群30例(65.2歳)を比較して、せん妄リスクを検討したFujiiらによる後ろ向き研究では、せん妄の発症はPPI群で有意に低かった。(p = 0.047)  H2RAからPPIへの変更でせん妄発症リスクが低下できる可能性があると結論されている。

Fujii S.et.al. Comparison and analysis of delirium induced by histamine h(2) receptor antagonists and proton pump inhibitors in cancer patients. Case Rep Oncol. 2012 May;5(2):409-12. PMID: 22949902

ところが、2016年にはせん妄のリスク因子を調査した横断研究が報告されており、
・転院(オッズ比2.78[95%信頼区間1.54~5.01]
・認知症(オッズ比2.29[95%信頼区間1.44~3.65]
・せん妄既往(オッズ比2.23[95%信頼区間1.47~3.38]
・転倒既往(オッズ比1.76[95%信頼区間1.17-2.64]
・PPI使用(オッズ比1.67[95%信頼区間1.11~2.53]
とPPIがリスク因子に挙げられている。
Otremba I.et.al. Delirium in the geriatric unit: proton-pump inhibitors and other risk factors. Clin Interv Aging. 2016 Apr 4;11:397-405. PMID: 27103793

PPIにおいてもせん妄の症例報告はあるようだ。
Heckmann JG,.et.al. Omeprazole-induced delirium. J Neurol. 2000 Jan;247(1):56-7. PMID: 10701899

そのメカニズムであるが、PPIの中枢への直接的影響というよりは低Na血症に誘発された精神症状かもしれない。

Bebarta VS.et.al. Proton pump inhibitor-induced rhabdomyolysis and hyponatremic delirium. Am J Emerg Med. 2008 May;26(4):519.e1-2. PMID: 18410837

また、PPIは低Mg血症を引き起こす可能性が指摘されており、低Mgがせん妄を誘発している可能性も考えられる。

Kieboom BC.et.al. Proton pump inhibitors and hypomagnesemia in the general population: a population-based cohort study. Am J Kidney Dis. 2015 Nov;66(5):775-82. PMID: 26123862

Caplan JP.et.al. Refeeding syndrome as an iatrogenic cause of delirium: a retrospective pilot study. Psychosomatics. 2010 Sep-Oct;51(5):419-24. PMID: 20833941

さらにPPIは相互作用を引き起こしえる薬剤である。ベンゾジアゼピンや抗うつ薬との相互作用がせん妄を引き起こしているのではないかという指摘もある。

Zhu LL.et.al. The association between gastric acid inhibitors and delirium in geriatric inpatients: implications for clinical practice and research. Clin Interv Aging. 2016 Jun 16;11:797-9. PMID: 27366056

特にCYP2C19を阻害するオメプラゾールではこのような相互作用が起こりやすいと考えられ、また抗うつ薬との相互作用では併用されるPPIの種類によって相互作用リスクが変わるかもしれない。

Gjestad C.et.al. Effect of proton pump inhibitors on the serum concentrations of the selective serotonin reuptake inhibitors citalopram, escitalopram, and sertraline. Ther Drug Monit. 2015 Feb;37(1):90-7. PMID: 24887634

今後、薬剤ごとの比較解析が期待される。

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ポリファーマシーとアンダーユーズ.[地域医療の見え方.2016.Oct.18;2(75) ]

スレッド
[薬は多いけれど、肝心なものが投与されていない]
ポリファーマシーというといわゆる潜在的な不適切処方PIMsが注目される。薬剤数が増えれば、不適切な仕方で用いられている薬剤も増えるというのは、経験的にもわかりやすいだろう。ところが、ポリファーマシー状態は潜在的に“使用すべき”薬剤の増加と関連することも報告されている。つまりポリファーマシー状態はアンダーユーズと相関するという一見すると奇妙な現象が見られる。

Kuijpers MA.et.al. Relationship between polypharmacy and underprescribing. Br J Clin Pharmacol. 2008 Jan;65(1):130-3. PMID: 17578478

上記は150例の高齢者(平均79.6歳)を対象にした研究である。5剤以上と定義されたポリファーマシー状態は61%であった。Underprescription(アンダーユーズ)は31%にあたる47例と報告されており、決して少なくない。また驚くべきことにポリファーマシー状態症例の42.9%がアンダーユーズであった。これは、薬は沢山処方されているが、肝心な薬剤は出ていない、という状態を示していることに他ならない。一方、4剤以下(非ポリファーマシー状態)の症例ではアンダーユーズは13.5%にとどまっており、この結果から、ポリファーマシー状態は4剤以下の状態と比べてアンダーユーズが有意に多いことが示されている。(オッズ比 4.8[95%信頼区間2.0~11.2]

※薬剤数とアンダーユーズが相関
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2291281/figure/fig01/
※本研究における主なアンダーユーズは心不全に対するACE阻害薬や心筋梗塞に対するβ遮断薬等
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2291281/table/tbl1/

よくよく考えれば日常業務においても、本来使用すべきと思われる薬剤が全く投与されていないことは少なくない。ポリファーマシーというと、なんとなく不適切処方に目がいきがちだが、使用を考慮すべき薬剤投与がなされていないこともまた不適切処方である。例えば、Start criteria等で投与が推奨されている心不全患者に対するACE阻害薬やβ遮断薬は、現実的には投与されていないケースが多々あると言えよう。以下の研究は2003年に報告されたものであるが、心不全患者に対して、ACE阻害薬やβ遮断薬の使用はまだまだ限定的であると結論している。

Komajda M,et,al. The EuroHeart Failure Survey programme--a survey on the quality of care among patients with heart failure in Europe. Part 2: treatment. Eur Heart J. 2003 Mar;24(5):464-74. PMID: 12633547

このほか、ポリファーマシー状態とアンダーユーズが相関するとした研究論文は複数報告されている。潜在的に使用すべき薬剤が投与されていないことが不適切なのは理解しやすいが、ポリファーマシー状態と相関するというのは、なかなか興味深いところである。薬は投与すればよい、というものではないことを端的に示しているように思われる。

Galvin R.et.al. Prevalence of potentially inappropriate prescribing and prescribing omissions in older Irish adults: findings from The Irish LongituDinal Study on Ageing study (TILDA). Eur J Clin Pharmacol. 2014 May;70(5):599-606.

上記研究は、65歳以上の高齢者3,507人を対象にSTOPP/START criteriaを用いて、potential prescribing omissions:潜在的な欠落処方(アンダーユーズ)とpotentially inappropriate prescriptions:潜在的な不適切処方をスクリーニングしたコホート研究。ポリファーマシー状態とPPO、PIPの関連を検討している。

PIPの存在割合は14.6%にあたる504例。最も多かったのは高血圧に対するNSAIDs使用5.8 %および心血管疾患の既往なしにアスピリンの投与; 3.2 %であった。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3978378/table/Tab2/

PPOの存在割合は30 %にあたる1,035例。最も多かったのは収縮期血圧160mmHgを超える状態での降圧薬なし。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3978378/table/Tab3/

PIP、PPOはポリファーマシー状態と関連した。年齢、性別で調整後、ポリファーマシー状態でPIP :オッズ比2.62, 95 % CI 2.05-3.33、PP:オッズ比 1.46, 95 % CI 1.23-1.75 であった。

Blanco-Reina E.et.al. Optimizing elderly pharmacotherapy: polypharmacy vs. undertreatment. Are these two concepts related? Eur J Clin Pharmacol. 2015 Feb;71(2):199-207. PMID: 25380629

上記研究は、スペインにおける65歳以上の高齢者407例を対象とした横断研究。5剤以上と定義したポリファーマシー状態の存在割合は45%であった。ポリファーマシーのリスクファクターは、併存疾患(OR 1.98, 95 % CI 1.63-2.44), 日常生活動作の制限(ADL; OR 3.0, 95 % CI 1.51-6.11),Start criteria該当のPPOは170人(41.8%)303 薬剤であった。 Charlson Comorbidity Indexの増加は1.6倍PPOを増やす。(OR 1.60, 95 % CI 1.35-1.91). ポリファーマシー状態も同時にPPOのリスクファクターであった。(OR 2.19, 95 % CI 1.36-3.55).

[潜在的に使用すべき薬剤が使用されていないと…]
潜在的に使用すべき薬剤のベネフィットは、意外にも大きいことがあり侮れない。

Staerk L.et.al. Stroke and recurrent haemorrhage associated with antithrombotic treatment after gastrointestinal bleeding in patients with atrial fibrillation: nationwide cohort study. BMJ. 2015 Nov 16;351:h5876. PMID: 26572685

上記研究は、消化管出血により入院した抗凝固薬服用している心房細動患者4602人 (平均78 歳)を対象にしたコホート研究で、抗凝固薬を再開すると死亡リスクが有意に低いことが示されている。(ハザード比0.39, 95% 信頼区間l 0.34 to 0.46)消化管出血後に投与が中断されてしまうと、死亡リスクが増加する可能性を示唆した貴重な報告だ。

また80歳以上の高齢者を対象にした、以下のコホート研究では、潜在的に使用すべき薬剤が使用されていないと死亡リスクが増加することが示されている。

Wauters M.et.al. Too many, too few, or too unsafe? Impact of inappropriate prescribing on mortality, and hospitalization in a cohort of community-dwelling oldest old. Br J Clin Pharmacol. 2016 Nov;82(5):1382-1392. PMID: 27426227

この研究ではSTOPP-2クライテリアに該当する潜在的に不適切な薬剤と、START-2, クライテリアに該当する潜在的に使用すべき薬剤について、死亡、および入院リスクを検討したコホート研究である。

研究対象者の平均年齢は84.4歳(80歳~102歳)。平均処方薬剤数は5剤(0~16剤)、ポリファーマシーは5剤以上と定義し、その割合は58%だった。Underuseは 67% 、misuse は56%であった。またUnderuse と misuseの併存は 40% 、いずれにも該当しないのが17% であった。死亡率、入院率はそれぞれ8.9%, 31.0%, であった。underused medicationにおいて、薬剤数、misused medicationsで調整後、死亡(HR 1.39, 95% CI 1.10, 1.76) 、入院(HR 1.26, 95% CI 1.10, 1.45) と有意に増加した。一方、misuse に関しては明確な差は出なかった。

この研究ではunderuseで最も多かったのは収縮期心不全におけるACE阻害薬(26%)と冠動脈、末梢血管疾患、脳血管疾患における抗凝固薬(24%)であり、misuseで最も多かったのは4週を超えるベンゾジアゼピン(35%)であった。
(参考)DTB Select: 10 | October 2016. Drug Ther Bull. 2016 Sep 30. [Epub ahead of print] PMID: 27694107

[問題ではなく契機としてポリファーマシーを捉える]
潜在的に不適切な仕方で用いられる薬剤、それが有害事象を起こし、処方カスケード現象を促しポリファーマシーの助長につながるという負のスパイラルを引き起こしていく様は理解しやすい。しかしそのことは独立して、ポリファーマシー状態は潜在的に使用すべき薬剤が使用されていない、というアンダーユーズ(アンダートリートメント)を引き起こし、それによって、本来受けることができる恩恵を受けることができない、という状況を生み出してしまう可能性がある。

ポリファーマシーという概念に関わらず、薬物治療の妥当性という観点でこのテーマを捉えれば、ごくごく自明なことのように思えるが、ポリファーマシーを問題化したことで、アンダーユーズという側面が目にくくなっているような気もしてしまう。ポリファーマシーは問題と捉えずに、やはり薬物治療を考えるための契機と捉えたほうが良いように思える。

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地域医療の見え方  2016.Jul.20;2(74)

スレッド
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1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱戦略-

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[イントロダクション]

ベンゾジアゼピン系薬剤は漫然投与がなされやすい薬剤である。加齢そのものがベンゾジアゼピン系薬剤漫然投与のリスクファクターだと言われているが、米国においては医師における公衆衛生上の問題過小評価が指摘されている。
※J Am Geriatr Soc. 2000 Jul;48(7):811-6. PMID: 10894322
※J Gen Intern Med. 2007 Mar;22(3):303-7. PMID: 17356959

このような漫然投与はベンゾジアゼピンの常用量依存をきたす。古典的にはベンゾジアゼピン退薬症状は、内服が8か月以内では5%であったのに対し、内服が8か月以上に及ぶと43%までにも達することから8か月以上の内服は常用量依存形成のリスクと言われている。
※JAMA. 1983 Aug 12;250(6):767-71.PMID: 6348314

もちろん高用量、継続投与はリスクファクターであるため、本来であれば必要最小量を用いるべきことは明らかである。
※臨床薬理. 1996;27(2):465-46.

しかし、すでに1年以上ベンゾジアゼピン系薬剤を内服しているような症例では、多くの場合で常用量依存が形成されており、その離脱は容易ではない。本稿ではベンゾジアゼピン系薬剤の離脱戦略についてまとめる。[]

[ベンゾジアゼピン系薬剤離脱戦略]

ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱戦略は大きく
①ベンゾ以外の薬剤へ代替
②ベンゾを漸減
③ベンゾのリスクについてなど教育的介入
④認知行動療法
に分けられ、これらを単独もしくは組み合わせて用いる。

英国で行われたベンゾジアゼピン系薬剤離脱に関するランダム化比較試験のシステマティックレビューによれば、家庭医からのベンゾジアゼピン系薬剤の減量もしくは中止に関する手紙、情報提供、面談など、最小限の介入を受けると、標準ケアに比べて約2倍中止・減量が多いと報告されている。
※Br J Gen Pract. 2011 Sep;61(590):e573-8. PMID: 22152740

このレビューに組み入れられたのは3つのランダム化比較試験ではあり、3か月以上ベンゾジアゼピン系薬剤を使用している18歳以上の615人が解析対象になっている。主な介入は長期使用における懸念について、潜在的な副作用について、中止にあたり離脱症状が出ないような漸減方法のアドバイスなどが含まれている。その結果、ベンゾジアゼピン系薬剤減量相対危険は2.04[95%信頼区間1.5~2.8]、中止は2.3[95%信頼区間1.3~4.2]、NNT12となっている。

減量、中止介入を試みると、通常ケアに比べて約2倍の中止、減量が期待でき、そのNNTは12人というところであるが、以降、個別に戦略の実効性を見ていこう。

[代替+漸減戦略]
6か月以上ベンゾジアゼピン系薬剤を使用(平均4.15年)している44歳以上の51人を対象に、2~4週毎に用量を25%ずつ減量し、ヒドロキシジン25mg/日などを補助的に使用して離脱を試みた前後比較研究が報告されている。その結果、6か月後、80.4%でベンゾジアゼピン中止に成功し、64% が1年間、離脱を維持。またうつ症状スコアやQOLスコアの改善も示唆と報告されている。
※BMC Res Notes. 2012 Dec 13;5:684. PMID: 23237104

ヒドロキシジンの抗コリン作用には注意が必要であろうが、2~4週毎に25%ずつの減量+代替戦略はベンゾジアゼピン系薬剤離脱の安全な離脱に有用であろう可能性が示されている。

[教育的介入+漸減(6か月有用性)]
約10年内服している高齢者303人(平均75歳)を対象としたクラスターランダム化比較試験で教育的介入(リスクや漸減方法)(148人)と通常のケア(155人)を比較し、6か月後のベンゾジアゼピン中止を検討した結果、教育的介入群で8.3倍多い中止が多いと報告されている。(調整オッズ比8.3[95%信頼区間 3.3~20.9])NNT4.35人であり約5人に1人は成功することが示されている。
※JAMA Intern Med. 2014 Jun;174(6):890-8.PMID: 24733354

この結果は6か月という短期間の有用性であり、その後もベンゾジアゼピン系薬剤が中止できているかどうかについては不明である。

[教育的介入+漸減(1年有用性)]
6か月以上内服している532人(年齢中央値64歳)を対象にしたクラスターランダム化比較試験で、診察する医師に対する教育的介入および2~3週ごとに10~25%ずつ減量する介入と通常ケアを比較しベンゾジアゼピン中止を検討した結果12か月後のベンゾジアゼピン中止は約3倍多いと報告されている。

※Br J Psychiatry. 2014 Jun;204(6):471-9. PMID: 24526745

本研究ではプライマリケアにおいて隔週ごとの経過観察により漸減を行う構造化教育的介入(structured educational intervention with gradual tapering backed up fortnightly follow-up:SIF)と、書面説明で漸減を行う構造化教育的介入(structured educational intervention supported by written instruction:SIW)の2つが検討されている。

研究に参加した家庭医は、通常ケア、SIF,SIWの3群にランダム化され、研究の概要について1時間の講義、SIF及びSIW群の医師は、ベンゾジアゼピンの適切な減量について追加で3時間の講義を受講。また,SIF群の医師は隔週ごとの経過観察についての講義を更に30分受けた。減量は2~3週ごとに10~25%ずつ段階的に行われ、ベンゾジアゼピンから長時間作用型薬剤への切り替えは許可されている。

2ヶ月後のベンゾジアゼピン中止はSIW群3.01[95%信頼区間2.03-4.46]、SIF群3.00[95%信頼区間2.04-4.40]。SIF群とSIW群の間で有効性に有意差はなかった。

[教育的介入+漸減(3年有用性)]
介入から6ヶ月、そして1年におけるベンゾジアゼピン中止における介入の有用性は示されているが、さらに長期となるとどうであろうか。PMID: 24526745(上記研究)の長期追跡が出ている。
※Br J Gen Pract. 2016 Feb;66(643):e85-91. PMID: 26823269

532人を対象とした離脱戦略検討であったが36か月後のベンゾジアゼピン中止割合は以下の通りであった。
・SIW群66/168 (39.2%) 相対危険1.51 [95% 信頼区間1.10~2.05]
・SIF群79/191 (41.3%) 相対危険1.59 [95%信頼区間 1.15~2.19]
・標準ケア 45/173 (26.0%) (reference)
全体では131/188 (69.7%)の症例で離脱を維持していたと報告されている。介入が成功すれば約7割で3年間は維持できる可能性がある。またこの検討でベンゾジアゼピンの中止で不安、抑うつ、睡眠の質に大きな影響はなかったと報告されている。

[まとめ]
ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱には2~4週ごとに10%~25%の減量
患者、処方医そうほうともに教育的介入は有用
代替として抗うつ薬や抗ヒスタミン薬なども考慮可能である。
離脱介入成功者の7割は3年ほど離脱を維持できる。

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2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

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[文献]サイクリングで2型糖尿病は予防できるか(コホート研究PMID: 27403867)

Rasmussen MG.et.al. Associations between Recreational and Commuter Cycling, Changes in Cycling, and Type 2 Diabetes Risk: A Cohort Study of Danish Men and Women. PLoS Med. 2016 Jul 12;13(7):e1002076. PMID: 27403867
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27403867

[背景]サイクリングは世界の多くの国において、公衆衛生上の問題に対する潜在的な改善をもたらしうる娯楽的な活動であり、通勤スタイルである。本研究の目的は娯楽や通勤におけるサイクリングと2型糖尿病発症リスクの関連をデンマークのDiet, Cancer and Health cohort studyにより検討することである。

[方法と結果]
1993年~1997年において50歳から65歳で2型糖尿病、あるいはその他の慢性疾患を有さない24623人の男性と27890人の女性が検討された。またサイクリング習慣や生活習慣についてアンケート調査された。

Cox比例ハザードモデルを用いて、2型糖尿病発症のリスクファクターで交絡補正し、娯楽や通勤でのサイクリングと糖尿病発症リスクの関連を検討した。

平均14.2年の追跡期間中、6779例が糖尿病を発症した。多変量解析による調整ハザード比(95%信頼区間)は週のサイクリング時間(分)が0, 1-60, 61-150, 151-300, >300で、それぞれ1、0.87 (0.82, 0.93), 0.83 (0.77, 0.89), 0.80 (0.74, 0.86) 0.80 (0.74, 0.87) であった。

サイクリングの季節ごとの解析ではサイクリングをしない人に比べて、夏季0.88 (0.83, 0.94),冬季0.80 (0.76, 0.85)であった。

[結論]通勤や娯楽のためのサイクリングは2型糖尿病発症リスクを低下させる。

[文献]降圧療法の圧倒的ベネフィットの裏には…(メタ分析PMID: 27228434)

Thomopoulos C.et.al. Effects of blood pressure lowering treatment in hypertension: 8. Outcome reductions vs. discontinuations because of adverse drug events - meta-analyses of randomized trials. J Hypertens. 2016 Aug;34(8):1451-63. PMID: 27228434
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27228434

[背景]
これまでに報告されている降圧療法に関するランダム化比較試験のメタ分析は高血圧患者の心血管アウトカム発症リスク低下に関する圧倒的なエビデンスを提示する。しかし、降圧療法における有害イベントについてはシステマティックに検討されていなかった。

[目的]
降圧療法に関するランダム化比較試験において、治療に関連した有害イベントや治療に余®もたらされる死亡や疾病状態のリスク低下ベネフィットに見合う有害事象の負担を検討する。

[方法]降圧療法に関するランダム化比較試験(実薬対プラセボもしくは低用量治療)70研究、255970例を解析対象とした。有害事象の指標としては治療の有害事象に起因する永続的な治療中止とした。収縮期血圧/拡張期血圧=10/5mmHgで標準化したリスク比、95%信頼区間を算出。ランダムエフェクトモデルを用いて、7つ非致死的アウトカムと有害事象による治療中止を検討した。

[結果]
44のランダム化比較試験のデータは有害事象による治療中止もしくは6つ以上の重大なイベントを報告していた。(解析対象179949例)

50のランダム化比較試験において、主要な心血管イベント24%減少は、治療中止の89%増加に関連していた。5年間で1000人当たり、33の主要な心血管イベントを予防する代わり84件の中止をもたらしていた。

Metaregression analysis によれば、アウトカム減少や治療中心増加は、収縮期血圧、拡張期血圧の低下範囲に関連していた。

[結論]降圧療法による有害イベントの増加は血圧低下の圧倒的ベネフィットを否定するものではないが、降圧療法時には常に議論されるべきであろう。

[文献]H2RAはせん妄発症に関連している可能性が高いし、PPIという選択でせん妄リスクを回避できるかもしれない。(比較研究PMID: 22949902)

Fujii S.et.al. Comparison and analysis of delirium induced by histamine h(2) receptor antagonists and proton pump inhibitors in cancer patients. Case Rep Oncol. 2012 May;5(2):409-12. PMID: 22949902
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22949902

[目的]H2受容体拮抗薬は薬剤関連せん妄を引き起こすことが報告されている。せん妄を発症に関して、食道癌の外科的治療後の吻合部潰瘍予防にH2受容体拮抗薬による治療とPPIによる治療を比較した。

[方法]せん妄の発症と重症は後ろ向きに比較した。H2RA群30例(65.2歳)、PPI群30例(65.2歳)せん妄の診断はDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-IV-Textに準拠した。せん妄重症度はDelirium Rating Scale (DRS)で評価した。

[結果]せん妄の発症はPPI群で有意に低かった。(p = 0.047) せん妄を発症したH2RA群の11例において、H2RAを中止するとDRSスコアは有意に低下した。(p = 0.009).H2RAを服用していた3人の患者では中止により、3日後のDRSスコアが中止前と比べて50%以上も減少した。

[結論]H2RAからPPIへの変更でせん妄発症リスクが低下できる可能性がある。

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3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

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いよいよ夏本格という感じですが、なかなかブログ記事をまとめる時間がないのが悩み…。隔週更新は最低限維持していきたいと思います。

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2016.Jul.6;2(73)

スレッド
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1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-薬剤と骨折リスクの考え方-

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[introduction]
薬剤による骨折リスクを考える際には、薬物有害反応Adverse Drug Reactionによる薬剤の直接的な作用がもたらす骨折リスクと、薬物有害事象Adverse Drug Eventによる薬剤の間接的な作用がもたらす骨折リスクに分けて考える必要がある。

薬物有害反応による骨折リスクとしては例えば、薬剤性骨粗鬆症を引き起こす代用的な薬剤であるステロイド(J Bone Miner Res. 2004 Jun;19(6):893-9. PMID: 15125788)、骨芽細胞の機能低下が示唆されているピオグリタゾン(CMAJ. 2009 Jan 6;180(1):32-9. PMID: 19073651)Caの吸収阻害が示唆されているプロトンポンプ阻害薬(JAMA. 2006 Dec 27;296(24):2947-53. PMID: 17190895)などがあげられる。

薬物有害事象による骨折リスクは、姿勢制御に影響を与える薬剤がこれに該当する。ベンゾジアゼピン系薬剤は薬物有害事象による骨折を引き起こす可能性のある代表的な薬剤であろう。ベンゾジアゼピン系薬剤は転倒リスクを増加させ(Arch Intern Med. 2009 Nov 23;169(21):1952-60. PMID: 19933955)大腿骨頸部骨折リスクを増加させる(Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2010 Dec;19(12):1248-55.)

[骨折の予後]
骨折を起こすとその予後はあまりよろしくない。特に高齢者ともなると死亡リスクの増加が示唆される。カナダにおける50歳以上の7753人を対象としたコホート研究によれば、腿骨頸部骨折から1年目で死亡リスクが3.17倍[95%信頼区間1.35~7.42]増加することが示されている。(CMAJ. 2009 Sep 1;181(5):265-71 PMID:19654194)

また、また三重県の骨粗鬆症患者419人(平均73歳)を対象とし、10年間追跡したコホート研究では、椎体骨折でも生命予後悪化が示されており、さらに骨折箇所増加に伴い生存率が低下することも示されている。(J Orthop Surg (Hong Kong). 2010 Aug;18(2):148-52. PMID: 20808003)

[fall-risk-increasing drugs: FRIDs]
薬剤と骨折リスクについて、薬物有害反応によるものと、薬物有害事象によるものについて述べたが、本稿では後者に注目し、特に近年になり概念化された「転倒リスクを増加させる薬剤群fall-risk-increasing drugs: FRIDs」についてまとめる。

Fall risk-increasing drugs (FRIDs)はSwedish National Board of Health and Welfare (NBHW)によりリストアップされており、催眠鎮静薬、抗うつ薬、抗精神病薬(リチウムを除く)、ベンゾジアゼピン、脂質異常症を除く心血管用薬、抗コリン薬、抗てんかん薬、抗パーキンソン病薬、オピオイドが含まれている。

■FRIDsは骨折リスクを増加させる。
75歳以上の38407人を対象にFRIDsの使用と骨折リスクの関連を検討したスウェーデンのコホート研究では、年齢、性別、疾患状態で補正後、大腿骨頸部骨折はオピオイド使用 (OR 1.56, 95% CI 1.34-1.82), ドパミン作動薬使用(OR 1.78, 95% CI 1.24-2.55), 抗不安薬使用 (OR 1.31, 95% CI 1.11-1.54), 抗うつ薬使用(OR 1.66, 95% CI 1.42-1.95) 催眠鎮静薬使用(OR 1.31, 95% CI 1.13-1.52)と報告されている。(BMC Geriatr. 2014 Dec 4;14:131. PMID: 25475854)

■めまい患者の多くでFRIDsを使用している。
めまいを主訴に耳鼻咽喉科を受診した292例(平均53.3歳)の後ろ向きカルテレビューでは40.8%でFRIDs(34%で2剤以上)を使用していた。なお最も多かった一次診断は片頭痛(43.2%)であり、次にメニエール病(19.2%)であった。(Otol Neurotol. 2015 Jun;36(5):862-4. PMID: 25828649)

オランダのプライマリケアにおける電子医療記録より、65歳以上の2812 人(平均77.0歳)のめまい患者を調査。平均で3.1剤のFRIDs 、そして87.2%もの患者に少なくとも1剤以上のFRIDsが処方されていた。(Scand J Prim Health Care. 2016 Jun;34(2):165-71 PMID: 27049170)

これらの観察研究から、FRIDsが潜在的にめまいを誘発する薬剤である可能性が示唆される。

■大腿骨頸部骨折後のFRIDs使用で死亡リスクが増加する。
スウェーデンにおける3つの公的データベースより、60歳以上で大腿骨頸部骨折を有する患者2043人を対象としたコホート研究によれば、FRIDsを4剤以上使用(518人:25.4%)すると、30日以内の死亡はオッズ比で2.01[95%信頼区間1.44~2.79]、90日以内の死亡はオッズ比で1.56[1.19~2.04]、180日以内の死亡はオッズ比で1.54[1.20~1.97]、365日以内の死亡はオッズ比1.43[1.13~1.80]であった。(Clin Interv Aging. 2016 Apr 29;11:489-96. PMID: 27199553)

[ポリファーマシーとFRIDs]
ポリファーマシー状態は大腿骨頸部骨折リスクを増加させることが報告されている(Medicine (Baltimore). 2010 Sep;89(5):295-9.PMID: 20827106)骨折リスク増加に関して、特にどのような薬剤に注意すべきかを知ることは重要である。

50歳以上の6,666人を解析した縦断研究では、特に抗うつ薬を含むポリファーマシーで転倒リスクが増加(相対危険1.28, 95% CI 1.06-1.54)し、ポリファーマシー状態にない抗うつ薬の使用ではリスクとの関連は見られなかった。またベンゾジアゼピンを含むポリファーマシーでは転倒外傷が増加(相対危険1.40 95%CI1.04–1.87)したが、ポリファーマシー状態にないベンゾジアゼピン使用では明確な差はなかった。(Age Ageing. 2015 Jan;44(1):90-6PMID: 25313240)

この研究では総じて、転倒リスクに明確な差が出ていない。ポリファーマシー状態、抗うつ薬、利尿剤、抗精神病薬、ベンゾジアゼピン、抗うつ薬、いずれも単独解析では明確な転倒リスク上昇は示されていなかった。現段階では不明な部分も多いが、抗うつ薬やベンゾジアゼピンを含むポリファーマシー状態には転倒リスクにより注意が必要かもしれない。

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2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

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[文献]アレンドロネートの長期使用の影響(症例対照研究PMID: 27353596)

Abrahamsen B.et.al. Risk of hip, subtrochanteric, and femoral shaft fractures among mid and long term users of alendronate: nationwide cohort and nested case-control study. BMJ. 2016 Jun 28;353:i3365. PMID: 27353596
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27353596

[重要]骨粗鬆症患者において、アレンドロネートの長期(10年以上)の使用と骨への安全性、有効性を知ることは重要である。

[デザイン]オープンレジストリを用いた、コホート内症例対照研究

[セッティング]デンマークにおける全国調査

[参加者]治療開始時において、過去にアレンドロネートを服用していない50歳~94歳の男女61990人

[介入]アレンドロネートの服用

[主要評価項目]大腿骨転子下/大腿骨幹部骨折もしくは大腿骨頸部骨折。年齢、出生年、アレンドロネート服用開始時期でマッチングした、非骨折者を対照と設定。条件付きロジスティック回帰分析と用いて、オッズ比を算出。

[結果]1428例の大腿骨転子下/大腿骨幹部骨折症例(発生率:3.4/1000人年[95%信頼区間3.2~3.6]、6784例の大腿骨頸部骨折症例(発生率:16.2/1000人年[95%信頼区間15.8~16.6]

大腿骨転子下/大腿骨幹部骨折はMPRが80%を超えるコンプライアンス良好例でMPR50未満の不要例に比べて有意に低下。(オッズ比0.88[95%信頼区間0.77~0.99]ただし、多変量解析するとこの関連が不明確となった。(オッズ比0.88[95%信頼区間0.77~1.01]
また使用なしと比べて10年以上の使用でオッズ比0.70[95%信頼区間0.44~1.11]であった。

大腿骨頸部骨折も同様にMPRが80%を超えるコンプライアンス良好例でMPR50未満の不要例に比べて有意に低下。(オッズ比0.73[95%信頼区間0.68~0.78]5~10年、10円以上の使用で有意にリスク低下。(オッズ比[95%信頼区間]はそれぞれ0.74[0.67~0.83]、0.74[0.56~0.97]
[結論]これらの結果は、アレンドロネートの10年以上の継続使用においても、骨折アウトカムにおけるリスクとベネフィットのバランスは十分許容できることを支持する。

[コメント]
これまでのビス剤の観察研究では、3年~5年の継続使用でベネフィットは少なくなり、5年を超えるとむしろ骨折リスクが増加する可能性が示唆されていた。

本研究は症例対照研究である。抄録からでは研究対象者の概要が分かりづらいが、two nested case control studies、つまり2つの解析を行っている。

①大腿骨転子下/大腿骨幹部骨折
[症例]1428例(平均79.6歳)
[対照]6825例(平均79.8歳)
②大腿骨頸部骨折群
[症例]6784例(平均80.2歳)
[対照]19952例(平均80.1歳)

服薬アドヒアランスはMPR(Medication Possession Ration)という指標で評価されている。処方された薬剤のうちどれくらい服薬されたかを示す指標で80%以下を不良とすることが多いようだ。

アドヒアランスが良いほど骨折リスクは低下し、大腿骨頸部骨折については10年の長期使用でもリスク低下が示されている。アドヒアランスはともかく、長期使用に関してはこれまでの結果と矛盾しており、今後の研究結果に注目したい。

[文献]信仰心は生きる力を肯定するか。(コホート研究 執筆時PubMed未収載)

Tyler J. VanderWeele,et.al. Association Between Religious Service Attendance and Lower Suicide Rates Among US Women.
JAMA Psychiatry. June 29, 2016. doi:10.1001/jamapsychiatry.2016.1243
http://archpsyc.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2529152

[重要]宗教活動への参加と自殺のリスクの関連を検討した研究はこれまでにも報告されている。しかし、その多くは横断研究や生態学的研究、症例対照研究によるものであり、方法論的限界がある。

[デザイン、参加者]1996年から2010年において宗教活動への参画と自殺の関連を、大規模コホート研究であるNurses’ Health Study,に参加していた89708例の女性を対象に行った。なお1992年から1996年の間における宗教活動への参画は、自己申告で行われた。データ解析は1996年から2010年にかけて行われた。

[主要評価項目]Cox比例ハザードモデルを用いて、宗教活動への参加と自殺のリスクの関連を見積もった。人口統計学的共変量、ライフスタイル因子、病歴、抑うつ症状、などで交絡補正した。また未知の交絡変数を探索するために感度分析を行った。

[結果]Nurses’ Health Studyより、30歳~55歳の89708例が対象となった。週に1回以上の主教活動への参加は、全く参加の無い人に比べて5倍以上の自殺リスク低下が示された。(ハザード比0.16[95%信頼区間0.06~0.46]

またほとんど参加しない人に比べて、週に1回以上参加する人は、カトリックでハザード比0.05[95%信頼区間0.0006~0.48]、プロテスタントでハザード比0.34[95%信頼区間0.10~1.10]であった。

[結論]米国の女性コホートにおいては、宗教活動への頻回の参加が自殺リスクの有意な低下に関連している。

[コメント]ハザード比を見ると驚異的。交絡の影響もあるかもしれないが、信仰心という者が自殺念慮を大きく減退させる可能性を、つまり、生きるという事を肯定してくれる力を与えてくれるのかもしれない。

[文献]75歳以上の高齢者における降圧療法(RCTサブ解析 PMID: 27195814)

Williamson JD.et.al. Intensive vs Standard Blood Pressure Control and Cardiovascular Disease Outcomes in Adults Aged ≥75 Years: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016 Jun 28;315(24):2673-82. PMID: 27195814
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27195814

[重要]高血圧を有する高齢者における適切な収縮期血圧は不明である。

[目的]糖尿病を有さない75歳以上の高血圧患者を対象に収縮期血圧が120mmHg未満を目指す厳格治療と140mmHg未満を目指す標準治療の効果を比較する。

[デザイン、参加者]
多施設ランダム化比較試験であるSPRINTに参加した75歳以上の高齢者を解析対象とした。

[介入]参加者は収縮期血圧で120mmHg未満を目指す厳格治療群(1317人)もしくは140mmHg未満を目指す標準治療群(1319人にランダム化された

[主要評価項目]
一次心血管アウトカムは非致死的心筋梗塞、心筋梗塞の生じていない急性冠症候群、非致死的脳卒中、非致死的急性非代償性心不全及び心血管死亡の複合アウトカムとした。なお総死亡は二次アウトカムに設定した。

[結果]2636人(平均79.9歳、女性37.9%)のうち95.1%mにあたる2510例のデータを追跡完了した。追跡は中央値で3.14年であった。一次アウトカムは標準治療群に比べて、厳格治療群でわずかに減少した。厳格治療群102件、標準治療群148件、ハザード比0.66[95%信頼区間0.51~0.85]

また総死亡も減少した。厳格治療群73件、標準治療群107件、ハザード比0.67[95%信頼区間0.49~0.91]

重篤な有害イベントは両群で様認めなかった。厳格治療群48.4%、標準治療群48.3%、ハザード比0.99[95%信頼区間0.89~0.11]低血圧は厳格治療群で2.4%、標準治療群で1.71%と厳格治療群で多い傾向にあった。ハザード比1.71[95%信頼区間0.97~3.09]同様に湿疹も厳格治療群3.0%、標準治療群2.4%と多い傾向を認めた。ハザード比1.23[95%信頼区間0.76~2.00]また電解質異常、急性肝障害、転倒による外傷も厳格治療群で多い傾向にあった。

[結論]75歳以上の外来の高齢者において、収縮期血圧を140mmHg未満を目指す治療と比較し、120mmHg未満を目指す治療では、非致死的な主要心血管イベント、総死亡が少ない可能性が示された。

[コメント]一見するとHYVETに続く超高齢者の降圧療法に関するランダム化比較試験に思えてしまうが、
This trial was specifically funded to enhance recruitment of a prespecified subgroup of adults aged 75 years or olderと記載があり
The Systolic Blood Pressure Intervention Trial (SPRINT)のあらかじめ予定されたサブグループ解析であることに注意したい。
大事なのは仮説生成的であること。効果もそうだが、有害イベントに有意差がないことを過信してはならない。

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3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

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当ブログの更新頻度をとりあえず2週に1回としたいと思います。現状ブログ記事を編集している時間が限られており、毎週更新が厳しい状況です。

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2016.Jun.22;2(72)

スレッド
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1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-モサプリドの効果-

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[introduction]

個人的に消化器系用薬ではモサプリドをお勧めすることが多い。脳卒中後の胃瘻造設患者で肺炎リスクを抑制したというランダム化比較試験が報告されていることが、その根拠ではある。
〔J Am Geriatr Soc. 2007 Jan;55(1):142-4..PMID:17233710〕

それ以外にも、PPIやH2RAは有害事象(特にPPI)や腎機能の問題から、超高齢者に積極使用しづらいという理由もある。ただ、胃酸分泌を強力に抑制し、消化器系症状改善がかなり明確なPPIと異なり、モサプリドはいまいちパッとしない印象もある。

ところで、上部消化器症状を有する患者への「胃薬」は多岐にわたるが、PPI+ムコスタ+セルベックス+ベリチーム、みたいに、ひたすら胃薬(hitasura Igusuri:HI処方)が投与されているケースもあり、現実的にはポリファーマチックな胃薬使用は決して少なくない。対症的薬剤なので、投与の中止提案も難易度が高く悩ましいところではある。

本稿では、なんとなく個人的に良さげなイメージを持っているモサプリドが臨床上、どの程度の有用性を誇るのか、客観的に把握するために近年報告されている論文をレビューしてみる。またHI処方への介入切り口としてPPI+モサプリドの有効性についても検討を加える。

[上部消化管症状に対する“胃薬”の効果]
上部消化管症状(lobal Overall Symptom score:GOSで7点中4点以上)を有する471人を対象として、オメプラゾール、ファモチジン、モサプリド及びテプレノンの有効性を検討したランダム化比較試験が報告されている。
〔BMC Gastroenterol. 2012 May 1;12:42. PMID: 22548767〕

対象となったのは、中等度から重度の上部消化管症状を有する20歳以上の成人で、ピロリ菌陰性、3か月以内に内視鏡検査をしていない人が対象となった。

被験者はオメプラゾール10mg/日群(139人、平均40.9 歳)、ファモチジン20mg/日群( 129人、平均39.4 歳)、モサプリド15mg/日群(118人、平均40.0歳)、テプレノン150mg/日( 68人、平均40.0歳)の4群にランダム化されている。

一次アウトカムは4週の治療後における症状の改善した患者割合で、症状改善はGlobal Overall Symptom scoreで7点中2以下と定義された。

なおこの研究は非盲検試験であり、主観的なアウトカムを評価していることから、その結果の妥当性はかなり低いと言わざるを得ない。投与回数が異なるが故、盲検化が難しいのはわかるが、せめて、ダブルダミーのように、プラセボを組み合わせた二重盲検試験で検討すべきであった。とても興味深い臨床課題の研究なので、残念であるところ。

結果を見ておこう。一次アウトカムの割合はオメプラゾールで27.8%、ファモチジンで9.8%、モサプリドで8.0%、テプレノンで6.2%であった。オメプラゾールは他の3剤よりも有意に優れていたという結果。まあこの結果自体は経験的にも大きな矛盾はない印象。やはりPPIの効果は優れているといえるだろう。しかし、モサプリドとH2RAにそれほど大きな差もない印象である。盲検化されていないということを逆手に取れば、プラセボ効果も込みでモサプリドはH2RAに比べて劣るものではない、と言えるかもしれない。

[機能性ディスペプシアに対するモサプリド]

近年、アコチアミドという薬剤が発売され、機能性ディスペプシアの疾患概念が本邦でも定着しつつあるが、その効果について2014年にメタ分析が報告されている。
〔ScientificWorldJournal. 2014;2014:541950. PMID: 25197703〕

もちろん、効果が期待できるという結果だが、別にアコチアミドではなくモサプリドでも良いのではないか、というのが僕の考えではある。

モサプリドと機能性死すペプシアについては2012年にJapan Mosapride Mega-Studyという少し面白い名前のランダム化比較試験が報告されている。
〔J Gastroenterol Hepatol. 2012 Jan;27(1):62-8.〕

この研究は機能性ディスペプシアを有する患者618人を対象にモサプリド(311人)とテプレノン(307人)を比較して、胃内容うっ滞、心窩部痛、健康関連QOLなどが評価された。

その結果、2週間の治療においてモサプリドは胃内容うっ滞、心窩部痛を有意に改善したが、テプレノンは改善傾向に留まった。この研究は群間比較をしていないようなので、何とも難しいところではあるが、少なくともモサプリドで症状の改善が見込めそうなこと、テプレノンよりも効果が高そうなことが分かる。

2015年には機能性ディスペプシアに対するモサプリドの有効性を検討したメタ分析が出ているので見ておこう。
〔J Gastroenterol Hepatol. 2015 Jan;30(1):28-42. PMID: 25041564〕

この解析では13研究のランダム化比較試験が対象となっている。モサプリド1091人、control群として1129人が解析された。その結果、症状ベースのスコア改善率に明確な差が出なかった。相対危険0.999 (95% 信頼区間0.869-1.150) なんと機能性ディスペプシアに対する有効性は示されていない。コントロールがプラセボのみではないことも影響があるかもしれないのだが、個人的には残念な結果。

ちなみにイトプリドではわずかに有効性が示されているようだ。
〔World J Gastroenterol. 2012 Dec 28;18(48):7371-7. PMID: 23326147〕
ガナトン®をお薦めすべきなのだろうか。。。

[PPI+モサプリドと言うような併用にどんな意味があるのか]
HI(Hitasura Igusuri)処方ではPPI+ムコスタとかPPI+モサプリド、のようなコンビネーションが散見されるが臨床的意義はあるのだろうか。

胃食道逆流症におけるPPI+モサプリドの有効性を検討したシステマティックレビュー論文が2013年に報告されている。
〔World J Gastroenterol. 2013 Dec 21;19(47):9111-8. PMID: 24379638〕

このレビューでは7研究587人が組み入れられている。かなり小規模研究のレビューと言うことになろう。

7研究のうち4研究でPPI単独とモサプリド+PPI併用の有効性比較を行っていたが、その効果は微妙だ。メタ分析によれば治療応答の相対危険は〔1.132; 95%信頼区間 0.934-1.372〕PPIに対するモサプリドの上乗せ効果はこの研究では明確に示されていない。

2014年には胃食道逆流症に対するオメプラゾール単独とオメプラゾール+モサプリド併用を比較したランダム化比較試験が報告されているが、逆流関連症状の変化に群間さを認めていない。やはりPPI+モサプリドはPPI単独に比べて優れた薬剤効果を示すというわけではないようだ。
〔J Dig Dis. 2014 Sep;15(9):469-76. PMID: 24957863〕

[結局のところモサプリド]
消化器症状に対する何らかの効果はあるかもしれないが、機能性ディスペプシアに対する効果はあまり明確ではない。テプレノンよりはマシ、くらいなものかもしれない。ただ胃食道逆流に対するPPI+モサプリドと言うのはもはや「謎処方」でしかないことがわかった。

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2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

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[重要文献]リラグルチドは効果があるのか RCT PMID: 27295427

Marso SP.et.al. Liraglutide and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2016 Jun 13. [Epub ahead of print] PMID: 27295427
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27295427

[背景]2型糖尿患者における標準ケアにリラグルチド(GLP-1作動薬)を上乗せした際の心血管疾患に対する有効性は不明である。

[方法]本研究は心血管リスクが高い2型糖尿病患者を対象に、リラグルチドとプラセボを比較した2重盲検ランダム化比較試験である。一次アウトカムは心血管死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合アウトカム初発とした。一次仮説は、プラセボに対するリラグルチドの非劣性であり、非劣性マージンは結果のハザード比における95%信頼区間上限で1.3と設定された。

[結果]9340人がランダム割り付けされた。追跡期間は中央値で3.8年であった。一次アウトカムはプラセボに比べて、リラグルチド群で有意に低下した。 リラグルチド:608人/4668人 [13.0%]、プラセボ:694人/4672人 [14.9%]、ハザード比0.87[95%信頼区間95% 0.78 to 0.97]

心血管死亡もリラグルチド群で少なかった。リラグルチド群:219人[4.7%]、プラセボ群 278人 [6.0%] 、ハザード比0.78[95%信頼区間0.66~0.93]

さらに総死亡もリラグルチド群で有意に低下した。リラグルチド群:381人[8.2%])、プラセボ群447人 [9.6%] 、ハザード比0.85[95%信頼区間 0.74~0.97];
非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院には明確な差を認めなかった。

主な有害事象は消化器系イベントであった。膵炎は両群で明確な差を認めなかった。

[結論]2型糖尿病患者におけるリラグルチドは心血管死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合アウトカム初発をプラセボよりも低下させる。

[コメント]リラグルチドやりおったなという印象。ちなみに「リキシセナチド」は以前印こけている。Pfeffer MA.et.al. Lixisenatide in Patients with Type 2 Diabetes and Acute Coronary Syndrome. N Engl J Med. 2015 Dec 3;373(23):2247-57. PMID: 26630143
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26630143
http://blog.livedoor.jp/ebm_info/archives/46354990.html)
予想に反して(!?)わりと良い結果が出ているが、まあこれで驚くのは早い。何せThe primary hypothesis was that liraglutide would be noninferior to placeboと言うわけで非劣性試験だからだ。優越性は一次アウトカムではない。この結果でプラセボよりも優れているという主張はあくまで仮説生成にすぎない点に留意しておこう。

まずは対象患者から。
『Patients with type 2 diabetes who had a glycated hemoglobin level of 7.0% or more were eligible…The major inclusion criteria were the following: an age of 50 years or more with at least one cardiovascular coexisting condition…or an age of 60 years or more with at least one cardiovascular risk factor,….』
と言う感じ。50歳以上で心血管疾患を有する糖尿病患者や、60歳以上で心血管リスク因子を有する糖尿病患者でHba1cが7%以上の人が対象。ありがちなハイリスク患者というやつだ。まあ少なくとも新規発症と言う感じじゃないので、この時点で、第一選択としての薬剤効果を検討しているわけではないと考えて良いだろう。(まあ、たとえ効果があるにせよ、最初からお注射なんて僕はいやだな。)

介入、対照は
『patients were randomly assigned, in a 1:1 ratio, to receive either 1.8 mg (or the maximum tolerated dose) of liraglutide or matching placebo once daily as a subcutaneous injection in addition to standard care』
となっていて、既存治療への上乗せとなっている。つまるところやはり第一選択としての効果を検討しているわけではあっりません。プラセボ比較の2重盲検試験なんで、PROBEなんかよりも、それはそれで良いデザインね。

アウトカムは
「The primary composite outcome in the time-to-event analysis was the first occurrence of death from cardiovascular causes, nonfatal (including silent) myocardial infarction, or nonfatal stroke.」てなわけで、抄録に記載の在った通り。非致死的、非致死的、まあ、どんな的?みたいな。

非劣性マージンは
『The primary hypothesis was that liraglutide would be noninferior to placebo with regard to the primary outcome, with a margin of 1.30 for the upper boundary of the 95% confidence interval of the hazard ratio.,』

1.3を超えなければ非劣性よ、というFDA(baka)の一つ覚えみたいな設定。まあしゃーない。ちなみに95%信頼区間法を用いている。非劣性試験は片側検定なので、97.5%信頼区間法を用いた方が良いんじゃね、と思うのがDM関連のRCTはいつもこれだ。これもFDAの基準に乗ってるんか。

結果には有意な差がついているのだが、一次アウトカムはno. of events/100 patient-yで、リラグルチド群3.4、プラセボ群3.9。年間NNTは200人と計算されまっす。総死亡は2.1対2.5なので250人どえす。カプランマイヤーも目が悪いせいかほぼ重なって見えますなー。つまり非劣性は確かだよ、という感じだね。「特別仕様プラセボお注射」、僕はやめておこう。

[文献]ベザフィブラートで死亡が減る?(RCT長期追跡PMID: 26794137)

Arbel Y.et.al. Bezafibrate for the treatment of dyslipidemia in patients with coronary artery disease: 20-year mortality follow-up of the BIP randomized control trial. Cardiovasc Diabetol. 2016 Jan 22;15:11. PMID: 26794137
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26794137

[背景]近年のデータは心血管リスク低減における重要な治療目標として、高TG血症に関する新たな関心を支援している。この研究はベースライントリグリセリドで層別化した患者を対象に行われたBIP試験の長期追跡中における総死亡についての問題に対応するためにデザインされた。

[方法]BIP試験は冠動脈疾患を有する3090人を対象にベザフィブラート400mgとプラセボにランダムに割り付けた研究である。20年にわたり追跡された総死亡データはNational Israeli Population Registryより入手した。高TG血症患者(TG200mg以上 458人)も研究に含まれていた。

[結果]追跡期間中、1869人が死亡した(プラセボ952に、ベザフィブラート917人)ベザフィブラートはわずかに死亡を減らした。(ハザード比0.90[95%信頼区間0.82~0.98]有意に死亡リスクが増加した変数は、心筋梗塞既往、糖尿病、NYHAクラス、年齢、BMI、血糖レベルであった。高TG血症患者ではベザフィブラートを服用していると25%の死亡リスク減少が見られた。(ハザード比0.75[95%信頼区間0.60~0.94]しかし、高TG血症の無い患者ではフィブラートの投与と死亡に明確な関連性を認めなかった。

[結論]ベザフィブラートを投与された患者の長期追跡では、わずかではあるものの有意な死亡リスク減少(10%)が見られた。この効果は、高TG血症を有する人でより高かった(25%リスク減少)

[コメント]この研究でもってベザトールええ感じやねん、とするのは早いぜ。そもそもフィブラートはあんまし(まったく)効果がない。TGが高ければ確かに心血管リスクが高い。そんならスタチンつかえや、と言いたくなるのをこらえて、まあこの研究を見ていこう。

そもそもビップ試験ってなんだ。と言う話だが、
『The BIP trial evaluated the effect of bezafibrate versus placebo on major coronary events and mortality in CHD patients.』である。ベザフィブラートの二次予防効果を検討した研究だが、BIP試験ではそもそも一次アウトカム(The primary end point was fatal or nonfatal myocardial infarction or sudden death)に明確な差が出ていない。The frequency of the primary end point was 13. 6% on bezafibrate versus 15.0% on placebo (P=0.26).そんな研究を長期追跡してみた、つーわけだ。ちなみにこのビップ試験(どこらへんがビップ?)、高TG血症患者(も含まれてるけど)ではなく、冠動脈疾患を有する患者が対象となっている。

この研究はBIP試験の参加者コホートを使って、総死亡に影響を与える変数を検討したものであり、ベザフィブラートの効果を検証したものではない。解析の中で、たまたまベザフィブラートを投与された患者で死亡リスクが低かったということが示唆されているにすぎない、と考えた方が無難だ。これまでRCTやそのメタ分析で有効性が示されていない背景を踏まえれば、この研究だけでフィブラートに効果があると解釈するのは大きな誤りだろう。

[文献]エンパグリフロジンで腎イベントは抑制できるか。(RCT二次解析PMID: 27299675)

Wanner C.et.al. Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2016 Jun 14. [Epub ahead of print] PMID: 27299675
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27299675

[背景]糖尿病は心血管有害事象リスクや腎イベントを増加させる。EMPA-REG OUTCOME trialにおいて、エンパグリフロジン(SGLT-2阻害薬)は心血管イベントハイリスク2型糖尿病患者における主要心血管イベント(MACE)を抑制した。この研究における事前に計画された二次解析で、エンパグリフロジンの腎臓への影響を検討する。

[方法]e-GFRが少なくとも30以上の2型糖尿病患者をエンパグリフロジン(10㎎もしくは25㎎)とプラセボにランダムに割り付けた。あらかじめ計画された腎アウトカムは、腎症(微量アルブミン尿への進行、血清クレアチニン値の倍増、腎代替療法の開始、腎疾患による死亡)の悪化もしくは発症、およびアルブミン尿発症であった。

[結果]腎症悪化はエンパグリフロジンで525人/4124 人(12.7%)、プラセボ群で388 人/2061人 (18.8%)、ハザード比0.61[95%信頼区間0.53~0.70]血清クレアチニン値倍化はエンパグリフロジン群 70 人/ 4645人 (1.5%) 、プラセボ群 60人/2323人 (2.6%) で相対危険は 44%.有意に低下した。腎代替療法開始は、エンパグリフロジン群で13人/ 4687人(0.3%) 、プラセボ群で14人/ 2333 人(0.6%) と相対危険で 55% 低下した。アルブミン尿に明確な差はなかった。

[結論]心血管疾患ハイリスクの2型糖尿病患者において、エンパグリフロジンは腎臓病の進展を抑制し、腎イベントリスクを低下させた。

[コメント]EMPA-REG OUTCOME trialについてはこちらを。
http://syuichiao.blogspot.jp/2015/09/empa-reg-outcome.html
SGLT-2で腎イベントが抑制できるかもという研究。なかなか興味深い。二次解析なので、何とも言えないが、ちょっとSGLT-2には期待してる。個人的にはメトホルミン→SGLT-2というセカンドラインでの推奨。ただ薬価高いなぁ。


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3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

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梅雨の湿気と暑さでばて気味です。
最近勉強しているのが「価値に基づく医療」ですが、なかなかに難しい。

臨床判断における「正義」というのはもはや哲学的問題なので、こっちの得意分野だわと思いきや、VBPは日本語文献が少なく、英語で挫折しそう。

功利主義やカントの道徳論などはおそらくとても参考になるし、まあてっとり早くサンデルの本で整理しておくと良いかもしれない。価値の承認と言うのは分かり合うということではなく、コンセンサスが取れない中で、つまり分かり合えない中で、どこに到達点を設定するかと言う問題は、やはり構造構成主義的な考え方に近いのだろう。

EBMとVBPを対比することも多いのだが、僕はその対比は根本的に間違っていると思う。EBMはステップ3、つまりエビデンスを批判的に吟味することの方法論は見事に体系化されていたが、ステップ4については明確な方法論が示されていなかった。VBPはつまるところEBMのステップ4の体系化に他ならないと感じている。

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2016.Jun.8;2(71)

スレッド
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1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-ポリファーマシー問題、その薬剤数だけが問題なのか-

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[introduction]
多剤併用、いわゆるポリファーマシーも問題なのだが、服用する剤数のみならず、投与経路や服用タイミング、服薬頻度など、処方レジメンの複雑さもアドヒアランス低下につながったり、特にワルファリンや経口糖尿病薬では思わぬ有害事象につながる可能性が懸念されるであろう。投与レジメンの複雑さを定量化するためのツールとしてmedication regimen complexity index(MRCI)と言うものがある。あまり日本ではなじみのないツールであるが、大きく、以下の3つのセクションからなる

・セクションA(剤形)
►投与経路(経口、局所、点眼、点鼻等)とその剤形(錠剤、液剤、スプレー剤等)
・セクションB(投与頻度)
►1日の服薬頻度やタイミング
・セクションC(投与に必要となる追加の作業)
►漸減、漸増、食事との関連、粉砕など


セクションごとに細かなチェック項目があり、それぞれの項目は重みづけによる点数配分がなされている。例えばセクションAでは錠剤/カプセルであれば1点だが、液剤であれば2点となっている。チェック項目は65項目設定されており、スコアが大きいほど、より複雑なレジメンであることを示す。その信頼性は論文化されており、現段階で妥当性の高い評価ツールと言われている。

George J.et.al. Development and validation of the medication regimen complexity index. Ann Pharmacother. 2004 Sep;38(9):1369-76. PMID: 15266038

MRCIと患者予後の関連を検討した報告はまだまだ少ないものの、徐々に増えてきている印象だ。以下、報告年順に主要な研究をレビューする。

[MRCIと薬物有害事象(Willson MN.et.al.2014)]

薬物有害事象で再入院した症例(92例)と同疾患を有し、再入院していない対照(228例)を比較した症例対照研究によれば、再入院群、つまり症例群でMRCIスコアが有意に高かった。(all P < .005).

Willson MN. Et.al.Medication regimen complexity and hospital readmission for an adverse drug event. Ann Pharmacother. 2014 Jan;48(1):26-32. PMID: 24259639

[MRCIとアドヒアランス(de Vries ST.et.al.2014)]
投与レジメンが複雑なほど、アドヒアランス低下が想定できるが、処方データを用いた解析が報告されている。この研究はGroningen Initiative to ANalyse Type 2 diabetes Treatment (GIANTT) という2型糖尿病患者のデータベースを横断的に解析(cross-sectional survey data)したものだ。257人を対象とし、質問票による回答を得た133人(平均66歳、50%が女性)を解析した。その結果、アドヒアランスが悪い患者において、MRCIが高い傾向にあった。特に高血圧治療においてはアドヒアランス不良群で有意にMRCIスコアが高かった。この研究ではサンプルが少なく、あまり著明な差は出ていないが、投与レジメンの複雑さがアドヒアランス低下につながる可能性が示唆される。

de Vries ST.et.al. Medication beliefs, treatment complexity, and non-adherence to different drug classes in patients with type 2 diabetes. J Psychosom Res. 2014 Feb;76(2):134-8. PMID: 24439689

[MRCIと予期せぬ再入院リスク(Wimmer BC.et.al.2014)]
70歳以上の高齢者163人を対象とした前向き研究。12か月の追跡でMRCIと再入院の関連を検討している。観察期間中99人が少なくとも1回以上再入院した。年齢、性別、ADL、抑うつ、併存疾患、認知状態等で補正後
・MRCI (HR = 1.01; 95% CI = 0.81-1.26),
・number of discharge medications (HR = 1.01; 95% CI = 0.94-1.08)
・polypharmacy (≥9 medications; HR = 1.12; 95% CI = 0.69-1.80)
といずれも明確な関連性を認めなかった。

退院後自宅へ戻らなかった患者を対象とした解析では
・number of discharge medications (HR = 1.12; 95% CI = 1.01-1.25)
・polypharmacy (HR = 2.24; 95% CI = 1.02-4.94)
・MRCI (HR = 1.32; 95% CI = 0.98-1.78)
とMRCIは有意な関連を示さなかったが増加傾向にあった。この解析ではポリファーマシーと再入院リスクの関連性が示されている一方で、『Medication regimen complexity was not associated with unplanned hospital readmission in older people』と結論しているように、投与レジメンの複雑さと再入院リスクの関連は否定されている。但しサンプル数が少ないので、解釈は難しい。

Wimmer BC.et.al. Medication Regimen Complexity and Unplanned Hospital Readmissions in Older People. Ann Pharmacother. 2014 May 27;48(9):1120-1128. PMID: 24867583

[MRCIと再入院・救急診療部受診リスク(Yam FK.2015)]
心不全を有する米国退役軍人コホートを用いた後ろ向きコホート研究。174人が解析対象となった。90日以内に再入院、救急診療部を受診したのは62人(36%)平均MRCIは4.7であった。MRCIが1単位増加するごとに再入院・救急診療部受診は4%低下する傾向を示唆した。(OR 0.955; 95% CI 0.911-1.001).投与レジメンが複雑になることは必ずしも予後悪化と関連していないということが示されている。この研究もかなり小規模なものであり結論を鵜呑みにすることもまた難しい印象だ。

Yam FK.et.al. Changes in medication regimen complexity and the risk for 90-day hospital readmission and/or emergency department visits in U.S. Veterans with heart failure. Res Social Adm Pharm. 2015 Oct 27. pii: S1551-7411(15)00232-6. PMID: 26621388

[MRCIと予期せぬ再入院リスク(Wimmer BC.et.al.2016)]
スウェーデンにおける60歳以上の高齢者3348人を対象とした大規模コホート研究。これまで報告されていたものとは規模が一桁違う。MRCIや投与薬剤数と予期せぬ入院リスクを3年にわたり追跡調査した。その結果、観察期間中1125例が再入院し、投与レジメンの複雑さが再入院リスクを有意に増加させることを示した。

・Regimen complexity (hazard ratio 1.22; 95% CI 1.14-1.34)
・number of medications (hazard ratio 1.07; 95% CI 1.04-1.09)

わずかであるがいずれも有意にリスクが上昇している。但し、薬剤数に比べて、MRCIや予後を予測するツールとして優れているとは結論できないとしている。それにしても規模が大きくなると、リスクの増加が検出されるようになることからも、投与レジメンの複雑さと言うものが、わずかながら、ではあるものの、何らかの有害アウトカムをもたらす可能性が示唆される。

Wimmer BC.et.al. Medication Regimen Complexity and Number of Medications as Factors Associated With Unplanned Hospitalizations in Older People: A Population-based Cohort Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2016 Jun;71(6):831-7. PMID: 26707381

MRCIと死亡(Wimmer BC.et.al.2016)
スウェーデンにおける60歳以上の高齢者3348人を対象とした大規模コホート研究。論文著者は先ほどの研究と同じオーストラリア、モナシュ大学のWimmer BC。この手の研究論文は多い。3年間の追跡でMRCI1単位の増加は死亡リスクに関連する可能性が示された。一方ポリファーマシー(5剤以上)では明確な差は見られなかった。

MRCI:adjusted HR = 1.12; 95% CI = 1.01-1.25).
Polypharmacy: (adjusted HR = 1.03; 95% CI = 0.99-1.06)

なかなか衝撃的な研究結果となっている。近年問題視されてるポリファーマシーでは死亡リスクの関連は顕著ではなく、一方で投与レジメンの複雑さが問題なのではないか、という仮説を提起する。

Wimmer BC.et.al. Medication Regimen Complexity and Polypharmacy as Factors Associated With All-Cause Mortality in Older People: A Population-Based Cohort Study. Ann Pharmacother. 2016 Feb;50(2):89-95. PMID: 26681444

[MRCIと再入院(Abou-Karam N.et.al.2016)]
症例対照研究である。心不全、急性心筋梗塞、肺炎、COPDで入院した756人を対象に、30日以内に再入院した101例と再入院していない655例を比較している。平均年齢は約69歳である。その結果、再入院群でMRCIが有意に高かった。(30.8 readmission vs 26.3 no-readmission, p < 0.01)しかし、交絡補正後は明確な関連を認めなかった。

Abou-Karam N.et,al. Medication regimen complexity and readmissions after hospitalization for heart failure, acute myocardial infarction, pneumonia, and chronic obstructive pulmonary disease. SAGE Open Med. 2016 Feb 19;4:2050312116632426. PMID: 26985392

[まとめ]
MRCIと患者の臨床アウトカムを検討した研究はまだまだ少ない。2016年に入り、ようやく、大規模研究が報告され始めてきた。そこから明らかになったのは、少なくとも数千人規模の研究でないと有害事象を検出できない可能性があるということかもしれない。しかし逆に言えば、数千人規模で検出できる有害事象ともいえ、投与レジメンの複雑さがもたらす有害転帰は侮れないものがあるだろう。


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2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

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[文献]骨折後の転倒リスクの懸念がある薬剤使用(コホート研究PMID: 27199553)

Kragh Ekstam A.et,al. Do fall-risk-increasing drugs have an impact on mortality in older hip fracture patients? A population-based cohort study. Clin Interv Aging. 2016 Apr 29;11:489-96. PMID: 27199553
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27199553

[目的]転倒リスクの増加する薬剤群(FRIDs:fall-risk-increasing drugs )の使用と大腿骨頚部骨折患者の死亡を評価する。

[方法]一般人口集団を用いたコホート研究。スウェーデンにおける3つの公的データベースより、60歳以上で大腿骨頸部骨折を有する患者。評価項目は転倒リスクの増加する薬剤群の使用有無、ポリファーマシー状態の有無での死亡リスクであった。なお年齢、性別で調整した。

[結果]2043人の60歳以上の大腿骨頸部骨折患者のうち最初の1年で24.6%にあたる503人(男性170に)が死亡した。転倒リスクが増加する薬剤を4剤以上もしくは、5剤以上のポリファーマシー状態、精神疾患用薬、心血管疾患用薬の使用では、死亡リスクの有意な上昇が示された。転倒リスクの増加する薬剤群を4剤以上使用(518人:25.4%)すると、30日以内の死亡はオッズ比で2.01[95%信頼区間1.44~2.79]、90日以内の死亡はオッズ比で1.56[1.19~2.04]、180日以内の死亡はオッズ比で1.54[1.20~1.97]、365日以内の死亡はオッズ比1.43[1.13~1.80]であった。

[結論]転倒リスク増加に関する薬剤群の使用は大腿骨頸部骨折患者の死亡リスクが有意に高かった。特に4剤以上の転倒リスク増加に関する薬剤使用、ポリファーマシー状態、精神疾患用薬、心血管用薬で高かった。高齢者の薬物治療適正化に向けて、これら薬剤の使用を制限する必要がある。

[コメント]
fall-risk-increasing drugs (FRIDs)ということばを恥ずかしながらはじめて知った。
『Drugs that increase the risk of falls were identified in a previous study from 2011 and classified according to the World Health Organization's Anatomical Therapeutic Chemical Classification System into the following drug classes: psychotropic (including sedative/hypnotic, antidepressive, antipsychotic [excluding lithium], and benzodiazepine), cardiovascular (excluding lipid-lowering drugs), anticholinergic, antiepileptic, antiparkinson, and opioids.』

いわゆる催眠鎮静薬、抗うつ薬、抗精神病薬(リチウムを除く)、ベンゾジアゼピン、脂質異常症を除く心血管要約、抗コリン薬、抗てんかん薬、抗パーキンソン病薬、オピオイドが含まれている。

対象となったのは平均83.0歳の2043人、男性26.4%。Figure 1を見ても明らかなように、Cox regression survival modelを用いた解析では大腿骨頚部骨折後の患者において、FRIDsの4剤以上の使用で生存者が有意に減少していく。

そもそも大腿骨頸部骨折を起こすと、起こさない場合に比べて死亡のリスクが高くなる。[CMAJ. 2009 Sep 1;181(5):265-71. PMID:19654194] 
骨折後、独歩が可能だったとしても、転倒リスクの懸念のある薬剤は避けたい。転倒リスクの懸念のある薬剤としては、
[Arch Intern Med. 2009 Nov 23;169(21):1952-60. PMID: 19933955 ]
で示されている通り、降圧薬、利尿薬、催眠鎮静薬、抗精神病薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン、NSAIDsの使用は常に念頭に入れておきたい。

[文献]降圧薬と骨折リスク(コホート研究PMID: 26626043)

Ruths S.et.al. Risk of hip fracture among older people using antihypertensive drugs: a nationwide cohort study. BMC Geriatr. 2015 Dec 1;15:153. PMID: 26626043
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26626043

[背景]大腿骨頸部骨折リスクの高い集団の多くは心血管疾患を併存している。降圧薬が高齢者の大腿骨頸部骨折リスクを増加させるかどうかを検討した。

[方法]1945年以前に出生し、2005年においてノルウェーに在住の906422人が対象となった。降圧薬の使用についてはNorwegian Prescription Databaseより2004年から2010年尾データを、大腿骨頸部骨折初発に関するデータはNorwegian Hip Fracture Registryより2005年~2010年のデータを入手した。降圧薬の使用ありと使用なしを比較し、大腿骨頸部骨折発症率を標準化発生率比で比較した。

[結果]全体で、39938例(4.4%)で大腿骨頸部骨折を経験した。骨折リスク低下を示唆したのはチアジド系利尿薬(SIR 0.7, 95 % (CI) 0.6-0.7),β遮断薬 (SIR 0.7, 95 % CI 0.7-0.8), Ca拮抗薬(SIR 0.8, 95 % CI 0.8-0.8), ARB(SIR 0.8, 95 % CI 0.7-0.8), ACE阻害薬(SIR 0.7, 95 % CI 0.6-0.7) ARB、β遮断薬、チアジド併用 (SIR 0.6, 95 % CI 0.6-0.6).

ループ利尿薬の使用とACE阻害薬の使用は1924年以後に生まれた人で骨折リスクを上昇させたが、1925年以前に生まれた人ではリスクが低下した。

[結論]多くの降圧薬で大腿骨頚部骨折リスクが低下した。しかし、80歳よりも若い人ではループ利尿薬やACE阻害薬でリスクが増加した。

[コメント]薬剤による骨折の要因としては薬理作用による直接的な薬物有害反応、そして転倒を介した薬物有害事象に分けられると言ってよい。β遮断薬やチアジド、ACE阻害薬では、その薬理学的作用メカニズムが検討されている。
[Endocrine. 2014 Aug;46(3):397-405. PMID: 24504763]

平均、72.8 歳の人口集団が対象となっているか、解析対象者の健康状態はいまいちわからない。寝たきり虚弱高齢者が多いのであれば、骨折リスクに転倒という要素はあまり寄与しないであろう。また潜在的な交絡因子の補正があまりなされておらず、この論文で降圧薬が骨折リスクを減らす、と結論することは難しいように思える。

[文献]COPD患者における低用量テオフィリンの有効性(パイロットスタディ,RCT PMID: 27107490)

Cosío BG.et.al. Oral Low-Dose Theophylline on Top of Inhaled Fluticasone-Salmeterol Does Not Reduce Exacerbations in Patients with Severe COPD: A Pilot Clinical Trial. Chest. 2016 Apr 20. pii: S0012-3692(16)48561-2. PMID: 27107490
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27107490

[背景]慢性閉塞性肺疾患(CPD)は慢性炎症によって特徴づけられる。In vitro やex-vivoの観察では、炎症はステロイドの効果に対して部分的な耐性を有するが、低用量のテオフィリンはヒストン脱アセチル化酵素活性(HDAC)の増強を介してこの応答を復元することが可能である。これが生体内で発現し、潜在的な臨床結果につながるかどうかは不明である。

[目的]COPD患者において、β刺激薬/ステロイド吸入に低用量テオフィリンを用いることで、増悪の頻度や炎症マーカーに与える影響を検討する。

[方法]プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験。FEV1<50%で、前年に増悪による入院を1回以上経験しているCOPD患者が対象となった。ステロイド吸入に加え、低用量テオフィリンを投与する群とプラセボを投与する群にランダムに割り付け52週間追跡した。炎症性マーカーや増悪などを検討した。(パイロットstudy)

[結果]70例をランダム化した。(36人がテオフィリン群、34人がプラセボ群)炎症性マーカーに明確な差はなく、増悪率もほぼ同等であった。

[結論]ステロイド吸入に低用量の経口テオフィリンを併称しても増悪への影響に変化はなかった。

[コメント]パイロットスタディなので何とも言えないが、まあテオフィリンを積極的に用いるべき根拠は少ない印象。

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3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

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ポリファーマシーという概念もだいぶ普及してきたように思います。ただ単に薬剤数が多いから悪だ、と言うのはもう考え方としては数百歩遅れていると言わざるを得ません。この点に関してはかなり考察を加えてきましたが、投与レジメンの複雑さという観点も重要なファクターである可能性が示されてきています。いずれにせよ、この分野は臨床報告がめまぐるしく、またPIMsをスクリーニングするためのクライテリアも随時改訂されていくので、情報の更新、思考プロセスの更新は必須です。

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2016.Jun.1;2(70)

スレッド
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1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-価値観に基づく医療(values-based practice) -

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[introduction]
価値観に基づく医療(values-based practice)という概念が本邦でも紹介され始めている。日本語で読める文献はまだまだ少ないが、このような概念が表れてきた背景にはいったい何があるのか、興味深い点も多々ある。本稿では根拠に基づく医療(EBM)が受けてきた誤解と、価値観に基づく医療との関係を考察しながら、その概要を紹介し、「何かに」基づくことが僕たちには相当困難なことなのではないかということを、構造構成主義でいう所の関心相関原理を用いて示す。

[”価値観”に基づくのか”価値”に基づくのか]
「価値」と言ってもさまざまであるが、英語で「value」というと、費用対効果的側面から“価値”ある医療介入と言うような意味合いもあるだろう。「価値」と「value」は同一の事態を指し示すものではない。

Value-based medicine(Brown GC.et.al.2003 PMID: 14566642)とValues-based practice(medicine)(Fulford.1989)は全く異なる概念である。Valueには価値、(ものの本質的または相対的な)価値、値打ち、真価、有用性、等の意味合いがあるが、Valuesと複数形になると「価値観」という意味合いになる。

つまりValue-based medicineでは価値なるものがいわば客観的に付与される“値”であるのに対して、Values-based practiceでは患者や医療者の主観的な価値観(つまり定量化が不可能なもの)を軸足においている。QALYなどの指標を用いた、定量的に示された費用対効果を重視しながら提供すべき医療を判断するValue-based medicineは、主観的な価値観を重視するValues-based practiceと似て非なるものである。以下、本稿では、Values-based practiceに関して考察していくがゆえ、「価値観に基づく医療」と訳す。

[価値観に基づく医療と根拠に基づく医療]
価値観に基づく医療と類似概念にevidence-based medicine、つまり根拠に基づく医療(EBM)がある。臨床の現場ではEBMの方がなじみがあるかもしれない。しかしEBMというとエビデンスを重視し、患者の想いをないがしろにするような、そんな誤解を受け続けてきたことは確かであろう。

「価値観に基づく医療」は「根拠に基づく医療の発展系とも言われ、患者やその家族と医療者がもつ「価値」に力点を置いたものであるとも言われている。(尾藤 誠司. 医療の多様性と“価値に基づく医療” 日本内科学会雑誌Vol. 103 (2014) No. 11 p. 2829-2834 /Fulford KWM, et al: Essential Values-Based Practice (Values-Based Medicine), Cambridge University Press, 2012. )

しかし、そもそもEBMとはエビデンスを踏まえたうえで、患者の想いや患者を取り巻く環境、さらに医療者の経験まで統合し臨床決定を行う行動スタイルであった。エビデンスを参照しながら、むしろそ患者の価値感を重視することこそがEBMだったはずである。

ところがエビデンスの収集やその批判的吟味スキルに関しては具体的な方法論が示されている一方で、EBMのステップ4、つまりエビデンスの患者への適用に関しては、具体的な方法論が示されていなかったという現実もあるのであろう。EBMというと、エビデンスを重視し、どこか患者の価値観をないがしろにするような、そのような誤解は未だにあり、「価値観に基づく医療」という概念が生まれてきた状況を鑑みるに、つまるところ、EBMはこの先も誤解されたままなのだろう。我が師、名郷直樹先生は以下のように述べられている。

『科学的根拠と個別の患者の価値観を統合して、あくまでも個別の患者に最善の医療を提供するというのがEBMであるが、そんな仕事を20年以上にわたって積み上げた挙句が、「価値に基づく医療」と言うことになると、最初にあるのはどうしようもない無力感である。』
(名郷直樹.価値に基づく医療における医学的根拠の位置づけと役割.Modern Physician Vol.36,No.5,2016-5,p419)

価値観に基づく医療には「二本の足の原則」という考え方があるが、これはEBMでいうところの外的なエビデンスと内的なエビデンスというニュアンスで大きな誤りはないだろう。EBMでは医学的根拠、つまり論文結果を外的なエビデンスとするのに対して、患者が抱く想いを、内的な根拠として、意思決定に用いていた。価値に基づく医療ではこの2つの根拠を二本足の原則と呼ぶ。

しかし、この2つの根拠を等価に考えることなど人間にできるのであろうか。EBMが誤解される続けてきたことや「価値観に基づく医療」が生まれてきた背景を見ていくと、僕たちには多様な価値を偏りなく思考することは、あまり得意でないように思える。

[価値観に基づく医療の10の原則]
価値観に基づく医療に関して大まかにその概要を把握するため、10の原則を照会する。なお本節の内容は以下の論文を参考文献とした。

Br J Gen Pract. 2006 Sep;56(530):703-9. PMID: 16954004
BMC Med. 2013 Feb 15;11:40. PMID: 23414247

►価値に基づく医療と根拠に基づく医療
1.診断を含む、すべての意思決定は「2本足」、つまり事実だけでなく価値に基づいて行われる。
※価値観に基づく医療(values-based practice)の中心的なコンセプトは、すべての判断は事実と価値(観)の両方に基づくということである。EBM(Evidence-based medicine)とVBM (values-based medicine)は臨床意思決定において相互に補完的な役割を担う。これを'two-feet principle'「二本足の原理」と呼ぶ。

2.価値が多様化し、対立している状況において、あるいは、問題として取り上げられそうな時にはじめて価値に気づくような傾向がある。
※明確に意見が対立しているときに価値に気づくことは容易である。明らかな対立が無い場合においては、価値は共有されているものと思われる。価値に基づく医療では「軋む車輪の原則」と呼ばれるものがある。あらゆる人が合意を形成し、そこに批判的な意見が無い時、そのような状態はむしろ異常であり、そこには何らかの価値観の否定や支配が行われている可能性があるということに注意したい。

3.意思決定の選択の際に、科学の進展は、ヘルスケア領域における人の価値観の多様性を提供する。

▸ 価値観に基づく医療とその提供モデル
4.価値観に基づく医療において最優先される情報は、意思決定における患者、及びその関係者の考え方である。

5.価値に基づく医療において、価値に対立は正しい結論を示す規則を参照することによってではなく、異なった見解のバランスをサポートするよう設計されたプロセスにより解決される。

▸ 価値に基づく医療と臨床スキル
6.目の前のコンテキストで使用される言語に細心注意を払うことが、価値の意識を高め、価値観の違いに気づくための強力な方法の一つである。

7.経験的、哲学的方法論の多くが他者の価値への理解を深めるために利用可能である。

8. 倫理的な理由は、価値観に基づく医療において価値の違いの探究に採用されるので会って、準合法的な生命倫理のように、「何が正しいのか」を決めるために使われるのではない。

9. コミュニケーションスキルは、価値観に基づく医療において、単に(準合法的な生命倫理のように)実務的な役割を担っているのではなく、実質的な役割を担っている。

▸ 価値観に基づく医療とシェアード・ディシジョン・メイキング
10.価値観に基づく医療は倫理学者や法律家との連携を伴う(EBMにおける科学者との連携と同様)ものの、意思決定については、臨床現場の当事者へ戻すものである。


[「私の関心」に基づく医療]

「●●に基づく決定」というのは少なからず●●における関心が高まっていることを示唆する。エビデンスに基づく医療と言えば、エビデンスに対する関心が高まり、ナラティブに基づく医療と言えば、ナラティブに関心が高まる。そして価値に基づく医療と言えば、なにがしかの「価値」に関心が高まるということは少なからず否定できまい。現にEBMがこれまで受けてきた(そしてこれからも受けるであろう)誤解はそのことを如実に示している。

人は関心にとらわれている。ニーチェやハイデガーの指摘を受けるまでもなく、関心の無いものについて、思考することは困難だ。多種多様な価値観と言うのだけれども、僕たちはそのすべてを重視できるわけではない。必ず何かが見落とされる。日常的にも多数派の価値観、つまり常識的価値観が意思決定を左右することは多いだろう。

関心相関型意思決定が明らかにするのは、正しい医療とそうでない医療を、介入行為にラべリングされたイメージから判断している傾向がある、ということだ。そこにはエビデンスも重視されていなければ、時に、患者の価値観すら重視されていないという現実がある。時間に追われ、責務に追われ、気が付けば「私の関心」に基づく医療が行われていないだろうか。「何に基づくか」あるいは、そういうことはそれほど重要ではないのかもしれない。価値に価値を求めるのも、それも一つの価値観に過ぎないのかもしれないから。

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2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

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[文献]GLP-1作動薬と心不全リスク(メタ分析. PMID: 27169565)

Li L, Li S, Liu J.et.al. Glucagon-like peptide-1 receptor agonists and heart failure in type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of randomized and observational studies. BMC Cardiovasc Disord. 2016 May 11;16(1):91. PMID: 27169565
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27169565

[背景]GLP-1作動薬の心不全への影響は不明確である。このシステマティックレビューは2型糖尿病患者における、GLP-1作動薬の心不全、あるいは心不全による入院への影響を検討したものである。

[方法]MEDLINE, EMBASE, the Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) ClinicalTrials.govをサーチ。成人の2型糖尿病患者を対象としたGLP-1作動薬のランダム化比較試験及び観察研究を組み入れた。2名のレビューアーが文献を抽出しGRADEアプローチによりバイアスのリスクを評価した。

[結果]25研究を組み入れた。ランダム化比較試験は21研究18270人が解析対象になり、観察研究は4研究、111029人が解析対象となった。20ランダム化比較試験(Low quality)のメタ分析ではGLP-1作動薬とコンロトールで心不全に明確な差は見られなかった。(17/7,441 対. 19/4,317; オッズ比0.62[95 % 信頼区間0.31 ~1.22];リスク差-19/1000人5年[95 % 信頼区間-34 ~11]3つのコホート研究(very low quality)ではGLP-1作動薬が心不全を増加させることは示されなかった。

一つのRCT(moderate quality)では心不全による入院についてもリスク増加は示されなかった。(lixisenatide vs placebo: 122/3,034 vs. 127/3,034; 調整ハザード比0.96, 95 % CI 0.75 to 1.23; RD 4 fewer, 95 % CI 25 fewer to 23 more per 1000 over 5 years)
またケースコントロール研究(very low quality)でも同様であった。 (GLP-1 agonists vs. other anti-hyperglycemic drugs: 1118 cases and 17,626 controls, adjusted OR 0.67, 95 % CI 0.32 to 1.42).

[結論]2型糖尿病患者においてGLP-1作動薬は心不全や心不全による入院リスクを上昇させない。

[文献]ジャガイモと高血圧(コホート研究 PMID: 27189229)

Borgi L.et.al. Potato intake and incidence of hypertension: results from three prospective US cohort studies. BMJ. 2016 May 17;353:i2351. PMID: 27189229
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27189229

[目的]焼いたジャガイモもしくはゆでたジャガイモ、フライドポテト、ポテトチップスの摂取と高血圧の関連を検討した英国の前向き縦断的コホート研究

[参加者]Nurses' Health Study,コホートより女性62175人、Nurses' Health Study II,コホートより女性88475人、Health Professionals Follow-up Studyコホートより36803人が対象となった。(いずれもベースラインで高血圧なし)

[評価項目]高血圧発症(ヘルスケアプロバイダーによる自己報告診断)

[結果]1か月に1サービング未満の摂取に比べて、週に4サービング以上では焼き・ゆでジャガイモもしくはマッシュポテトで1.11 (95% confidence interval 0.96 to 1.28; P for trend=0.05)フライドポテトで1.17 (1.07 to 1.27; P for trend=0.001)、ポテトチップスで0.97 (0.87 to 1.08; P for trend=0.98)であった。

[結論]焼き、ゆで、マッシュポテトとフライドポテトは高血圧発症リスクの独立したリスクファクターかもしれない。

[コメント]まあ味付けとかそういった問題のような気もする。個人的にはポテトチップスのほうが、影響が大きそうな印象だが。野菜で置換するとリスクが減るらしい。

[文献]通勤スタイルとBMI(横断研究PMID: 25139861)

Flint E.et.al. Associations between active commuting, body fat, and body mass index: population based, cross sectional study in the United Kingdom. BMJ. 2014 Aug 19;349:g4887. PMID: 25139861
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25139861

[目的]アクティブ通勤者(徒歩もしくは自転車を通勤の全部または一部に利用)が、肥満の客観的な生物学的マーカーにもたらす影響を評価することで、肥満予防における、通勤戦略を決定する。

[デザイン]英国世帯経時的研究(UKHLS)のwave2健康評価サブ検体データを用いた横断研究。曝露については、自己報告に基づき、自家用車通勤、公共交通機関通勤、アクティブ通勤の3つに分類した。

[参加者]解析サンプルはBMI解析に7534例、体脂肪解析に7424例。

[評価項目]BMIおよび体脂肪率(%)

[結果]男性において、BMIスコアは自家用車通勤に比べて、公共交通機関で1.10[95%信頼区間0.53~1.67]、アクティブ通勤者で0.97[95%信頼区間0.40~1.55]低かった。女性おいても同様に0.72[95%信頼区間0.06~1.37]、0.87[0.36~0.87]低かった。体脂肪率も同様の傾向であった。

[結論]男性、女性ともに、自家用車通勤に比べて、公共交通機関、アクティブ通勤でBMIや体脂肪率が低かった。この関連は交絡調整後も変わらなかった。

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3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

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地域医療の見え方、今週で70号です。毎週の編集なので、なかなか時間的にも厳しいのですが、はやり新たに知った概念や論文情報のプールは必要で、そこから得られる示唆は臨床の現場でもとても役に立ちます。また一方で臨床の現場から発生した疑問を整理し、それに対する考察を深める場としてもこのブログは活用しています。いずれにせよ言語化はとても大事なことです。

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2016.May25;2(69)

スレッド
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1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-超高齢者の脳卒中後の抗てんかん薬-

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[introduction]
高齢者におけるてんかんの原因は脳血管障害、頭部外傷、アルツハイマー病(神経変性疾患)、脳腫瘍などが挙げられる。
〔Neurology. 2004 Mar 9;62(5 Suppl 2):S24-9. PMID: 15007161〕

脳血管疾患発症から1年以内の発作は、一般人口の23倍高いと言われている。
〔Neurology. 1996 Feb;46(2):350-5. PMID: 8614493〕

高齢者における抗てんかん薬の有用性について簡単にまとめておこう。65歳以上で新規にてんかんを発症した593人の高齢者を対象にガバペチン(GBP)1,500 mg/day, ラモトリギン(LTG)150 mg/day, カルバマゼピン(CBZ)600 mg/dayの3群を比較し忍容性と有用性を検討した2重盲検ダブルダミーランダム化比較試験によれば、ラモトリギン、ガバペチンはカルバマゼピンよりも忍容性に優れていると報告されている。
〔Neurology. 2005 Jun 14;64(11):1868-73PMID: 15955935〕
〔ACP J Club. 2006 Jan-Feb;144(1):6. PMID: 16388556〕

この研究の主要アウトカムは12か月間‐投与継続率。つまり早期終了率を指標としている。LTG vs CBZでは44% vs 64%で、RRRは31% (17 to 43)、NNTは5 (4 to 10)、またGBP vs CBZでは51% vs 64%で、RRRは21% (6 to 34) 、NNTは8 (5 to 28)と報告されている。

また新規に転換と診断された高齢者(平均77歳)150例を対象とした2重盲検ランダム化比較試験によれば、LTGとCBZで発作の抑制に明確な差を認めなかった。
〔Epilepsy Res. 1999 Oct;37(1):81-7. PMID: 10515178〕

13のLTGに関する臨床試験のプールド解析では、薬剤関連有害事象(ADE)はLTGで49%と、CBZの72%、フェニトイン(PHT)の89%に比べて有意に少なかった。

〔Drugs Aging. 2001;18(8):621-30. PMID: 11587248〕

以上を踏まえると高齢者における抗てんかん薬の選択はLTG>GBP>CBZとなるかもしれない。2005年時点でのエキスパート・オピニオンの集計では、高齢者に対する症候性てんかんへの推奨薬は,LTG,レベチラセタム(LEV),GBPの順であった。
〔Epilepsy Behav. 2005 Sep;7 Suppl 1:S1-64; quiz S65-7. PMID: 16102515〕

この順位には賛否あり、各ガイドラインなどで若干の記載に差異がみられる。一般的には以下のような推奨がなされることがある。〔日本てんかん学会 てんかん専門医ガイドブック〕

①合併症のない部分てんかん
CBZ>LTG>LEV>GBP
合併症のある部分てんかん
LEG>LTG>GBP
合併症のない全般癲癇
LTG>VAP>LEV>TPM

高齢者に限った解析ではないが、成人てんかんに対する、いわゆる新規抗てんかん薬 GBP, LTG, LEV, oxcarbazepine (OXC), pregabalin (PGB), tiagabine (TGB), トピラマート(TPM)、ゾニサミド (ZNS)の忍容性、有用性を検討したメタ分析によれば、LEVが6か月以内の発作抑制効果に優れている事を示している。また副作用による脱落も少ない。
〔Acta Neurol Scand. 2006 Sep;114(3):157-68.PMID: 16911343〕

[脳卒中後の抗てんかん薬の効果]
脳卒中後の抗てんかん薬の有用性については、エビデンスはかなり限定的なようだ。コクランレビューを見ていく。

脳卒中後の一次、二次予防
〔Cochrane Database Syst Rev. 2014 Jan 24;1:CD005398. PMID: 24464793〕
基準を満たしたのは1つの2重盲検ランダム化比較試験(一次予防)のみ。18歳以上の72人を対象とし、バルプロ酸とプラセボを比較しているが、1年以内のてんかん再発に明確な差はなかった。

くも膜下出血後の一次予防、二次予防
〔Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jun 5;6:CD008710. PMID: 23740537〕
No relevant studies were found.となっている。

脳静脈血栓症(intracranial venous thrombosis)後の一次予防、二次予防
〔Cochrane Database Syst Rev. 2016 Apr 21;4:CD005501.PMID: 27098266〕
No relevant studies were found.となっている。

以上を踏まえると、少なくとも脳卒中後のてんかん発作、一次予防に対する薬物治療は正当化されないだろう。

[脳卒中後の二次予防としての抗てんかん薬の選択]
二次予防となると、なかなか微妙だが、病態生理学的観点からいえば、脳卒中による皮質瘢痕組織がてんかん原性焦点となっていることを考慮すると、部分発作に有効性を示す薬剤を中心に選択することが望ましいかもしれない。VAPに関してはコクランレビューで示された通り、その効果は良く分からない。部分発作に対して、VAPはCBZに比べてその効果が劣るとする報告がある。第一選択とするのは、微妙なところだろう。
〔N Engl J Med. 1992 Sep 10;327(11):765-71. PMID: 1298221〕

近年ではLEVの処方も高頻度で遭遇するが、一定の効果はあるようである。
Epilepsy Behav. 2008 Oct;13(3):542-4.PMID: 18539085
Rev Neurol. 2007 Nov 1-15;45(9):523-5.PMID: 17979081

ただ、コストも考慮するとCBZと言うのが妥当なところだろうか。根拠は以下のRCT。
脳卒中後の患者128人(平均69~74歳)を対象に、LEVとCBZを比較したオープンラベルランダム化比較試験によれば、一次アウトカムである52週の治療期間における発作のない患者割合は
「The results of the study were as follows: no significant difference in number of seizure-free patients between LEV and CBZ (p = 0.08)」

ただし、有害反応については、
LEV caused significantly fewer (p = 0.02) side effects than CBZ

と報告されている。
〔Cerebrovasc Dis. 2012;34(4):282-9. PMID: 23128439〕

また、脳卒中後のてんかんに関して、ラモトリギンとカルバマゼピンの比較についてもほぼ同様の結果となっている。サンプルが少ないのでβエラーの可能性もありうるが…。
〔Clin Neuropharmacol. 2007 Jul-Aug;30(4):189-95.PMID: 17762314〕

フェニトイン(PHT)については、やはり血中濃度の不安定さというリスクがある。脳卒中後の抗てんかん薬使用において、有害事象の比較では、やはりフェニトインのリスクが際立つ。
「Compared with patients using PHT, the adjusted hazard ratios for ER visits were 0.56 (95% CI 0.42-0.74; P < 0.001), 0.37 (95% CI 0.18-0.75; P = 0.006) and 0.28 (95% CI 0.15-0.52; P < 0.001) for patients using VPA, CBZ and new AEDs, respectively. 」
〔Eur J Neurol. 2015 Nov;22(11):1459-68. PMID: 26148132〕

フェニトインでは脳卒中リスクが増加するらしい。
「Patients receiving PHT had a significantly higher stroke risk (adjusted hazard ratio [HR] 1.72; 95% confidence interval [CI] 1.20-2.47), followed by VPA (adjusted HR 1.27; 95% CI 0.78-2.07), when compared with CBZ.」
〔Epilepsia. 2013 Jan;54(1):172-80.PMID: 23030457〕

フェニトインに比べてもカルバマゼピンの安全性は比較的高いようだ。

「Compared with carbamazepine monotherapy, valproate may decrease, and oxcarbazepine and phenobarbital may increase, the risk of adverse cardiovascular events」
〔Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2011 Sep;20(9):964-71.PMID: 21766386〕

とはいえ、CBZにも有害事象リスクがあるのでなかなか悩ましい。カルバマゼピンの薬疹頻度は5~10%、SJSやTEN、DIHSの原因薬剤として有名だ。薬疹のリスクファクターとしては遺伝子多型が知られている。(HLA-B*1502、HLA-A*3101)薬疹の大半は2~6週に発現するため、投与初期には十分な注意が必要。
〔病気と薬2016(南山堂)〕

またCYP誘導による薬物相互作用にも注意したい。ワルファリンの作用減弱可能性が報告されている。
〔J Thromb Haemost. 2016 Apr;14(4):765-71PMID: 26792124〕
CYP3A4代謝される点にも注意したい。

[まとめ]
・高齢者における脳卒中後のてんかん発作一次予防に抗てんかん薬の使用は推奨されない
・高齢者における脳卒中後のてんかん発作二次予防に関してレベチラセムもしくはカルバマゼピンが推奨される。
・コストの観点からはカルバマゼピン、安全性の観点からはレベチラセム、有用性はほぼ同等である。

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2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

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[文献]COPDに対するLABA+LAMA対LABA+ICS(ランダム化比較試験)
Jadwiga A.et,al, Indacaterol–Glycopyrronium versus Salmeterol–Fluticasone for COPD.
N.Engl.J.Med May 15, 2016.DOI: 10.1056/NEJMoa1516385(編集時PubMed未収載)

[背景]多くのガイドラインは増悪リスクが高いCOPD患者において、第一選択治療として、LAMAとLABAの併用を推奨している。しかし、このような患者においてLAMA-LABAレジメンの治療における役割はあまり明確ではない。

[方法] 52週間にわたる二重盲検ダブルダミーランダム化比較非劣性試験。前年において、少なくとも1回の増悪を経験したCOPD患者が対象となり、インダカテロール(110μg)とグリコピロリニウム(50μg)を1日1回吸入する併用療法群、サルメテロール(50μg)とフルチカゾン(500μg)を1日2回吸入する群に割り付けた。一時アウトカムは全COPD増悪の年率とした。

[結果] 1680人がインダカテロール-グリコピロリニウム群、1682人がサルメテロール-フルチカゾン群に割り付けられた。

全COPDの年間増悪率において、インダカテロール-グリコピロリニウム群はサルメテロール-フルチカゾン群に比べて、非劣性だけでなく、優越性を示した。増悪率はインダカテロール-グリコピロリニウム群で11%低かった。(3.59%対4.03% 発生率比0.89[95%信頼区間0.83~0.96]またインダカテロール-グリコピロリニウム群では増悪の初発までの期間がサルメテロール-フルチカゾン群に比べて長かった。(71日[95%信頼区間60~82]対51日[46~57]ハザード比0.84[95%信頼区間0.78~0.91])

中等度から重度の増悪の年率に関してもインダカテロール-グリコピロリニウム群で低かった。(0.98対1.19 発生率比0.83[95%信頼区間0.75~0.91]また増悪初発までの期間もインダカテロール-グリコピロリニウム群で長かった。(ハザード比0.78[95%信頼区間0.70~0.86]重度の増悪初発に関しても長い傾向にあった。(ハザード比0.81[95%信頼区間0.66~1.00]


この増悪発生率に対する効果は、ベースラインの好酸球の値とは無関係であった。有害事象、死亡は両群で同等であった。肺炎の発症はインダカテロール-グリコピロリニウム群で3.2%、サルメテロール-フルチカゾン群で4.8%と有意に低かった。(P=0.02 )

[結論]インダカテロール-グリコピロリニウムはサルメテロール-フルチカゾンに比べて、COPD増悪既往のある患者において増悪予防に優れた効果を示す。

[コメント] ウルティブロ®(LABA+LAMA)VSアドエア®(LABA+ICS)直接対決。つまりノバルティス、グラクソスミスクライン直接対決論文と言うわけで、結果はノバルティスのウルティブロ®が勝利。グラクソの方を持つわけではないが、(ディオバン問題など個人的に思うことは多々あるが)本論文を批判的に検討してみよう。

まずは分かりやすい利益相反を確認。
「Supported by Novartis.」
「Norbert Ahlers, Michael Larbig, Petter Olsson, and Angel FowlerTaylor from Novartis for their assistance with the trial;」
「The sponsor (Novartis) developed the protocol, with guidance from the first author and advice from the other academic authors.」
本研究はノバルティスのサポートをうけ、実際に社員も関与している。プロトコル作成にも関わっている。まあほぼ完璧な「種まき臨床試験と」言えるだろう。ちゃんと書いてあるので良心的だ。

研究デザインはトレンドの非劣性試験だ。
「The noninferiority margin of 15% (corresponding to a rate ratio for exacerbations with indacaterol–glycopyrronium versus salmeterol–fluticasone of 1.15) was based on a previous study,」
非劣性マージンは15%。過去の研究に基づいている。

サンプル計算も確認しておこう。
「We calculated that a sample of approximately 3332 patients would be required to give the trial more than 95% power to rule out a 15% higher rate of COPD exacerbations of any severity with indacaterol–glycopyrronium than with salmeterol–fluticasone, at a one-sided error rate of 0.025, assuming a rate of dropouts or major protocol deviations of 30%.」

本研究では3362人が参加しており、サンプルサイズは満たしている。統計解析はmodified intention-to-treat population。15%のマージンの妥当性には議論の余地はあるかもしれないが、片側P値で0.025を採用しており、2重盲検、ダブルダミーという研究デザインは、わりとしっかりしている。

対象患者を見ていこう。簡単にいえば40歳以上で増悪既往のある重度のCOPD患者ということになる。なお平均年齢は64.6歳、喫煙者は39.6%であった。
「We enrolled patients 40 years of age or older who had COPD …(中略)…Patients were required to have a documented history of at least one COPD exacerbation during the previous year…」

評価項目は
「the primary objective of this trial was to show whether indacaterol–glycopyrronium would be noninferior to salmeterol–fluticasone in reducing the rate of COPD exacerbations.」
増悪に関しては軽度、中等度、重度を含む全増悪の年率ということになっている。追跡期間は52週である。

結果はPer-Protocol Population、Modified Intention-to-Treat Populationともに非劣性のみならず優越性を達成している。大きく差がついたのは軽度から中等度の増悪で、重度に関しては非劣性を示したにとどまる。(ぎりぎり優越性ともいえる)

増悪と言うアウトカムはどちらかと言えばソフトエンドポイントだが、本研究は2重盲検試験であり、バイアスの入る余地は少ない。また両群の患者背景もほぼ同様のようだ。やや脱落も多い印象だが、解析組み入れ割合は決して低くない。ここまで致命的な問題は見当たらない。ただあくまでも非劣性試験なので、この結果をもってして優越性を結論することはできないだろう。
「The primary objective of this trial was to show whether indacaterol–glycopyrronium would be noninferior to salmeterol–fluticasone in reducing the rate of COPD exacerbations.」

[文献]インフルエンザ感染症と心血管疾患
Jennifer L.et.al. Seasonal Influenza Infections and Cardiovascular Disease Mortality. JAMA Cardiol.2016.4 doi:10.1001/jamacardio.2016.0433 (編集時PubMed未収載)

[背景]温暖な地域における心血管死亡と冬期のインフルエンザ流行ピークの関連を定量化するためにインフルエンザ発生率が心血管死亡を予測するか検討する。

[方法]ニューヨークにおける救急診療部受診記録をもとに、2006年1月1日~2012年12月21日までのインフルエンザシーズン中に発症した心血管死亡を解析。なお、解析に当たりH1N1による2009年のパンデミック期間を除いた。インフルエンザ感染は年齢により層別化し、ウイルスタイプやサブタイプは実験室サーベイランスデータに基づいた。心血管疾患・虚血性心疾患・心筋梗塞による死亡を主要アウトカムとした。

[結果]65歳以上の高齢者(インフルエンザ流行中における心血管死亡は83%[73363人]であった)では、季節性インフルエンザ発症は心血管超過死亡に相関していた。4つの異なる手法に基づいて、解析した結果、前21日間におけるインフルエンザ発症の四分位増加は2.3%~6.3%の心血管死亡増加、2.4%~6.9%の虚血性心疾患の増加に関連していた。

[結論]インフルエンザ様症状での救急診療部受診は心血管死亡を予測する。

[文献]認知症患者のADLに対する治療(SRのSR  PMID: 27121704)

Laver K.et.al. Interventions to delay functional decline in people with dementia: a systematic review of systematic reviews. BMJ Open. 2016 Apr 27;6(4):e010767. PMID: 27121704
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27121704

[目的]認知症患者におけるADLに対する非薬物療法、薬物療法、代替療法の効果の評価についてのシステマティックレビューをシステマティックレビューする。

[方法]コクラン、DARE, Medline, EMBASE and PsycInfoを2015年4月まで体系的に検索。アルツハイマー病や認知症患者において、ADL機能に対する影響を検討したランダム化比較試験のシステマティックレビューを含めた。2名の調査者がAMSTAR tool.を用いて独立してシステマティックレビューを行った。

[結果]23のシステマティックレビューが対象となった。介入ごとの標準化平均差は以下の通り。
・運動(6研究289例、標準化平均差0.68[95%信頼区間0.08~1.27; GRADE: low])
・Dyadic intervention (8研究 988例、標準化平均差0.37[95%信頼区間0.05 ~0.69; GRADE: low])
・アセチルコリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチン(12研究、4661例、ドネペジルの標準化平均差0.18[95%信頼区間0.03~0.32GRADE: moderate])
・セレギリン(7研究810例、標準化平均差0.27[95%信頼区間0.13~0.41GRADE: low])
・イチョウ葉エキス(7研究, 2530例 、標準化平均差0.36[95%信頼区間0.28 〜0.44; GRADE: very low])

[結論]禁忌がない限り、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が投与されるべき

[コメント]
介入や対象患者はTable 1で、
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4854009/table/BMJOPEN2015010767TB1/

結果はFigure 2がわかりやすい。
The effect of different treatment approaches on activities of daily living function in people with dementia.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4854009/figure/BMJOPEN2015010767F2/

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3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

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6月のプライマリケア連合学会総会が迫っていきました。
http://www.c-linkage.co.jp/jpca2016/

筆頭ではありませんが、ポスター発表演題に関わらせていただいております。
「P-199:一次救急医療における風邪処方の患者満足度調査」
セッション:6月11日 15:50-16:40 ポスター会場(東京都立産業貿易センター台東館 展示室
http://www.c-linkage.co.jp/jpca2016/data/program/timetable02.pdf

なお僕はプレコングレスワークショップもお手伝いさせていただく予定です。
「みんなで考えるポリファーマシー -入院編-(公募企画)」
6月10日 19:00-20:30 第8会場(台東区民会館 8階 第2会議室)
http://www.c-linkage.co.jp/jpca2016/data/program/timetable01.pdf

お時間がありましたら是非お立ち寄りください。

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